勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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「もう無理よ…!いくらクソガキって言っても、いたいけな少女の精神をへし折るなんて私には出来ない…!」
「テメェも新兵の頃に精神へし折られただるぉぉ!?それを参考にしろぉぉ!!」
「無理よぉ!私には書けない…!絶対に「望んでたものと違う」って批判が来るわ…!」
「御託は良いからさっさと書くんだよぉ!!」

あ、誤字報告に感謝致します。今後も宜しくお願い致します。





第2話

 

 

「──跪きなさい」

 

 抜き取った拳銃を体格差のあるムーアへ突き付ける少女──シュエンは不遜な態度を崩さぬまま言い放つ。

 

 最初から彼のことは気に食わなかった。

 

 ふてぶてしい顔だと入手した資料に添付されていた顔写真を見た際にはそのような印象を抱いたが、実物を見た現在では更にその感情が増している。

 

 そもそも身長が高すぎて見下されているのが気に食わない。

 

 自分ほどの身分を相手にするのだ。相応の姿勢があるだろうと実力行使を以て躾る腹積もりとなっていた。

 

 更に気に食わないのは──銃口を突き付けているというのに、さながら癇癪を起こした子供を相手にしているかのような態度を崩さないところだ。

 

 溜め息を吐き出し「やれやれ」と言わんばかりに両手を軽く上げている。

 

「──指揮官!」

 

「…手を出すな」

 

 ()()()がシュエンへ敵意の目を向けるも少女は胸を張りつつ早く跪くよう銃口を床へ向けながら促した。

 

 両手を軽く上げながら彼はその場へゆっくりと両膝を突いてみせる。自身よりも背丈が高い大人をこうも容易く屈服させられたことに少女は非常に気分が良い。

 

 さて、どうしてやろうか──

 

「──ところで…それほど近くに来て宜しいので?」

 

「──は?」

 

 ふと彼が何を口にしたのかシュエンは分からなかった。

 

 その一瞬の思考の空白──両手を肩より僅かに上へ上げて降参を意味する姿勢を取っていたムーアが上体を回転させ、左肘をシュエンが握る拳銃へ衝突させた。

 

 銃口が大きく逸れるのを見逃さず、彼は両手でシュエンの手首、そして拳銃のスライドを抑える。これで引き金を引こうとも銃口から弾頭は飛び出ない。

 

 そのまま手首を捻り、銃口を少女の顔面へ向けた途端、恐怖と痛みで反射的にシュエンは拳銃を握る手から力を抜いてしまった。

 

 拳銃は彼へ奪われ、腰を上げつつスライドを引いて銃弾を排出したかと思えば次弾を薬室へ送り込む。確実に発砲する為の手順であった。

 

 その握った拳銃の銃口を彼が向けると、少女は容赦なく手首を捻られた痛みに顔を歪ませている。

 

「お、お前…!私が誰だと…!」

 

「──ミシリスのCEOでしょう」

 

 それがどうした、と言わんばかりの態度に思わずシュエンは呆気に取られ──やがて怒りが込み上げてくる。

 

 このような侮辱を受けた試しは一度たりとてない。

 

「とはいえ、最初に銃口を向けてきたのは貴女だ。ついつい反射的に動いてしまったのは申し訳ありませんが、悪しからずにお願い致します。引き金へ指を乗せられておりましたので」

 

 つい、で武装解除が出来るのだろうか。鮮やかすぎる挙動でたちまちシュエンの手から拳銃を奪い取った彼の姿にラピ、アニス、そしてネオンも疑問を隠せない。

 

 そのシュエンは彼の手に渡った拳銃を諦めると、今度は傍らで待機していたミハラへ視線を向けた。

 

「ミハラ!あいつと()()して!」

 

「あら…シュエン。相手は人間よ?」

 

「交換して!それと拳銃!」

 

「あらあら…」

 

 艶やかにも程があるレザーのボンテージを纏う彼女から別の拳銃を受け取ったシュエンが命じれば、ミハラから青い波長が放たれる。

 

 何をするつもりなのだろう。彼はひとまず手にした拳銃へ安全装置を掛けた。

 

 それとは逆にシュエンは表情へ歪んだ歓喜を浮かべつつ握った拳銃の銃口を──ミハラの腹部へ向ける。

 

「お前、撃たれたことはある?感じてみなさい!」

 

 おもむろに少女が安全装置を外した途端──腹部を目掛けて立て続けに引き金が引かれる。

 

 庁舎内に銃声が、薬莢が床へ散らばる音が響き渡るのだが──

 

「──…ッ…!」

 

 ──彼が顔を歪ませる。腹部から背中へ掛けて貫かれるような感覚と共に痛みが走るのだ。ただそれだけである。

 

「このまま蜂の巣になる体験を…ッ!ちょっとミハラ!あいつ、なんともないじゃない!交換しなさい!」

 

「ちゃんとしたわ。驚いたわね」

 

 何らかの能力だろうか。どうやらボンテージを纏ったニケが受ける筈の痛みを自分が味わっていると察した彼が歩き出した。

 

 傍目には平然と動いているように見えるだろう。だが彼もしっかり痛みは感じているのだ。ただし動けない程ではない。

 

「…来ないで…下がりなさい!下がれと言ってるでしょ!」

 

 恐慌状態になりつつあるシュエンが立て続けにミハラへ向けた拳銃の引き金を引くのだが、ムーアは動じていないどころかたちまち少女の眼前まで近付いて来る。

 

「ミ、ミハラ!撃ちなさい!撃って!」

 

「ニケは人間を撃てないわ。知ってるでしょう?」

 

 大前提に反するとミハラが返した直後だ。シュエンの手首が捻り上げられ、その手から拳銃が奪い取られる。

 

 彼は弾倉を抜き取り、スライドを引いて薬室へ入っていた銃弾を排出すると拳銃を乱暴にミハラの豊かな胸へ押し付けて返した。

 

「…あら…」

 

 資料で顔写真は見たが、割りと好みの顔立ちだと彼女は感じた。鋭い瞳が一瞬だけ向けられた時、思わず下腹部に疼きを感じる程度には好みと言える。

 

「──CEO。()()()()()()とも言いますが…これは最早、()()()()とは言えませんな?11発は喰らった」

 

 彼はシュエンの眼前へ真顔のまま仁王立ちとなり、小柄な少女を見下ろす。

 

 痛みもあるが、こうも無礼な振る舞いを立て続けに見せられたからだろう。彼の額には青筋が、そして濃い茶色の瞳が細められている。

 

 ──彼はここ最近の多忙さもあって少々気が立っていたのは否めない。いわゆる短気に近い状態となっていたのだ。

 

 故に三大企業のひとつである大企業のCEOの胸倉を掴み、軽々と片腕で持ち上げたかと思えば壁に押し付けるという後先を考えない()()へ及んだのだ。

 

「──グッ…!お、おい!離せ!離しなさい!!気でも狂ったの…!私を誰だと…!」

 

「…御言葉を返すようですがCEO。ここを何処だと思っていますか?私を誰だと?」

 

 小柄な身体ごと持ち上げられたシュエンは胸倉を掴む彼の手を握り拳を作って叩くのだが──ビクともしない。

 

 やがて彼が少女へ顔を近付ける。

 

 額同士が微かに衝突する衝撃が頭蓋の内へ感じ取れた。

 

 それでも尚、気概は捨てないとばかりにシュエンは彼を睨むのだが──それこそ目と鼻の先にある瞳孔が開き切った瞳がガラスのような無機質さすら感じ取れる視線を向けているのに気付いてしまう。

 

「…ここは()()()()。そして私はここの()()()を拝命している。これがどういう意味かお分かりですかな?」

 

 少女は性格に難こそあれ天才である。故に言葉の意味を捉えてしまう。

 

 ──人間ひとりぐらい()()()()にするなど容易い、と少女の耳にはそのような意味に聞こえてしまった。

 

「先程、銃で撃たれたことはあるのか、とお尋ねになられた」

 

 おもむろに彼は右脚へ巻いたホルスターから自身の拳銃を引き抜いた。

 

 拳銃の撃鉄(ハンマー)を起こせば、拳銃のスライド部分で少女の柔らかい頬を何度かペチペチと叩いて金属の冷たい存在感を意識させる。

 

「…古い銃ですが、これは45口径の弾薬を使います。そしてこれは最初の部下だったニケを処分した拳銃。当然だが、人間にも効果はある。これで頭を撃ち抜かれたらどうなると思います?実は私もまだ試した覚えがないのです」

 

「ひっ…!!」

 

 一切の感情が浮かんでいない瞳を間近で見続けたばかりか、拳銃が持つ独特の冷たさと感触を頬を経由して脳へ刻み込まれるシュエンの口から息を飲む音が響く。

 

 恐怖が込み上げ、これから自分はどうなるのか、という不安で眦に涙が溜まり始める中──眼前の彼の口角が緩く吊り上がった。

 

ご…ごめ…」 

 

「何に対する謝罪ですか?」

 

あ、貴方に…!

 

「いいや、違う。──貴女は私の大切な部下を()()と呼んだ。謝罪であれば彼女に」

 

 ネオンへ対しての非礼を謝罪するよう促されたシュエンはそれまでの不遜をかなぐり捨ててでも口を開くしかない。

 

ご…ごめんなさ…

 

「聞こえませんなぁ」

 

ごめんなさい…!

 

聞こえねぇって言ってんだよ!!腹に力入れろ!!もう一度!!

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!

 

 ここは新兵訓練施設(ブートキャンプ)の類か、と思わせる程の大声が庁舎内に響き渡る。

 

 凄まじい迫力に負け、金切り声のようなそれで何度も謝罪を口にする少女はとうとう限界を超えてしまったのだろう。瞳からは涙が、続けて露となっている脚を伝って液体が床へと滴り落ちたのだ。

 

 やがて大声で号泣を始めたシュエンへ彼は溜め息を吐き出し、ゆっくりと床へ下ろした。

 

 そのまま床の上へ腰が抜けたようにへたり込む少女が号泣を続ける中、彼は吸い損ねた煙草を銜えるとオイルライターで火を点ける。

 

「……やっちまった………」

 

 これからどうしよう、と彼は泣き声が響き渡る庁舎内で天井を仰ぎながら紫煙を燻らせた。

 

 

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