勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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モラン姉さんはまだ…入手出来ていません…!!(でも知人から姉さんは甘口の酒が好みと聞かされて安堵しています

久しぶりにちょびっとアダルティ…これぐらいならまだ大丈夫な筈だ…!


第2話

 

 

 

 Shall think themselves (この場に居合わせぬ)

 

 accursed they were not here,(我が身の不幸を呪い、)

 

 And hold their manhoods (男が廃れる思いを噛み)cheap whiles any speaks.(締めることになるだろう。)

 

 That fought with us upon(我々と共に戦った者が聖クリスピンの) Saint Crispin's day.(祭日の手柄話を語る間は。)

 

 

 

 

 いつぞやの軍需品製造工場──その際、()()()()()()()()でアニスとネオンが仲違い寸前にまで至った時、無線を介して彼が紡いだ詩の続きが傍らで呟かれる。

 

「──以前にも聞いた覚えがありますが…」

 

「──ヘンリー5世、シェイクスピアだ。アジャンクールの戦いでの演説のシーンだが…知らないか?」

 

 知らない。エデンの庭園──その遊歩道を歩くムーアの傍らに侍るラピは左右へ首を振った。

 

 その姿を横目で捉えた彼が肩を軽く竦めてみせる。

 

「ちょうどヨハンの戦史講義が百年戦争のアジャンクールの戦いでな」

 

「アジャンクール?」

 

「…()()()()()()の方が聞き覚えはあるかもしれんな。ヘンリー5世率いる約7千のイングランド軍が約2万のフランス諸侯軍を破った戦いだ」

 

 ざっくりと要約した説明をしながらの散策──気分転換に庭園へ向かう彼を見付け、同行したラピだが、庭園に降り注ぐ麗らかな陽気の中で話すには適さない話題かもしれないと気付く。

 

 とはいえ──良く観察すると彼は()()()()にも見える。眉間へ刻まれた縦皺が薄くなっているのだ。

 

 そう。楽しそう、なのだ。

 

 自覚は彼に無いだろう。しかし間違いなく彼は楽しんでいる。それも心から。

 

 では自分は──と彼女は思う。

 

 彼にこのような顔をさせられるのか──いや、出来ない。

 

 冗談のひとつも言えない性分だ。アニスやネオンからも堅苦しい等と言われていることからも明らかであろう。なによりその自覚がある。

 

 なにひとつ、彼を楽しませることは出来ない。

 

 出来ることと言えば──指揮下で戦うことぐらいだろう。

 

 ラプチャーと戦う──それしか出来ない。それがニケとして当然の役目であると以前ならば理解し、割り切ることが出来た。

 

 しかし──現在は──

 

「──どうした?」

 

「…はい…?」

 

「…いや…」

 

 ふと彼が戸惑いの声を漏らす。傍らのムーアを見上げ、その濃い茶色の瞳が向けられる先へラピの視線が誘導された。

 

 彼の瞳が向けられる先には──手袋を嵌めた細い左手が、一回り以上は大きな右手を緩く握る光景がある。

 

「──…失礼しました」

 

「…いや、構わない。そのままで良い」

 

 咄嗟に彼女が手を離そうとするよりも早く、ムーアの生身の右手が軽く握り込まれた。

 

 ほんの僅かに力を入れて握られただけ──ニケの、ラピの力なら、それこそいつでも振り解けるだろう。

 

「──キミのような美しい女性をエスコートしながらの散歩は役得だな。俺如きには勿体ない」

 

 以前の艦上パーティーでもムーアのエスコートを受けた出来事は彼女の記憶に刻まれている。存外、慣れている様子に内心では──後々になって気付いたが困惑を感じてしまった。

 

 士官学校で習ったのだろうか。それとも個人的なレッスン(プライベート)で培ったものなのか。

 

 ではその相手は──いや。考えてはならない。指揮官のプライベートを彼女(ニケ)が干渉、或いは詮索するのはお門違いだ。

 

 しかし今だけは──

 

「…それにしても妙な気分だ。地上にいるのに…」

 

「えぇ…はい…」

 

 人類の敵であるラプチャー──地上を奪われたというのに、緑豊かな、そして色とりどりの草花が生い茂る庭園の遊歩道を並んで歩いている。しかも頭上からは仮初ではない本物の太陽が暖かい日差しを降り注ぎ続ける中だ。

 

 そう、まるで──

 

「──ん?ドロシー?」

 

 ふと傍らに立つムーアが口にした名前。視線が向かう先にラピも人影を認めた。

 

 地上を彷徨う巡礼者(ピルグリム)──ガーデンテーブルに何脚かを並べたチェアのひとつへ腰掛けたドロシーも彼や彼女の存在を認めたのだろう。

 

 ラピはアメシストの瞳がまずムーアへ向けられたと感じる。同時に彼女の目元が緩んだが、続けて手を握る様子へ眉間へ浅い縦皺が刻まれたとも察する。

 

 我知らずラピが握られていた自身の左手を彼の手の内から抜き取り、自然な動きでムーアの背後へ佇んだ。

 

「──ようこそいらっしゃいました。一杯、如何ですか?」

 

 腰を上げたドロシーが深窓の令嬢を彷彿とさせる仕草で一礼し、ムーアとラピを招く。彼は頷きを返し、一定の歩幅でガーデンテーブルへ歩み寄る。その後ろ姿に彼女も続いた。

 

 チェアのひとつへ彼が歩み寄り、軽く手元へ引いた。そのまま腰掛けるのかと思いきや、ムーアは肩越しにラピへ視線を向ける。

 

「…ここからなら花壇が良く見えるだろう。座ってくれ」

 

「いえ、私は…」

 

 このまま控えている──そう返しそうになるも続けて彼は肩を竦めた。

 

「…女性を立たせておく趣味は無いんだが…」

 

「こう仰っているのですし、お気になさらずお掛けになって下さい」

 

 招いたホストであるドロシーも着席を勧める。

 

 しかし、とラピは尚も固辞しようとするが、おそらくムーアも頑固に腰掛けるよう勧め続けるだろう。もしくは彼女が座らないのならば、彼自身も腰を下ろさない可能性も捨て切れない。

 

 ここは──折れた方が良さそうだ。それを察したラピは小さな溜め息を漏らしつつ頷くと、ムーアが引いたチェアの前へ移動する。

 

 膝裏の辺りへ触れたチェアの感覚。それを合図にラピが腰を下ろすのに合わせ、ムーアもチェアを軽く押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「──お気に召しましたか?」

 

「──あぁ、充分に。舌が肥えてしまいそうだ」

 

 ドロシーが彼へ振る舞ったのはコーヒーである。わざわざコーヒー豆を焙煎、粉砕して抽出したそれだ。

 

 不思議なことだが、味わい、香り、その全てがムーアの好みだ。

 

 お陰で一杯目を早々に飲み干してしまう程だ。二杯目を強請り、ドロシーへ預けたカップに黒褐色の湯気立つコーヒーが淹れられ、ソーサに乗せられながら手元へ戻って来る。

 

 二杯目を味わうムーアの隣へ腰掛けるラピは紅茶を振る舞われた。カップを摘み、それを静かに啜る。確かに美味い。アークで口にする紅茶とは味や風味、全てが段違いだ。

 

 彼女は然りげなく対面へ腰掛ける巡礼者の様子を伺う。アメシストの瞳はムーアへ向けられ──穏やかに目元が緩んでいる、ようにも見えた。

 

「…アンチェインドの件ですが…貴方を騙す形となりました。改めて謝罪致します」

 

「…その件については既に手打ちが済んでいる。思う所がない、とは言わないが…今更、蒸し返すつもりもない」

 

「ありがとうございます…」

 

 安堵の溜め息がドロシーから漏れ出る。すると彼女は──彼の手元へ銀無垢の光沢を放つ金属の灰皿を押し遣った。

 

「…あぁ、ありがとう」

 

 用意していたのだろうか。ラピが怪訝に眉根を寄せる中、ムーアは上着の胸ポケットから取り出したソフトパックを軽く振る。飛び出した一本の煙草を銜えて引き抜くとオイルライターの火を点けた。

 

 コーヒーの香りに混ざる紫煙のそれ。彼の舌の上ではコーヒーと煙草の風味が混ざり合っているのだろうか。普段から鋭い筈の双眸が微かに緩み、視線が立ち昇る細い紫煙の行方へ向けられていた。

 

「…ヨハンに毎日、講義を受けていると耳に挟みましたが…如何ですか?」

 

「…あまり出来の良い生徒ではないが、幸いにも劣等生の烙印は押されずに済みそうだ。まずはその点に安心している」

 

 彼の軽口へドロシーがクスクスと口元を手で隠しながら声を抑えた笑いを漏らす。

 

「まぁ大概、無茶を言う先輩ではあるが…参考になる講義も多い。その内、レポートの提出を命じられそうだが…」

 

「そうなった場合、ヨハンは()()()()()不備を指摘しそうですね。丁寧に注釈まで付けて正答を書いたレポートを返すかもしれません」

 

「…あぁ。それが予想できてしまう」

 

 穏やかに両者が語り合う姿をラピは傍観するしかない。

 

 おもむろにムーアは銜えていた煙草を指へ挟みつつ唇から取り除き、灰皿の縁へ近付けた。指先で弾いて灰皿の縁に煙草を叩き付けて溜まった灰を落とし、再び唇の端へ銜える。

 

「…では、もしかするとヨハンから誘われるかもしれませんね」

 

「…生憎と()()()の趣味は──冗談だ。…誘われる、とは?」

 

「ニヒリスターの追跡と捜索です。おそらく数日中には」

 

「…ほぅ?」

 

 それまで緩んでいた彼の双眸が鋭く形作られる。たちまち()()()の顔となったムーアへドロシーは薄い微笑を浮かべながら続けた。

 

「まだアンチェインドで損傷したナノマシンを完全には修復しきれていないでしょうし、自己修復機能を始めとしたナノマシンに依存する様々な戦闘能力が大幅に下がっていると予想されます」

 

「…途中で別のヘレティックが介入してきたが、仕切り直しという訳か」

 

「えぇ。それに…()()()()()もありましたから──クイーン…そして()()()()()()()について…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し──いや、()()()()()()()()()()()()()

 

「──…激しすぎ…」

 

「──悪かったな」

 

「──…乱暴」

 

「──それは言い過ぎだろう」

 

「──変態」

 

「──ちょっと待て」

 

 快感と多幸感──それらで回路が焼け付くかと思った程だ。久しぶりだから、そのような理由だけでは済まされない。随分と、はしたない声も挙げてしまった気がする。

 

 それもこれも()が巧いだけでなく、体力も人間離れしているのが悪いのだ。きっとそうである。間違いない。

 

 皺だらけとなったシーツが敷かれたベッド。その上に互いが纏っていた衣服が散乱する中へ横たわる一組の男女の片割れは逞しい腕を枕にしていた。味わった快楽の奔流へ対する感想を心中で紡ぎつつ、そして唇からは憎まれ口を吐き出しながらも星を宿した瞳を目と鼻の先にいる相手へ向ける。

 

 深い縦皺を何本も刻んだ精悍な顔立ちが、今ばかりは僅かに緩んでいる。

 

 

 ──可愛い。

 

 

 心中で漏れたそれへ同意する者は果たしてどれほどいるだろうか。生憎と世界を見渡しても極少数にとどまるはずだ。

 

 兵士として徹底的に鍛えられ、体脂肪が極限まで減らされ、限界まで絞られた肉体を惜しげもなく曝す青年の姿──彼女の肢体に覆い被さり、組み敷いて何度も突き上げられた彼女の記憶が色濃く蘇る。

 

 フラッシュバックする記憶は彼女の頬を紅潮させてしまうが、間違いなく極上の時間だった。繋がった瞬間から全身が彼と溶け合って、ひとつの存在へ混ざってしまいかねない程の感覚は得も言われぬ程の快感と多幸感を彼女へ与えた。

 

「──なんだ?物欲しそうな顔だが…」

 

「──ちょっと…デリカシーってないの?」

 

「──人狼()にそんなモノを求めるな」

 

 ふん、と鼻を鳴らした悪い狼。何処か勝ち誇ったような態度でもある。

 

 それに彼女は膨れ面を浮かべたかと思えば上体を起こす。

 

 白い肌を隠していたシーツが滑り落ち、全身を曝け出した彼女は底意地が悪い狼の腰へ跨る。そのボディに跨がられては普通の人間であれば、とんでもない圧迫感を味わうだろうが、幸運にも彼は普通の人間ではない。

 

 厚く逞しい胸板へ片手を突き、逆の手の細い指先は深く刻まれた腹筋の割れ目に沿って這わされた。なんとも言えないこそばゆさを感じたのか彼の眉間に縦皺が寄る。

 

「──…なら、今度は私の番。()()()が泣いても止めてあげないから」

 

「──それはおっかないな」

 

 言葉とは裏腹に余裕そうな表情──それを今から歪ませてみせる、と彼女は意気込んだ。

 

「──覚悟してね。足腰立たなくしてあげる」

 

「──お手柔らかに…」

 

 やがて腰に添えられた大きな両手を細い両手が握ってシーツへ縫い付けながら、主導権がどちらにあるか思い知らせながらの暑く、熱い情事。互いに愛し合う行為は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──…ッ…!」

 

「…大丈夫ですか?」

 

「…いつの間にか…片頭痛持ちになっていたらしい。話の腰を折って済まなかった…」 

 

 ズキリ、と頭蓋の内で激痛が走る。

 

 それに耐えつつムーアは煙草の紫煙を燻らせ、摘んだカップを持ち上げた。

 

「…気になる話を聞いてみるのも良いでしょう。もしかしたらクイーンについて情報を得られるかもしれません」

 

 どうしますか──それを伺うドロシーの視線を真正面から受け止める彼は吸いかけの煙草を灰皿へ押し潰してしまう。

 

「…考えてはみよう」

 

「畏まりました。ではヨハンに伝えておきますね」

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