勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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 白い砂浜が輝いて見える。

 寄せては返す白波の潮騒。

 鼻を擽る潮の香り。

 燦々と降り注ぐ日光を遮り、木陰を作り出す椰子の木。

 そのいずれもが作り物ではない。全てが本物である。

「──サイッコーの調査任務じゃない?」

「──ですね!」

「…あまり気を緩めないで」

 今回の調査任務の目的を忘れるな──それを暗に告げ、釘を刺すのも分隊のリーダーの役割である。

 しかし──

「…気を緩めるな、って言ってる本人が()()()()()じゃ…ねぇ?」

 亜麻色の瞳が細められ、からかいを多分に混ぜた声音がリーダーの格好を指摘する。

 黒地の水着──肌へピッチリと密着したワンピースの競泳水着じみたそれを纏い、ゴーグルをベレー帽の代わりに付けているのに何を言うのか。

「まぁ似合ってるけどね。──で、指揮官様は?」

「師匠ならリターと打ち合わせがあるとかなんとか」

 今回の任務で彼女達の指揮官は複数の分隊の指揮権を一時的に預かった身だ。一度に指揮するのは骨が折れる──のは当然だが、彼は地上へ向かうエレベーターの中でふと呟いていた。

 ──引率の教師ってこんな気分なのかもしれん。

 流石に遠足等の学校行事で学生の引率を任せられる教師は突撃銃を握って戦うなどはしないだろうが、()()で言えば彼の感覚はそこまで誤ってはいない筈だ。

「──ところで青二才」

「──ん?」

 サクサクと砂浜を踏む足音が近付く。同時に聞き慣れた低い声音が耳朶に触れるや否やアニスの亜麻色の瞳が条件反射めいた速度で動いた。

「──その格好じゃが…」

「──何かおかしいか?」

 ──おかしい?何を血迷ったことを。彼の()()()()()の全てを見たアニスだ。そして彼女の興味を掻き立てるのは──自身の指揮官たる青年がどんな水着を纏っているか、である。

 周知の如く彼は着飾るというそれをしない。興味がないのだろう。

 あの筋肉──俗な言い方をすれば、バッキバキな腹筋や胸筋を露わにする水着姿。

 熱さすら感じる日差しの下、汗ばむ肌など知らぬ様子で良く冷えた缶ビールを呷る姿は──きっと眼福の一言に尽きる筈だ。

 さながら獲物を狩る猛獣の如し。

 亜麻色の瞳から放たれる眼光が残像を残す勢いで彼女が向けた視線の先──

「──皆は水着を着ているが…良いのか?」

「──蚊に刺されてマラリアに罹るのはごめんだからな」

 ──戦闘服(普段着)の彼が小柄なリターと歩いていた。それも長袖の。足元もビーチサンダルではなく、タンカラーのブーツではないか。



「──なんでよぉぉぉぉ!!!」



 忘れられない一夏の思い出──それを作る機会に恵まれ、ドキドキしていたトキメキを返せ。

 彼女の魂からの叫びは島中に響いたという。





第8話

 

 

 

 ヨハンに指定された座標へ一台の武装車輌が土埃を巻き上げながら停車する。エンジンのアイドリングが暫く響き渡るも、それが止むや否や前後左右の扉が開いた。

 

 四名分の人影が武装車輌から降り立つ中、その内でも一際長身の青年がルーフへ向かって片手を差し伸べる。

 

 その腕が向かった先にはルーフの端へ我が物顔で腰掛けた魔女の姿がある。

 

 降車する補助なのだろうその手を認めた彼女は肩を軽く竦めたかと思えば、整った細い指先を揃えてハードナックルグローブに覆われた手へ添えた。

 

 重力を感じさせることもなく地面へ降り立った魔女が先頭に立って歩き出す。その先には──

 

「──早かったな」

 

 相変わらず情緒の欠片も持ち合わせていなさそうな──とは言い過ぎであろうが、冷ややかなアイスブルーの瞳の持ち主が岩へ腰掛けている。

 

 その背後に率いる部隊の面々を従えつつ、到着した彼等へ少々ぶっきらぼうな出迎えの言葉を放ちながら立ち上がる。

 

「早速だが移動しよう」

 

「──行き先は?どちらまで参れば宜しいですか?」

 

「────」

 

「──()()、どうかなさいましたか?」

 

 何故、急にそのような物言いとなるのか。突然、ムーアが畏まった物言いを始めた途端、冷ややかなアイスブルーの瞳が困惑の色を浮かべる。

 

「…その呼び方はやめてくれ。敬語も使うな」

 

「…何故でしょうか?」

 

「…恥ずかしくて聞いてられん」

 

「恥ずかしい?()()()()()()にして()()を敬うのは後輩として当然のことでは?」

 

「…やめてくれ。頼むから」

 

 傲岸不遜がモットーと感じてしまう者がいきなり畏まっては気味が悪い。義体となった全身に鳥肌が立つ思いだ。

 

 やはり先日に提出期限を設けて出題した課題内容が難解だったのだろうか。その鬱憤を嫌がらせとして発揮している可能性すら彼──ヨハンは考えてしまう。

 

 一方でムーアとヨハンの遣り取りを目撃していたアニスやネオンは互いに顔を見合わせながら首を傾げていた。

 

「…先輩?」

 

「師匠。この方とお知り合いだったんですか?」

 

「……知り合いだったなら、あそこで()()()()を始めると思うか?」

 

「あ、それもそうですよね」

 

 今更だが、やはり殺し合いを始めようとしていたらしい。初対面で、こんにちは、はじめまして、の挨拶代わりに命の遣り取りを始めようとするのは──彼らしいと言えば、らしいとも言える。

 

 異なる虹彩の瞳を向けられ、無言のまま説明を求められた彼はボディアーマーへ差していたサングラスを摘み、それのテンプルをヘッドセットのハウジングに押し込んでから口を開く。

 

「生憎と知り合いではなかったがな。まぁ指揮官としては先輩と言えるのは確かだ。ゴッデス部隊を率いた指揮官と肩を並べるぐらい優秀な指揮官がいた、という話を聞いたことは?現在の少数精鋭によるゲリラ戦中心の戦術を提示した指揮官で、他にも色々と功績が──」

 

「──ゲリラ戦中心の戦術を提示…?」

 

 ムーアの右隣へ立ったラピの柳眉がピクリと跳ねる。記憶を遡り──やがて該当する人物の異名が思い出されると、彼女の紅い瞳が驚愕で見開かれつつ眼前の指揮官へ向けられる。

 

「──新星…!」

 

 視線を向けられた本人──ヨハンが頭上を僅かに仰ぎつつ細く息を吐き出した。その異名を高らかに誇示する性格ではないが、この後の展開を想像すると溜め息が漏れ出るのも道理であろう。

 

「新星って…()()新星!?本当に!?」

 

「新星…ですって?」

 

「そ、そうよ!あの新星!」

 

「なんと…!!」

 

 同時にアニスとネオンも聞き覚えがある異名であるらしく、姦しくもざわめき始めた。

 

 やはり有名人なのだろう。それを改めて察しながらムーアは愛煙のソフトパックを取り出し、銜えた一本の煙草へオイルライターの火を点ける。

 

「──私にはなんのことだかさっぱり分かりません…!」

 

 訂正。どうやらネオンは知らないようだ。

 

 では何故、そうも驚いていたのか──疑問が湧いたムーアだが、おそらくアニスに釣られたのだろう。

 

 普段であればその点に突っ込むだろうアニスも現在の状況──彼女が言う所の「()()新星」が眼前にいるという事実に驚愕の比重が掛かっているからかネオンの反応を咎める様子は見せない。

 

 むしろ、どう説明すれば良いのか分からず、新星という人物を現すべき表現を探しあぐねている。

 

「…その…兎に角、()()()なのよ!」

 

 あまり美辞麗句の類へ豊富な知識がある筈もない。アニスは陳腐な語句で新星と呼ばれた人物の功績を表現するしかなかった。

 

 とはいえネオンもその表現──彼女曰く「凄い人」だという点は理解できたのか小さな頷きを見せる。

 

 歴史的な偉人や英雄の軌跡を辿り、その偉業を学ぶ殊勝な性格をアニスは生憎と持ち合わせていない。しかし彼女でも名を聞いた覚えのある有名人──それも超が付く人物が眼前に立っているのだ。

 

 彼女自身、俗っぽいとは感じるものの興奮は隠し切れない。

 

「──キャー!!新星様ー!伝説の指揮官様ー!サインしてくださぁーい!──なにしてるの指揮官様!早く!早く色紙出して!

 

「……持ってると思うか?」

 

なんで持ってないの!?

 

 生憎とそんな物(色紙)を背嚢へ入り組んでいるような性分ではない。紫煙混じりの溜め息を漏らしつつ手を差し出したアニスへ要望には応えられない旨を伝えるや否や不手際を糾弾されてしまう。解せない。

 

 とはいえだ。律儀な性格なのだろう。降りて来たばかりの武装車輌へ戻った彼は車内に鎮座している自身の背嚢を漁る。所定の位置へ仕舞っていた一冊の本──指揮官教範と表紙に印字されたそれを取り出す。

 

 戦闘服の袖に設けられたペン差しから細い油性ペンを抜き取り、彼女達の元へ戻るや否や長身の()()に揃えて差し出した。

 

「……なんだ?」

 

「──サイン」

 

 明らかに物を頼む態度ではない。敬語はなし、呼び捨てにするよう申し付けたのはヨハンだが、一応は目上なのだ。つくづく傲岸不遜かつ無礼な若造(後輩)である。

 

 ふん、と鼻を軽く鳴らし、機械仕掛けの片腕が動く。

 

「…何処に書けば良い?」

 

「…表紙にでも」

 

 差し出された指揮官教範と油性ペン。それらを掴んだヨハンはアイスブルーの瞳から注がれる視線を表紙へ落とし、油性ペンの筆先を走らせた。

 

Johann

 

 筆記体で綴られたそれとマジックペンが手元へ戻って来るなり生意気な後輩は一言返す。

 

「…やはり歳を取った奴は字が上手いのかもしれんな」

 

 余計な一言である。いや、歳を取った云々は間違いないのだろう。実年齢で言えばその通りなのだが──眼前のクソ生意気な若造に指摘されると流石のヨハンも無性にムカッ腹が立つ。本人は無自覚なのだろうが、これを煽っていると言わずしてなんと表現すれば適切なのだろうか。

 

 ヨハンの内心など知らぬ様子のままムーアは油性ペンを袖のペン差しへ戻し、ぞんざいな手付きのままアニスに所望のサインが綴られた色紙代わりの教範を手渡す。丸っこい亜麻色の瞳を見開く姿は非常に可愛らしい。

 

 感極まったのだろう。思わず小躍りしつつ喜びを表現するアニスを眺めるインヘルトの彼女達──ハランは薄く微笑を浮かべ、イサベルは気持ちは分からないでもないが、と溜め息を吐き出し、そして一際小柄なノアは呆れた様子である。

 

「──新星!新星!キ!ラ!キ!ラ!新星!

 

「──師匠の先輩ですから()()()って呼んでも良いですか!?──大師匠!大師匠!大師匠!

 

 分隊員を諌めるのはリーダーの役割だ。そのリーダーであるラピとしても新星と呼ばれた指揮官の存在は衝撃的過ぎる。諌めるタイミングを見失ってしまったからか、それとも()()()()()()()()()()()と判断したからなのかもしれない。彼女の紅い瞳はヨハンへ向けられた。

 

 それと同時に当の新星──ヨハンのアイスブルーの視線が彼へ向けられる。なんとかしろ、とその視線は物語っている。

 

 その視線が物語る意味はムーアも理解したが、彼は知らん顔のまま悠然と銜えた煙草を燻らせ、紫煙を堪能する方が忙しいようだ。

 

「──静かにしろ

 

 こうも姦しいと収拾がつかない。本来、彼女達へ対しての指揮権や命令権はムーアが有している。それを代行する形で──などと並べ立てた所で、とどのつまりは煩かったから。それ以外にヨハンが冷徹な声音と共に命令を吐き出した理由は存在しないだろう。

 

 しかし冷徹、冷ややかな低い声音で命じた甲斐はあったらしい。彼の眼前で小躍りしていたニケ達が押し黙った。とはいえ、何故怒られたのか分からない、という表情をしていたが。

 

「──今から()()()()という呼び方は禁止だ」

 

 続けて明言される禁止事項。これは彼女達だけではない。ムーアにも向けられて放たれた。

 

 一瞬だがアイスブルーの瞳が向けられ、サングラスの奥へ隠れた濃い茶色の瞳を視線で射抜きつつの発言である。

 

 ──何故、俺まで。

 

 自身は無関係である。それを意味しているのかムーアの眉間に深い縦皺が刻まれた。

 

「──分かりました!大師匠!」

 

 禁止のそれに含まれていなかった。であればこの呼称は許可されたのだろう。そう判断したネオンが高らかに応じるも、その()()()は彼女を見下ろしながら小さな溜め息を漏らす。

 

「…大師匠も禁止だ」

 

「では、()()()()、とお呼びします!」

 

 全身が義肢となった身体だが、唯一の生体となる頭部、その内側の脳が強く締め付けられたかの如く痛みが走った。

 

「…お前はもう喋るな」

 

「──そんな!酷い…っ!」

 

「…俺の大切な部下を虐めるな。殺すぞ」

 

「…その発言は冗談に聞こえないからやめてくれ」

 

 怒りの沸点があまりにも低すぎやしないだろうか。勿論、ムーアの発言は冗談なのだろう──おそらくは。

 

 わざわざ前もって警告するのがその証拠である。彼なら警告無しで射殺しようとする筈だ──とヨハンは考えているらしい。

 

「──ふふっ。ヨハン、照れないで。皆、お前を心から尊敬しているのよ」

 

 どうだか──ハランの物言いに当の本人は小さく鼻を鳴らす。そして照れてなどいない。()()()()()はあるのだが。

 

「そうそう。もうちょっと得意げになってもいいんじゃない?」

 

「私も同感です。指揮官は充分、尊敬に値する御方ですから」

 

 今日という日は何か特別な何かがあっただろうか。指揮を執る部隊の彼女達にまで持ち上げられては少しばかり居心地が悪い。無論、悪い気分ではないのだが。

 

 しかし──

 

「──()()か」

 

 ──()()()()()はやはり尽きない。

 

「私が残して来たものは既に色褪せ、崩れ去っている。今まで何も受け継がれていないということは尊敬される資格もないということだ」

 

 ただし──幸か不幸か判断は別れる所だが、なんとも形容し難い感情を抱きつつ、ヨハンは一瞬だけ長身の()()()()()()()()を見遣った。

 

「──貴方が本当にあの新星なら、今のその姿はおかしいわ」

 

 ()()の呼称は禁止にした筈だが──玲瓏な声に少しばかり含まれた怪訝と困惑を感じ取ったヨハンは彼へ向けていた瞳を閉じ、次いでその隣に立つ黒衣のニケをアイスブルーの双眸へ映した。

 

「新星が第二次地上奪還戦に参加したのは60年近くも前のことよ」

 

「──良く知ってるな」

 

「それに新星は…反逆容疑で更生館に収監され、脱走を試み、銃撃により死亡したというのが公的な記録よ」

 

()()()()()か。──()()()()()()()のことだな?」

 

 低く落ち着いた声で問い掛ければラピは小さく頷く。

 

 再び瞑目したヨハンは暫し無言を貫いた。やがて細く息を吐き出し、彼女の姿を双眸で捉える。

 

「お前の疑問に答える気はない。しかしこれだけは言える。私が“新星”であることは確かだ。──この称号は誰がなんと言おうと私のものだ」

 

 纏った外套の裾を翻し、長身の背中を見せたヨハンは一人歩き出した。それを見送るアニスは肩を竦める。

 

「新星って呼ぶの禁止──とか言って、自分で言ってるじゃない」

 

「そうですねぇ」

 

「自分で言うのは問題ないんだろう。おそらくはな。──それで、何処に向かうんだ?」

 

 携帯灰皿を取り出したムーアは吸い口に達する寸前まで燃え尽きた煙草を投げ込み、蓋を閉じてボディアーマーのポーチへ仕舞う。次いで残されたインヘルトの面々へ視線を向けて尋ねた。

 

「ついてくれば分かるわ」

 

「あまり焦らさんでくれ。苦手なんだ」

 

 ハランが短く答える。マザーホエールを引き摺り下ろす妙案があるのは間違いないだろうが、その全貌を明かす気はまだないらしい。肩を竦め、溜め息を吐き出す彼をハランは面白そうに見詰めるのみだ。

 

「またあのおかしな試練とか何とかする訳じゃないわよね?」

 

 流石に()()あの試練を受けさせられるのは御免被る。確認を込めてアニスが尋ねると、ハランは口角を緩めながら目線を遣った。

 

「お前達は、もう楽園のお客様なのよ。同じ敵を巡って一緒に戦った戦友でもあるわ」

 

 今更、試練を再び受けさせるつもりはない──それを遠回しに告げたのだろう。楽園の番人たるハランの言葉に偽りはない筈だが──それを良しとしない者もこの場には存在する。

 

「──ケッ。こいつらが戦友?ただのサポート役じゃなかったっけ?」

 

 桜色の髪、小柄な背丈と体躯。浮遊する盾を展開するノアが憎まれ口を放つや否や、応じるのはカウンターズが誇る舌戦の斬り込み隊長たる口喧嘩番長(アニス)だ。勿論、非公式だが。

 

()()()がなってないわね〜おチビちゃん?」

 

「あなた達より強いから()()()なんて要らないもーん。悔しかったら、もっと強くなれば?」

 

 まぁ道理と言えば道理。しかし()には人間関係の潤滑油とも言える礼儀作法も含まれる。それだけでも体得すれば──などとムーアが内心で考えつつ二本目の煙草を銜えようとソフトパックをポーチから取り出した。

 

 舌戦の反撃を受けたアニスは押し黙り、ジッと亜麻色の瞳でノアを見詰める。小柄な体躯の少女にとっては勝利宣言するに相応しい姿なのかもしれない。

 

 意気揚々と反論できるならしてみろ、と煽ってみた矢先──アニスの唇が動いた。

 

「──そんなに言うんだったら装備なしで私と勝負してみる?」

 

「…えっ?」

 

「──公平に素手で。どう?なんなら、まずは指揮官様が相手になってくれるかもよ?」

 

「…あれ?アニスって殴り合いになったら師匠より強いんでしたっけ?白兵戦での撃破数は…」

 

 間違いなくムーアの方が上である。それを仄めかしたネオンへ髪と同じ色の虹彩が向けられ、続けてオイルライターの火で煙草の先端を炙る指揮官にノアの視線が移る。

 

「…俺を巻き込まないでくれ」

 

「でも相手してくれるって言われたら?」

 

「…そうさな。俺自身の技量がどの程度なのか確かめられる。胸を借りて一戦──」

 

「な、なに言ってんのよ。なんで私が()()()()と戦わなきゃなんないワケ?」

 

 最後まで言わせて欲しいものだ。一戦交えられるなら本望──それを敬意を払いつつ口にしたかったのだが、彼の思いなど露知らず、ノアは彼女自身の指揮官に倣ってか背中を向けると早足で歩き出した。向かう先は間違いなくヨハンの下へだろう。

 

「──可愛いですね」

 

「──まだまだガキね」

 

 勝ち誇るアニスは満足気だ。流石は口喧嘩に定評があると言える。

 

「…そろそろ移動するぞ。乗車」

 

「はい。指揮官の命令が聞こえたでしょ。全員乗車」

 

 気が抜ける声で了解を返す分隊員達をラピが急かす。その様子を見届けながらムーアは横目を残されたハランやイサベルに向ける。

 

「──キミ達も道案内がてら乗って行くと良い。まぁ生憎とルーフの上になってしまうが」

 

「…宜しいのですか?」

 

「構わんよ」

 

 火を点けたばかりの煙草から紫煙を燻らせつつムーアが武装車輌へ歩き出す。イサベルはハランへ顔を向け──魔女が細い肩を竦めてみせれば、二人も彼の後へ続いた。

 

 

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