勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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仕事続きで疲労困憊もあり、短くなってしまい申し訳ありません……(ちし共行きたかったのです


第6話

 

 

「──そんなに意外か?自分で言っていただろう。代わりにクイーンを殺してやる、と」

 

 真紅の双眸を目一杯見開いたニヒリスターの意識が再び眼前の人間へ向ける切っ掛けを作ったのは、豊かな胸へ押し付ける拳銃を握る男の低い声だ。

 

「ラプチャーの──いや、この場合はヘレティックと言った方が適切か。果たして俺達がスクラップにしている連中に個としての自我があるのかは分からんが、明らかにヘレティックはそれが存在している」

 

「…何が言いたい?」

 

 見開いていた双眸を細めたヘレティックが問い返す。無意識に低い声を漏らしたのは警戒の現れだろうか。

 

 その様子と姿から、やはり推測は当たっていたのだと──核心部分は突いていたのだと確信したムーアが押し付けていた拳銃の銃口を豊かな胸から離した。

 

 45口径のそれへ設けられた安全装置が彼の親指で掛けられ、続けてホルスターに戻されると乾燥気味の唇へ取り出した煙草が銜えられる。

 

「ヘレティックも一枚岩ではない──目的の為に協力こそするが…適切な表現は難しいが……派閥、軍閥のようなものを形成しているのかもしれんな。俺の推測が当たっているかどうかはこの際、どうでも良い。──単体ですら圧倒的な戦力を有し、脅威としか言えない自己修復機能を搭載した存在であるのがヘレティックならば、散々殺し合ったとしても千日手になるのは想像できる」

 

 無論、()()()()()()()()()()で挑んだ場合──と付け加えつつムーアは手繰り寄せた二人分のステンレス製のマグカップへコーヒーの粉末を注ぐ。

 

 底へ溜まった粉末を溶かすのはシングルバーナーの上で炙られ続けているケトルの湯だ。グローブを嵌めた手でケトルを掴み、沸騰している湯をマグカップに。

 

 湯気立つマグカップの片割れをムーアはニヒリスターへ押し付け、次に残ったそれを摘み上げた。

 

「…おそらくはクイーンも同様なんだろう。或いはキミよりも強大な存在か。いずれにせよ、()()()()()()()()()()が必要だろう。でなければ殺し切れない」

 

「…はっ…」

 

 ──これは参った。

 

「──良い勘してるぜ、まったく。お前、大物だな。人間の癖に。ちゃんとした武装もしてねぇのにクイーンの先鋒を相手に図々しく言葉遊びかよ。しかも()()()()まで振る舞うって…頭、大丈夫か?」

 

「そのクイーンを殺してやる、と宣言するような輩に是非とも返したい台詞だな」

 

 押し付けられたマグカップを傾けた彼女は──苦味が強いそれを舌に感じ、眉間へ皺を寄せた。

 

「…お前、コーヒーもまともに淹れられねぇのか?」

 

「安物のコーヒーなんだ」

 

 もう少し嗜好品には金を掛けたい所だが、と彼は肩を竦めてみせる。

 

 その仕草と様子をニヒリスターは鼻で笑いつつもう一口を啜り──マグカップを地面へ置いた。

 

「──度胸があるのか、それとも身の程知らずか。リバーレリオだったら、間違いなくお前をこのまま引き裂いてたぞ」

 

「そうか。……なら、そうならないよう安物のコーヒーでも美味く飲めるよう練習しておくか」

 

「…それ、本気で言ってんのか?」

 

「冗談だ」

 

 落ち着きのある低い声で淡々と紡がれては冗談か本気か区別が難しい。さぞや苦労しているだろう──などとヘレティックらしくない人間もどき(ニケ)への同情すら浮かぶ思いだ。

 

 盛大な溜め息を漏らした彼女だが、不思議と不快な気分ではないと気付くのに時間は然程必要なかった。

 

「──だけど…まぁ…生意気で身の程知らずなのも、ここまで来ると美徳だよな」

 

 いっそ清々しいとも言える。

 

「絶対に敵わない、勝てない敵に立ち向かって、やられて──お前、あの()()()と戦って脚と眼をやられたんだろ?」

 

「…なんだ、知ってたのか。なら、()()()()()からも聞いてるな。野郎の土手っ腹に風穴を空けてやった」

 

 当然、聞いている。それは口に出さなかったが、代わりにニヒリスターは鼻を軽く鳴らして肯定の返事とした。

 

「そしてボロボロになってもまた立ち上がって、戦って──か。そういう奴等こそ倒し甲斐があるってもんだ」

 

「……それは誉めてるのか?」

 

「さぁな。上等な頭が首の上に乗っかってんだ。飾りじゃねぇんだろ?考えたらどうだ?」

 

 今度は彼が鼻を鳴らす番だ。皮肉で返されるとは思わなかったのか。火を点けていない煙草を銜えつつ意味もなく揺らす最中──ニヒリスターが顔を近付けた。

 

「…なんだ?」

 

「動くなよ?」

 

 加減を誤らないとも限らないのだ。そういうのが苦手なのだ、と暗に伝えるも彼は気付く気配もない。

 

 真紅の瞳を細めた彼女は()()を煙草の先端に定める。

 

 軽く息を吸い──色付いた形の良い唇を窄め、吐息程度のそれを漏らせば、細い炎が駆け抜けた。

 

「…お前のつまらない()()()()に騙されてやるよ」

 

 細い炎が煙草の先端を炙る。紫煙が夜空へ立ち昇り始めたのを認めたニヒリスターが腰を上げた。

 

「ただし、それが通用するのは一日だけだからな。言った通り、俺の忍耐力はそう長く保たないぜ。もしお前が明日の夜までにアンチェインドに関する情報を差し出さなければ──」

 

「俺を燃やす、か?…煙草に点ける火種を探す手間が省けて願ったりだ」

 

 減らず口を叩く奴だ。少しは黙れば良いものを──まぁそれも美徳なのかもしれない。

 

 鼻を鳴らした彼女が甲冑を纏っているかの如き金属音を奏でつつ元の位置へ戻って行く。それを横目に見送りつつ、彼は煙草の紫煙を燻らし、マグカップを傾けてコーヒーを啜った。

 

 

 

 

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