勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
無事に年越し直後にSSRラピを確保できました。
そして──うおおおおおん!!!(イベストの第二部でボロ泣き
路上に犇めくラプチャーの群れ。いずれも禍々しい紅い光をコアから放ち、我が物顔で跋扈している。
不意に路上へ響き始めた規則的な足音。
それをセンサーが感知したのかラプチャー達の視線が一斉に向けられた。
歩み寄って来る1名の人影。
薄茶の長い髪を左右へ二房に結んだ細身の人物だ。
その人物はラプチャー達が向ける視線に晒される中、立ち止まるなり威風堂々と胸を張ってみせた。
恐れすら感じさせぬ佇まい。ラプチャー達に僅かな、一瞬の動揺が走る。
そして件の人物は大きく息を吸い込み──
「──動くな!A.C.P.U.だッ!!」
──世の悪党共が怯む
それを聞き取ったラプチャー達の変化は劇的だった、と言える。
なにせ──全機が砲口を件の人物へ向けたのだから。
明らかな攻撃態勢。どうやらラプチャー達に彼女が放った
「──うああああ!ポリィィィィ!!ラプチャーは警察が怖くないようですぅぅぅ!!完全にアウトローですよぉぉぉ!!」
実体弾を用いるタイプの敵機も含まれているようだ。幾筋も駆け抜ける光芒の中に明らかな弾頭の風切音が混ざっている。
背後から浴びせられる砲火の弾雨の中を脱兎の勢いで駆け抜ける件の人物──ミランダが慌てて戻って来る様子にポリは額を片手で押さえながら声を絞り出した。
「……すみません、皆さん」
「いいえ。お気持ち、お察しします」
「なんでネオンが察するのよ。あなたは察しちゃ駄目でしょ」
ビルの物陰から事の成り行きを見守っていた彼女達──特殊別働隊や随伴の一個分隊を含めたポリが溜め息を吐く。絞り出したポリの謝罪へネオンが応じるのだが、すかさずアニスがツッコミを入れる。
状況は最悪ではあるが、普段とあまり変わらない様子に安堵を抱くムーアが口元へ伸びるヘッドセットのマイクを摘んだ。
「──ブラボー、デルタ、準備は?」
〈──ブラボー、準備良し〉
〈──デルタも位置につきました〉
まぁどうせ
2個分隊を事前に徒歩で移動させ、ラプチャーの群れの側面へ向かわせていたのだ。捕捉されぬようビルとビルの隙間に設けられた細い道路や路地を移動させ、配置へ到着した旨を確認すると彼は短く命じる。
「──撃て」
良くも悪くもミランダが囮になってくれた。それに釣られる形でラプチャーの群れは彼女を追い掛け始めている。
敵機の注意は完全にミランダへ向けられているのだろう。特に脇──側面には目もくれていない様子だ。
つまり、無防備極まる側面から攻撃を加えるのは容易いことであった。
ブラボー、デルタ──両分隊を率いるソルジャーF.A.、そしてI-DOLL・サン。2名が側面へ移動させた分隊員に彼から命じられたそれを代わって叫ぶ。
勝敗はこの時、決したと言っても良い。
瞬く間に次々と敵機の側面装甲が徹甲弾や散弾で貫徹される。たちまち路上へラプチャーの残骸が散らばり出す中、ムーアが自身が率いる特殊別働隊と1個分隊へ前進を命じた。
側面、そして正面──二方向からの攻撃を受けた敵機の群れが悉く沈黙するまで数分も掛からなかった。
「──指揮官。掃討完了です」
「──了解。──安全を確保した。車輌は前進しろ」
しっかりと撃破されたかを確認するのも忘れない。ムーアがタンカラーのブーツで機体が著しく損傷した敵機を蹴り飛ばす。ピクリとも反応しない。
確認を終え、待機していた車輌への指示を口元に伸びるヘッドセットのマイクへ向かって告げる。
暫くして、武装車輌を先頭に3輌のトラックが舗装道路を駆けて来た。彼の間近で伍長がステアリングを握る武装車輌が停車し、助手席の窓が開く。
「指揮官。全員の乗車後に前進で宜しいですか?」
「それで構わん。──グリフィス伍長、大丈夫か?」
窓から顔を覗かせたイーグルへ頷いた後、ムーアは彼女の奥へ視線を向ける。運転席には緊張の為か顔が強張った様子の青年がいる。
「は、はい。大丈夫です」
緊張するのは悪くはないが──反応が遅れる程に固くなっては意味がない。彼は少し待つよう促してから歩道へ向かった。
目指したのは自販機である。非常電力が生きているなら動いている筈だ。クレジットカードを取り出し、いくつも並ぶボタンのひとつを押し込んでから読み込み部分へカードを翳してみる。ガコンと取り出し口へ落下した音が響いた。問題なく購入出来るらしい。
ミネラルウォーターのペットボトルを掴み出した彼は武装車輌まで戻り、イーグルへ伍長にそれを渡すよう促す。
「──こまめに水分は摂っておけ。長丁場になるかもしれんからな」
「あ、ありがとうございます。頂戴します」
一見すると分からないが、人間用の武装と思われるそれらは良く観察するとニケ用の装備品だ。大抵の人間であれば装具こそ出来るが、重過ぎて身動きが取れない──筈の武装を纏ったムーアへ伍長は改めて信じられない眼差しを向けたままイーグルから代わりに渡されたペットボトルを受け取る。
それを認めた彼が踵を返して武装車輌から離れつつ駆け足で戻って来た2個分隊の分隊長達と何事かを話す様子を伺いながら伍長はペットボトルの封を切った。
「──驚いた?」
「結構、優しいのよ?まぁ、
同じ人間──なのだろうか。彼が纏った武装、その全ての重量がいくらになるのかは伍長にも分からない。ボディアーマーひとつでさえ──戦闘職種が専門ではないが軍人としての専門教育と訓練を受けた身だ。だとしても伍長自身が両手で掴み、渾身の力を込めてやっと持ち上げられる代物ではなかろうか。
地上での任務へ従事するニケ達がボディの損傷を最低限のそれへ抑える為、防弾衣はガッデシアムや強化プラスティックを始めとした複合材で防弾性を高めている。その内側、身体の前面と背面には本人の意思と必要に応じて何枚か重ねた地上任務仕様のセラミックプレートを捩じ込んで更に防弾性を高められるよう開発がされた──と所属部署で伍長は聞き及んでいた。
その重量だけで人間用のそれの約3倍──30kg程度には達するとも聞く。30kg程度とは平均的な体格を持った9歳の男子と同じ程の重量。
いや、正確にはニケ用の装備ではない。特に量産型ニケ達の体格や背丈は同等のスケールだ。彼女達を同一規格の
むしろムーアの場合、ニケ用の装備品の性能はそのままに彼の長身と体格へ合わせた特注サイズと言える。であれば重量は更に増している筈だ。
それらを纏って戦闘に直接参加する──なにより人間では扱えないニケ用の対ラプチャー火器を携行して。
率直に言おう。伍長の目に彼は化け物、或いは怪物の類として映った。
おそらくその気になれば、
今更だが──良くもまぁそんな人物を相手に立ち向かっただろう。返答を少しでも間違えたら今頃は何処ぞのシェルター内で肋骨を折られた格好のまま転がっていた筈だ。
封を切ったペットボトルに口付け、一口を呷る。喉を伝い落ちる清涼な水分が心地良く感じられた。どうやら彼が思う以上に喉が渇いていたらしい。
「──少佐殿は…どのような方ですか?」
「「「ニケ誑し」」」
「…あ、いや、そうではなくて…」
口を突いて出た質問。伍長の問いへ車内からは異口同音が返された。
「ごめんごめん。えっとね…なんだろう…うーん…」
「一口にどういう人かは言えないかな」
「優しくて、強くて、頑固で、意地っ張りで、負けず嫌いで──そうだなぁ…」
形容が難しいのか車内の分隊員達が唸っている。この新入りにどう説明したものか、と全員が頭を悩ませている様子だ。
「……信念の人、とも言えるかもね」
助手席に腰掛けている
「指揮官は以前の──と言っても何年も前の話じゃないか。右脚と右眼を失ってるの」
「その後は左腕ね。総力戦の時は──あ、知ってる?総力戦?」
「あ、はい。保管している
「そっか。その総力戦の時、脇腹に大怪我したの。それこそ内臓が飛び出るぐらいの大怪我よ。──まぁ作戦が終わって半日程度で基地に帰ってきたけどね」
「…私が警衛に上番していた時ね。いきなり指揮官を乗せた救急車が来たから驚いたわ」
イーグルが溜め息を漏らした。分隊員達が口々に語る説明に嘘偽りはない。
勿論、俄には信じられないだろう。その証拠に伍長は双眸を大きく見開き、何度もムーアの姿と分隊員達へ交互に視線を向けていた。
「いや、マジだから」
「だ、だって…え?」
「まぁ信じられないのは仕方ないけど、全部事実」
「……それでも指揮官は戦場に立ち続けている。生半可な覚悟では無理。ニケでさえ、凄惨な戦場を体験したり、四肢が吹き飛ぶと戦場に出ることへ恐怖感を抱く。それを……NIMPHだっけ?私達の脳に埋め込まれている、っていうナノマシンが恐怖感を抑制して戦場に出させている」
ムーアは人間だ。どれほど──それこそ人間離れした身体能力と膂力を持っていようとも失った手脚が生えて来ることはない。命はたったひとつのみ。
「──英雄、というのはああいう人のことを言うのかもしれないわね」
決して折れない信念──例え身体を砕かれようと、理想を否定され、嘲笑され、抗えない現実と不条理に打ちのめされようとも、決して歩みを止めない。
歩み続け、戦い続け、最後の瞬間まで決して折れぬ信念と共に──
「──私が思う指揮官は、そういう人。答えになったかは分からないけれどね」
イーグルが肩を竦める。
分隊員達は彼女の物言いに一切の反対意見を述べなかった。つまり彼女達の共通認識としての彼の印象は統一されているのだろう。
この車内のやり取りをもしムーアが聞いていたら、きっと鼻で笑うだろう。そんな大層な人間ではない、と。
「──凄い人、なんですね」
伍長が絞り出した一言。それに分隊員達が、続けてイーグルが苦笑いを漏らす。
なるほど。彼を表現するのに最も適切な表現はそれだった。
急に全員が笑い始めたからだろう。伍長が不安げに車内を見渡すも、彼女達は次々と彼のボディアーマーを纏う肩を加減しながら叩いて賛同の意思を表明してみせる。
伍長は肩に走る衝撃を感じつつ、フロントガラス越しに見詰めていたムーアと目が合った。
ちょうどA.C.P.U.所属の2名と打ち合わせが終わったところらしい。彼は薄茶の長い髪を左右へ二房に結んだ女性を伴って武装車輌まで歩み寄って来た。
「──イーグル、無線を」
助手席の開け放たれた窓からムーアが手を伸ばす。彼の求めに応じてイーグルが車載無線機の受話器を手渡すなり、伸縮性のあるケーブルが車外まで伸びた。
「──小隊へ達する。これより前進を再開するが、先に言った通り、移動経路となる道路の寸断が予想される。幸いにもミランダは交通警察の所属。その場合、彼女が迂回路を示してくれる」
「──あ、はい!A.C.P.U.のミランダです!非常時や緊急時のルートも把握しています!ご安心下さい!」
彼が握る受話器が傍らの警官──ミランダへ譲られる。それを介して全車輌の車載無線機、或いは全員へ彼女の力強く、頼もしい言葉が響いた。
「──とのことだ。全員の乗車を確認次第、前進する。序列はこれまでと同じ。以上だ。アルファ──訂正、ブラボーから了解か。送れ」
返された受話器を車載無線機へ戻したイーグルは──そういえば、とふと気付いた。
「──前から気になっていたんだけど……アークにはほとんどクルマは…」
「……あぁ、そういえば……」
民間なら会社の経営者、資産家、一部のタクシー業者や運送業者が乗用車、トラックと言った車輌を所有している。
政府機関──特に軍事部門は戦闘用車輌を保有しているが、官民の両方を見ても生産数は多いとは言えない。
舗装道路を走るクルマというのも皆無ではないが、そこまで多くはないだろう。
では──
「……交通警察って……なにしてるんだろう……」
イーグルの呟いた疑問──それに答えられる者はこの車内には存在しなかった。