勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
そしてイベストが始まりましたね──王よ!我等が王、万歳!!クラウン王国万歳!!!
ところでキロを娘の如く甘やかしたい気分になったのですが…ハッ!まさか、これが…父性…?
あ、そしてこれで通算200話となります。
荒野──ただひたすらの荒野。
草木の何ひとつ見当たらず、見渡す限りの荒野だ。
そこに、彼は一人だけ立っていた。
──いや、もう一人いる。
「──
微かな溜め息が彼の背後で漏れ聞こえた。その吐息の中には嘆きが幾分か混ぜられている。
敵意は感じられない。
彼が振り返って見ると、そこに立っていたのは──果たして
シルエットは間違いなく人間であろう。しかし全体的に青白い光で形作られたそれである。出来の悪いホログラムか何かのようでもあった。
「──誰だ?」
その出来の悪いホログラム──もとい人影へ彼は尋ねる。すると人影は妙に人間臭い仕草で肩を竦め──たのだろう。そのような身振りを見せた。
「…やはり…気付いてはいないか…」
「──答えろ」
鋭く問い掛けつつ、彼は携える突撃銃を構える。安全装置を指先で弾き、引き金へ人差し指を掛ける。
「──遅い」
背中を強かに打ち付ける衝撃──感じた
無様に荒野へ転がった彼を見下ろす人影はスリングベルトごと奪い取った突撃銃を携え、槓桿を引いて薬室の弾薬を一発排出するなり、銃口を顔面へ向ける。
全く接近を感じ取れなかった。反射神経が鈍ったのだろうか。
「──違う。お前が遅いだけだ」
「…考えを読むな。それと念の為に言っておくが、撃てないぞ」
「指紋認証、だったか」
彼の扱う突撃銃はテトラライン製──つまりアークで製造された代物だ。使用者の識別として該当する人物の指紋を登録しておけば他人が扱うことは出来ない。基本的には。
「そうか。──だが、どうかな?」
クッと出来の悪いホログラムの如き人影の指先が動く。引き金が引かれ、銃口から飛び出した弾頭、それにやや遅れて発射炎の閃光が迸った。
「問題なく使えるようだ」
頬を掠めた熱さ──を感じたように思う。僅かに銃口を逸らして発砲された一発だと理解するのに時間は掛からなかった。
「──いつ、解除した」
「解除?なんのことだ?」
人影は首を傾げる──ような身振りを見せた後、突撃銃から弾倉を引き抜いた。槓桿を引き、薬室からも弾薬を蹴り出したかと思えば、宙を舞った太いそれを手の平で掴み取る。
興味を失ったのか突撃銃が仰向けに倒れる彼へ投げ渡された。
「──さっさと立て。腰でも抜けたか?」
嘲笑を感じさせる声音。それを聞き取った彼は突撃銃を握りつつ立ち上がり、銃口を人影へ向けながら纏ったボディアーマーのポーチを漁る。
「…まずは
出来の悪いホログラムの如きシルエットだというのに仕草はいちいち人間臭い。戦闘の意思はない、と言いたげに人影は両手を挙げて見せた。
既に一発を撃ち込まれた後だ。今更、何を言うのか──彼が取り出した弾倉を叩き込んだ瞬間のこと。
世界が、或いは周囲の光景が変わった。
「──ここでドンパチやるつもりなのか?生憎とポップコーンやドリンクがないのは悪いとは思うが…」
数十の座席が整然と並び、眼前には広いスクリーンが聳え立っている。これはまるで──
「…映画館?」
「手狭で済まんがな。劇場ではマナーを守れ」
早く座るよう人影は低く落ち着いた声で──
敵意は感じられない。しかし警戒を緩める訳にはいかない。いつでも引き金を引けるよう人差し指を添えつつも彼は人影から三席は空けて腰を下ろした。
すると人影が指をパチンと鳴らす。途端に映画館の劇場内が暗転する。
スクリーンに映写室──からであろう。光が一直線に注がれた。
10の数字が映り、カウントダウンが始まった。
──5。
──4。
──3。
──2。
──1。
〈──…ッ…!…激し…!…お願い…もっと…んっ…ゆっくり…!!〉
「──済まん。間違えた。これじゃない」
「──ふざけてんのかテメェ」
スクリーン一杯に映り込んだのは汗ばみ、紅潮した白い肌。美しい背筋を背後から睥睨した光景。
何をしているか──など言わなくても分かるだろう。
直ちにパチンと指を鳴らす音が響き、スクリーンから映像が、そしてスピーカーから音声が消え、続けて暗転していた劇場内が明るくなった。
何が悲しくてこんな物を見せられなけらばならないのか。思わず乱暴な口調で彼が抗議するのも無理からぬ話である。酷く頭が痛んだ──ように感じたことも乱暴な言葉遣いとなった原因のひとつであろうが。
「ふざけちゃいない。大真面目だ。──ところで
「……何をだ?」
「……いや、なんでもない。なら改めて──む?」
ふと出来の悪いホログラムの如き人影が怪訝な声を発する。ややあって、足元が、劇場が揺れ動き始めた。
地震か──と彼が腰を上げる傍ら、人影は深々と溜め息を吐き出す。
「──回復が早いな。もう少し寝ていても良かろうに…」
──
「……どうやら今回はここまでのようだ。会えて良かった」
「まるで次があるような言い方だな。それで逃げなくて良いのか?」
「別に逃げずとも──いや、そうもいかんか。俺は兎も角、お前は」
パチンと指が鳴る。上下左右に揺れ動き、轟音と共に崩落を始めた劇場の天井や壁。
ちょうどスクリーンの脇に非常口の誘導灯が灯る。
「──脱出しろ。振り返らずに走れ」
「お前は?」
泰然と劇場の椅子へ腰掛けたまま身動きの気配も見せない人影へ彼は問い掛ける。
しかし人影はそれに答えず、ただ一言だけを述べた。
「──
それは餞別の言葉であろうか。
いずれにせよ脱出の意思はないと見做した彼は人影へ背を向け、緩やかな傾斜の階段となった通路を駆け下り、誘導灯の下に設けられた扉を押し開く。
扉の奥へ消えた後ろ姿を見送った人影は──腰掛けた席へ上体を預けたのだろう。背凭れが軋む音を奏でた。
「──早く思い出してくれ。でないと、アイツらや彼女達が報われんからな」
出来の悪いホログラム──青白い光で形作られたそれの脚が徐々にタンカラーのブーツを履き、
「──俺としても殴ってやりたい奴がいるんだ」
誰に向けられた言葉なのか──厚い筋肉で覆われているだろうことを察せられる胸元までが顕現した時、大きな右手が胸ポケットを漁る。
取り出したソフトパックを軽く振り、形作られた乾燥気味の唇へ煙草の吸い口が銜えられる。
オイルライターが煙草の先端を炙り、吸い込んだ紫煙を堪能したのか満足気な様子を感じさせる息が吐き出された瞬間──劇場の天井が抜け落ち、人影を押し潰した。
「──ッ!!」
「お目覚め?」
濃い茶色の双眸がカッと見開かれ、上体が起こされる。周囲を索敵しているのか左右へ頭を振る姿へ掛けられた高い声──
「…ハラン、か?」
「えぇ、私よ。他に誰がいると思っているの?」
「…良くも一服盛ってくれたな」
「人聞きの悪い」
随分の悪意のある表現だ。むしろ
「お前が目覚めるまで守っていたというのに…何か言うことは?」
「…それについては感謝する」
「ふふっ、当然ね。──それで具合は?」
「…悪くはない」
絶好調とまでは行かないのだろうが、コンディションとしては良好のようだ。
腰を上げる彼に続き、ハランも立ち上がる。
「…久しぶりに深く眠ったのかもしれん。夢を、見ていた気がする」
「どんな夢かしら?」
握った突撃銃を見下ろし──ふと彼の眉間に縦皺が刻まれる。何か不可解なことがあった
「…覚えていない」
見た夢を思い出せないのは往々にしてあることだろう。おそらくは。
深く考えはせず、彼は突撃銃から弾倉を抜き、残弾を確かめると挿入口へ叩き込んだ。