勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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お久しぶりでございます。2周年が近付いて参りましたが、果たして今年はどんなイベントストーリーになるのか今から楽しみです。年末年始のイベントも楽しみですね。

来年2月の名古屋のオンリーイベントも控えていますので原稿は完成しましたが、細々とした修正もしなければなりませんので暫くは忙しくなりそうですが……(ふえええ


第15話

 

 

「──え?私一人で?」

 

 対空砲の整備が終わり、使用する砲弾の用意も整った。作戦開始に備え、ヨハンが指示を達し始める──のだが、真っ先に声を掛けられたノアが困惑や戸惑いを滲ませた反応を見せる。

 

 対空砲の1番砲台へ先に向かって待機するよう告げたヨハンは返された反応を見て眉根を寄せてしまう。

 

「…何か問題でも?」

 

「い、いや…そういうわけじゃないけど…」

 

 反応が芳しくない。ノアの視線が定まらず右往左往とする様子は対空砲の整備を終えたばかりで取り外していた装具を再び身に着け始めたムーアも気付く。

 

 同時に彼女の様子を認めたのだろう。イサベルがノアを暫し見詰めた後、ヨハンへ向き直った。

 

「指揮官、私が行きます」

 

「お前は砲弾を運ぶ役割だ」

 

 ヨハンの感情が感じられない声音で素っ気なく返されるもイサベルは尚も意見具申を続ける。

 

「──砲弾を運んでから1番砲台を最後のルートにして待機します。それなら問題ありませんよね?」

 

 イサベルの意見具申。それを改めてヨハンは脳裏に浮かべた作戦案と照らし合わせた。問題は──おそらくは発生しない。

 

 次いで彼の眼差しは装具を整え、スリングベルトへ繋がった突撃銃を握ったムーアへ向けられる。視線で意見具申を受け入れても構わないか、と問われた彼は顎へ掛かったヘルメットの顎紐の具合を確かめつつ頷きを返す。

 

「……あぁ、問題ない」

 

「ありがとうございます」

 

 事前に立案していた作戦の経過に対して若干とはいえ修正を促した形だ。それを受け入れてくれたヨハンへ感謝を述べた後、イサベルはノアの眼前へ移動し、身を屈めて彼女と目線を合わせた。

 

「──ノア、大丈夫ですよ。急ぐ必要はありません。ゆっくりやりましょう」

 

「……うん」

 

「移動しろ、イサベル」

 

 か細く承知の声を発したノアへイサベルは大きく首肯の頷きを見せた。姿勢を元へ戻した彼女はヨハンに向き直る。

 

「はい、指揮官。──ムーア少佐」

 

 名を呼ばれたムーアが濃い茶色の瞳を掛け直したばかりのサングラスの奥からイサベルへ向ければ、彼女が頬を薄く染めて整った形の口を開く。

 

「──その、あの…どうかお気を付けて」

 

「あぁ、ありがとう。キミも気を付けてくれ」

 

 気遣いへ感謝を返した彼へ伏し目がちの視線を送った彼女は背負った武装を展開し、たちまち飛翔する。

 

「ホント、楽そうよねぇ…あれ…」

 

「事前の偵察や斥候で大いに役立つな」

 

「欲しい?」

 

「選択できる戦術の幅は広がるからな。欲しくない、とは言わんが…慣熟訓練に時間が掛かりそうだ」

 

 亜麻色の髪をボブカットに纏めたアニスが上背のある彼を見上げつつ尋ねると、僅かな苦笑いと共に肩を竦められる。

 

 大気を切り裂いて飛び去る姿を見送ると続けてヨハンのアイスブルーの瞳はハランへ向く。

 

「──ハラン。2番砲台に移動して、待機してくれ。同様に砲弾を装填後、合図と同時に発射しろ」

 

「えぇ、待ってるわ。──()()よ。後で会いましょう」

 

 下僕(しもべ)の次は従者だ。彼は気位の高い女性から勝手気儘な呼称をされてしまう運命にあるのかもしれない。勿論、彼の趣味ではない──尤もそう悪い気分でもないのだが。

 

 ハランもイサベルに続いて──彼女と比べれば飛行速度は出ていないが、機械仕掛けのカラスと共に飛び去った。

 

 彼女達の移動を認めたヨハンがムーアへ身体ごと向き直る。

 

「お前は少し休め。砲台の修理で疲れただろう」

 

「そこまで疲れてはいないがな」

 

「作戦開始までは猶予がある。少しでも身体を休めておけ。私はマザーホエールのルートを確認する」

 

「…了解した。なら事前の準備はこれで完了で構わんな?」

 

 彼に問われたヨハンが首肯する。となればムーアも部下達へ暫しの休息を達する必要がある。それを告げようとした刹那だ。

 

「ええぇ!?ちょ、ちょっとちょっと!!」

 

 途端に待ったを掛ける高い声。何か不都合でもあったのか、それとも彼等が立案した作戦に不具合を発見したのか──アニスがムーアとヨハンを順繰りに丸い瞳で見上げた。

 

「……?」

 

「どうしたアニス?」

 

 ここまでの準備に何らかの不備があっただろうか。ヨハンは脳裏に立案した作戦の事前準備の経過を思い出しつつ眉根を寄せ、ムーアはアニスへ率直に尋ねた。

 

「どういう作戦なのか教えてよ!」

 

「……お前の指揮官が教えてくれる筈だ」

 

「え?指揮官様、何か聞いてるの?」

 

「いや、生憎と何も。──まぁ、大雑把にではあるが概ねの予測は出来る」

 

「──ムーア、答えてみろ」

 

 ここでもどうやら教育からは逃れられないようだ。ムーアは指名してきた()()に溜め息を漏らし、次いで愛煙の煙草のソフトパックをボディアーマーのポーチから取り出した。

 

「…三門の対空砲は、敢えてスケールを間違えた巨大な捕鯨砲のようなものだ。元々の設計のコンセプトがそうだったのか、或いは製造や設置がされた後に改修されたのかは知らんがな」

 

 ノアがヨハンを見上げる。すると彼女自身が指揮官と仰ぐ彼の口元が微かに緩んでいるのが認められる。冷ややかな印象が強いアイスブルーの瞳、その眉尻も僅かに下がっている。

 

「…いずれにせよ、対空砲の役割は射出装置だ。どんな砲弾を用意しているのかは分からんが、巨大な銛に似た代物だろう。単純に敵機の撃墜を目的としている訳ではなく──あのバカみたいに大きなウィンチがあることから察せられる。」

 

「…ふっ…」

 

 僅かに鼻を鳴らす音──ヨハンが漏らしたそれはムーアへ話を続けるよう促していた。彼は溜め息ひとつを再び吐き、ソフトパックを軽く振って飛び出した煙草を銜えるとオイルライターの火を点けた。

 

「旧時代の捕鯨よろしく──射手は一撃で仕留めることが求められたそうだが、今回は三方から砲弾()を撃ち込み、ウィンチに繋がったワイヤーを巻き上げる。高度が下がれば自然とこちらの射程圏内だ。例え、完全に地面へ引き摺り下ろせなくても対空射撃で滅多撃ちにしてやれば息の根は止まる。動かなければ捕獲は容易い」

 

「──見事だ」

 

 ヨハンが静かに──しかし声音に僅かな称賛を込めつつムーアの説明を肯定する。

 

「マザーホエールには決まった動線がある。計算通りなら、2時間後に三門の砲台の中心を通り──三角形の中心に来るはず。その時がチャンスだ」

 

「シンプルで良い作戦だ。頭の出来が悪い俺でも理解できる」

 

 皮肉か本気か──高確率で前者であろうそれを口にするムーアが紫煙を燻らせた。

 

 それから1時間後だ。イサベルが砲弾──それこそ巨大な矢尻が鈍く光る銛、長くて太いワイヤーを運んで戻って来た。

 

「──指揮官、砲弾を持って来ました」

 

「──御苦労だった」

 

「…良くもまぁこれを一人で…」

 

 間違いなく砲弾だけで()()は超えるだろう。連結させるワイヤーも含めれば相応の重量だ。これを飛行して運搬をやってのけたイサベルにムーアは驚愕するやら感心するやらである。

 

「…素晴らしいな。決して侮っていた訳ではないが、驚嘆に値する」

 

「い、いえ、とんでもありません。これくらい…なんてことは…」

 

「疲れてはいないか?一息入れると良い」

 

 彼の左手が自身の後ろ腰に向かった。やがて彼の機械仕掛けの手が掴み取ったのは水筒だ。あまり口を付けていないのもあって水は満水に近い。それの蓋を開け、イサベルに差し出すと彼女は彼と水筒を交互に見比べる。

 

「で、ですが…」

 

「…あぁ、済まん。気が利かなかったな」

 

 ダンプポーチの中を彼が漁る。掴み取ったのはナツメヤシの果実(デーツ)である。やや強引にイサベルへ水筒を押し付けて渡し、次いで彼女の空いている片手に果実を握らせる。

 

「それしか渡せなくて済まない。気持ちだけだが、受け取ってくれ。──御苦労だった」

 

 イサベルがムーアを見上げ、頬へ徐々に紅が差して行く。その彼は彼女へ水筒と果実を渡した後、さっさと運搬されて来たばかりの砲弾へ歩み寄り、興味深そうな眼差しで観察を始めていた。

 

「…なんて…お優しい方なんでしょう…」

 

 ポーッと擬音が付きそうな程に頬を染めながら彼へ熱い眼差しを向けるイサベルだが──労いの言葉はヨハンも投げ掛けていたのだ。

 

 その本人は眉根を寄せ、複雑そうな表情を整った顔立ちに貼り付けつつムーアへ視線を送る。

 

 この後輩──いつか刺されるのではないか、という危惧すら浮かんだ。

 

 イサベルがデーツを頬張り、やや躊躇したが──水筒へ口付けて傾ける。やや(ぬる)い水を嚥下し、蓋を閉めるとムーアの背後へ歩み寄った。

 

「──ムーア少佐、こちらを」

 

「…あぁ。…あまり減っていないようだが…」

 

「充分に頂きました。力が湧いてくるようです」

 

 返された水筒を軽く振るまでもなく、重さは大して変わっていない。おそらく一口か二口分しかイサベルは飲まなかったのだろう。

 

「では後でお会いしましょう」

 

 イサベルが飛び立つ。飛翔した彼女を再び見送って間もなく、ヨハンが装填作業を命じる。

 

 それに彼も参加しようとするのだが──

 

「お前は休んでいろ。アンカーの設置とは言っても大したことではない。力さえあれば出来ることだ。ニケ達で事足りる」

 

「……俺も力は人並みにあるが?」

 

「……私が知らない間に、人並み、という言葉の意味が変わっているようだな」

 

 そんな訳がない。ヨハンには珍しく埒もない冗談だった。

 

「戦闘の前にコンディションを整えておけ」

 

「──ヨハンの言う通りです。指揮官、お休みになって下さい」

 

 ライトブラウンの髪──ラピが彼を気遣う。その気遣いは嬉しいが、やはり彼の性質なのかジッとしているのは退屈で仕方ないらしい。

 

 口を開こうとする瞬間の事だ。不意に彼の両耳を覆うヘッドセットのハウジングの奥でザッと短い雑音が走った。通信のそれであるが、彼女達、そしてヨハンも反応を示さない。

 

 となれば──

 

「…分かった。頼む」

 

「はい、行ってきます」

 

 ヨハンを先頭にして、彼女達が巨大かつ長大な砲弾を担いで砲台へ向かうのを見送りつつムーアは直ぐ近くへ鎮座する岩の陰へ腰を下ろす。

 

 突撃銃を抱え、片手の指先でヘッドセットのマイクを口元へ運ぶなり唇を小さく開いた。

 

「──何か用でも?」

 

〈──ひとりになりましたね〉

 

「…あぁ、そうだな。まぁ貴女がいるから正確には二人きり、だが」

 

 ハウジングの奥から響いた声。高い声はセシルのそれだ。

 

〈──口説き文句に応えるのも吝かではありませんが……先程、出来なかった話をしましょうか〉

 

「それは残念だ。慣れていないが俺なりに考えた口説き文句だったんだが。──冗談はさておき、NIMPHが危険、という話だったか」

 

〈──はい。何故、NIMPHが危険か。それは()()()()()()()()です〉

 

 何も知らない──無線越しにセシルが告げた表現の意味を彼は解釈しようと思考を巡らせるが、何らかの含みがあると察せられる響きではない。

 

 つまり額面通りの言葉だ。

 

「…何も知らない?」

 

〈──そのままの意味です。人類はNIMPHについて何も知りません〉

 

「…済まない。良く分からないんだが…門外漢にも分かるよう説明を頼む」

 

 眉根を寄せるムーアの表情は当然だがセシルには分からない。しかし彼女は彼の表情が手に取るように想像が出来た。

 

〈──NIMPHを利用して、記憶と情報を制御するのはあまりにも不安定です。ニケの製造の話になりますが、NIMPHは()()人間である時に脳へ注入され、脳の情報をコピーします。その後、NIMPHにコピーされた情報を処理し、ニケを作ります〉

 

 そして殆どのニケは人間であった頃の記憶を失う。それこそ全ての記憶がだ。その原因はNIMPHに事前入力された情報と置き換えられるからだ、とセシルは語る。

 

 彼女の語り口を聞きながらムーアは煙草のソフトパックを取り出した。

 

「…人間だった頃の記憶を保持しているニケも存在する筈だが…」

 

〈──はい。ニケになった後も人間だった頃の習慣、好み、趣味などが残る場合もあり、消える筈だった過去の記憶が残っている場合もあります。僅かな記憶の片鱗が残っていることもあれば、数年分の記憶がそのまま残っていることもあります。稀に全ての記憶が残っていることも〉

 

 オイルライターで火を点けた煙草の先端がジリジリと燃え、細い紫煙が昇る。彼がサングラス越しに見詰める先にあるのは──アニスの姿だ。

 

 

 

──……私達が地上で苦労しているこの瞬間にも、誰かは学校に行って…テレビを見て…好きな子と恋愛(デート)も…して。私がやりたかったこと、全部やって生きてるでしょう?私も…ッ……その内のひとりって時があったのに……。

 

 

 

 

 エキゾチックと行動を共にした雪原を進む最中に吐露されたアニスの声が彼の脳裏へ響く。果たして彼女はどれほどの記憶を持っているのか。少なくともセシルの言う片鱗程度のそれではない筈だ。

 

 彼が視線を向けていると気付いたのだろう。アニスが作業の手を止め、ムーアへ向かって軽く手を振る。それに彼は手を小さく挙げて応えた。

 

〈──貴方も知っていますよね。ニケによって記憶の範囲に違いがある、ということを〉

 

「…()()()はいる。消えない理由は…素人意見で済まないが、決して消えない強烈な記憶だから、ではないのか?」

 

〈──既にその時点でNIMPHの不安定性が証明されたも同然です。NIMPHを通じて入力される行動ルールも勝手なものです。代表的な例は【ニケは人間に危害を加えてはならない】──これ、ちゃんと機能していると思います?〉

 

「…個体によって違うとは思うが…」

 

 好意的に捉えれば──これは()()という表現に落ち着くだろう。人間に指一本触れられないニケ、鎮圧する為のゴム弾を射撃出来るニケも存在する。ここまでは殺しこそ出来ない。しかし場合によっては──リミッターを解除、もしくは適用範囲を緩めた時、殺傷すら可能である。

 

〈──でしょう?ニケによって適用される範囲が違うとは言いますが、良い意味でも悪い意味でもニケの個性を尊重しすぎています。インプットは全員同じなのに、アウトプットがそれぞれ異なる。これは安定性とは、かけ離れた……使えないものだと考えても差し支えありません〉

 

 もう少し表現する言葉を選んで欲しいものだ。勿論、セシルはNIMPHへ対しての評価を下しているのであって、ニケそのものを使えないもの、と評価しているのではない。その筈だ。とはいえ、同様の評価をされているようにも聞こえてしまう。──部下達を貶す評価にも聞こえてしまい、不快さを隠そうともせず彼の眉間へ深い縦皺が刻まれた。

 

 彼の無言が不快のそれだと気付いたのだろう。セシルは表現の言葉選びを間違えたことをまずは謝罪しながらも続ける。

 

〈──少し不適切だったようですね。貴方を不快にさせるつもりはありませんでした。──NIMPHの基本機能は消去、記憶、上書きだと言いますよね。ですが、この中で意図した通りに機能しているものはありますか?〉

 

「…意図的に特定の記憶だけを残すことに成功している事例もあるが…」

 

〈──あるでしょう。でも、それが()()()()()()という証拠は?〉

 

「…俺が知る限りにおいては…」

 

 知らない、分からない──それは言葉にせずともセシルは捉えたのだろう。微かな溜め息の音が無線を介して彼の両耳を覆うハウジングを震わせた。

 

〈──あまりにも不安定で一貫性に欠けています〉

 

「…自由自在に使用しているとばかり思っていた」

 

〈──なるほど。自転車を例に考えてみましょうか〉

 

 正真正銘の門外漢であるムーアが解釈と咀嚼が出来るようセシルは想像がしやすいだろう代物を例に挙げる。

 

 幅の広いタイヤに交換したい場合、元々備えられていたタイヤを外してそれへ交換する。

 

 進行方向を照らすライトをもう少し明るくしたいのであれば、電球を交換、それかバッテリーを交換する。

 

 その部分の構造を理解しているからこそ可能だ。

 

 しかしサドルは変えられない。ブレーキが故障したら直せない。何故なら自転車だということは理解していても、その特定の部分がどう機能し、どう作動するかを理解していない為だ。

 

 完成形の自転車という存在の一部分は改造や交換こそ可能だが、構造を理解出来ていない箇所は改造すら不可能だ。

 

 当然だが、1から作る──そんなものは夢のまた夢である。

 

「──なるほど。俺はこの銃の機関部や撃発機構の構造を良く知っているし、必要に応じて換装も出来る。だが、どんな素材をどのようにしてこの形にしているかを知らない。当たり前の話だが、取り扱いは知っていても、製造についてはズブの素人だ」

 

〈──でしょう?人類にとってNIMPHとはそんな存在なのです〉

 

「…これも素人質問だが…何故、構造が分からないんだ?」

 

〈──()()()()()()()です〉

 

 意味するところが理解出来ない。半ばまで燃え尽きた煙草の紫煙を吸い込みつつ彼は眉間へ縦皺を新たに刻んだ。

 

〈──それが何なのか、何処から来たのか、誰が作ったのか、どんな構造で作動するのか、どんな副作用があるのか──誰も知りません。コピー&ペーストは可能です。少しの改造も。しかしそれ以上は分かりません。人類は、そんなものを使っているのです。ニケの頭部には、そんなものが入っているのです〉

 

 良くそんな物を使う気になったものだ。いや、藁にも縋る思いから来る心情は間違いなくあっただろう。人類という種族が絶滅の危機に瀕している。その状況が迫りくる中だ。得体の知れない物だろうと、利用できる物は利用する。滅びの運命から逃れる為、或いは延命措置の為に。

 

〈──これが私が、NIMPHが危険だ、と言った理由です。頭の中に入っている爆弾が、いつどんな問題を起こすか誰にも分かりませんから。人類は便利だから、という理由だけでこれを乱用しているのです〉

 

「…俺の知り合いが言っていたか。NIMPHは、その存在自体がニケに永遠を与え、その永遠が戦場の恐怖を薄める時もあり、無茶な作戦に飛び出す勇気をくれる時もある──だったか。まぁ、便利とまでは言ってはいなかったがな」

 

〈──私も便利だという点には同意します。しかし、あまりにも危険です。──だから、私は貴方がしようとしている事に反対はしません。ヨハンも反対はしないでしょう〉

 

「…まぁ、そうだな。確かに反対はされなかった」

 

 過去形の話──そういえば、彼が成そうとしているそれはヨハン本人から聞いたのだったことをセシルは思い出す。

 

「…実際は、あの先輩は自分の邪魔をしないなら若造が何をしようとしても気にも留めないだけだろうがな」

 

〈──そこまでは言いません。彼は貴方を気に入っていると思います。まぁ優先するべきことがあるのは否定しませんが〉

 

「…男に気に入られてもな。それはそれとして──何故、俺にこんな話を?」

 

〈──貴方の目標を支持する【人間】もいる、と伝えたかったんです。勿論、貴方の考えとは少し違いますが〉

 

「……ありがとう、と言わせて貰う」

 

 才媛に支持されるとは予想外だ。率直な感想として困惑を覚えてしまうのか、ムーアは銜え煙草のまま指先で軽く頬を掻き、フィルターの間際まで燃え尽きていると気付くなり携帯灰皿を取り出す。

 

〈──アンチェインド弾を手に入れたらヨハンを上手く説得してみて下さい。二人共、引き下がる訳にはいかないでしょうし、どちらも世界の役に立つのは間違いありませんから〉

 

「……拳か脚での説得になるかもしれんがな」

 

〈──個人的なお願いとしては、二人共が無事で済むようにして欲しいですね。──装填が終わったようです。では、また〉

 

 通信が切れる。それを合図としたのか対空砲への装填作業を終わらせたヨハンや彼女達の姿が近付いて来る。

 

 それを認めたムーアは乾燥気味の唇から摘み取った煙草を携帯灰皿へ投げ込んだ後、突撃銃を握りながら腰を上げた。

 

 

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