勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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第4話

 

 

 

「──ミハラ!あった!」

 

 不意にユニが相方の名を喜色を込めて呼ぶ。

 

 廃墟が建ち並ぶ建物が否応なしにゴーストタウンの雰囲気を醸し出す市街地はやけにその声色を反響させる。

 

 ここからは徒歩、とミハラの言葉に従い、快適とは言い切れなかったが足としては最適であった移動に使用したクルマを降りて約1時間経った頃のことである。

 

 十数分前に遭遇したラプチャーの群れと戦闘も発生したが特に損害もなく彼等が歩き続けていた時、先頭を進むユニが声を上げたのだ。

 

「良くやったわ、ユニ」

 

「へへ。ユニにご褒美くれる?」

 

「それは後で。まだご褒美を上げるレベルじゃないわ」

 

 背嚢に鎮痛剤(アスピリン)の類はあっただろうか。彼女達、ワードレス分隊の仲が良好なのは明らかだが、その会話を聞いていると彼は頭痛が起こりそうである。別に低気圧が発生している訳でもないのだが不思議なものだ。

 

「…なにこれ?足跡?」

 

「そうだよ。ユニが見付けたの」

 

 何を見付けたのだ、と彼女達も歩み寄って確かめると──地面に大きな足跡らしき窪みが出来ている。一行の中で最も足のサイズが大きいのはムーアだがその彼の2〜3倍はあるかという足跡である。

 

「この時代に足跡でラプチャーを追う…!?…貴女、原始人なの…?」

 

 アニスが異端を見る目でミハラとユニへ視線を向ける。センサーの類が発達した現在で原始的な追跡手段に頼っているのだ。驚くのも仕方ないだろう。

 

「…そう馬鹿にしたモノでもないぞ。痕跡の発見と分析は追跡の基本だ。…足の幅は…」

 

「って指揮官様まで…」

 

 ニーパッドを巻いた片膝を突き、ムーアは片手の親指と小指を立てて簡単な計測を始めた。足跡は語らないが、情報は残されているのだ。

 

()()()()()()シグナル(信号)が捕まらないんだ」

 

()()()()()()?追っているというラプチャーの名前ですか?」

 

 聞き慣れぬ固有名詞を口にしたユニへネオンが仔細を尋ねると続けてミハラが首肯し、補足の説明を始める。

 

「そう。コードネーム トーカティブ。ラプチャーのどの規格にも当て嵌らない特殊個体。これが私達がここに来た目的よ」

 

「──その理由は?」

 

 剣呑な雰囲気を隠そうともしないラピが更に仔細を語るよう促すとミハラは肩を竦めてみせた。

 

「それは分からないわ。数ヶ月前にそれを捕まえろって命令されただけだから」

 

 彼女達にも命じたシュエンの意図は分からないとか。ラピはその特殊個体の特徴、そして交戦の経験を問うがいずれも分からないという。ないない尽くしで良くも追跡と捕獲を命じるものだ、とラピの呆れ混じりの眼差しが語っていた。

 

「なるほど。つまり()()()()()()()()()()()のですね」

 

「それを言うなら()()()()()でしょ?」

 

「…二人とも違う」

 

 呑気なものだ。ネオンとアニスが誤った慣用句や諺の類を口にするとラピは溜め息を漏らすのだが──違和感を同時に抱いた。

 

 この手の事にすぐさま反応するであろうムーアが全くの無反応なのだ。

 

 前哨基地へ配属されてからというもの、それまで分からなかった彼の一面には触れてきたつもりだ。割りとノリが良いのである。

 

 だというのに無反応なのが彼女は不思議で視線を地面へ向けると──ムーアは足跡から目を離し、虚空を見詰めていた。

 

「…指揮官?」

 

…どうにもチグハグな印象…足跡の陥没具合から重量はあるんだろうが…それにしては足の大きさが釣り合わない…恐竜じゃあるまいし踵を浮かせるような歩き方…アンバランスに鍛え過ぎたチキンレッグみたいな体格…ついでに猫背気味…矯正した方が…

 

「指揮官?どうかなさいましたか?」

 

 虚空へ目を遣り、ブツブツと何事かを彼は呟いていた。濃い茶色の瞳が細められ、無感情の表情のまま唇だけが動いている。

 

 ラピが手を伸ばし、彼の肩を軽く叩いた瞬間──それまで呟いていた声が嘘のように消え、ムーアが振り向きつつ彼女を見上げた。

 

「──どうした?」

 

「…いえ、そろそろ前進です」

 

「そうか」

 

 頷いた彼が腰を上げながら片膝のニーパッドへ付いた泥を軽く手で叩き落とす。

 

 普段通りのムーアであるのは幸いだが、先程のはなんだったのだろうか。何か不調でもあるのだろうか。

 

 彼女の懸念を他所に彼は煙草を取り出して銜えるとオイルライターで火を点ける。先頭を再び歩き出したミハラとユニとの距離を考え、わざわざ真横へ向けて紫煙を吐き出している辺りは気遣いが出来る普段通りの姿だった。

 

「…何故、我々が追跡に投入されたのでしょうか?」

 

「…さてな。暇そうだったからじゃないか?それか気紛れ」

 

 ムーアの隣を進むラピが尋ねると彼は周辺を警戒しながら返した。とはいえ彼が返した予想には彼女も納得出来ない。あの態度とはいえ、三大企業の一角を担うCEOだ。なんらかの打算があったからこその問答無用での投入であって然るべきである。

 

「──あなた達が使えそうだからよ」

 

 ムーアとラピの会話が聞こえていたのだろう。或いは聴覚のセンサーを彼等へ意識的に指向していたのかミハラがおもむろに投げ掛けた。

 

「──指揮官が初めて参加する作戦で死亡する確率はどれぐらいか分かるかしら?」

 

「……70%」

 

 ミハラの問いにラピが答える隣で彼は予想よりも高い確率に内心で驚いていた。10名が投入された場合、その内の7名は戦死する。無論、確率の話であって絶対ではない。

 

「御名答。そして次の作戦では死亡率が更に高まるわ」

 

「なるほど。ってことは…その()()()()()を攻略したのがウチの指揮官様か。だからシュエンだかシュークリームだかが私達を扱き使うってこと?」

 

「正解」

 

「うはぁ…指揮官様、聞いた?これ指揮官様のせいだよ?」

 

「…俺の責任なのか?」

 

「──ついでに言えば…指揮官の()()も理由のひとつかしらね。本当に…()()そのものだわ」

 

 アニスが頭だけを向けて茶化して来ると彼は煙草を銜えながら眉間へ一本だけ皺を追加で寄せる。これはまだ困惑の証だったが、続けてミハラも肩越しに振り向いてムーアがスリングベルトで吊るしている突撃銃へ視線を向けながら意味ありげに告げれば彼の眉間へ二本目の縦皺が刻まれた。 

 

「何人?今までこうやって追跡と捕獲の為に使い捨てにされた指揮官は?」

 

「…正確には分からないけど40人は超えるはずよ」

 

この人(指揮官)も使い捨てにするつもり?」

 

「さぁ?それこそ()()が起きるか起きないかの問題じゃないかしら?」

 

 生死に関与は出来ない、とミハラは肩を竦めて再び前を向いて歩き始める。

 

 無言のままラピが敵意を滲ませる視線を後ろ姿へ向ける中、ムーアの片手が彼女の背中を軽く叩いた。何も彼は口にしないが「気にするな」と言わんばかりである。

 

「私もCEOになれば良かったわ〜。一度で良いから人を顎で使ってみたいし」

 

「私達も会社を作りましょうか」

 

「…どんな業態の会社になることやら…警備会社になる可能性が高いな」

 

「あ、それならなんとかなるかも。そうしようかな〜」

 

 アニスとネオンはわざとらしく口にする冗談なのか本気なのか分からない相談に彼が真面目に返している横でラピは小さく頭を下げた。

 

「…指揮官。申し訳ありませんが作戦の拒否は…」

 

「三大企業のCEOはアークで特別な存在。それこそ軍の命令系統に介入できるほど」

 

「…はい。一介の指揮官と分隊がどうこう出来る存在ではありません。仮に拒否した場合は…」

 

「泣かせるどころか失禁させたばかりだがな。…まぁあれが限界なんだろうと理解はしている。実に業腹だが…この作戦は続行するしかない。俺はどうなろうと構わんが…」

 

 ──この人は優しすぎる。

 

 業腹──腹立たしいと口にする程にこの作戦への参加を彼は拒絶しているが、それを敢えて曲げている理由が彼女達の存在にあると理解したラピは内心で溜め息を吐き出す。

 

 決して不快な訳ではない。その逆の感情が湧き出ないと言えば嘘になる。しかし──これは致命的だ。

 

「──ラピ」

 

 ふと彼が名を呼べば彼女が視線を向ける。

 

 ムーア自身が被るヘルメットの下へ付けたヘッドセット。その両耳を覆うハウジングの片側を無言のまま指先で軽く叩いて見せた。

 

 ──シフティーと連絡を試みろ。

 

 言葉にされずとも彼女にはその意図が不思議と分かり、微かに頷いて了解を示した。

 

 さながら以心伝心とでも言うべきか。──その姿を肩越しに認めたミハラは僅かに口角を意味ありげに緩めてしまう。

 

 足跡を頼りに本格的な追跡が始まった。

 

 追跡が始まれば必然とラプチャーとの遭遇、戦闘が発生する。地上で1時間以内にラプチャーと遭遇する確率は100%。それを改めて認識させられる気分であったのは言うまでもない。

 

 しかし──

 

「…足跡が消えたわ」

 

 地面に穿たれたトーカティブとやらが残した痕跡が突如として消えたのだ。

 

 ここまで点々と続いていた足跡が消えたというのは不自然だが、ミハラは事実を受け入れ、淡々と来た道を戻ろうと全員に告げる。

 

「──待った」

 

「──うん。なんかおかしい」

 

 彼とユニがほぼ同時に声を上げる。ムーアは片膝を付いて地面に残された()()()の足跡を良く観察する中、ユニは周囲を見渡す。

 

「…ここで強く踏み込んだ。まるで跳躍する寸前のように」

 

「…あ!ミハラ、あそこ!」

 

 爪先と言えば良いだろうか。足跡の指の部分が向けられている方向へ彼とユニの視線が同時に向けられる。

 

 崩壊寸前とも言うべきビルの外壁に規則的な穴が穿たれ、それが屋上を目指して残っているではないか。

 

「…あのような機動が出来るラプチャーは今まで…」

 

「有り得ないわよね。ラプチャーは基本的に四足歩行なのよ」

 

「だから()()()()ということなんだろう。有り得ないは有り得ない。何事にも例外は存在する」

 

 ラピとアニスへ対して彼は腰を上げながら告げると同意するようにミハラが頷いた。

 

「えぇ、新たな情報ね。トーカティブは壁を伝って移動できるって。それから──私達の追跡に気付いてる」

 

「そうだな。まるでクマやシカの()()()だ」

 

「…ってなに?」

 

「…野生動物が捕食者やハンターから逃げる際に使う手法だが…知らないか?」

 

 何気なしに彼が例えに出した表現にミハラを始め、ラピ達も揃って首を横に振った。逆に今度は彼の方が首を傾げてしまう。

 

 ──そういえば何故、俺はこんな事を知っているんだ。

 

「──ミハラ!ご褒美!ご褒美!」

 

 彼が内心で湧き出た疑問を解決しようとしている間に眼前ではユニが飛び跳ねながらミハラへご褒美を強請る。仕方のない子と言わんばかりに彼女はユニを手招きすると膝の上へ座らせた。

 

 そして──

 

「──ミハラァ…痛い…?どう…?」

 

「──そうね…ハァハァ…すごく…ァッ…痛いわ…ッ!」

 

 ──おもむろに露わとなっている太腿をユニが細い指先で抓り上げ、喘ぎか嬌声にも似た悩ましげな声をミハラが奏で上げる光景が眼前で繰り広げられる。

 

「…ね、ねぇ…私…混乱してるんだけど…」

 

「…師匠…これは一体…何が起きているんでしょうか…?」

 

「…俺に聞かないでくれ。…端折って解説するとしてもSとMの嗜好の違いから話さなきゃならん」

 

「…良く御存知のようですね。()()()()()()のことを」

 

「…知識として持ってるだけだ」

 

「え?()()()()()()ってなんですか?」

 

 ネオンは知的好奇心が旺盛なようだが、彼は詳細を答えるつもりはないのだろう。ミハラとユニが繰り広げる光景から目を逸らすように背中を向けるや否や煙草を銜えて火を点けた。

 

 

 




おや?ムーア中尉の様子が…(ポ○モン風
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