勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
〈──
〈──了解!指揮官より各車、指揮官より各車!下車戦闘!繰り返す、下車戦闘!搭乗口付近の敵機を掃討する!〉
エレベーター内に収まった2輌の6輪駆動のトラックへ備えられた車載無線機からは断片的ながらも現在の状況を報せる交信が流れている。
「アークにラプチャーが!?」
「嘘でしょ…」
銃声も混ざった交信は否応なしに彼女達の緊張感を高める。トラックの
「──残り2分!ラプチャーとの接敵と交戦が予想される!戦闘準備!初弾を装填しろ!」
アークまでの到達時間は刻々と消化されている。もう間もなくだ。
防弾性のリアガラスに設けられた窓を開け放った彼女が声を張り上げ、荷台に搭乗したニケ達へ檄を飛ばす。
彼女自身も携行する突撃銃へ弾倉を叩き込み、薬室へ初弾を送り込む為に槓桿を鋭く引いた。
ふぅ、と呼吸を整える。大丈夫だ。ラプチャーとの交戦はこれが初めてではない。それこそ前哨基地配属前の地上で、或いは配属後も時折侵入して来る敵機の対処で──
「──気負わないで」
「──あぁ、そうだな。少し気負いすぎだ」
不意に肩へ、次いで金髪の太い房が二本揺れる頭へひとつずつ手が置かれた。
運転席に腰掛けている──同じくテトララインが製造した量産型ニケI-DOLL・フラワー、フラワータイプとも呼ばれるニケ達の1名が彼女の肩へ細い手を置いている。
頭へ手を置いたのはミシリス・インダストリーが製造した量産型ニケ──ミシリスで12番目にラインナップされた量産型モデル、プロダクト12。荷台に腰掛ける分隊長の一人である。彼女は開け放たれたままの窓から突っ込んだ片手で無遠慮にワシャワシャと頭を撫で付け始めた。
フラワータイプの彼女も目元を覆うバイザーを空いている片手で持ち上げ、やや垂れ目の、優しい気性の持ち主であると分かる双眸を分隊長へ向けながら口を開く。
「──ひとりで戦う訳じゃない。私、分隊の皆、基地の皆、そして指揮官達。皆一緒に戦うんだから」
「──そうだな。それに私も分隊長の一人だ。少しぐらい頼れ。でないと拗ねるぞ」
戦闘用の装甲服──装甲板が全身の至る所に目立つプロダクト12も被ったヘルメットに備えられているバイザーを指先で押し込んだボタンで格納し素顔を曝け出す。童顔なのが少しコンプレックスだと以前に彼女は漏らしていた。その童顔に似合わない言葉遣いをするものだから素顔を見慣れていない者は面食らいがちだ。
その二人から掛けられる言葉にサンタイプの彼女は一瞬呆けた。
分隊長としての義務、責任は存在する。分隊員達を纏め、指揮官の──今回は指揮権の一部を委ねられた
与えられた義務と責任は果たさなければならない。しかしそれを一人で背負い込むな──運転席、荷台へ腰掛ける
「──ありがとう」
礼を告げながらバイザーを元の位置へ戻した彼女は続ける。
アーク到着まで──残り10秒。
「さぁ、行くぞ」
「あぁ。仕事の時間だ」
「えぇ。頼むわね。
フラワータイプの彼女もバイザーを下ろし、ステアリングを握る。プロダクト12、分隊長の1名も再びヘルメットのボタンを押し込んでバイザーで目元を覆った。
エレベーターの降下速度が緩まる。停止──そして扉が開いた。
「──指揮官様!残りのトラックが来たよ!」
「──了解!ネオン、撃ちまくれ!」
武装車輌の銃座へ就いたネオンは握り込んだ握把の中央に設けられた押し金を両手の親指で押し込み続ける。一切、押し金は緩められない。ラプチャーの群れへ向かって50口径の弾頭を──歴史と確かな実績を併せ持つロングセラーの理由を否応なく教え込むかの如くスクラップを量産した。
下車戦闘が達せられ、各車輌の銃座に就く者達以外は全員は武装車輌から、或いはトラックの荷台から飛び降り、各々が携行する火器を用いての交戦へ突入している。
その最中、彼等の背後──エレベーターの扉が開き、2輌のトラックが辿り着いた。車輌が揃って抜け出るや否や、乗り合わせた量産型ニケ達が荷台から飛び降り、正面へ展開する敵機の群れへ対ラプチャー用の徹甲弾を雨霰と横殴りに浴びせ掛けた。
「──撃ち方止め!撃ち方止め!」
待ち伏せを喰らった形になるが、搭乗口付近に展開していたラプチャーの群れは掃討された。弾薬の必要以上の消費を抑える為、ムーアが射撃を止めるよう声を張り上げる。
舗装された路上には多数の敵機のラプチャーの残骸が黒煙を上げて広がり、撃ち込まれた弾薬の量を物語る空薬莢が散乱していた。
「──各分隊長、損害報告!」
問題なし──損害なし──それを示すサムズアップが分隊員達から出された。
続々と各分隊長から報告が上がり始める。突発的な遭遇による交戦だったのもあり、数名の量産型ニケに損害が発生していた。しかし軽微──戦闘や移動に支障は来さないとの報告であった点に彼女は安堵の溜め息を漏らす。
「──報告します。チャーリー分隊、エコー分隊に負傷者発生。ただし軽微。今後の戦闘に支障はありません」
「…了解した。だが、無理はさせるな」
ムーアまで駆け寄った彼女が口頭で報告を済ませる。ヘルメットを被り、サングラスを掛けた指揮官は撃ち切った弾倉を交換しながら頷いた。
「分かりました。付近の熱源を探知します。まだ残敵が──」
「──熱源探知!ラプチャーです!」
分隊長の1名が鋭く報告を放った。一戦交えて直後の緊張が続いていたのもあるだろう。全員が携えた火器を握り直した。
「方向と距離、数は?」
「──10時の方向、距離は400m!10機程度!」
「…10時の方向?」
ムーアの傍らに立つラピが眉根を寄せる。降り立ったエレベーターの周囲の建物──火災が発生し、黒煙が上がり、普段の様相とは異なるが見覚えがある。
同時にムーアも気付いたのだろう。なにせ到着位置を指定したのは彼自身だ。
「……病院の方向か?」
シェルターの防壁が閉鎖されない。何度、ボタンを押しても防壁は動く気配も見せなかった。
舌打ちが思わず漏れる。
「──先生…!」
足下──不安と恐怖の混ざった声が響いた。
努めて笑みを浮かべた彼女──メアリーは膝を折って腰を屈め、小さな背丈に合わせて纏う病衣姿の女児の頭を撫でる。
「大丈夫ですよ〜。ちょっとここのシェルターは調子が悪いみたいですから別のシェルターに移動しましょうね」
腰を上げたメアリーは周囲を──シェルター内を見渡す。病院の小児科病棟へ入院している子供達ばかりが目立った。
「──ペッパー。ハインツ君をお願いします」
「──はい、先輩」
サッカーが好きな少年だと耳にしている。学校のクラブの練習中に脚を骨折し、入院していた少年を彼女の後輩──病院でも患者達から慕われているペッパーが背負った。
それ以外の子供達は幸いにも自力での歩行が可能である。まずそれに安堵するしかない。
病院地下に設けられたシェルターは既に満員だ。不調のここ以外は、の話になるが。
近郊にはいくつかの同様の施設は存在する。まだ空きがあれば良いが──と
入院中の子供達ばかりだ。身体の不調もあり、院内の移動ですら遅々として進まない。
メアリーが後輩と十数名の子供達を先導する形で病院を抜け出た矢先だ。
一瞬の風切音が鋭く駆け抜けた。
抜け出てきたばかりの病院の正面玄関が爆煙に包まれ、衝撃波が彼等を襲う。
咄嗟にメアリーは手を繋いでいた女児を庇おうと覆い被さった。
子供達から悲鳴が上がる。縋るように伸ばされたいくつもの小さな手がペッパーとメアリーに絡み付いた。
「──皆、急いで下さい!姿勢は低く!」
今のがラプチャーの攻撃か、それとも応戦中のニケが放った何かしらの弾頭の流れ弾か──いずれにせよ移動しなければならない。病院内には戻れそうになかった。
歩道を進み、なるべく近くのシェルターへ移動する最中──彼女達の眼前に人影が現れる。
「──大丈夫ですか!早くシェルターに!自分が誘導します!付いてきて下さい!」
明らかに人間──男性だ。年齢は二十歳そこらだろう。今時の若者らしい服装をしているが、言葉の端々からは軍人や兵士の想像を抱かせた。
先程の爆発で負傷した子供を抱え上げた青年が彼女達を誘導する。
青年が向かう先──数百m先には避難用のシェルターが置かれている。目と鼻の先だ。
しかしメアリーとペッパーの表情は優れない。彼女達は病院で人間の医師として振る舞い、勤務しているが、正体はニケである。
その機体へ搭載された機能が接近する熱源を捉えていた。ニケではない。ラプチャーのそれと思われる熱源だ。
急がなければならない。追い付かれる。
避難用シェルターに辿り着いた。先導していた青年は制御パネルを操作し、内部と通信を試みる。やがて内部に避難していた者達の誰かが応えた。既に満員だと。
「──子供達だけで良い!早く開けて下さい!」
焦燥を露わにしながら青年が叫ぶ。だが内部からの応答は続かなかった。
「──クソッ…!」
他のシェルターに──再びの移動になる旨を伝えようとした青年が振り向く。その視線の先に──禍々しい紅い単眼の光を放つ数機のラプチャーを捉えた。
「──ラプチャー!!」
弾かれたようにメアリーとペッパーが、そして子供達が青年の視線の先に意識が向かう。
敵機との距離は100mもない。しかも数機だったのが、増え始めている。増援だ。
ラプチャーが搭載する砲口の奥で何かが輝き始めた。指向された砲口は真円に見えるだろう。完全に捉えられた。
数秒も経たず、砲口から迸った光芒の中へ全員が纏めて──
その予感が脳裏を過ったのだろう。青年はせめてもの抵抗か抱えていた子供を下ろしつつ他の子供達を自身の背に隠した。
メアリーとペッパーも咄嗟に身体が動く。武装こそしていないが彼女達はニケだ。ガッデシアムの身体が何処まで保つか分からないが、直撃を受けても弾除けぐらいにはなれるはず。
彼女達が青年と子供達の前へ──接近を続けるラプチャーの群れの前へ立ちはだかった。
砲口を彼女達へ向けるラプチャーの攻撃態勢が整ったのだろう。接近する歩みが止まった──瞬間だ。
その敵機が文字通り吹き飛び、道路沿いに建つビルの外壁へ叩き付けられる。
ラプチャーを吹き飛ばしたのは1輌の武装車輌。車体の前方は歪み、凹み、フロントガラスは粉々に砕け散った。
車体ごとラプチャーに衝突させたのだ、と彼女達が理解するのに一瞬の時間が必要だった。
だがラプチャー達はそれ以上の時間を要した。システムに障害が発生したのか、よりにもよって数秒間も機動が停止する。
有り体に言って──良い標的だった。
「──目標正面!各個に撃て!!」
響き渡った高い声音の号令に続き、数多の銃声。敵機の群れが次々と破壊されていく。
突撃銃に機関銃の銃声──飛翔した無反動砲や擲弾の弾頭も敵機に直撃弾を喰らわせた。
「──イングリッド社長に怒られそうだ!」
「──やったの指揮官様でしょ!!」
「──し、死ぬかと思いました!!」
「──確かに
明らかに廃車となった武装車輌──ラプチャーの1機を吹き飛ばした車体の扉は歪んでいたのだろう。力任せに蹴り飛ばすか殴り飛ばし、破壊した扉から続々と車外へ降り立った4名の人影。
「──ムーア少佐…!」
見慣れた人影──担当医かつ主治医である自身の患者の一人だ。
ボディアーマーやヘルメットを纏った長身の青年は武装車輌から降り立つなり、携えた突撃銃を構えてラプチャーの群れへ銃撃を加える。
大半は掃討したのだろう。それを認めた彼は駆け足で部下達を引き連れながらメアリー達が一塊になったシェルター前へ移動する。
「──先生だったか。無事で良かった」
ラプチャーに車輌で体当たり──しかもアクセルを限界まで踏み込んでのそれだったろう。凄まじい衝撃が襲った筈だ。身体が頑丈なのは知っているが、一見しただけでもピンピンしている様子には呆れる他ない。
「無茶をなさいましたね」
「不可抗力ということで見逃してくれ。それよりも急いでシェルターに──」
「──ここは満員だそうです!他のシェルターを探さないと!」
メアリーやペッパーの背後に病衣姿の子供達を認めたムーアが避難を促す。それに意見したのは青年だ。彼は青年へサングラス越しに視線を向ける。
ムーアは口調や発音、なにより
「──ニケ管理部のムーア少佐だ。所属と官姓名は?」
「──中央政府軍装備開発管理局、パトリック・グリフィス伍長であります!」
彼からの問いに青年が答える。やはり軍人であった。
「伍長。この周辺には詳しいか?」
「はい、少佐殿。以前、この区画にある避難用シェルターの整備や改造に携わりました。位置は記憶しています」
「案内しろ。──イーグル。トラックを寄越してくれ」
1輌の武装車輌が走って来た。路上へ転がるラプチャーの残骸、残敵と彼等を分断する形で停車し、車載の機関銃が吼え始める。
その援護を受けながら3輌のトラックが舗装道路を走り、やがてシェルター前へ横付けされた。
6輪駆動のトラックの1輌の荷台から量産型ニケ達がバラバラと下車し、空きのスペースを作ると手分けして子供達を乗せていく。
「──大丈夫。ほら、乗って」
「──ごめんね〜。クッションとか用意しとけば良かった」
その様子を大人しく眺めている訳にもいかない。彼は盾となった車列の隙間から援護射撃を続ける武装車輌を伺った。
「──ラプチャーが集まって来てるな。カウンターズと3個分隊、俺に続け!!」
銃声と爆発に引かれて集結して来たのだろう。路上の奥から蠢く敵機の姿が捉えられた。
ムーアの指示に従い、
3輌のトラックに据えられた機関銃も重々しい咆哮を奏でながら前進する彼等を援護する。
銃声に縮こまる子供達を残された量産型ニケ達が手分けして全員を乗せる。最後にメアリー、そしてペッパーも荷台へ乗り込み、子供達を手招きして抱き寄せた。
「──グリフィス伍長!貴方はこちらに!」
量産型ニケがトラックの助手席の扉を開く。そこに乗り込んで最寄りのシェルターまで案内しろと促した。
頷いた青年は姿勢を低くしながら助手席へ乗り込む。
「──ゴルフ分隊長より指揮官!収容完了しました!」
〈──了解!!〉
車載無線機が指揮官からの応答を響かせる。
援護射撃を続けていた武装車輌が動き始めた。それに合わせ展開したムーアとニケ達も銃撃を加えながら移動を始める。
かなり練度の高い部隊──青年の目にはそう映った。
後退し、トラックの車列へ近付く最中、長身の指揮官が無反動砲を抱える量産型ニケへ何かを指示する様子を青年の瞳が防弾ガラス越しに捉える。
ややあって量産型ニケが肩へ無反動砲を担ぎ──引き金を引いて装填した弾頭を撃ち込んだ。
接近を続ける敵機の群れ──ではなく、廃車同然となった武装車輌に向けて。
燃料や積載した弾薬に引火したのだろう。舗装道路上で花火が炸裂したかの如く光景が広がった。
同時に無反動砲の弾頭や車体の大小の破片が爆発に乗ってラプチャーへ襲い掛かる。
「──あ〜あ」
「──まぁ、新車が配備されると思えば…」
乗り回していたからこそそれなりに愛着があっただろう車輌を見るも無惨な姿へ変える命令を下した指揮官は思い切りが良いのか。量産型ニケ達が漏らす溜め息に青年は同情を抱くしかない。
〈──伍長、聞こえるか?応答しろ!〉
それも束の間。車載無線機から響く呼び出しに青年は慌てた。訓練で扱ったことはあるが──しかも初となる実戦の場で使うとなれば話は別だ。ここに訓練教官が居たら、間違いなく不合格の烙印を押されるだろう拙さで受話器を取り上げて耳に宛てがう。
「は、はいっ!少佐殿!聞こえています!」
〈──最寄りのシェルターまで案内しろ!援護する!〉
「り、了解!えっと…ここから200m先に別のシェルターがある筈です!そこまで移動しましょう」
〈──了解!〉
と、そこまでやり取りしたところで青年は疑問を抱く。
──少佐殿達はどうするのだろう。
1輌は既に廃車──というよりも敵機諸共、破壊してしまった。移動手段はどうするのか。
健在の武装車輌がトラックの車列の先頭に立つ。銃座へ就いた量産型ニケが大きく手招きの仕草を見せる。
それが合図だった。トラックが車列を組んで走り出す。
青年が防弾ガラスの窓越しに外へ横目を向けると──指揮官を始めとしたニケ達は徒歩で走っていた。トラックに並走しつつ、背後を振り向いて追撃して来るラプチャーへ対して射撃を続けているのだ。
「あ、あのっ!少佐殿って人間ですよね!?」
「──はい、人間ですよ!グリフィス伍長と同じ人間です!」
「ラプチャーと戦ってるんですが!?ニケと同じ速度で走ってるんですが!?」
「──でも人間です!──右と左、どっちですか!?それとも直進!?」
「えっ!?あ、右折!右折して下さい!!近くにシェルターがあります!!」
交差点に差し掛かった。どちらに曲がるのか、それとも直進かを問う量産型ニケへ青年は慌ただしく答える。
無線機を通して先頭の武装車輌にも右折の指示が伝わった。
〈──了解!ラプチャーの相手は任せて!〉
先頭を走っていた武装車輌は交差点の中央で停車する。右方向に敵影はない。それを認めた量産型ニケが機関銃を据える銃座を回転させた。
指向するのは追撃して来る敵機の群れ。照星と照門に群れの先頭を被せる。
武装車輌の真横をトラックの車列が、そして徒歩で走っての移動となった指揮官やニケ達が駆け抜けた。
射線確保──押し金が押し込まれた。
「──良かった!ここは使える!」
重低音の銃声が背後から響く中、降車した青年が足を縺れさせながらもシェルターの防壁に辿り着いた。
制御パネルを操作し──防壁が開く。
「──開いた!」
「──さぁ、急いで!!」
量産型ニケ達が手分けしてトラックの荷台から子供達を降ろす。一人、また一人と降り立ち、残ったのはメアリーとペッパーだ。
二人へ指揮官の青年が両手を差し伸べる。それに手を添えた彼女達が荷台から飛び降りた。
「──ッ!」
「──先生、大丈夫か?」
「──え、えぇ、はい。大丈夫です」
転がっていた空薬莢を踏んで着地したからだろう。メアリーの身体がよろめいた。それを太く逞しい片腕が抱き止める。
「──先輩!」
「──えぇ。皆、行きましょう。付いてきて下さい」
子供達の避難を促したペッパーに頷き、メアリーは彼を見上げながら軽く頭を下げる。その礼へムーアは目礼を返した。
「──
「──今、運ぶわ!!」
子供達や彼女達がシェルターへ避難するまで残り僅か。
残敵の一掃へ更に投射される火力は増す。
武装車輌の銃座が吐き出す弾薬も無限ではない。すかさずトラックに積載していた弾薬箱を両手にぶら下げた数名が運び出す。
メアリーに手を引かれる病衣姿の女児は肩越しに背後を振り向く。
交戦を続ける量産型ニケ達が慌ただしく駆け回り、銃撃を続ける姿が丸っこい双眸に焼き付いた。
その凄まじい光景の中、指揮を執り続けながら自らも突撃銃を握り、量産型ニケとは毛色が異なるニケ達を引き連れて前へ出る長身の指揮官の姿が成長途中の脳内、記憶へ焼き付く。
思わず声が出た。
「──お姉ちゃんたち、ありがとう!!」
戦場となったアーク市内。銃声と爆発音が響き渡る渦中だ。幼い子供の声がどれだけの耳へ届いたか。
だが、確かに病衣姿の女児は目撃した。
何名かの量産型ニケ達の片腕が掲げられ、握り込まれた拳。
感謝の声へ応えられた様子を目の当たりにしつつ、女児は手を引かれるままシェルターの中へ入り──やがて防壁が閉ざされた。