勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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お久しぶりです指揮官の皆様。

そして──勝利の女神:NIKKE、2周年おめでとうございます!

このまま長く続くコンテンツとなって貰えたら嬉しいですね。

2周年のアニバーサリーイベント………グレイブ…もといエイブ…それにシンデレラ…凄いよ…功労者だよ。∞だったラプチャーの兵力を()()にするなんて……


第16話

 

 

 荒野の中を土埃を巻き上げながら進む一台の武装車輌。その車内で運転席へ腰掛ける青年が銜えた煙草の紫煙を燻らせつつ助手席に横目を向ける。

 

「──大丈夫なのか?」

 

「──何がだ?」

 

 助手席に亜麻色の髪を持つ部下は座っていない。彼女は後部座席だ。そしてその席を定位置にしていたもう一名の部下も車内を見渡しても姿は無い。

 

 助手席に腰掛けるのは腕組みしつつ瞠目しながら何かを考え込んでいる様子の──若作りが過ぎる先輩だ。武装車輌のステアリングを握る後輩から問われ、先輩は主語を抜きに尋ねられたのもあってか聞き返す。

 

「……ノアのことだ」

 

「…あぁ…」

 

 得心の声が漏れ出た。次いで先輩──ヨハンは細い溜め息を吐き出す。

 

「……どう思う?」

 

「──何がだ?」

 

 主語を抜くな──と今度は後輩がヨハンへ暗に告げながら聞き返す。

 

「……ノアのことだ」

 

「…あぁ…。そうだな……生憎と彼女の為人を語れるほど長い付き合いがある訳ではない。俺が彼女について語るのはお門違いも甚だしい──が」

 

「……が?」

 

 続きがあるのだろう。後輩──ムーアにヨハンは見開いたアイスブルーの瞳を向けた。

 

「……心配はある。だが、ネオンも残ってくれた。少なくとも彼女一人だけではない。作戦の準備や立案は地獄絵図に等しい最悪を想定しなきゃならんが……彼女達なら大丈夫だろう」

 

「信じているんだな」

 

「何せ、師匠、だからな。弟子を信じない師匠はいないだろう。逆に聞くが──お前は違うのか?」

 

 図星を突かれたのだろう。率直な問い掛けが後輩から投げられる。それも変化球なしの直球だ。鼻をひとつ鳴らしたヨハンは助手席側の防弾ガラス越しに変わり映えしない荒野の様子を眺め続けた。

 

 

 

 

 

 

 目標地点へ武装車輌が到達する。エンジンが切られ、前後左右の扉が開き、次々と車外に人影が降り立つ。

 

「──ムーア、受け取れ」

 

 突撃銃を繋げたスリングベルトがボディアーマーを纏った身体の上へ通される。弾倉を叩き込み、槓桿が引かれ、初弾が薬室に送り込まれた。慣れた手付きでフォアードアシストが掌底で叩かれた刹那、ヨハンが黒衣の外套の内側から取り出した信号拳銃をムーアへ投げ渡す。

 

 受け取った彼は中折れ式の信号拳銃をふたつに折り、間違いなく弾薬が込められていると認めた。

 

「もうすぐマザーホエールがこの上を通る筈だ。タイミングに合わせて信号弾を撃て」

 

「…俺が撃って良いのか?」

 

 ムーアが問えばヨハンは頷きを返す。それで構わないと言うなら彼としては異論はない。とはいえ信号拳銃を何処へ仕舞えば良いのだろうか。ダンプポーチの中にでも放り込んでおくべきか。

 

「読図法は知っているか?応用すれば敵機の高度を計算できる。良し、時間がありそうだから簡単に教え──」

 

 案外──などと言っては失礼極まりないが、この先輩は面倒見が良い。あくまでも彼自身が認めた相手に限るだろうが。その面倒見の良さを発揮し、彼へ即席の講義を始めようとした瞬間だ。

 

 ──大気を震わせる咆哮が荒野へ響き渡った。

 

〈──残念ですが、それはまた今度ですね。マザーホエールがもうすぐこの上を通ります。ムーアさん。御自身で判断し、信号弾を発射して下さい〉

 

「……了解した」

 

 ヘッドセットやイヤホンのハウジング、或いはラピやアニスの耳の中で無線を介してオペレーターであるセシルの声が響く。

 

 齎された報告へ了解の旨を返しつつ、ムーアは仕舞う必要がなくなった信号拳銃を左手へ握り直した。

 

 ノイズキャンセリング搭載のヘッドセットは聴覚や鼓膜に宜しくない爆音の類を打ち消してくれる機能を有している。それは有り難いことだ。しかし、突如として昼間であるのに周囲が暗くなり、大気がビリビリと震え、頭上へ迫る巨影の気配を肌身に感じてしまう。こればかりはノイズキャンセリングではどうしようもないらしい。

 

 太陽が──遮られた。

 

「──ね、ねぇ、指揮官様、ラピ。急に暗くなったけど…()()()の影のせいじゃないよね?」

 

「──そうよ」

 

「──残念なことにな」

 

 見上げれば分厚く黒々とした雲の底が──否、敵機の巨影が、蒼穹の覇者の如き威容を放つその姿が迫っている。

 

「こんな大きいのね…」

 

「鯨油は何バレルになるかな」

 

 大昔の捕鯨船の乗組員が総出でボートを出し、大振りの銛を寄って集って打ち込んでも仕留め切れるか。だが、あれだけの大きさ──一攫千金も夢物語ではない。

 

 とはいえ生憎と、あの巨影は鯨肉や鯨油の類は取れないのだが。その代わりに有意義な使い道は存在する。

 

 しかしだ。スケール感を間違えて──育ち過ぎてしまったクジラにしか見えない。身体は黒鉄(くろがね)で、しかも空を翔んでいるという違いはあるにせよだが。

 

〈──マザーホエール、射程圏内に突入。ムーアさん、いつでもどうぞ〉

 

「了解。──あぁ、そうだ。ヨハン」

 

 空飛ぶクジラを眺めているのも良いが、目的は物見遊山ではない。あの()()()()を地上へ引き摺り下ろし、約100年物のコアを確保することである。

 

 預けられた信号拳銃の撃鉄を親指で起こし、銃口を頭上へ上げたムーアは作戦が始まる前に済ませておきたい話があったと思い出す。ヨハンへ横目を向ければ、その先輩は後輩へ続きを無言で促した。

 

「先程の読図法の件だが──」

 

 まず2箇所の地点──飛行物体が通過する航路を挟む形で測定点を設ける。それぞれの地点で互いの測定点を指し示す方向に分度器を向け、その方向を飛行物体が横切った瞬間に2地点同時に仰角を読み取る。地図上から拾った2箇所の地点の距離、標高差をそれぞれの仰角から三角測量の要領で水平距離と高度を導き出す。

 

「──1地点だけでも導き出せはするが、誤差が生じる可能性は高い。正確性を求めるなら2地点を設けた方が良いだろう。──合ってるか?」

 

 何を言うかと思えば──ヨハンは薄く苦笑いを浮かべながら外套を纏った肩を軽く竦めてみせた。

 

「──正解だ」

 

「それは良かった」

 

 正解を返されたムーアが信号拳銃の引き金を引く。

 

 打ち上げられた信号弾──それが空中に赤い華を開かせた。

 

 数秒後、砲弾の落下音にも似た鋭い音が大気を切り裂きつつ蒼穹の覇者の如き威容を誇る巨影へ迫る。弾着の衝撃音も凄まじい。弾着と同時に発砲音が届いた。

 

 打ち込まれた砲弾──巨大な銛へ連結されている太いワイヤーは人間の胴体ほどはある筈だ。

 

 続いて第二射。

 

「──シンプルな攻撃だけど規模が大きすぎて迫力あるわね…!」

 

「──そうだな」

 

 かつての先人達も大海の巨鯨に挑む際はこのような攻撃をしていたのだろうか。尾鰭の一撃で舟が容易く砕かれ、人が木っ端のように吹き飛んだであろう。その先人達に倣っての作戦は果たしてどうなることやら。

 

 そして第三射──

 

「──三番アンカーが遅い!ネオンとノアの方!?」

 

「──も〜!だからあの二人だけだと心配だって…!」

 

 弾着が遅れている。なんらかのトラブルでも発生したのだろうか。対空砲そのものに不具合があったのなら由々しき事態である。

 

 しかしそれは杞憂に終わった。

 

〈──来ます〉

 

 ムーアの両耳を覆うヘッドセットのハウジングを震わせたセシルの声。何が来るのか──それは言わずもがな。巨大な銛が一直線に巨鯨へ向かって突き刺さり、凄まじい轟音を響かせながらの弾着。

 

〈──三番アンカー命中。アンカーを回収します〉

 

 ワイヤーの巻き上げが始まった。

 

 地表へ向け、巨鯨がゆっくり、徐々に、しかし確実に降下を始める。

 

 地表へ下がって来る程にその巨躯を実感させられる。あれも第1次ラプチャー侵攻当時のラプチャーだ。人間の細胞を吸収したコアを有していることからも多数の人類を捕獲──もとい()()したのは想像に難くない。おそらくは人間以外の動物もだろうが。その際の捕食方法は如何なるものだったのか。

 

 それこそヒゲクジラが海水ごとオキアミや魚を丸呑みし、ヒゲで獲物を濾し取って摂食する遣り方に近いものだったのかもしれない。

 

 いずれにせよ、凄まじい光景であった筈だ。

 

 機械力が無きに等しかった時代、文字通りの怪物を相手取っての死闘は数百の人間が集まって、やっとイーブン。人海戦術を駆使し、網で巨躯を絡め取って銛を大量に打ち込んで弱らせ、噴気孔から血の飛沫を火山の噴火の如く噴き出させるまでどれほどの労力が掛かっただろうか。

 

 想像を膨らませるしかない。だがいくら想像を膨らませたところで実際の光景を前にすれば、どれほど自身の想像が矮小であったかを思い知るだろう。

 

〈──1200……800──〉

 

 セシルが順調にマザーホエールが引き摺り降ろされている旨を伝える高度を読み上げていた時だ。不意に遠くから──三方から衝撃音が響いた。何が起こったのか、とヨハンやムーアの双眸が細められる。

 

 人間の胴体程の太さを持つワイヤーの巻き上げが止まっていた。

 

〈──マザーホエール、高度下降停止。高度維持中。ヨハン、ムーアさん。マザーホエールが逆噴射を開始しました〉

 

「…逆噴射?…随分と往生際の悪い…まぁ、モビィ・ディックと比べたら大人しい方かも知れんがな。それにワイヤー()も切られていない」

 

〈──架空の存在と比較するのは如何かと思いますが?〉

 

「知らんのか?実際に存在した白鯨をモデルにしているんだぞ」

 

〈──それは初耳です。やはり不死身のような強さだったとか?〉

 

「いや、最期は討ち取られた筈だ」

 

 文学の談義も結構だが、まずはあの()()()()を引き摺り下ろすことが先決だ。

 

 ヨハンはセシルへイサベルとのホットラインを作るよう要請する。まだ銃火器の射程外。彼女を呼び出し、空中で攻撃を加えて逆噴射を停止させた後に再びワイヤーを巻き取るのだ。

 

 セシルが彼の要請に応え、ホットラインを作ろうとした時、マザーホエールの異変を捉える。

 

〈──お待ち下さい。マザーホエールの背面開放。…ラプチャー多数が墜落──いえ、降下します〉

 

「え?あの高さからラプチャーを落とすの?」

 

「地面にいる私達や砲台を狙ってるのよ」

 

空挺降下(エアボーン)か。対空機関砲でも持って来れば良かったな」

 

 ムーアから舌打ちが響く。見上げれば空中で停止しているようにも見える巨鯨から多数の細かい点が地上を目指して降下を始めている。徐々に明らかとなるシルエット。大半が飛行型のラプチャーばかりだ。

 

〈──全員、戦闘準備。エンカウンター〉

 

 事務的かつ静かな交戦の宣言が無線越しに響く。それを合図にムーアはアニスへ目配せし、停車している武装車輌に向かうよう指示する。

 

「──私、あんまり撃ったことないんだけど!当たんなくても怒らないでよね!」

 

 地上型のラプチャーが密集しているなら兎も角、飛行型の敵機に擲弾を直撃させるのは難しい。その為、ムーアはアニスへ武装車輌に据えられた50口径を使わせるようだ。

 

 駆け足で彼女は車輌の扉を開き、銃座へ就く。12.7x99mmの弾薬が連なったベルトリンクを納めている弾薬箱を開け、次いで機関銃の尾筒蓋を開き、初弾を込めると蓋を閉じて槓桿を続けて二回引く。

 

「──指揮官様!いつでも撃てるよ!」

 

 アニスからの報告に彼は了解を返す。ラピは自身の突撃銃の安全装置を外しつつ銃口を降下してくる敵機の群れへ指向した。 

 

「──準備は良いか?」

 

 彼がラピへ問う。すると彼女は僅かに首肯を返した。

 

 緩やかな降下を続ける敵機の群れ──その先頭が射程内へ入った瞬間だ。

 

「──撃て!!」

 

 ムーアの指示が下る。それを合図にアニスは機関銃の押し金を両手の親指で押し込んだ。重低音の連続射撃の銃声。同時に弾薬箱からはベルトリンクに連なった弾薬が引き出されて薬室へ飲み込まれて行く。

 

 ラピの人差し指も引き金を引き切り、空へ向かって大口径の弾頭を撃ち込み始めた。その横ではムーアの突撃銃も火を噴き、降下する敵機の機体を弾頭が切り裂いて爆散させる。

 

 銃声の三重奏──その観客となったヨハンは交戦するムーアの背中へアイスブルーの双眸を向けつつ、僅かだが口元を緩めた。

 

 







「──操縦手(ドライバー)、エンジン始動」

 周囲、特に車体後方の安全を確認した車長の命令が下る。

 それへ応じた操縦手は何度も繰り返した手順を踏み始めた。

 狭い操縦席へ設けられたメインパネル。エンジン始動を司るボタンを1秒長押し。エンジンが掛かった。この数十トンに及ぶ怪物──戦場の王者を王者たらしめる心臓部に火が入る。

 甲高いエンジン音を轟かせるガスタービンエンジンの状態は快調。鋼鉄の巨獣が御機嫌に吼えている。回転数や油圧を計器類で確認しつつ操縦手はブレーキ、トランスファーのチェックを続ける。

「──装填手(ローダー)、初弾は装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)、次弾も同じ。砲手(ガンナー)、俺の命令を待て。ブリキ共に一等痛いのを喰らわせてやるぞ」

 ヘッドセット越しに鋼鉄の怪物を操る搭乗員達の歓声が響く。鋼鉄の巨獣──もしくは高価な鋼鉄の棺桶だろうか。巨獣となるか棺桶となるか、そればかりは神のみぞ知る。

「──さぁ、行くぞ。俺等の出番だ。戦車の出番だ。まだ俺等(戦車)は戦場の王者の座を譲った覚えはねぇってことをブリキ共に教えてやる。──戦車、前へ」

〈──了解〉

 鋼鉄の巨獣が唸り、履帯を回転させ、大地を踏み締めつつ前進する。その巨体の両脇へ随伴するのは小柄な体躯の鋼鉄の野獣。

 対機甲──今や対ラプチャー戦闘と同義のそれとなったが役割は変わらない。

「──俺の曾祖父(ひいじい)さんは大戦の時、戦車乗りだったって言ったっけ?」

〈──あぁ、聞いたことはあります。親衛隊じゃなくて国防軍の方でしたか〉

〈──乗ってたのはティーガー?〉

〈──ティーガーか。カッケェ。大戦の後、こっちに移り住んだんだったな〉

「──そうらしい。会ったことはないが、まさか自分の子孫も負けが見えているってのに戦車乗りしてるなんて夢にも思わねぇだろう」

 車長の冗談と軽口に搭乗員達が笑う。なんとも因果な運命だ。

 かつての先人達もそうだが、こうして同じ鋼鉄の巨獣を操る以上は一蓮托生の仲。戦車の、そして戦車兵の役割(運命)は古今変わらない。





……こんな感じのお話って需要ありますかね?(唐突
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