勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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第9話

 

 

「──ちょっとそこの君!そう!そこの君だよ!皆が怖がっちゃうじゃないか!銃を仕舞ってくれ!!」

 

 ムーアは困っていた。困惑していた。おそらく記憶にある限りの生涯の中で最も思考停止へ陥る寸前となっているだろう。

 

 その原因は──()()()()()()()の存在にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ヨハンにはバレているみたいだったな」

 

 亀裂が走る旧時代の舗装道路。路肩には当時の避難民達が乗り捨てた乗用車や放棄した荷物の類が散乱している道路を武装車輌が土埃を巻き上げつつ駆け抜けている。

 

 その運転席では火の点いていない煙草を銜えたムーアが数十分前の出来事──ヨハン率いるインヘルト部隊が到着した際の様子を思い出しながら呟いた。

 

 ニヒリスターが飛び去って間もなく、それこそ2分と経たずに上空へイサベルが偵察の為に飛来し、何があったのか、と事情聴取がなされた。

 

 その後、約1時間は経った頃だろう。ヨハンが部隊を率いて到着し、更に聴取が。

 

 事前に分隊全員で打ち合わせていた言い訳──もとい、()()を淡々と彼が説明するが、冷ややかなアイスブルーの瞳は()()()()()()()を察したのだろう。

 

 しかし追及は特になく──そうか──その一言だけで了解の旨が返された。

 

「──かもねぇ。まぁ、こっちとしては助かったけど」

 

「──ありがとう」

 

 彼の右側──助手席へ腰掛けるアニスの細い手が電子ライターを握ってムーアが銜える煙草の先端へ向かわせる。火を点けて貰うと彼は律儀に礼を返した。

 

「…おそらくエデンへ戻ったら遠回しな嫌がらせとして色々と課題が出されそうだな」

 

 それは御愁傷様、と言わんばかりにアニスはライターをポケットに仕舞うと細い肩を竦めさせ、続けて自身の携帯端末を取り出す。しなやかな指先が液晶画面上を滑り、やがて楽曲の旋律が流れ始めた。

 

 フンフンと鼻歌混じりの彼女の様子を横目で捉える彼だが、それを叱責などはしない。適度に緊張を維持するのも重要だが、長時間では心身共に疲労が蓄積される。抜ける時間があるなら抜いて構わない。

 

 その時間を提供する為、彼はなるべく快適な移動に努力しようと舗装道路へ刻まれた大きな亀裂等を避けながら武装車輌を走らせ続ける。

 

 ──廃墟となった家々が連なる街へ入った直後、真下から車体を突き上げるような衝撃へ襲われるまでは。

 

 

 

 

 

「──ったく、畜生…!」

 

「──…二度目だね…」

 

「──師匠。最近、何か悪いことでもしましたか?」

 

 ()()地雷である。第1次ラプチャー侵攻当時の代物かは不明だが、活性化したまま虎視眈眈と起爆の瞬間を待ち焦がれていた地雷を踏んでしまったようだ。

 

 不信心者故に天罰を喰らった可能性も捨て切れない。ネオンが尋ねるも彼は車内を漁り、工具を急いで搬出する作業をラピと手分けして行っている真っ最中だ。

 

 ズタボロになったタイヤ、破損した部品を交換せねばならない。それも急いでだ。

 

「指揮官様が悪いこと?そんなのしょっちゅうしてるじゃない」

 

「え?そうでしたっけ?」

 

「ほら、ニケ誑し」

 

「──だから誑してはいないだろう。俺如きが誑し込むなんて真似が出来ると思うか?」

 

 ──してるではないか。

 

 油圧ジャッキを脇へ抱えながら苦言を呈する彼へアニスが可愛らしい亜麻色の瞳を細め、胡乱や不服を意思表示する形のまま見詰めた。

 

 ()()で誑していないと思える神経が心底信じられない。頭の回転は早いだろうに何故、その可能性へ思い至らないのか。

 

 まぁ──かくいう彼女自身、誑し込まれた()()()()()ニケであり、その事実を再認識しても悪い気分には不思議とならないのだが。

 

 これから急いで修理へ入るが、その前にデコイを撒いて安全を期さねばならない。

 

 アニスとネオンが準備を始めた時、玲瓏な声が警告と警戒を周囲へ鋭く発した。

 

「──10時の方角から熱源接近!ラプチャーよ!」

 

 それを聞き取ったムーアは油圧ジャッキを投げ捨て、代わりに慣れ親しんだ突撃銃の握把を握り込んだ。

 

 各々へ遮蔽物に身を隠すよう命じつつ彼も突撃銃を携え、家屋から剥がれ落ちた建材で車体が潰れた旧時代の乗用車を盾にする格好となる。

 

 槓桿を鋭く引き、ボルトフォアードアシストノブを掌底で叩く。この一連の手順も慣れたものだ。

 

 高度戦闘光学照準器(ACOG)を覗き込み、街を縦断する道路を監視して間もなく──視界の中へ動きを見せる物体がいくつか映り込む。──間違いなくラプチャーだ。()()を除いてはそう確信出来る。

 

「…なんだ()()?」

 

 シルエットこそ、嫌というほど見慣れたラプチャーだが──細部はあまりにも不格好すぎる。それどころか挙動と言うべきか、或いは機動か。いずれにせよ辿々しく、覚束ない足取りだ。

 

 故障が発生しているのだろうか。しかしそれにしては──と違和感が拭えないムーアだが、敵は敵だ。

 

「──分隊。俺の後に続けて撃て。先頭の敵機を狙う」

 

 ACOGのレティクルが敵機を──先頭を覚束ない挙動で進む不格好なシルエットのラプチャーを捉える。

 

 人差し指が引き金へ乗せられ、()()が引き絞られた。

 

 その時、一列縦隊を作って道路を進んでいた敵機の一団が不可解な動きを見せる。

 

 ムーアや分隊の存在に気付いたのだろう。数機のラプチャーが前へ躍り出た。──不格好なシルエットと覚束ない挙動を見せる敵機を庇うように。

 

「……は?」

 

「───どうしたの皆?──ちょっとそこの君!そう!そこの君だよ!皆が怖がっちゃうじゃないか!銃を仕舞ってくれ!!」

 

 これが変人──もとい()()動物愛好家であり、ラプチャースーツなる代物で身を包み、地上でラプチャーの研究を続けるラプチリオンとの出会いである。

 

 

 

 

 

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