勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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皆様、お久しぶりでございます。先月(6月)の更新がまさかの1話分だけとなってしまい申し訳ありませんでした。……クソのように忙しくて…執筆しようにも思うように書けずに1ヶ月ぶりの更新となりました。

…そういえば…夏イベの情報が出ましたね。

バイパーもえってぃな──もとい、とても魅力的な水着ですが、ロザンナも負けず劣らずで……いやいや、勿論サクラも──あれ?そういえばモランは……?


第10話

 

 

 大きな欠伸──それを漏らしたのは亜麻色の髪を持つアニスだ。

 

 ムーアが対空砲の修理を、そしてヨハンが監督役として動く最中の周辺警戒は二人が指揮を執るニケ達が担当する運びとなった。

 

 しかし──

 

「──見張りで立ってるだけって退屈ね」

 

 ──何故、こういう時に限ってラプチャーが接近して来ないのだろうか。お陰で暇潰しに困っている程である。

 

 また欠伸が漏れそうになるのを彼女は噛み潰しながら横目で隣に立つネオンへ視線を向けた。

 

 彼女も少し前まで、暇であるという旨を口にしていたのだ。雑談の切っ掛けに水を向けたのだが、ネオンは両目を瞑ったまま反応を見せない。

 

「なによ?なんで何も言わないの?」

 

 無視されたのだろうか。アニス自身、気を抜いている自覚こそあるが暇である点に間違いはない。

 

 同意してくれると思っていただけに無反応なのは少しばかり癪に障る。その影響かアニスが放った言葉は若干の鋭さを感じさせた。

 

 だというのに──ネオンはまだ何かも反応を示さない。無言を貫き、身動ぎのひとつもしないまま黙りこくっている。

 

 その姿は彼女が不安を覚えるのに充分だったらしく、僅かに慌ててネオンの容態を確かめようと近付いた。

 

「ちょっとネオン!大丈──」

 

「──……ぐぅ……」

 

 大丈夫か、と問い掛けようとした瞬間、ネオンから寝息(イビキ)が聞こえた。

 

 どうやらあまりにも暇すぎて立ったまま眠りに落ちてしまったらしい。

 

「…良くやるわ、ホント…」

 

 これにはアニスも呆れ顔を禁じ得ない。いくら暇とはいえ、ここは地上である。次の瞬間にはラプチャーの群れが襲い掛かって来ても不思議では──ないのだが、ここに集っている面子を考えると接近を許すとは考え難い。

 

 起こすべきかどうか。それこそ肩を掴み、耳元で大きな声を上げてやろうか。アニスが思案していた時、彼女の亜麻色の瞳が周辺の巡回から戻ってきた分隊のリーダーの姿を捉えた。

 

「おかえり。──()()、いつ終わりそう?」

 

「…さぁね」

 

 安全装置を掛けた突撃銃(ミリタリア)をスリングベルトへ繋げて華奢な肩に吊るし、それをラピが竦めてみせる。

 

 リーダーである彼女も修理がいつ終わるのかは分からないらしい。ひとまずは修理が完了するまで周辺への警戒を続けなければならない──それを雰囲気で感じ取ったアニスが溜め息を吐き出しつつ空を仰ぐ。

 

「も〜!暇すぎ!」

 

「──忍耐力のない子ね」

 

 機械仕掛けのカラスを従え、彼女が仰ぎ見た空から緩やかに降下してきた人影が艶のある高い声でアニスを窘める。

 

 フワリと地面へ降り立った魔女──豊かに波打つ長髪を掻き上げるハランへアニスは唇を尖らせた。

 

「暇なんだからしょうがないでしょ」

 

 率直な感想──それをぶちまけるアニスに魔女は剥き出しの肩を竦める。暇、である点には彼女も同意するのかもしれない。

 

 だが、しかし──魔女はそこまで暇を持て余している訳ではない。むしろ随分と久しぶりに()()()()()が眼前に広がっているのだ。

 

 その暇潰しになるであろう光景──ハランは肩越しに対空砲へ視線を向ける。

 

「──あの二人を見て何か思わない?」

 

「さぁ?気難しい姑といびられる嫁…とか?」

 

 これまた随分な例えだ。思わずハランは苦笑を漏らす。それもあながち間違いではないのだろうが──

 

「ふふっ。そう見える?私の目には──」

 

 外した蓋の中から引き摺り出した配線。それを掻き分け、目的の絶縁体で被覆されたコードを摘み取った軽装の青年の手元を覗き込んだ黒衣の外套を纏う青年が頷く姿がある。

 

 外套を纏う青年──見掛けの姿だが、自身の指揮官であるヨハンの口元が僅かに緩む様子を盗み見たハランは言葉を続けた。

 

「──ようやく仲間に出会えて、楽しくて仕方ない二人に見えるわ」

 

 それから約1時間後。対空砲の基本的な修理は完了した。

 

 しかしこれで終わりではない。同様の砲台は2基2門──少し休憩を挟んだら直ぐに出発し、再び修理へ取り掛からなければならない。

 

 慣れない作業もあり、僅かな疲労を覚えたムーアは戦闘服の上着やボディアーマーを着込むとスリングベルトに繋げた突撃銃を肩へ吊るしながら銜えた煙草へ火を点けた。

 

 ヘッドセットを取り付け、ヘルメットを被りながら紫煙を燻らせる彼は武装車輌の車体へ背中を預けた。手探りで水筒を取り出すと無造作にそれを掴んだ片手を突き出した。

 

「……ありがたく頂こう」

 

 ムーアとはベクトルの異なる低い声を響かせ、水筒を受け取ったヨハンは蓋を開ける。そのまま一口、二口と水を嚥下し、蓋をしっかり閉じてから水筒をムーアに返した。

 

 手元へ戻って来た水筒の蓋が再び開けられる。銜えた煙草を指の間へ挟んで口元から取り除き、喉を鳴らして二口ほどをムーアが嚥下する。

 

「…ヨハン」

 

「なんだ?」

 

 蓋を閉じた水筒を後ろ腰のポーチへ戻し、乾燥気味の唇に煙草を銜え直したムーアがおもむろに隣で自身と同様の姿勢のまま休憩を取るヨハンへ声を掛けた。

 

「ニヒリスターの追跡はしなくて良いのか?それこそ以前のように」

 

「…アンチェインドを使ったのに殺せなかった。ダメージを与えたに過ぎない。だが、そのお陰で暫くは回復に専念して動けない筈だ」

 

 与えられた損害を回復することに専念するだろうが、ニヒリスターは音速の速度で飛行が可能だ。現在のコンディションでエデンの勢力と交戦に及んでも分が悪い──それは彼女も理解しているだろう。

 

「逃げ回ると決めた奴を追うなんて出来やしないからな」

 

「…なるほど。…しかし解せんな」

 

「…何がだ?」

 

「暇がなさそうなお前が何故、俺の荒唐無稽な提案に乗り、あまつさえ協力をするのか──それが解せん」

 

 濃い茶色の瞳が横目に向けられる。その視線の先には黒衣の外套を纏った長身の指揮官の姿があった。

 

 向けられた視線を冷ややかな印象が拭えないアイスブルーの瞳で受け止めたヨハンは溜め息混じりに肩を竦める。

 

「…お前の言う通り、私に暇な時間などない。基本的にはだ。私がお前に協力するのはマザーホエールを捕獲すれば役に立つからだ」

 

「…役に立つ?」

 

 眉間に深い縦皺を刻んだ()()()()()()──長くはないが短くもない付き合いで、この仕草は理解が及ばず訝しんでいる、とヨハンも気付けるまでになった。

 

「…マザーホエールは探索機能を持たない。あるのは簡単な内蔵武装と輸送機能だけだ。実際の所、そこまで大きな危険要素とは言えない」

 

 地面に引き摺り下ろしさえすれば撃破ないし撃墜はそう難しいことではない、とヨハンは続ける。

 

「それにマザーホエールは良い資源になるからな」

 

「……資源?……エデン、か?」

 

 荒野に建つ地上基地(エデン)。あの施設を建築する為に何処から資材やらを調達したのか──勿論、旧時代の廃墟となった建築物から建材等を引っ剥がして流用もしただろう。しかしそれだけであの基地を造り上げるには事足りない。

 

 であれば──考えられる可能性のいくつかに浮上したのはラプチャーの残骸、或いは死体を使った、というそれだ。

 

 彼の呟きを拾ったヨハンは小さく首肯する。

 

「──半永久的に使用可能、かつ使える部品も多い」

 

「…しかも…そこらにいくらでも転がっている訳だ。なんなら()()の方から足を運んでくれる。…便利なデリバリーかもしれん」

 

 ヨハンの脳裏に過ったのは──かなり俗人的かつ彼らしからぬ想像だが、宅配ピザの平べったい箱に四脚のそれが生えてちょこちょこと自宅の玄関先までやってくる光景だ。それも()()()()()などと表現したムーアが悪いのだ。

 

 我ながらなんとも阿呆な想像をしたと考えたのだろう。ヨハンが微かな溜め息を吐き出す横では、その想像を掻き立てる要因を作った張本人が指先で摘んだ煙草を軽く叩き、溜まった灰を落としてから乾燥気味の唇に銜え直している。

 

「そもそもだが…一体、誰がエデンを作ったんだ?まさかお前か?」

 

「いや、セシルだ。セシル(彼女)が設計し、作った」

 

「…それは凄いな」

 

「あぁ、そこは認めざるを得ないな」

 

 思わずムーアから率直かつ素直な感心の言葉が漏れ出る。ヨハンも同意するかの如く頷きを見せた──その時だ。

 

 二人の指揮官が両耳を覆う、或いは片耳へ嵌めたハウジングやイヤフォンからザッと短い雑音が響いた。

 

〈──ありがとうございます、ヨハン。認めて下さって〉

 

「………」

 

 あの口煩く、小言が多い先輩が眉間に縦皺を刻み付け、押し黙った瞬間を目撃した後輩は口笛を軽薄にも吹いてみたい衝動へ駆られる。尤もそんな真似をすれば面倒臭い宿題の量が倍となるのでしないのだが。

 

〈──少し遅くなりましたね。これから合流します。──それで、私が()()()()()()()()()()説明できますか?〉

 

「…是非とも俺もお聞かせ願いたいな。認めざるを得ない、と評価を下すのは相当だろう」

 

〈──ですよね?さぁ、ヨハン。貴方の後輩に私がどう凄いのかを説明して頂けますか?〉

 

 唐突に回線を繋げてきた才媛、そしてクソ生意気な若造だが見所があると認めざるを得ない青年──この二人にタッグを組ませてはならない気がしてならない。両者共に頭の回転は鈍くない。むしろ自身をからかう時に限ってシナプスが活性化しているような気さえするのだ。

 

 ヨハンがやや仰角に顔を上げ、溜め息を吐き出す。それを優秀な性能を発揮したインカムが拾ったらしい。

 

〈──言葉に詰まるほど凄い…そう解釈しました〉

 

 事実、()()のはその通りなので否定はせず、ヨハンは話題を変えるべく口を開いた。

 

「──()()()()は全て用意できたか?」

 

〈──もう少し掛かります。砲台の修理が終わるまでには完成させておきますね〉

 

「そうか。待つとしよう」

 

 何を用意するよう依頼していたのかと思えば、マザーホエールを撃墜──もとい引き摺り下ろす為の砲弾であるという。

 

 暇な時間などない、と曰っていた割には事前の用意や準備が徹底している。或いは捻出した貴重な時間が無駄とならぬように、なのかもしれないが。

 

 しかし──ムーアとしては疑問が残る。

 

「──俺が何故、マザーホエールを捕獲したいのか聞かんのか?」

 

「分かり切っているからな。──アンチェインド関連だろう。詳しいことは分からないが」

 

「…ふむ…なるほど…」

 

 少しぐらいは動揺を顔に出せば可愛げがあるものを──クソ生意気な若造である後輩は平素の表情を浮かべたまま銜えた煙草の紫煙を燻らせ続けている。

 

 しかし反応としては悪くはない。これからもこの後輩がアークで生きていくなら尚更だ。

 

「それで?」

 

 ムーアが横目を向ける。紫外線対策も兼ねたサングラスを掛け、レンズ越しに濃い茶色の瞳が向けられた──気がした。

 

「──マザーホエールを無事に捕獲した後、俺がアンチェインドを入手したらどうする?」

 

「…お前は発言に気を付けた方が良いな」

 

「気になったら尋ねるのが性分でな。それで?」

 

 思わずヨハンが溜め息を漏らす。正直なのか、それともこれも彼なりの交渉術の一種なのだろうか。

 

「…アンチェインド1発ではヘレティックを無力化できない、ということを確認した」

 

 だが役には立つ。事実、ヘレティック(ニヒリスター)に無視できない一撃を与えられたのだ。

 

 しかし勝負の決定打にはならなかった──これも事実である。

 

 今少しの研究と調査が必要だろう。

 

 その為に必要なのは──ヘレティックと交戦し、勝利をもぎ取った人物からの証言だ。

 

 アイスブルーの冷ややかな印象が拭えない瞳がそれとなく横へ向けられた。

 

「…そうだな。話のついでに聞こう。お前が撃ったアンチェインドでヘレティックが元に戻ったと聞いた。その時の状況はどうだった?」

 

「…誰に聞いたんだ?それとも偵察でもしてたのか?…まぁそれはそうと…状況?」

 

「…酷く苦しんでいた、もしくは突然沈黙した、などは?」

 

 物の例えとしてヨハンは口にしたが、当のムーアは眉間に深い縦皺を刻み付けながら短くなった煙草を指先へ摘む。ソフトパックを軽く振り、飛び出た新しい煙草を銜えつつ、まだ残っている先端の火種で煙草を炙って紫煙を燻らせた。

 

「…あの時、アンチェインドは外れた。間違いなく命中したと思ったんだがな…」

 

 とはいえまさか弾頭を銜えて受け止めるなど誰が想像できようか。今後はそれも想定して至近距離から発砲せねばならないのかもしれない。

 

 溜め息を緩く吐き出し、吸い込んだ紫煙も燻らせる彼に対し、ヨハンは愕然──その一歩手前まで瞳を見開く。

 

「…外れた?」

 

〈──なんですって?〉

 

 アンチェインドが搭載された弾頭が外れた──にも関わらずヘレティックが元へ戻った。

 

 これが意味することは。そもそもが無駄だったということだろうか。

 

 だが、アンチェインドを使ってヘレティックを討伐・打倒したという過去の報告はなんだ。

 

 ヨハンが沈思黙考する最中、両指揮官のハウジングやイヤフォンを震わせる女性の高い声が響いた。

 

〈──…まだ推測の域を出ませんが…アンチェインドも物によって種類や性能が異なるのかもしれません〉

 

「…過去のヘレティックと現在のヘレティックのスペック差は?」

 

〈──構成物質は当時と現在も同じです〉

 

「……ナノマシン」

 

〈──はい。アンチェインドがナノマシンを消滅させる性能を持つ限り、ヘレティックにとって致命的であることは変わりません〉

 

「…そうか…なるほどな。じゃあ、研究所で手に入れた弾薬は…」

 

〈──性能が劣っていた、ということですね〉

 

「…弾薬(タマ)もあったのか」

 

 それは知らなかった、とムーアは肩を竦める。であればニヒリスターに撃ち込んだアンチェインドはその入手した弾薬だったのだろう。

 

 ヨハンは次いで無線越しにセシルへ尋ねる。研究所で入手した弾薬の情報、そして人血はまだ残っているのかを問い掛ける。才媛は肯定の答えを返した。

 

 研究と調査はこれで捗るだろう。おそらくは。

 

 ヨハンは続けてムーアへ横目を向ける。

 

「…では、お前の先程の質問に対する答えをやろう」

 

「やっとか。待ちくたびれたぞ」

 

 鼻を鳴らし、紫煙を燻らせるクソ生意気な後輩へ向け、ヨハンは口を開いた。

 

「──お前が手に入れるアンチェインドが()()()より性能が良ければ奪うが、そうでなければ奪わない」

 

「…はっ…」

 

 後輩の口角が緩く吊り上がる。サングラス越しに爛々とした濃い茶色の瞳が自身に向けられる感覚をヨハンは捉えた。鋭い犬歯が──ある筈もないが、醸し出される雰囲気にあてられたのだろう。ヨハンは、らしくもなく幻視をしてしまった。

 

「…奪えるなら奪ってみろ。その時は本気で相手をしてやる」

 

 本気で──その言葉と宣言に嘘はない。間違いなく、この後輩はその瞬間が訪れれば直ちに実施する。そうヨハンは確信できた。

 

「…まぁ、そうならないのが一番なんだがな」

 

 醸し出される雰囲気──獰猛な肉食獣が襲い掛かってくる寸前のそれを収めたムーアが吸い終わった煙草を携帯灰皿へ投げ込んだ。

 

 喫煙時間と休憩は終わり。次の対空砲の修理へ向かう為、自身の部下達へ乗車を促した。

 

 ニケ達が集まり、運転席の扉を開けたムーアに続いて車内へ身を滑り込ませた。

 

「──乗って行くか?」

 

「…そうさせて貰う」

 

 運転席の窓を開けたムーアが問い掛けながら立てた人差し指を上に向ける。生憎と車内は定員オーバーの為、ルーフ上になるが構わないか、という意味だろう。その端へヨハンが腰掛けると同時にエンジンが掛かる。

 

 ハランが、続いてノアもヨハンと同様の格好でルーフの端へ腰を下ろす最中、エンジンの咆哮に紛れる程の小さな呟きが漏れ出る。

 

 

 

 

 

 ──…まぁ、そうならないのが一番なんだがな

 

「──…あぁ…そうだな…そう、願っているよ」

 

 

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