勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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本当にお久しぶりです。7月からでしょうか。ず〜〜〜っと22時や24時までの残業が続き、折角の休日でさえも体調とメンタル的に執筆できず続きの投稿が遅くなってしまいました。お待たせしてしまった点は平に御容赦下さいませ。




第13話

 

 

「──随伴部隊、ですか?」

 

「──あぁ、そうだ」

 

「──大丈夫。皆、良い人達だから」

 

 飛空艇の艇内。向かう先に紹介する者達が存在する、と先頭を進む外套を纏った長身の()()()が告げる。

 

 部隊へ着任したばかりのドロシーは件の指揮官や彼女──人類初のニケであるリリーバイス少佐の案内で艇内を回っていた最中だ。

 

 スピーカーから甲板に輸送機が到着した旨と共に部隊の帰還が達せられ、ドロシーは開発途中の量産型ニケが極秘裏に着任しているのかとまず考えたらしい。その点を問うと指揮官はあっさり否定する。

 

 帰還した部隊とは()()で編制されたそれ、とのことだった。

 

「…それにしても人間の兵士がラプチャーと戦えるのですか?」

 

「問題なく戦っているからな。奴等に餌をくれてやっている訳じゃない。疑問はあるだろうが、実際に戦っている姿を見れば君のそれは間違いなく解消される」

 

「彼等のラプチャー撃破数とか知りたいなら戦闘記録を見せるね」

 

 自身の上官となる二名が太鼓判を押す。多少の脚色や身内贔屓こそあれど、虚実はないのだろう。俄には信じられないが。

 

「信じられない──そう思っているな?」

 

「…えぇ、はい」

 

「まぁ、当然ではあるか。私自身、どうして彼等がラプチャーと戦えているのか良く分かってはいないんだ」

 

「あぁ…それは私も質問しましたよ」

 

「…なんと言っていた?」

 

 興味が湧いたのだろう。長身の指揮官が隣を進むリリーバイスへ横目を向けて問うた。

 

 すると彼女は軍服を纏って尚も細い肩を軽く竦めて見せる。

 

()()()()より強いから──だそうです」

 

「なるほど。それは道理だ」

 

「…ブリキ…?」

 

「ラプチャーの蔑称だ。深く考えない方が良い」

 

 道理がある筈がない。人類はラプチャーには勝てない。これが唯一の道理である。覆しようのないそれだ。

 

 だがしかし、その道理を覆した者達が存在する──これも揺るがない事実なのだろう。信じ難いことだが。

 

 やがて辿り着いた区画。飛行甲板にも近い一室の扉の前で指揮官は立ち止まる。兵員待機室とプレートが打たれていた。

 

「──ここだ。待機室となっているが、実質的には彼等のロッカールームのようなものだ」

 

 ノックすらなしに指揮官が待機室の扉へ手を掛ける。爆発の衝撃に耐えられる防御扉なのだろう。見掛けに反して分厚い様子が伺える。

 

 途端、室内の空気が外へ漏れ出したのだろう。噎せ返るような汗臭さがドロシーの鼻を突く。ニケとなる以前は上流階級に身を置いていた彼女だ。あまり縁のない臭いから逃れる為、意識して嗅覚センサーを切ってしまう。

 

 不可解なのは室内からは歓声が漏れ聞こえている点だ。何が起こっているのか──とドロシーは疑問を抱くも指揮官が、続けてリリーバイスが開けられた防御扉を抜けて室内へ足を踏み入れる。

 

 やや遅れてドロシーも室内へ──

 

「──()()が違うよ!土台が!」

 

「──軍曹!キレてる!キレてますよ!」

 

「──あぁ、いい!いいっすよ!いい血管出てるっすよ!」

 

「──やばいやばい!イッちゃうよ俺!」

 

 ──鍛え抜かれた筋肉の祭典が室内に広がっていた。

 

 誰も彼もが上体の肌を晒し、ポージングを披露する者達へ喝采を送る光景は異様の一言だ。 刺激が強すぎる、とも言う。

 

「……またか……」

 

 思わず項垂れた指揮官は頭痛を催したらしい。軍帽を被った頭を片手で押さえながら盛大な溜め息をひとつ。

 

「──おっ、指揮官(モヤシ)じゃねぇか。──少佐殿、御無沙汰しております」

 

「おかえりなさい。3日ぶりだね」

 

「──お元気そうでなによりです、少佐殿。むさ苦しくて申し訳ありません」

 

 確かに軍籍こそあるが、傭兵上がりの自身よりも正規軍の軍人であったリリーバイス、それも正式に階級(少佐)を付与されている彼女へ敬意を払うのは当然なのだろう。しかしこうもあからさまなのは如何なものか。

 

 咳払いし、リリーバイスのみに挨拶を向ける彼等の注意を引いた。

 

「口を挟んでも構わないか?──新入りだ。正確にはゴッデス部隊へ参加するフェアリーテールモデルの2番、ドロシーだ」

 

 一気に半裸のむさ苦しい男達──筋骨隆々という表現でさえ足りない肉体を誇示する者達の視線が()()()へ向けられる。

 

「……マジで成功したんだ」

 

「…適合者って存在したんだな」

 

 妙な既視感を覚える──つい数時間前にも同じやり取りがあったと指揮官やリリーバイスは思い出した。

 

「…ドロシーです。宜しくお願いします」

 

「あぁ…どうぞ宜しく」

 

「…彼は?彼にも顔合わせを済ませておきたいんだが…」

 

 どうやら随伴部隊には専属の指揮官がいるらしい。それを察したドロシーは待機室の奥へと向かって歩き出した兵士の後ろ姿を見送る。

 

 やがて戻って来た兵士、そして長身で刈り上げた短髪の──やはり半裸の格好の青年が惜しげもなく鍛え抜かれた筋肉を披露しながら歩み寄って来た。

 

「──帰還報告の手間が省けてなによりだ。口頭で済ませるぞ。良い報告と悪い報告、どちらから聞きたい?」

 

 落ち着きのある低い声のままドロシーが軽く見上げる程の長身を誇る青年が指揮官へ問い掛ける。そして纏った戦闘服のパンツのポケットから煙草のソフトパックを取り出した。銜えた一本の煙草へ傍らの兵士がすかさずライターで火を点ける。

 

「そうだな…では良い報告から頼む」

 

「──支援を要請された旅団と合流は出来た。これがまず良い報告だ」

 

「…そうか。なら悪い報告を」

 

「──その旅団は俺達が到着する数時間前には文字通りに全滅したらしい。折角、()()()()の包囲を近接航空支援(CAS)もなしで突破したんだが」

 

「…損害は?」

 

「…腕が吹き飛んだのが1名、こっちは軽傷だ。土手っ腹を丸ごと抉られて死んだのが1名」

 

「…そうか。御苦労だった」

 

「──で、こっちの()()()()が?」

 

 その形容は如何なものか。銜え煙草のまま紫煙を燻らせつつ視線が無遠慮に向けられ、あまり好ましいとは言えない形容を口にした眼前の兵士──いや、おそらくは将校なのだろう青年へドロシーはキッと双眸を鋭くしながら見上げてみせた。

 

 すると青年は火の点いた煙草を銜えたまま肩を竦めた。

 

「気に障ったか?それは失礼した──()()()()

 

「…ドロシー、です」

 

 

 

 

 

 

 生憎と好印象を抱ける初対面ではなかった筈だ。とはいえ──

 

「──ふふっ」

 

 ──今になってみれば、そう悪くない、とも思える程度には懐かしい。

 

「──ちょっと、失礼じゃない?人の顔を見て笑うなんて」

 

「──いえ、失礼しました。少し、昔を思い出しまして」

 

 木々が生い茂り、花々が咲き誇る楽園の一角。そこへ設けられたガーデンチェアやテーブル。整えられた茶会の席へ招待されたパピヨンは不快な様子で眉根を寄せつつ苦言を放つも撫子色の髪を持った対面へ腰掛ける淑女──その体を崩さない相手は微笑を浮かべながら軽く謝罪を済ませた。

 

 慣れた、そして優雅な手付きでカップを摘み、音も立てず淹れた紅茶を啜った後、静かにソーサーへ戻した彼女が視線を改めて向ける。

 

「…お話の途中ですが少々、お尋ねしたいことがあります」

 

「…なにかしら。条件の話?」

 

「そうではありません。──ムーア少佐、あの方はアークでどのような立場にあるのですか?」

 

「…少佐について?」

 

 唐突な質問だ。意図が掴めずパピヨンは僅かな時間、その真意を探った。

 

「…そう警戒なさらず。ただの興味です」

 

「…ムーア少佐について、と言っても…」

 

 どう答えれば良いのか。中々に難しい質問である。

 

 超が付く堅物、とでも言えば正解だろうか。いや、彼女──ドロシーはアークでの彼の立場を問うていた。

 

「──彼はアークで良くも悪くも有名人。勿論、知る人ぞ知る、という奴だけど」

 

「──もう一杯、如何ですか?」

 

 問いへ返される言葉を舌に乗せたパピヨンへドロシーは礼代わりなのだろう。腰を上げたドロシーはティーポットを掴み、彼女の傍らまで歩み寄る。残り僅かとなったカップの中身を再び芳醇な香りを放つ紅茶で満たした。

 

「…任官してまだ1年未満。なのに成功が困難と言われる地上奪還作戦をいくつも成功させ、異例の速さでの昇任。まぁ一度、降格されたけれど…」

 

「降格?」

 

中央政府軍(ウチ)と少しね」

 

 内容と理由は機密である──それを言外に仄めかしつつパピヨンはカップを摘んで縁へ口付けた。

 

 なるほど。話すつもりはない、ということか。であれば──機会を見て()()へ問うてみよう、とドロシーは思い至りつつ元の席へ戻った。

 

「ムーア少佐のことは…正直に言うと少し苦手なのよ」

 

「…苦手、ですか?」

 

「えぇ。堅物だし、冗談があんまり通じないし…」

 

 堅物──その本人は自覚があるのか不明だが、パピヨンの率直な物言いをドロシーは内心で肯定する。彼から放たれる雰囲気がなによりの証明であろう。

 

「…他にもあるけど…一番は()()()()()()()ことが…」

 

「…それは?」

 

 どういう意味なのか。ドロシーは対面で柳眉を寄せるパピヨンに続きを促す。

 

「…そのままの意味よ。アーカイブにアクセスして彼の出生記録や士官学校入校より以前の経歴を情報部が漁ってみたらしいわ」

 

 出生記録──確かに存在した。アークの一般家庭に産まれ、学業の修了も滞りなく済ませている点も明記されていた。

 

「…彼の両親はどちらも亡くなっている、そうよ。あくまでもアーカイブの情報では。兄弟はなし。親戚関係の方は…どうだったかしら…」

 

 報告こそ受けているが、彼の存在をそこまで深く考えていなかった頃である。話半分に聞いてしまった弊害だろう。少々、記憶が曖昧だ。アークへ戻れば、保管されている情報を閲覧することも可能だろう。

 

「士官学校時代のムーア少佐は?」

 

「入校して間もなくに訓練中の事故で意識不明の重体。卒業の1ヶ月前に目覚めたようね。カルテによると事故に遭う以前の記憶は失っていたみたい。課程のカリキュラムを病院で詰め込まれて──卒業と任官の翌日に実戦へ投入された、とあったわ。期別の成績は最下位で卒業よ」

 

「…それは…」

 

 嘘、であろう。

 

「えぇ。おそらくはね」

 

 ()()()()()()──どれほどの物であったのかは定かではない。しかし記録上はそうなっているのだ。士官学校側の数年間に渡る記録を漁っても候補生達に課す課程で重体が、ましてや意識不明となる程の事故が発生した記録がないにせよ、実際に彼の履歴はそう記録されている。

 

「まぁ、私としてはあまり興味がないわ。気にはなるけどね」

 

 ()()()()()()が働き、彼の素性を暴くことを困難としているのは間違いない。しかし誰が、なんの為に──それが気にならないと言えば嘘となる。だが首を突っ込んだ場合、身の危険が及ぶ可能性も高いとなれば手を引くのが吉だ。パピヨンも保身ぐらいは心得ている。

 

「バーニンガム様──私の上官はこう仰っていたわ」

 

 ──誰かの下に就き、或いは飼われ、大人しく命令を聞く気質の持ち主ではない。

 

「…本当、なんで軍人なんかやってるのかしら」

 

「──生きる場所がそこしかないから、では?」

 

 確信にも似た断言へ限りなく近い声をドロシーが漏らす。

 

「…何か知ってるの?」

 

「──いいえ、まさか。()()()()()とお会いしたのはエデン(ここ)が初めてです」

 

 そうだ。()とは初対面だ。会って間もなく、良く知らない間柄である。しかし──

 

「──()()()()()()()については存じ上げていますけれど」

 

 ()のことならば良く知っている。勿論、眼前のニケへ話すつもりは毛頭ないが。

 

 ドロシーはパピヨンが向ける疑惑の籠もった視線を受け流す。決して教えてやるものか──という優越感に浸りつつ彼女はソーサーへカップを音を立てず預けた後、改めて居住まいを正す。

 

「──お話が逸れましたね。何処まで話したでしょうか…あぁ、そうそう。私をアークへ──でしたか」

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