勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
本来ならメインストーリーを進めたいところだったのですが、ちょうどレッドフードのエピソードも挿入しておきたいところでしたので渡りに船とばかりに……(ユルシテ…ユルシテ…
そしてご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、来年(2025年)の2/23(日)に名古屋で開催されるNIKKEオンリー同人誌即売会に一般指揮官も御縁がありまして合同誌に参加させて頂く運びとなりましたことを御報告致します。書き下ろしとなりますので宜しくお願い致します。
「──
「──あぁ…ッ…そう、だ…!」
「──手伝ってやれ」
長身かつ大柄──それこそ200cmを超える背丈の青年が補助に入る。両手で握ったバーベルシャフト、その両端に複数枚のプレートが取り付けられた代物と横たわったベンチの隙間へ挟まれる格好の指揮官が顔を真っ赤に染め上げていた。
両端にあるプレートとバーベルシャフトを合わせれば100kgは超えている筈だが、補助へ入った青年は軽々と片手でひょいと持ち上げてみせる。やっと解放された指揮官は礼を述べながら息を整えると汗だくの顔を横へ向けた。
涼しい顔のまま一定の間隔で──自身がトレーニングしていた重量の倍近くはあるだろうプレートを取り付けたバーベルシャフトを上下に持ち上げては下ろしを繰り返す青年の姿がある。反動を一切つけず、きっちり姿勢を保持したまま続けるトレーニングには恐れ入るばかりだ。
腕もそうだが、力んだからか腹筋も痛い。姿勢を少し崩してしまっただろうか、と指揮官は自身の腹部を擦りつつ上体を起こした。
「ここまでの…快進撃は初めてのことだからな。ラプチャーの侵攻が始まって以来の快挙──お前達にとっては複雑だろうが…」
「別に気にはせんよ。公的な記録や戦闘詳報は残らないからな」
授与する勲章も戦傷章や従軍記章ばかりだったか。赫々たる戦果を間違いなく
「──スターライトブリッジの戦いの後、お前は
「別に勲章欲しさで仕事をやっている訳じゃない。剥奪したいならいつでもしてくれ」
「──違う。足りないと言いたいんだ。お前は200名以上の民間人と退却する友軍が渡河するまで橋にラプチャーを一切近付けなかった」
「…
それだけの犠牲で済んだのだ──と、指揮官は喉の奥から迫り上がってきた台詞を飲み込む。ベンチプレスを続ける青年は、救った人々の数と顔を絶対に覚えていないだろう。しかし亡くした自身の部下の名前と顔は間違いなく覚えている。眼前で喪ったのであれば尚更だ。
「…まぁ、部隊にとっては初めて受勲した戦功章。士気が上がったのは確かだ。先に逝った奴等も含めた全員の代表で受け取ったと感じてはいる」
キリの良い所で終わるのだろう。青年はバーベルシャフトをラックへ引っ掛けた。その重量へ悲鳴を挙げるようにラックどころかマシンが軋みを生じさせる。
「…そうか。満足している、というなら私がとやかくは言えないな」
嘘だ。指揮官は己が発した言葉を今直ぐに撤回したい。彼等は満足しているだろう。しかし指揮官本人は全く満足をしていない。これっぽっちも。
「──で、
「そう言うな。ゴッデスも連戦が続いている。彼女達のご機嫌伺いも兼ねての催しだろう」
指揮官が建前なのか、それとも本音なのか──どちらとも取れる説明を青年に述べる。それに納得したかは定かではないが、青年は鼻をひとつ鳴らした。
「で、俺達は待機命令か?それともその退屈な催しが終わるまで警護でもすれば良いのか?」
「後者と言いたいが、お前の他にも何人か選抜して彼女達と一緒に──そんな顔をしないでくれ」
ありありと顔に貼り付けられた
「…美味い食事に酒もある。少しは休める筈だ。特にお前は」
パーティーとやらの意図がどうあれ、指揮官はゴッデス部隊だけでなく同様に連戦を続ける随伴部隊へも僅かとはいえ休息を促している様子だ。
「…最悪はくじ引きだな…どいつもこいつも大飯食らいだ」
「選抜の基準は任せる。…まぁ10名前後なら大丈夫だろう。他の者は外で警護になってしまうが…」
差し入れにも気を配った方が良さそうだ。であれば先日の戦闘で特に際立った活躍をした者達を選抜しようと青年は即決する。部下達からの不平不満は出ないだろう。
明日は全身が筋肉痛に襲われるのが確定の指揮官はなんとかベンチから腰を上げる。トレーニングルームを出ようとしたが、言い忘れていたことを思い出したのだろう。その場で肩越しに青年へ視線を向ける。
「きちんとした格好をして来いよ」
「それぐらいは弁えてる。これでも将校だぞ」
それは失礼した──とでも言いたいのか指揮官は再び肩を竦めてからトレーニングルームを後にする。後ろ姿を見送った青年も腰を挙げた。
「──どうぞ小隊長」
長身の青年だが、その背丈を遥かに上回る自身の部下がプロテイン入りのシェイカーを差し出して来ると見上げつつ礼を述べてからそれを受け取る。
「…ところで…
「…さぁ?」
半袖のシャツを纏った部下は首を傾げた。青年も考え込むが──あのように便宜上の上官である指揮官が言ったのだ。しかも将校なら正装しかないのだろう。ちょっとした行き違い、いやそれが正しい思考なのだろうが、生じた言葉の意味合いのすれ違いに気付かぬまま当日を迎える羽目となった。
「──慣れない格好だな」
「──いっつも戦闘服っすからね」
廊下を進むのは10名の青年達。いずれも普段の戦闘服とは異なり、彼等が所属する原隊が制定している正装姿だ。一様に詰襟の上衣の襟元を気にしているのは若干の息苦しさからだろうか。
「──だーっ!!もうっ!帰る!!」
角を曲がった一行の視界にやっと見慣れた人物達の姿が捉えられた。扉の前へ立つ
「…俺の目の錯覚か?物凄く着飾ってる
「あぁ、大丈夫っす」
「俺等にも見えてます」
真紅の長髪とそこから生える一対の角にも似た黒い装備──間違いなく部隊のムードメーカーであるレッドフードだ。その筈である。
「──見違えたな」
彼女達と指揮官へ歩み寄りながら青年が声を掛ける。続いた部下達の存在に彼等も気付いたのか、全員の視線が向けられた。
「…お前…いや、確かにきちんとした格好で、とは言ったが…」
「…何か問題でもあるのか?」
腐っても将校である。言葉の額面だけ捉えたら、確かに正装──それもこれまで受勲した勲章もぶら下げての格好にもなろう。
全員の目が──部隊のリーダーであるリリーバイスを除いてだが、彼女達、そして指揮官の目が点になったのは彼等の服装が場違い、或いは似合っていないからではない。普段は戦闘服か半裸に近い格好しか見ていないのもあってだろう。軍人らしい正装で身を包んだ彼等の姿にギャップを受けてしまったのだ。勿論、好意的な意味で。
とはいえ凝視されては不安にもなってしまう。青年は僅かに頬を赤らめたスノーホワイトへ視線を向けた。
「…もしかして…似合ってないか?」
「え!?い、いえ、とってもカッコいいです!」
「そうか。安心した」
素直な妹分からのお墨付きを貰えたなら文字通りに安心である。
それはそれとして──ギャップが凄まじい。
「…確かに似合っているな…」
これは紅蓮の感想だ。
「えぇ、はい…その…とてもお似合いです。初めて見ました…」
ハッとした後、勿忘草色の瞳を右往左往させながら感想を述べたのはラプンツェルだ。
「────」
「…ドロシー?」
「──いえ、失礼しました」
顔を背けながら咳払いをひとつ漏らすドロシーの頬へ僅かに赤が差していた。特に感想は述べられなかったが、反応を見る限りは問題ないのだろう。彼女の内心としては問題ありではあったが。
青年は次いでレッドフードへ視線を向け──彼女の姿を物珍しげな様子で上から下まで見詰める。
「…な、なんだよ…隊長もあたしをからかうつもりか!?」
「…からかう?何故だ?」
向けられた視線から身を庇うようにレッドフードが腕で自身の胸元を隠す仕草を取る。真紅のドレス──胸元が大きく露出している為、谷間が強調されるばかりか、長い脚も深く刻まれたスリットのお陰で艶めかしく垣間見えている。随分と派手な──もとい大胆かつ華やかな意匠だ。
「だってさ、皆があたしを──」
「良く似合っているぞ。華やかなキミを見れるとは思わなかった。眼福だな」
「んなっ──!」
ボンッとレッドフードの顔が弾けるかの如く一気に紅潮した。淡々とした口調ではあるが、嘘や偽りのない賛辞を真っ向から浴びせられては仕方あるまい。器用にフリーズした彼女へ横目を向けた後、リリーバイスが青年に尋ねた。
「他の皆はどうしたの?」
「近くで待機中だ。差し入れの補給に期待する、だそうだが」
「ふふっ。分かった。ちゃんと美味しい物を確保しなきゃね」
祝勝会が催されるとはいえ、現在は戦時下だ。どんな状況に陥るか分かったものではない。武装した上で随伴部隊の隊員達は待機している、とリリーバイスは僅かな遣り取りで青年から情報を受け取った。
やがて指揮官が全員へ会場入りを急かすのだが──
「──行かなきゃダメか?あたしは欠席ってことで…」
往生際が悪い。この期に及んでレッドフードは会場入りを拒む。しかし、然もありなん。彼女以外の部隊員達は普段通りの服装なのだ。これでは目立ち過ぎる。勘違いした彼女が悪いと言えばそれまでなのだが、注目を一身に受けるのは──とレッドフードが尚も逃げ口上を垂れ流そうとする瞬間だ。
長身の彼女よりも更に背丈がある青年が左隣へ立ち、片手で握り拳を作りつつ肘を軽く曲げて差し出した。
「…え、えっと……」
「……いや、渋ってるのはエスコートが必要なのかと……」
──なんでそうなるんだよ。
肘と脇の隙間へ手を入れて添えるよう促される始末だ。これには彼女達も苦笑せざるを得ない。
「折角だし、して貰ったら?」
「これで立派な、お・嬢・サ・マ、ですね」
「──いや、キミ達にもエスコートは付けるが?」
からかっている所を悪いが──と青年は部下達へ目配せする。委細承知しているのだろう。いずれも長身の、そして正装姿の彼等が一人ずつ彼女達の隣へ立ち、女性をエスコートする姿勢を整えた。
「わ、私達もですか?」
「主役達をエスコートもなしで歩かせる訳にはいかんからな」
困惑するラプンツェルへ青年は当然のニュアンスを滲ませた言葉を返す。
「──悪いな、おちびちゃん。
「…べ、別に…私は羨ましくなんて…」
「ん〜?羨ましい?」
着飾ったレッドフードの隣へ立った正装姿の青年──それに羨望の眼差しを向けていた最年少の彼女を彼の部下が小声でからかう。唇を尖らせた少女は「なんでもないです」と消え入りそうな声で返しつつ、差し出された肘と脇の下へ生じた隙間へ片手を差し入れた。後で青年へ会場内を歩く際にでもやって貰えるようそれとなく促そう、とエスコート役を仰せつかった部下は内心で溜め息を吐いた。気を遣うのも大変である。
ングッングッ──。
豪快に喉を鳴らしながら嚥下されるワイン。決してそのような飲み方をする代物ではない筈だ。
「──高い酒はやっぱ違うな〜」
「…はぁ…お願いですから、そのドレスで下品な言動は慎んで頂けますか?」
ボトルを引っ掴んで──いわゆるラッパ飲みをされないだけ有り難いのだろうが、ドロシーとしては一言どころか二言以上も物申したい気分なのだろう。
「んなこと言われたってさ〜生まれつきなんだから仕方ないだろ」
「…はぁ…」
再びの溜め息がこれ見よがしにドロシーの唇から漏れ出た。これでは着飾った──からかったのは事実だが、顔立ち、肢体、いずれも素材が良いというのに下品な言動が全てを台無しにしてしまい、ドレスを纏った意味がない。
嘆かわしいと言わんばかりの彼女へレッドフードはワイングラスに真紅の上等な酒を手酌で注ぎつつ唇を開く。
「どうせあたし以外にも一人ぐらい似たような感じのヤツが混ざって──」
「──あ、これ美味っ!」
「──普段は糧食ばっかだしな」
「──ちょい待ち。そこのウェイター君。そう、そこの。このウイスキーだけどさ、5ダースぐらい持って来てちょうだい」
「──こっちビール。ジョッキ──が無い?なら瓶のままでいいや」
レッドフードの方がまだマシだった、とドロシーは認識を改める他ない。正装姿の男達が酷い有り様を披露しているのだ。立食形式の催しだが、いくらか用意されている席のひとつを陣取った彼等は大量の料理を取り皿に載せて持って来るなり、今度は机上の端から端までを酒瓶やグラスで埋める始末である。着飾ってはいるが場末の酒場で展開される仲間内の酒盛りと大差はなさそうだ。
ほらな、とレッドフードがドロシーへ視線を送る。確かに彼女が言う通りの人物は存在した。生憎と一人どころの話ではなかったが。
「……もう少し上品にさせた方が良いか?」
「まぁまぁ。今日は好きなだけ飲ませてあげましょ。お祝いの日だもの」
「後でお偉方から言われるのは私なんだが…?」
「頑張ってくれ。──伍長、俺にも寄越せ」
意匠が異なる軍服と正装姿の三名──部隊の指揮官とリーダー、そして随伴部隊を率いる青年が彼女達へ歩み寄る。その途上、青年へ向かって部下の一人がビール瓶を投げ渡す。それを難なく受け取った青年は瓶の先端を封印する
「戻られましたか。壇上ではお疲れ様でした」
「リリスお姉ちゃん!さっきのスピーチ、凄くカッコよかったです!」
「ふふっ、ありがとう。まぁ、どっかの誰かさんは折角、私が勲章を付けてあげたのに仏頂面だったけどね」
「…少佐殿。この俺がニコニコしながら、光栄であります、と殊勝なことをすると思うか?」
「うーん…それは…気味が悪い、かなぁ?」
有り体に言って正気を疑う──とまでは言わないもののリリーバイスが醸し出す雰囲気で察したのか青年は軽く鼻を鳴らしつつ、部下から投げ渡された新しいビール瓶を受け取った。
壇上でのスピーチと簡素な受勲式を終えたばかりの彼女達を労ったドロシーの視線は青年の胸元に向かう。先程、リリーバイスの手で付けられたばかりの戦傷章が吊るされている。これで果たして何度目の受勲なのか。
「かぁ〜…全くだ。お前こそ
「そんなことはないと思うけど。私はいつもと違うレッドフードが見れて嬉しいな。──
「……ん?」
青年の愛称──ただ一人しか呼ばないそれを口にしたリリーバイスは傍らで
その青年の視線がレッドフードに向かうと彼女はマジマジと見られて気恥ずかしいのか、身を庇うかの如く露出が激しい胸元を片手で隠した。
「…さっきも言ったが眼福だな。……ダンスにお誘いしたいぐらいだ」
「だって」
「お、踊れないからな!」
「リードなら任せろ」
「…隊長、酔ってるだろ?」
「素面だが?」
頬を紅潮させるレッドフードが青年へ憎まれ口に近い言葉を放つ最中だ。指揮官へ歩み寄った人類連合軍の兵士が耳打ちする。ティアドロップの下に隠れた瞳を細めた指揮官は次いでリリーバイス、そして青年へ視線を向けた。
「──リリス、リチャード。ちょっと来てく…そのビールは置いてくれ」
「2秒待て──待たせたな」
中身を全て飲み干した瓶を机上の隅へ置いた青年がリリーバイスや指揮官と共に会場の奥へ去る。余程、忙しいのだろう。連戦連勝の立役者達だ。方々からお呼びが掛かるのは仕方ないと言える。
「──小隊長まで呼ばれるたぁ…」
「──珍しいこともあるもんだな。ほら、持って来たぞ」
「──ん、サンキュ」
暇を持て余すこととなった彼女達だが、レッドフードはこれ幸いと高価な酒を堪能しようと青年の部下達に頼んでワインのボトルの調達を依頼する。やがて運ばれて来たボトルを上機嫌で彼女は受け取り、コルク栓を抜いて飲み直しを始めるのだが──
「レッドフード、大丈夫ですか?」
「…だいじょばない」
「洗面器は?水は?」
「いらにゃい。──きのうの自分をぶっ飛ばしてやりたい…」
ラプンツェルが出来上がっているように見えるレッドフードを気遣い、青年の部下は万が一に備えて必要な代物を何処からか調達しようと考え出す。
彼女はフラフラと椅子へ腰掛け、グッタリと背凭れへ上体を預けた。途端、背凭れが軋みをあげるが構わず視線を天井に向かって彷徨わせる。
「良いではありませんか。綺麗ですし、とても注目されていますよ」
「…きれい、とか…どーでもいいんだ…見られてるのが問題なんだよ…」
ラプンツェルは背中を擦るべきか悩みながらも律儀な性格を発揮し、酔っぱらいの戯言に付き合う様子だ。
「うーん、でも…」
青年の部下がオレンジジュースを注いだタンブラーグラスをスノーホワイトへ差し出す。それを受け取った彼女が小さく頭を下げ、次いでレッドフードに金色の虹彩を向けた。
「みんなに褒められてましたよ。それでいいんじゃないですか?」
「そうか〜…なら、おちびちゃん。次はおちびちゃんがドレスを着てみるか?あたしが特別に選んでやるからさ〜」
「いえ、それはちょっと…」
「ほら見ろ!やっぱりイヤがるじゃんか!」
理不尽ではなかろうか──と青年の部下達は手持ち無沙汰なのもあってか、各々が飲食しつつも彼女達へ甲斐甲斐しく給仕の真似事をする最中、揃って同じ印象を抱いてしまう。
「…そうですね。レッドフードの言う通り、どう見られるかは大事ではないかもしれません」
「だろ〜?」
スノーホワイトの物言いにレッドフードは屈託なく笑う。であれば──だ。
着飾ったは良いが、動き難いし、裾は踏んでしまう。なにより靴も歩き難いと来ている。イライラして仕方ない。
不平不満を喚き散らすレッドフードの子供じみた振る舞いを紅蓮が窘めるも暖簾に腕押しだ。
「──見たきゃ見れば良いさ!どうせ全身真っ赤かだからイヤでも目に入るんだろ!あぁ、もう知らねぇ!靴も脱いじまうか!どうせ目立つならとことん目立ってやる!」
癇癪を起こしてどうするのだ──しかも酒に酔った様子で、その振る舞いには目も当てられない。ドロシーが盛大な溜め息を吐き出し、彼女を止めようとした瞬間だ。
──会場内に警報が響き渡った。
突然のそれに会場内はたちまち騒然となる。
招待された客達が右往左往とする中、放送がスピーカーから流れる。
──曰く、ラプチャーが接近中である、とのことだ。
「──っしゃああ!!出番だ!出番!」
「──伍長!外にいる奴等に俺等の銃を用意するよう連絡!」
「──殺ってやらぁ!!」
混乱する会場内の
会場の奥から駆けてきた3名──指揮官、リリーバイス、そして青年が戦闘準備を発する。青年の命令に応えた部下達が意気軒昂と応じ、一足先に、とテラスに向かって駆け出した。テラスの転落防止の手摺を飛び越えて姿を消した彼等を見送った青年も駆け出す──その隣を真紅の人影が併走する。レッドフードだ。
「──まさか、その格好で戦う気ですか!?」
「緊急事態だ!着替えてる暇なんかないだろ!」
「だからって──」
「──そのまま飛ばれると少し困るんだが…」
確かに緊急事態であり、展開されている人類連合軍の部隊が応戦を始めたのか夜の闇の向こうで曳光弾が引く光の尾が幾筋も輝いている。状況的に一刻の猶予もないのはその通りだ。
しかし併走する青年としては──そのドレスのままテラスを飛び越えて地面へ着地するまでに裾が捲れ上がらないかの方が気掛かりだ。
レッドフードとしては気にしないのかもしれないが、まがりなりにも着飾ったのだから少しは気に留めるべきであろう。
「──ちょっと失礼」
言うが早いか、不意にレッドフードの身体が宙へ浮く。そして視線が問題無用で天井へ。次いで視界には青年の顔が映り込んだ。
「──って、隊長!?」
「舌、噛むなよ」
テラスの手摺を踏み、そのまま一気に跳躍。横抱きにされたレッドフードと青年が重力に引かれ、落下する。背後では彼女達の声が響いているが、生憎とラプチャーの敵影は刻一刻と迫っている。待ってはいられない。
地面へ着地した瞬間、足下がめり込んてしまうが彼は直ぐに駆け出す。待機している随伴部隊へ合流する為に脚は緩められない。
「──あぁ、そうだ。レッドフード」
「──なんだよ?ってか、下ろしてくんない?」
「──もう少しで着くから我慢してくれ」
合流まであと10秒ほどだ。随伴部隊が保有する戦車や装甲車の姿が見えてきた。その周辺には正装姿や戦闘服姿の兵士達が集結し、戦闘に臨む準備を整えている。
合流を果たした青年は横抱きにしていたレッドフードを下ろした。両手が空いた彼へ向かい、部下の一人が突撃銃を投げ渡す。それを受け取った青年は細部点検を手早く済ませると、随伴部隊の装甲車の車内で預かっていた彼女達一人ずつの武器の中から狙撃銃──レッドフードが扱うそれを掴み取り、彼女へ差し出す。
「──ダンスにお誘いしても?」
何を言うかと思えば──レッドフードは一瞬、呆けてしまうが、ややあって笑い声を上げつつ差し出された狙撃銃を受け取る。
「──リードは任せるぜ、隊長」
「──任せろ」
突撃銃と狙撃銃──2挺それぞれへ弾倉が叩き込まれ、槓桿が鋭く引かれる。
向かい合った双方の顔は、さながら狼を思わせた。
ん?レッドフードともこの彼、相性は良いのでは……