勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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どうも皆様、お久しぶりです。久しぶりの更新となりました。



そして宣伝になりますが──R-18の方でどっかの誰かさんとどっかの誰かさんの大きな声では言えない✕✕✕を投稿しましたので宜しければ…(R-18自体が約10年ぶりでして…拙くお目汚しになるかとは思いますが…


第3話

 

 

 無機質な通路へ反響する規則正しい足音。

 

 やがてその足音は一室の扉の前で立ち止まる。

 

 続けて呼び出しのブザーが室内から響いた。

 

「──ドロシーです。少尉、いらっしゃいますか?」

 

 あぁ、と低く落ち着きのある声が返される。在室のようだ。

 

 入室を許可された彼女が扉の横へ設けられたボタンを押し、横へ滑ったそれが開け放たれると室内の様子が露わになる。

 

「読書中でしたか」

 

「──正確には筋トレしながらの読書中だがね」

 

 黒い半袖のシャツを纏う青年がベッドの端へ腰掛けつつ片手に40kg分のプレートが付いたダンベルを握り、反動を全く使わず上下に振っての運動を繰り返していた。

 

 空いた逆の手で小さなサイドテーブルの机上へ置いた本のページを捲っている様子から、彼にとっては大した負荷ですらないと窺える。

 

 それに驚くこともなく彼女──ドロシーは室内へ足を踏み入れると要件を伝えた。

 

「指揮官からの伝言です。1時間後にブリーフィングとのことです」

 

「内線や放送で済むだろうに…あぁ、分かった。手間を掛けさせて済まない」

 

「いえ。…イカロス、ですか?」

 

 青年がページを捲る本──ギリシア神話に関する書籍だとドロシーは気付く。

 

 挿絵として掲載された絵画には蜜蝋で固めた翼が溶け、墜落する姿が描かれていた。

 

「──キミはどう思う?」

 

「──どう、とは?」

 

 抽象的な問い掛けに彼女は尋ね返し、彼は軽く肩を竦めてみせる。

 

「いや、なに……聡明なキミのことだ。この神話の教訓は知っているだろう?」

 

「人間の傲慢さが自らの破滅を導く、という教えでしょうか?」

 

 ドロシーの言葉に青年は小さく頷き、次いでページを捲っていた本を閉じた。

 

「傲慢、慢心を象徴する話だ。しかし、挑み続け、抗い続けるのもまた人間の特権でもある──と俺は思う」

 

「…ロマンチストですね」

 

「いいや、ただの身の程知らずだよ。でなきゃ、たかが人間如きが()()()()一対一(サシ)で殺し合いなんぞ出来る訳がない」

 

 無謀という言葉すら生温い。自殺志願者が関の山であろう。

 

 自嘲を込めて鼻を軽く鳴らした青年は握ったダンベルを床へ置くと腰を上げた。

 

「ブリーフィングは1時間後だったな。…甲板を少し走る時間はあるか」

 

「精が出ますね。こんな時まで鍛えるなんて…」

 

「──()()()()()()()()()、だ」

 

 左手首の内側へ文字盤が来るように巻かれた腕時計。現在時刻を確認した青年が呟いた言葉へドロシーは呆れ混じりに応じる。

 

 折角の纏まった休息が取れる平穏な数日間だったというのに彼──否、()()がジッとしていた記憶がない。身体を休めるということを知らないのか、それとも動いていないと息が詰まるのか、そのいずれかだと彼女は思っていたがどうやら違うらしい。

 

「──ニケであるキミ達とは違って俺は人間だ。…何故か()()()()と思われているのは知っているが…」

 

「少尉や皆さんを人間扱いして良いのか判断に困るのは…その通りですが…」

 

 率直すぎる物言いである。青年は肩を竦め、続けて身を屈めるとタンカラーの半長靴(ブーツ)の靴紐を結び直した。

 

「ちゃんと人間だ。キミ達とは違って、鍛え続けなきゃ戦闘能力を維持できないからな。幸いにも少し休めば体力は回復する。戦い続ける為に努力を続けるしかないんだ。──でないと、()()()()が化けて出て来そうだからな」

 

 靴紐を結び終えた彼がおもむろに室内へ置かれたテーブルに歩み寄った。そして──机上に鎮座する一本のボトルを掴み、コルク栓を引き抜いて放置されていた二人分のグラスへ深紅のワインを半分ほど注いだ。

 

「…昼間からお酒は…」

 

「──どうせ酔えないんだ。それに残りを処理しなきゃならん…ワインは苦手なんだがな」

 

 グイッと一息に飲み干し、眉間へ深い縦皺を刻む。不快な雰囲気を感じ、ドロシーはワインが苦手であると語る青年の言葉が事実だと悟った。

 

 とはいえ、ブリーフィングが始まる寸前まで甲板上で駆け足をする口振りだったが──その前に酔えない体質だとしても飲酒は如何なものか。

 

 呆れて溜め息が漏れ出る。それを目の当たりにした青年は──自覚があるのか、バツが悪そうに軽く肩を竦めてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒野を一台の武装車両が土埃を巻き上げながら疾走している。

 

 路面状況はあまり宜しくない。サスペンションである程度の衝撃は緩和されるが、それでも車体がガタガタと揺れ動くのは御愛嬌だろうか。

 

 武装車両の速度が落ち、やがて荒野に聳える巨岩の陰で停車した。エンジンが切られて間もなく、車体へ設けられた前後左右の扉が内側から開け放たれ、4名の人影が姿を見せる。

 

「──どうだ?」

 

「──取り敢えずは動いてるみたいだけど…」

 

 一同の中でも一際背が高い青年が亜麻色の髪を持つ部下へ尋ねながら突撃銃が繋げられたスリングベルトを自身の身体に掛ける。

 

 彼女──アニスは普段通りに擲弾発射器を携えているが、細い片手には情報端末らしき機器を握っていた。

 

「…指揮官様。本当にこんなの信じて大丈夫なの?」

 

「──交戦データを基にして作った物だから、全く使えないということはないはずよ」

 

「──地脈探知機程度の効果はありそうですね」

 

 続けて玲瓏な声が冷静な物言いで彼女へ語る。

 

 そして気休めの言葉を放った部下──自身の弟子を称するネオンへ師たるムーアは微かな苦笑を浮かべた。

 

「…ダウジングと()()を一緒にされたらヨハンやセシルは堪ったものじゃないな」

 

「それって疑似科学じゃないの?」

 

 引き合いに出す対象ではないだろう。唇を尖らせた彼女──アニスが手にした機械へ改めて亜麻色の瞳を向ける。

 

 彼女が片手に握るのはエデンの科学力で開発されたヘレティックを追跡する為の探知機──であるらしい。

 

 反応が強い方角を探知すると電子音を発して報せる機能が搭載されている代物だ。

 

 果たしてこれが役に立つのか──疑問は拭えないが、無いよりはマシであるのは否めない。

 

 彼は傍らのラピへ目線を向け、先頭に立つよう促した。委細承知していると言わんばかりに彼女は頷きを返し、突撃銃を携えつつ分隊の先頭へ立つ。

 

「──分隊、前進用意。前へ」

 

 落ち着いた低い声が号令を発し、ラピが一歩を踏み出した。各員が間隔を空けて進み始めた矢先、ムーアの背後に続くアニスとネオンの軽口が響く。

 

「──ニヒリスターを見付けたらなんて言いましょうか?」

 

「──うーん…そうねぇ…」

 

 微かな唸りを漏らすアニスは脳内でその状況を想定しているのだろう。

 

「──炎を吐いても良い者は、殴られる覚悟が出来ている者だけだ──とかどう?」

 

「──なるほど。じゃあ私は──歯を食い縛りな火竜。私の火力は結構痛いぜ」

 

「──はははっ!なによそれ!」

 

「──…あまり気を緩めないで…」

 

 二人がやいやいと落ち着きもなく騒ぐからだろう。先頭を進む分隊のリーダーが堪らず苦言を呈した。

 

「いくら弱っていても相手はヘレティックよ。油断は禁物」

 

「分かってるわよ」

 

 肩越しに振り向いた彼女の紅い瞳が呆れの形になっていると気付いたのだろう。アニスが肩を竦めてみせた。

 

「指揮官様は?ニヒリスターに会ったらなんて言うの?」

 

「…俺を巻き込まないでくれ」

 

「え〜いいじゃん」

 

「やっぱりアレですか?師匠なら煙草を銜えながら──久しぶりだな、お嬢さん──ぐらいは言いますよね?」

 

「…俺をなんだと思っているんだ」

 

 一瞬、言いそうではある──などと率直に感じたとは言わない。先頭を進む優秀な分隊のリーダーが呆れを多分に込めた溜め息を吐き出しそうだった。

 

 分隊が進む荒野には次第に何らかの部品──元々の原型は不明だが、機械的な大小の部品が転がる光景が目立ち始める。

 

 ラプチャーの残骸か、それともまた別の何かか──アニスが脳裏で推測を巡らせようとした瞬間だ。

 

 視線の先で長身の青年が左腕を肩ほどに挙げ、握り拳を作り、止まれの合図を送った。

 

「──指揮官、どうしました?」

 

 彼の足音が、そしてアニスとネオンの足音も少し遅れて止まったと気付いたのだろう。ラピが背後を振り向きながらムーアへ尋ねる。

 

 彼はその場へ片膝を突き、姿勢を低くするや否や、左手でヘルメットの下──自身の左耳を覆うヘッドセットのハウジングを僅かに浮かせて空間を作った。

 

 機械に頼らず、自身の五感全てを使って周囲を伺っている──それが察せられた彼女達もその場へしゃがみ込んだ。

 

「……変な音がする」

 

「え?()()()()()の音じゃないですか?」

 

 ネオンがアニスが握る探知機を指しつつ首を傾げる。時折、電子音を発する端末のそれではないか──と問うもムーアはヘルメットを被る頭を左右へ振った。

 

「いや、違う。電子音のような物ではなくて──」

 

 なんと表現したものか。眉間へ皺を寄せつつ適切な表現を探していた矢先──引き千切り、押し潰すような重々しく耳障りな異音が風に運ばれて彼女達の耳朶を震わせる。

 

 もし例えるとすれば、樹木の厚い樹皮を無理矢理剥ぎ取るような──だろうか。

 

 それにしては金属的な響きも感じられる。しかしラプチャーが発する駆動音とはまた異なっていた。

 

 何処から運ばれて来た音なのか──風上であろうか。

 

「…アニス。反応が大きい方角は?」

 

「えっと……()()()だね」

 

 細い片手に握る端末を左右へ振り、発せられる電子音が最も顕著な反応を示した方角がアニスの手で示される。

 

 彼女へ軽く振り向き、示された方角を確認した彼はゆっくり腰を上げつつ浮かせていたハウジングを元へ戻した。

 

 左手の二本の指が揃えられ、前へ、と振られる。

 

 前進を再開して20分は経っただろうか。

 

 それまで荒涼とした地面へ転がっていた大小の様々な機械的な部品──目に付くそれが少なくなってきた。

 

 それに反して、さながら厚い樹皮を無理矢理剥ぎ取るような異音は大きくなっている。

 

「…こんな荒れ地に転がっている部品は…」

 

「──おそらくですが、高確率でラプチャーの破片か、それとも……」

 

「…言わなくて良い。ある程度は想像が出来る」

 

 ラピの言葉を途中でムーアは遮った。ラプチャーか、或いはニケであったものの部品のどちらかであろう。後者の場合は余計に想像はしたくないが。

 

 彼は微かな溜め息の後、肩越しにアニスへ視線を向ける。彼女も気付き、亜麻色の丸い瞳をパチクリと瞬きながら首を傾げた。

 

「──信号拳銃(フレアガン)をいつでも撃てるようにしてくれ」

 

 彼からの指示にアニスは小さく頷きを返した。

 

 ニヒリスターが潜んでいると推測された一帯はエブラ粒子の濃度が濃く、無線通信に支障を来す。その為、原始的な合図とも言える信号拳銃を携行し、ニヒリスターを発見した場合、信号弾を打ち上げて一方の部隊へ報せると決められている。

 

 エデンからの出発前、ヨハンから渡されたそれをムーアはアニスへ預けていたのだ。

 

 彼女から承知している旨を仕草で送られた彼も頷きを見せ、改めて前進を──

 

「──止まれ」

 

 低い声が警告を告げる。反射的に彼女達の動きが止まった。

 

 カチリ、と突撃銃の安全装置が外され、念の為にだろう。ボルトフォアードアシストのノブが掌底で叩かれ、遊底、薬室が強制閉鎖される。

 

 突撃銃が構えられ、光学照準器(ACOG)を覗き込むムーアの全身から戦意と警戒を感じられた彼女達も気付く。

 

 岩場であるのもあって発見が遅れてしまったが──視線の先に()()がいる。

 

 ──ニヒリスターだ。

 

 見紛う筈もない。

 

 しかし過日の戦闘の影響か、損傷した自身の肉体を修復せんと周囲に散乱する様々な部品を手に取っては押し潰し、押し曲げ、引き千切りながら──器用に身体へ宛てがっては吸収しているようだ。

 

 隠れろ、と彼がハンドサインを用いて指示した。

 

 弾かれるように彼女達も最寄りの岩陰へ身を隠す。

 

 その途端──それまで響いていた修復の物音が途切れた。

 

 気付かれただろうか。

 

 アニスがラピへハンドサインで問う。信号弾を打ち上げるべきか、と。

 

 それへ彼女は左右へ頭を振った。

 

 距離が近過ぎる。上空へ向けて発砲した瞬間、位置が発覚して攻撃が始まる。

 

 いずれにせよ、まずは状況を確認しよう。

 

 アニスが慎重に──それこそ焦れったくなる程の挙動で岩陰から顔を覗かせようとした矢先のこと。

 

「──ッ!?ち、ちょっと…!」

 

 手元が留守になっていたからだろうか。探知機がニヒリスター──ヘレティックへ自身が向けられた瞬間、信号か何かを感知したのだろう。設定された、産み出された存在理由を示す為、電子音を奏で上げた。

 

 空気が読めないのか。このポンコツ──とアニスが慌てて探知機の電源を切る。機械は正直すぎる。いや、機械は嘘を吐かないのだから当然なのだが。

 

 しかし──やはりタイミングは最悪であった、と言えよう。

 

「──避けろ!!」

 

 何かが急速に接近してくる──それを感じ取ったムーアが警告を発した。

 

 共に隠れていた彼女達も反射的に横へ飛び、地面へ伏せた瞬間、それまで身を潜めていた岩が粉々に()()()

 

「──さっきから妙な視線を感じると思ったら…雑魚野郎共がここまで入り込んで来やがったのか。俺の居場所をどうやって…」

 

 頭上から岩の細かい破片が降り注ぎ、ヘルメットに当たってはカンカンと衝突音を奏でる最中、彼は立ち上がりつつボディアーマーのポーチを漁った。

 

「──いや、もう会っちまった以上、そんなこと気にしても無駄だよな。──そうだろう、人間?」

 

「──あぁ、同感だ。久しぶりだな、お嬢さん。元気そうでなによりだ」

 

 ──本当に言ったよ…。

 

 ──しかも煙草まで…。

 

 ──…火は点いていないわよ。

 

 突撃銃を構え、銃口を指向しながら取り出したソフトパックを振り、一本の煙草を銜えてみせた。

 

 

 

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