勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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第10話

 

 

 眼前で一等星の瞬きの如くに閃光が迸る。地雷の炸裂で損傷した厚い扉の亀裂が塞がれていく。

 

 その手際の良さは修理工顔負けである。特にラプチャーが修理していると思えば、眼前の光景が俄には信じられない。

 

「──あとはタイヤを交換すれば良いだけだね。細かい作業は得意じゃないみたいだから、そこはお願い出来るかな?」

 

「……あぁ……」

 

 ひとまず一服しよう──ムーアはボディアーマーのポーチから取り出したソフトパックを軽く振る。飛び出した一本の煙草を銜え、オイルライターの火を点けた。

 

 俄には信じられない光景──むしろ自分の眼や頭がおかしくなった、と考えた方が納得すらしてしまう。

 

 しかし生憎と、その可能性は非常に薄いらしい。なにせ彼の傍らに立つ部下達もそれぞれの瞳を丸くしているのだから。

 

 廃車となった乗用車のボディにドラム缶──その他諸々の廃材を使って()()()()()()()()なる代物を作り上げた錆だらけの喋るランドクラブ(ラプチャー)

 

 外見こそラプチャーの出来損ないか、スクラップ寸前の敵機の有り様だが、中身はれっきとした人間のようだ。

 

 武装車輌の溶接を続けている二体のラプチャー──ランドクラブとスキッド。前者はカニを模している機体構造だからか基本的に横移動ばかりしている。時折、跳躍もしてみせるが。後者の敵機は海洋生物のイカを模した外見だ。海中を漂っているかの如く浮遊しているのが特徴である。

 

 この奇妙な一団をどうするべきか──ムーアとしては非常に悩ましい選択を迫られている。

 

「──ところで君…それ、ニケ用の銃だよね?撃てるの?」

 

「──でなきゃ携行している意味がない。趣味でこんな物を持っていると思うのか?」

 

「──それもそっか。あ、修理が終わったみたいだよ」

 

 溶接の閃光が途切れる。亀裂が走った装甲板はしっかりと塞がったようだ。

 

 確認の為、ムーアは突撃銃を握りつつ武装車輌へ歩み寄る。すると修理に励んでいた二機のラプチャーが素早く彼から身を離してラプチリオンの前へ立ち塞がった。

 

「…なんだか警戒してるね。君、皆に何かしたかい?」

 

「ラプチャーなら数え切れないほどスクラップにしたからな。そっちからしたら仲間の敵か何かだろう」

 

 果たしてそこまでの自我があるのかは、さておきとなってしまうが。いずれにせよ二機のラプチャーがムーアを特に警戒しているのは彼も良く分かった。やたらと注目を受けている感覚がある。

 

「…指揮官。あまり警戒を緩めないで下さい」

 

 車体に刻まれた亀裂が見事に塞がっている。それを確かめる彼の隣へ立ったラピが口にするも、ムーアは委細承知しているのだろう。視線を自身が握る突撃銃は向かわせる。彼女の紅い瞳も誘導され──突撃銃の安全装置が外れている、と気付くのに時間はそれほど必要なかった。

 

 ムーアは続けてアニスとネオンへ横目を向ける。タイヤの交換をするよう促す視線だ。不承不承とまずアニスが頷く。面倒な作業を請け負う代わりに背中を頼むと無言のまま告げられた気分だ。

 

 ネオンも彼が投げ捨てた油圧ジャッキを拾い上げ、交換作業を始める。その二人の背中を守るようにムーアとラピは突撃銃を握りつつラプチャーと()()()()()()()()の前へ立ち塞がった。

 

「──ラプチリオン、だったか。修理に感謝する」

 

「いいよいいよ。地上では困った時はお互い様だからね。お礼なら皆に言って欲しいかな」

 

「……感謝する」

 

 躊躇いはあったが、それも道理だ。彼はランドクラブ、そしてスキッド──敵機へ顔を向け、軽く頭を下げてみせる。

 

 すると二機のラプチャーの赤いコアが忙しなく点滅を始めた。

 

「…なんだか、凄くビックリしてるよ…」

 

「…そうか…」

 

 それはなんとなく分かった気がする。勿論、ラプチャーが人類に感謝されるなど、まず有り得ないだろう。

 

 覚束ない挙動のまま、錆び付いて軋むラプチャースーツを纏うラプチリオンが二機の間から前へ進み出た。

 

「…それはそうと…君達、こんなところで何をしているんだい?」

 

「──軍機に関わる任務の為、話すことはできない」

 

「あぁ、そっか。それはそうだよね」

 

「…どうしても知りたいなら方法は色々とあるが…聞きたいか?」

 

 明らかに何らかの任務を帯びている──地上奪還に関連した任務遂行中のニケ分隊だ。偶然に出会ったが、ラプチリオンも空気を察することぐらいは可能である。深くは尋ねない──それを返すも、彼は肩を竦めつつ問い掛ける。

 

 どうせロクな方法ではないだろう。それも察せられたラプチリオンが──どのように操作しているかは分からないが、纏ったスーツの前部のみを左右へ振って見せる。人間であれば頭を振る仕草にも似ていた。

 

「──遠慮しておくよ」

 

「それは残念だ。それはそうと、こちらからもいくつか質問がある。正直に答えてくれ。──そのラプチャー達を伴って地上で何をしている?」

 

「あぁ、彼等は…仲間…いや友達…なんだろうね?」

 

「…いや、俺に聞かれても…」

 

 正直困る──そうムーアは返しつつ、サングラス越しに二機のラプチャーへ鋭い視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この人間を知っている──気がする。

 

 遠い昔に見覚えがある──気がする。

 

 激しい戦いだった。

 

 まだ人間もどき(ニケ)が戦場へ出て来る前の時代、圧倒的な戦力と物量で人類を一方的に蹂躙していた頃のことだ。

 

 あの頃はまだ生産されたモデル達は脆弱なボディで覆われ、機動力と物量で人類側の軍隊を圧倒していただけだ。そこから次第にアップグレード──進化を続け、現在に至っているが、当時のラプチャーの実に数百機が撃破された戦いが二機の戦闘記録の中から抽出される。

 

 これは果たして彼等が実際にあの戦場で戦った為、記録されているのか、それとも他の機体から抽出されたデータが埋め込まれたのか──いずれかの理由かは分からない。

 

 しかしランドクラブとスキッド──この二機のラプチャーは間違いなく眼前の人間を()()()()()

 

 

 眼を血走らせ、我先に突進して来る数十の人間達。蛮声と喊声を轟かせ、肉薄した人間達が()()()で味方を次々と撃破していく。

 

 至近距離から大口径の銃弾が撃ち込まれ、握った火器で殴り付けられ、拳や脚が振るわれる度に機体が吹き飛んだ。

 

 一際目立つ指揮官機ですら一撃を見舞われて()()()()()()、機体の姿勢制御が崩れた瞬間、コアを粉微塵とする程の銃弾が浴びせられた。

 

 指揮官機が壊された。

 

 退却しなければ。

 

 ある程度の自律した行動は可能だが、指示を出す指揮官機が破壊されてはラプチャーも烏合の衆と化す。

 

 形勢不利を悟り、味方機が続々と後退する。その背後を追撃し、苛烈な攻撃を加え続ける人間達の中に──この男の顔を見た()()()()()

 

 本当に()()()()しかないのだが──しかし二機のラプチャーは眼前の男から一等危険な気配を感じ取る。少しでも油断すれば、或いは不審な動きを見せた途端に破壊()されると。

 

 

 

 

 

 

「──ん?……なんだかランドクラブとスキッドも早く動きたがっているから俺達はそろそろ行くよ」

 

「…あぁ、分かった。くれぐれも気を付けて調査をしてくれ。重ね重ねになるが、修理に感謝する」

 

「いいっていいって。……あ、そうだ」

 

 立ち去る前に──とラプチリオンが纏うラプチャースーツの隙間から携帯端末の液晶画面が飛び出した。

 

 ヒビが走る液晶画面にはQRコードが表示されている。メッセンジャーの連絡先を交換したいという頼みである。

 

 ラプチャー側の工作員ではないとは思うが──全面的に信じられるかと尋ねられると即答は難しい。しかし断固として断る理由も存在しない。

 

「…交換には応じるが、悪用をしてみろ。そのハリボテの中から引き摺り出してやる」

 

「大丈夫、安心してよ。俺が悪用する訳ないだろう?」

 

 どうだか──半信半疑のまま彼はQRコードを読み込み、ラプチリオンの連絡先を登録する。

 

「──ここで会ったのも何かの縁だ。これでも地上で何年も生活してるからね。もし助けになれることがあったらいつでも連絡して欲しい。手助けするよ」

 

「…考慮はしておく」

 

「ありがとう。じゃあまた」

 

 ギシギシと油を差していないからか軋む四足の脚部を覚束ない足取りで駆動させつつラプチリオンが横歩きで進み始めた。

 

 するとランドクラブとスキッドも同様に移動を始め──その姿が道路の角で消えると、彼の隣で緊張を続けていたラピが大きく安堵の息を吐き出し、突撃銃へ安全装置を掛けた。

 

 彼も突撃銃へ安全装置を掛け、短くなった煙草を携帯灰皿へ投げ捨てる。

 

「……なんか変な奴だったね」

 

「…あまり他人を貶すような言い方はしたくないが…」

 

 タイヤ交換を続けるアニスへムーアは肯定の頷きを見せた。

 

 

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