勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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※冒頭ですが、お読みになっているのは間違いなくニケの二次創作ですのでご安心下さい。




第16章
第1話


 

 

 紀元前479年。

 

 

 

 戦の最中に二度目の占い──遂に吉を得た。必勝の信託が下された。

 

 

 

 ──神々よ、王よ、照覧あれ。

 

 

 ──ラケダイモン(我等)の戦いぶりを篤と御覧あれ。

 

 

 

 耐えに耐えた甲斐はあった。

 

 今こそが好機。

 

 大音声が戦場へ響き渡る。

 

 攻撃の命令──その瞬間、老いや若きに関係なく一斉の咆哮が轟く。

 

 大気が、大地が咆哮で揺れ動いた。

 

 重装歩兵──左手だけで支える青銅製の直径約1mに及ぶ円盾や胸甲、2mは超える槍で武装した者達が戦列を組み直す。

 

 盾を構え、己の左半身を守りつつ右半身は同じ戦列の右隣に立つ兵士の盾へ防御を任せての陣形──俗に言うファランクス。

 

 

 

 ──我等、かつて剛勇の若者たりし。

 

 

 

 戦列の中で兵士としては老いたとも言える者達──しかし歳を重ねても鎮まる気配のない猛々しさを発露させながら口ずさむ。

 

 

 

 ──されど、我等こそ今はそれなり。望みとあらば、試してみよ。

 

 

 

 

 続く形で戦列の中から響くは、兵士として今こそが盛りの者達が雄々しく、戦意を昂らせ、混乱が見える敵軍を見据えながらの唱和。

 

 12名が1列。3列を組んだ36名で縦隊を作り、最小の戦闘単位たる1個エノーモティア。

 

 2個エノーモティアで1個ペンテーコストゥスに、2個ペンテーコストゥスで1個ロコス──戦列を組んだ歴戦の猛者達が唱和し、歩調を合わせながら前進を始める。

 

 他の都市国家の兵士(戦士)とは一線を画す。彼等は産まれながらの、生え抜きの兵士達だ。

 

 鍛えられ、()()()()()()訓練された兵士達が盾を構え、戦意を昂らせながら迫る。その圧力は対峙する侵略者の残党達が怯むのに充分過ぎた。

 

 無情にも突撃の命令が下る。兵士達は背後から叫ばれたそれに従い、剣と槍を構えて突進した。

 

 眼前の視界一杯に隙間なく広がった盾へ向かって。

 

 突き出された槍の穂先に貫かれる者は悉く絶命し、或いは盾を打ち破ろうと体当たりに成功するも逆に弾き返され、仰向けに転がった途端、槍の鋭さを味わった。

 

 敵兵の屍で大地を埋め尽くし、流れた血が大地を潤す。

 

 ──敵軍の中に目立つ白馬。そこに騎乗する敵将。間違いない。

 

 あれが敵軍の司令官であると見定めた屈強な兵士達が戦列を保ったまま突進する。

 

 1000を超える護衛に護られ、その兵士達も鍛えられているのだろう。しかし相手が悪かったとしか言えない。

 

 将を護らんと盾を構え、迎え討つ。だが盾同士が衝突した途端、あまりの衝撃に陣形が崩れ、綻びが生じる。

 

 麻の如く乱れた陣形──崩壊が始まった。幼き頃から鍛えられた屈強な兵士達に蹂躙する瞬間が刻々と近付く。

 

 一人、また一人と護衛の兵士達が盾や纏った鎧ごと砕かれて絶命していく最中のこと。

 

 ──白馬に跨る敵将へ何処からか石が投じられた。それに打ち据えられた敵将は絶命──馬から転げ落ちる。

 

 司令官の討死──それを目の当たりにした時、兵士達は時が止まったかの如く立ち尽くすが、事実を受け入れた瞬間は士気が挫けた瞬間でもある。

 

「──殺せ!全て殺せ!!」

 

「──容赦するな!!」

 

 敗北を悟り、我先に背中を向けて逃亡するしかない。

 

 重装歩兵はその名の通りに鎧や盾、槍に剣で武装している為に動きが鈍い──それはその通りだ。

 

 こちらも疲れているが、敵も戦闘で疲労も蓄積されているはず。深追いするような追撃はあるまい──これもその通りだ。

 

 後方の陣へ逃げ戻れば──そう考えた兵士の背中から腹部に掛けて槍が貫いた。

 

「──私の槍の方が疾かったようだ」

 

 しかし生憎と、やはり相手が悪かった、としか言いようがない。

 

 投げられた槍によって身体を貫かれた兵士は無数。正確に()()()()()()()()()、さながら人間を苗床として背中から槍が生えているような格好の光景が広がる。

 

 特徴的なスリットが刻まれた兜を被り、黒毛の長髪が僅かに見える兵士は自らが放った得物を回収するや否や、飛んできた矢を無造作に槍を軽く振るって弾いた。

 

「…王よ…父よ…」

 

 昨年の戦に同行出来なかった──まさか病に罹り、不覚を取った。

 

 病を押して同行しようとするが、王に、そして父に許されなかった。

 

 足手纏いには決してならない。だから供に加えて欲しい──その懇願は叶わなかった。

 

 まだ若いから、と国に残され、出立する300名の(つわもの)どもの戦列へ入れなかった──王を、父の最期に立ち会えず、共に戦って死ぬことが出来なかった。

 

 その後悔が青年を突き動かし、尽きることのない戦意を昂らせる。

 

 怨敵を目の前にして、逃げ惑い、命乞いをする者へ掛ける容赦など、情けなど持ち合わせている筈もない。

 

 敵兵の返り血に濡れ、兜から鮮血が滴り落ちるがそれすら拭わず兵士は盾を、槍を構え直す。

 

 

 時に紀元前479年。

 

 場所は──ギリシアのプラタイア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから約2600年。悠久にも等しい年月が流れた。

 

「──プラタイアの戦いはスパルタ、アテナイを始めとするギリシア連合軍の圧勝で幕を閉じる。この戦いの影響は?」

 

「──スパルタはテルモピュライの戦いで戦死したレオニダス1世の仇を取り、その後、テーバイはギリシア連合軍に攻略され、ギリシア本土からペルシア勢力の一掃に成功。アケメネス朝ペルシア帝国によるギリシア侵略は失敗に終わる。──次はなんだ?ペルシア戦争繋がりでサラミスの海戦か?」

 

 荒野の真ん中──光学迷彩に覆われ、全容はその外からは見えない地上基地 エデン内部へ設けられた広い車庫。

 

 時折、閃光が走る一角には二人組の姿がある。

 

 外套を羽織った長身の青年──あくまでも外見は──が腕組みをしつつ、借り受けた溶接機を用いて作業中の青年を見下ろしていた。

 

 眼前で一等星が瞬くかの如く弾ける閃光から目を保護する遮光面を双方とも装具しながらの会話だった。

 

「…ヘロドトスの“歴史”はある程度、知っているか?」

 

「…ヘロドトス先生は確かに歴史の父であるし、古代史研究で貴重な資料を遺してくれたと評価は出来るが……」

 

「…まぁ、彼は純粋な軍事学者や指導者ではないからな。兵力を()()()()()書き残しただけだ。()()、ペルシア側の兵力が盛られていても仕方ない」

 

 外套を羽織る青年──ヨハンが肩を竦める。それへ一瞥くれることもなく、バチバチと閃光を弾けさせながらもう一方の青年は鼻を鳴らす。

 

 乗り捨てていた武装車両を回収してきたは良いが、地雷を踏んだこともあり、破損した箇所の修理中なのだ。

 

 やがて破損した箇所の修理が終わる。青年──ムーアは目を保護してした遮光面を外し、溶接機のスイッチを切った。

 

「…どうだ?」

 

「…まずまずだな。所詮は素人の修理だ。アークへ帰ったら修理の申請をせんと…」

 

 破断していた訳ではないが、足回りの所々に目立つ亀裂が刻まれていた。亀裂こそ埋めたが応急修理である。

 

 溜め息を吐き出したムーアが借り受けた道具を片付け、戦闘服のパンツのポケットからソフトパックを取り出す。振り出した煙草を銜え、オイルライターの火を点けようとするが──

 

「……吸うか?」

 

 傍らからジッと見詰められていると落ち着かないのだろう。アイスブルーの瞳を向けて来る()()へ向け、彼は()()の礼儀として軽く煙草を飛び出させながら差し出した。

 

「…喫煙の習慣はないが……頂くとしよう」

 

 機械仕掛けの指先で摘み取った煙草が銜えられる。それを認めたムーアがオイルライターの蓋を開け、点けた火をヨハンへ差し出す。その火で煙草の先端を炙った彼が軽く紫煙を吸い込み──眉間へ縦皺を刻んだ。

 

「……こんな味だったか?」

 

「吸うのは久しぶりか?」

 

 良くこんなモノを吸っている──率直な感想を抱くヨハンは自身が銜えた煙草へ火を点け、一仕事終えての一服を堪能するムーアに横目を向けた。

 

「──戦史は何処で習った?士官学校ではない筈だ。どうせカリキュラムは精神教育に重きを置いているだろうからな」

 

 その過程で戦史に於ける英雄的活躍を取り上げ、精神教育を実施する可能性はあったが──そこまで詳しくは学ばないだろう。

 

「…趣味でな。歴史を学ぶのが好きなんだ」

 

「ほう?」

 

 珍しいことだ。紫煙を吸い込み──また縦皺を眉間へ刻みながらヨハンは考える。

 

 この御時世で過去に──それこそ紀元前の古代にまで思いを馳せるとは殊勝な趣味である。

 

「…ハランにも言ったか。人類の偉業、過ち、そして偏見や差別、それを知るなら歴史を学ぶのが一番だ」

 

「なるほど。……私が所有している本がいくつかある。いずれも歴史に関連する書籍。旧時代に出版された物だ」

 

 藪から棒に何を言い始めるのか。ムーアが横目を向けた気配を感じ取るとヨハンは肩を小さく竦める。

 

「興味があるなら、お前に一冊か二冊を譲ろう。──煙草の礼だ」

 

 相変わらず律儀なことだ。

 

 鼻を小さく鳴らしたムーアが携帯灰皿を取り出し、それを握りつつヨハンへ差し出す。

 

 その中へ半分も吸っていない煙草を彼は投げ込んだ。

 

 




一気にデレたなヨハン先輩
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