勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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本年もお付き合い頂きましてありがとうございました。来年もお付き合いの程をどうか宜しくお願い致します。


──俺の勝利の女神(SSRラピ)、待っててくれよ!!今、迎えに行くからな!!


第5話

 

 

 小隊指揮官であるムーアから示された移動の経路。それを示されたアルファ分隊長(イーグル)は怪訝な様子で眉根を寄せた。その経路で向かった場合、目的地となるのは──勿論、ムーアのことだ。なにかしらの考えがあるのは間違いない。

 

 特殊別働隊の彼女達も最初こそ困惑をしていたが、最終的には承知し、最短距離で──アークの市街地を横切る(突っ切る)経路が示される形となった。

 

「──でも、なんでだろうね?」

 

「──お考えがあるのよ。──で、グリフィス伍長」

 

 通信障害が生じており、携帯端末の地図を開くことは出来ない。そもそも現在地すら表示されないだろう。しかしニケである彼女達はアーク内の地図を脳内へ記憶している。彼が示した経路や道路で目的地へ辿り着くことに支障はない。

 

 ラプチャーと交戦しつつになってしまい、更に前提として倒壊したビルや瓦礫の山が道を塞いでいなければの話だが。

 

 高層ビルから剥離し、路上へ散乱する瓦礫──大きいそれは避けるが、比較的小さなものは踏み越えながら車列が進む。

 

 武装車輌へ乗り込んだイーグルが助手席(車長席)から横目を向ける。運転席でステアリングを握る()()()へ問い掛けた。

 

「今更ですが、なんであんなところに?」

 

「休暇中だったんですか?」

 

「──え、えぇ、まぁ…」

 

 どうも歯切れが悪い。私服姿にボディアーマーとヘルメットの格好はなんともチグハグの印象が拭えない。それは仕方ないにせよ、折角の休暇であった筈がとんだ災難だ。

 

 車輌の運転については問題ない。問題ないどころか上手い。伍長曰く、所属先で様々な種類の車輌を運転・操縦する機会に恵まれているとのことだ。機会が最も多いのはフォークリフトだそうだが。

 

「……実はあの近くで待ち合わせをしていたんです」

 

「待ち合わせ?」

 

「はい。…といっても面識はありませんでしたけど……マッチングアプリで……」

 

 彼の言葉にイーグルを始めとした車内の全員が、あぁ、と納得した。歯切れが悪い理由をなんとなくだが察してしまった。

 

「──ドタキャンでもされた?」

 

「…………」

 

 銃座に就く分隊員が腰を屈め、車内へ一瞬戻ったかと思えば慈悲の欠片もない一言を放つ。それに伍長は返す言葉もないようだ。図星だったらしい。

 

「…ドタキャンされたのは…別に良いんです。悪戯目的だったとしても……やりとりしていた人がちゃんと避難出来ていたならそれで…」

 

 絞り出した言葉。それを聞き取った彼女達は思わず感嘆を抱く。

 

「きっと良い出会いがありますよ」

 

「そーそー。気にしない気にしない」

 

 ()()()()()だったのは仕方ないにせよ、彼女達の指揮官へ向けて紛いなりにも啖呵を切ってみせた。その姿と心意気を彼女達は評価している。

 

 おそらくあの状態──無精髭を蓄え、地上から帰ったばかり、疲労と空腹で機嫌が良好とは言えないムーアと対峙して大口を叩ける者がどれほどいるだろうか。

 

 そして伍長と会話する度に感じるのは彼はニケへ対する悪感情の類は持ち合わせていないらしい。

 

 それらを考えると非常に稀有な人物である。しかも性根は善良であると伺えてしまえば、青年へ重なった不運に同情すら浮かんでしまう。口々に車内から伍長へ気遣う言葉が放たれた直後だ。

 

「──2時方向、敵機!!」

 

 銃座の50口径が唸りを上げた。進行方向のやや右側。ビルとビルの間へ設けられた細い舗装道路から姿を覗かせた異形の──しかし見慣れた敵機。

 

 捕捉した旨を鋭く報せつつ、機関銃を操る分隊員が銃撃を始めた。車列の先頭を走る武装車輌である。敵機と真っ先に遭遇し、交戦するのは仕方ないとはいえ、その頻度が多いと彼女達は感じた。

 

「──侵入したのは何機よ!?」

 

「さてね!──後続に達する!2時の方向に敵機!接敵した(コンタクト)!すれ違いざまに()()()()()!──伍長、止まるな!アクセルを踏め!」

 

 車載無線機の受話器を掴んだイーグルは鋭い歯列が描かれたフェイスマスク越しに後続車輌へ警告と応戦を呼び掛ける。

 

 直ちに全車両からの応答が戻ってきた。車列を構成する全車輌の銃座も吼え始めた。装甲板を貫通する徹甲弾をしこたま()()()()()()敵機はたちまち穴だらけ。紅い光を放っていたコアが沈黙する真横を車列が通過する。

 

 先程から似たような状況ばかりが続いている。

 

 全く、なんという日なのだろう。イーグルは受話器を無線機へ引っ掛けながら舌打ちをかまし──ふと気付く。

 

 伍長(人間)へ対し、命令を放ってしまった。

 

 ──やっちゃった。

 

 ニケだというのになんということを──と後悔が芽生えるも、次いで思い出したのは指揮官であるムーアの言葉だ。

 

 伍長は分隊へ臨時に編入された新人かつ下っ端。扱き使って構わない、というそれだ。

 

 ならば分隊長(リーダー)である者に従う義務が生じる──筈だ。そうだ、きっと、たぶん。

 

 この状況下だ。本来の在り方に拘ったところで何の得にもならない。割り切ろう──と決心したその時だ。

 

「──ッ!伍長、伍長!ブレーキ!ブレーキ!全車停止!全車停止!停まれ!」

 

 運転席へ腰掛ける張本人へ鋭く指示を放ちながら車載無線機の受話器を掴み取り、全車輌に停止を命じる。

 

 進行方向に人影を複数発見したのだ。大きく手を振り、存在を示している。

 

 ブレーキが強く踏まれた拍子に慣性の法則が働き、身体が前のめりに大きく傾いた。

 

 避難が遅れた市民か。駆け寄って来る複数の人影へイーグルは目を凝らす。

 

「──A.C.P.U.の者ですぅ!どちらの部隊ですかぁ!?」

 

 いや、市民ではない。複数の人影──2名分のそれらは警官のようだ。

 

「──前哨基地所属のアルファ分隊です!」

 

 銃座へ取り付く量産型ニケが駆け寄って来る2名の警官達──随分と特徴的な外見をした者達へ所属を告げる。

 

 前哨基地。それを耳にした白銀の長髪を持った警官──何処となく犬を彷彿とさせる外見の小柄な女性が双眸を大きく見開いた。

 

「前哨基地!?ということは…ムーア少佐の部隊ですかぁ!?」

 

 なんだろう。締まらない間延びした特徴的な語尾が癖なのだろうか。

 

 ムーアは何処にいるのか、その人物は銃座へ就いた量産型ニケへ尋ねる。後続車輌であるトラックの荷台だ、と返された途端、A.C.P.U.の所属だという二人組は後方へ向かって走り出した。

 

〈──イーグル。どうした?〉

 

 車列の前進を停止させる指示を下した為、無線越しにムーアが理由を問い質して来た。イーグルが受話器を握りつつ返答する。

 

「イーグルより指揮官。どうやら指揮官のお知り合いのようです。A.C.P.U.の方々でした」

 

〈──A.C.P.U.(警察)の知り合い……あぁ、居たな。目視で確認。了解した。──指揮官より全車へ。別命あるまで待機。爾後の行動は追って指示する。エンジンは切るな。周辺警戒を厳となせ。アルファから了解か。送れ〉

 

 指揮官からの命令と指示への応答は無線を介して各分隊長が順繰りに告げて行く。最後にゴルフ分隊を率いるオーシャンタイプと呼ばれる量産型ニケの彼女も了解を返した。

 

 彼女は戦闘支援兵科としての衛生兵(メディック)の役割がある。分隊そのものがそれに特化している為、戦闘不能一歩手前の損害を負ったニケ、或いは人間へ対する戦術的第一線救護(TCCC)の活躍が期待されている。尤も、活躍がないことが一番なのだが。

 

「……つーかウチらってA.C.P.U.(警察)と合同訓練とかしたっけ?」

 

「してないよ。知ってるでしょ?──指揮官の個人的な知り合いとかじゃない?」

 

「指揮官の知り合い…つーことは…あの人達ってニケ?」

 

「かもね。指揮官って()()だから」

 

「た、誑し?」

 

 指揮官である彼への陰口──にあたる言動かはさておき、軽口なのは間違いない。十中八九で当たっているだろう予想を立てるイーグルや分隊員達の会話に()()()は付いて行けないのか不可視の疑問符を頭上に浮かべていた。

 

「そーそー。ウチらの指揮官は()()()()なの」

 

「ファニーとかが被害者だっけ?第何号?」

 

「──ちょっと!勝手なこと言わないでくれる!?」

 

 50口径の機関銃が据えられた銃座へ就いていた量産型ニケが再び車内へ戻って来るなり、からかう分隊員達を一喝する。ニケフィリアクラブから救い出された後に前哨基地配属となった彼女──色素の薄い頬が赤く染まっていることを彼女自身は気付いているのか否か。

 

「べ、別にアタシは指揮官のことなんかなんとも思ってないんだから!勘違いしないでよね!そりゃ、指揮官のことは尊敬してるし、助けてくれたことは感謝してるけど…!」

 

「──ファニー。()()()()()()()。──それと()()()()()()、そして()()()()

 

 なんとも古典的な言い訳を並べるものだ。とはいえ周辺を警戒しつつの待機を命じられたばかり。それを疎かにするのは誉められた行為ではない。

 

 イーグルはまず分隊長(リーダー)として注意喚起を済ませ、続けて個人的な感謝と応援の言葉を彼女に放った。()()()()が多そうな部下へ向け、せめてもの応援であろう。

 

 助手席側の窓を手動で開け放ち、イーグルは両耳を覆うヘッドセットの右側のハウジングを少しだけ上げた。聴覚センサーを敏感に──要は耳を澄ませる。

 

 ──遠くから銃声や爆発音が散発的に聞こえる。聞き慣れた銃声はエリシオン製の火器が発しているそれだ。侵入したラプチャーへの対処で出動した部隊や分隊が他にも存在する証拠である。

 

 イーグルが車載無線機へ手を伸ばし、緊急時に使用される周波数帯へ合わせた途端だ。

 

〈──新た──ロード──増援を──〉

 

〈──20機──交戦中──指示を──〉

 

 傍受こそするが途切れ途切れにしか聞こえない。しかし紛れもなく敵機の群れと交戦中であるニケ達の存在を確認出来た。

 

 状況は最悪の一言だ。アーク始まって以来の大惨事として記録されるだろう。

 

 果たして損害はどれほど出ているのか。インフラは人命は──いずれも分からない。

 

 なにより侵入を許したラプチャーの数は如何ほどか。ロード級の存在も傍受した無線で聞こえた。まさかタイラント級まで侵入しているのではなかろうか。

 

 なにもかもが手探り状態。嫌な予感すら脳裏をよぎる。

 

「──いいえ、違う」

 

 湧いて出た弱気の虫を彼女は自らの意思で黙らせた。

 

 大丈夫だ。まだ大丈夫である。まだアークは──人類は敗北していない。

 

 まだ何も終わってはいない。例え、自分が今日死ぬとしても、人類が滅びる訳ではない。

 

「──大丈夫ですか?」

 

 ふと彼女の細い肩へ手が置かれた。ハッとしたイーグルは反射的に横目を向ける。彼女の手よりも大きなそれを細い肩に置くのは運転席から身を乗り出した伍長だ。

 

「──イーグルさん?」

 

「大丈夫で──いや、大丈夫だ。気にしないで」

 

「なら…いいんですが…」

 

 肩から手が離れる。再び両手でステアリングを握り直し、フロントガラス越しに警戒を始めた伍長の姿を認めた彼女は大きな深呼吸を何度か繰り返す。

 

 車載無線機の周波数帯を元へ戻せば、傍受していた先程までの途切れ途切れの通信は沈黙し、暖機を続けるエンジンの鼓動と振動が車内を支配した。

 

「……ありがとう」

 

 か細く、イーグルがフェイスマスク越しに感謝を紡ぐ。

 

 その数秒後のことだ。ザッと短い雑音が車載無線機の受話器から響いた。

 

〈──小隊へ告げる。現刻よりA.C.P.U.のポリ、ミランダを一時的に特殊別働隊の指揮下へ加える。尚、両名からの報告によればインフラ等の損害は著しいが、人的被害は発生していないと予想される、とのことである。幸いにも状況は最悪の最悪ではないらしい〉

 

 ムーアからの通信だ。それへ耳を傾けた武装車輌内の全員が──イーグルや伍長を含めた全員が安堵の溜め息を漏らしたのは言うまでもない。

 

〈──前進を再開する。経路は前もって示した通りだが、道路の寸断が予想される。その際は迂回路等を改めて示す。目的地は変わらずA.I.研究所。アルファから了解か。送れ〉

 

「アルファ、了解」

 

〈──ブラボー、了解〉

 

 順繰りに彼の通達事項へ対する了解が各分隊長から返された。それを認めたのだろうムーアが先頭車輌──イーグル達が乗車する武装車輌へ前進を命じる。

 

「──了解。前進します。後続は車間距離を空けるように。──伍長、前へ」

 

 指示に頷いた伍長がアクセルを踏み込む。腰掛けたシートに背中が僅かに埋もれつつ武装車輌が再び舗装道路を走り始めた。

 

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