勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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第8話

 

 

 

 これは後々で問題になるだろう。間違いなく。絶対に。しかし、安いものの筈だ。

 

「──終わった!」

 

「──こっちも!伍長、確認を!」

 

 十数階建てのオフィスビルの一階──避難指示が出されたのもあり無人のはずだが、フロアの中を慌ただしく駆け回る複数の人影がある。

 

 1名を除き、全員が武装した量産型ニケ達だ。2個分隊ほどの人員が駆け回っている。

 

「──雷管良し!通電確認…良し!異常なし!」

 

「──了解!伍長!フォックストロット分隊から連絡!あっちは爆薬が足りないって!」

 

「──重迫撃砲(120mm)の砲弾を!信管は取り付けないで設置するよう伝えて下さい!残りの作業は自分がやると!」

 

 各々が壁を砕き──人間なら掘削用のドリル等を用いなければならないが、彼女達は量産型ニケだ。壁を素手で殴り付け、拳大の穴を穿つぐらい造作もない。その穿たれた穴の中へ乳白色の紙粘土かバターに見える代物──包装から取り出して良く練った上で雷管を差し入れた高性能爆薬(C-5)を詰め込んでいく。

 

 爆薬の取り扱いから点火へ至るまでの流れは彼女達も()()として持ち合わせているが、やはり不発は避けたい。その為、設置を終えると同行している伍長(青年)を呼び付けては確認を願う。

 

 問題ないと確認できれば彼は彼女達の肩を叩き、自身を呼ぶ声の方向へ駆け回っていた。

 

「良し、退避!急いで!」

 

 爆薬の設置が完了した。イーグルがフロア全体で活動していた全員に指示を下す。それに従い、量産型ニケ達が正面玄関へ向かって走り出す。

 

「所属は装備開発管理局って言ってなかった?」

 

「元々は工兵だったんです!」

 

「なるほど。道理で自信満々だと思った」

 

 急いでオフィスビルを抜け出した2個分隊。イーグルは同じく分隊長の役目を付与されている同僚へ自身の分隊を一時的に任せ、伍長を伴って再び駆け出した。

 

 イーグルと伍長の背後では退避の指示が張り上げられていた。二人が大通りを横断し、ビル同士の隙間に設けられた細道へ身を滑り込ませ、その道から抜け出ると次の目的地は目と鼻の先である。

 

「なんで装備開発管理局に?」

 

「訓練中に靭帯と半月板をやっちゃいまして!それで管理局に!」

 

「走って大丈夫?」

 

「膝に装具してますから!」

 

 運動するには問題ないらしいが、その割には息が切れている。とはいえ、セラミックプレートを入れたボディアーマーにヘルメットを纏って全力疾走だ。息ぐらい切れるだろう。

 

 路上駐車禁止の標識があるにも関わらず、路肩へ停車するトラックの脇を通り、飛び込んだビルの一階。こちらでも忙しなく駆け回る量産型ニケ達の姿が見られた。

 

「──粗方は設置完了。雷管の通電も確認した」

 

「り、了解です…はぁはぁ…」

 

「……待ってろ」

 

 息切れを起こし、汗を垂らす伍長を見兼ねてだろう。戦闘用の装甲服を纏うフォックストロット分隊長(プロダクト12)が溜め息混じりに先程発見したウォーターサーバーへ向かった。使い捨てのカップへ冷水を注ぎ、それを持って戻るなり伍長へ突き出す。

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

「……気にするな」

 

「ぶっきらぼうに見えて、本当は優しいんだ」

 

「……うるさい」

 

「それと童顔で可愛い」

 

「……やかましいぞ、先任」

 

 仲は良好なのだろう。量産型ニケにも個人毎の趣味嗜好があり、自我も異なる──とは伍長も知識としては持っていたが、話で聞くよりもずっと人間味がある。

 

 使い捨てカップへ満たされた冷水を一息で飲み干し、久しぶりのハードな運動で熱が籠もった全身の体温が冷える感覚を捉えながら伍長はプロダクト12へ視線を向ける。

 

「──砲弾は?」

 

「こっちだ」

 

 顎をしゃくった彼女が駆け出す。その後へ伍長とイーグルも続いた。

 

 床に建材の破片が散乱しているのは壁を削り取ったからか。ビルの壁へ半分ほど埋まった格好の砲弾──120mm重迫撃砲のそれ。前もって伍長が連絡した通り、砲弾の先端部には信管は取り付けられていない。

 

「──C-5を下さい。拳一個分で大丈夫です。それと雷管…工具箱もありますか?あったら持ってきて下さい」

 

「…信管は要らないのか?」

 

「要りません。この場合は。信管は撃発に必要なものですが、それと同時に安全装置。皆さんが持ち出して来た信管はマルチオプション。指定高度で砲弾を炸裂させられるし、信管の装着は手動で、しかも調整は何度でも出来る優れものです」

 

 伍長はボディアーマーへ設けられたポーチからマルチツールを取り出した。分隊員が駆け寄り、彼に要望の拳一個分の高性能爆薬と雷管を手渡し、工具箱を床へ置く。

 

 それを受け取った彼は手で捏ねつつ、本来なら信管を捩じ込む砲弾の先端部を睨みながら作業を始めた。

 

「──この信管には安全装置が組み込まれています。内蔵されているタービン交流発電機に一定の強さの気流が一定時間と一定間隔、それも持続して当たらないと信管は作動しない」

 

「……説明は良いから早く済ませてくれ。見てるこっちがヒヤヒヤする」

 

 手元を覗き込まなければ良かった。なんの作業をしているのか──とプロダクト12が覗き込んだ拍子に彼女は若干の後悔を感じた。

 

 工具箱の中にあった端材をマルチツールで切断し、或いは無理矢理にでも曲げつつ何かしらの形へ工作したかと思えば──そこから先は彼女も見ようとは思わなかったらしく、後ろへ一歩引き下がった。

 

「……良し、出来た。急いで退避を!」

 

 完成した()()の出来映え──それには満足したが、果たしてどうなることか。

 

 いずれにせよ、不発だけはないよう祈りつつ伍長は退避を促す。

 

 ビル内で活動していた全員が屋外へ。路肩に停まっていたトラックの荷台、或いは運転席や助手席へ乗り込むなり、車体が進み出す。

 

 暫く走らせ、合流地点として示された位置へ到達すれば、既に他の分隊や車輌が集合を済ませている。

 

 損害は無し──それに満足するイーグルは荷台へ腰掛けつつ、隣へ座った伍長へ遠隔起爆装置を差し出す。外見は大きめのトランシーバーだ。

 

「──使い方は分かる?」

 

「……()、工兵だったって言いませんでした?」

 

 試すような口ぶりだったのが癪に障ったのだろう。少しムスッとした表情のまま伍長が起爆装置を受け取るなり、安全装置を解除。

 

「──点火」

 

 カチッと乾いた音の一拍後、二方向からほぼ同時に爆発音が轟いた。

 

 爆風と衝撃波──複数のビルの窓ガラスを粉砕、路上を駆け抜けた熱を孕んだ爆風が全身を撫でる。

 

 爆発音に続く、崩落の轟音。ガラガラと崩れ落ちる二棟のオフィスビル。その瓦礫の大半は路上へ積み重なり──二つの大通りを閉鎖する格好になった。

 

 成功である。

 

「──はあ〜…」

 

 心底安心した、と言わんばかりに伍長が大きな溜め息を吐き出す。

 

 どうやらかなり緊張していたらしい。それもそうだ。爆薬を扱うばかりか、先程はたんまりと炸薬が充填された砲弾そのものを爆弾へ生まれ変わらせる作業を済ませたのだから当然だろう。

 

 労うようにイーグルが伍長の肩を叩いた。

 

「…良くやった伍長」

 

「……ありがとうございます。──いや、初めてやりましたけど、上手くいって良かった」

 

「「「──は?」」」

 

 安堵で口が滑った。ヤバ、と慌てて口を紡ぐも後の祭り。

 

 確かに工兵としての訓練は積んだ。爆破の為に用いる爆薬──TNTや高性能爆薬(C-5)、導爆線を始めとした各種火工品等の取り扱い、場合と状況によってどう用いるかの訓練も、である。

 

 地下に造られたアーク。その更に下の地下施設となる訓練場で本物の爆薬を使い、実際に爆破の訓練は行ったが──何かしらを破壊するのは初めてだ。

 

 勿論、シミュレーションで橋梁や建造物の爆破と破壊の訓練はあったが。

 

「だ、だって自分、実戦はこれが初めてですし…!」

 

「アンタさぁ!それ最初に言わないと駄目でしょ!」

 

「なんで指揮官に言わないの!」

 

 トラックの荷台へ乗り込んでいる量産型ニケ達からの非難轟々に伍長は晒される。勿論、爆破、そして道路を閉塞した点は評価できるのだが。何名かは溜め息を吐き出しつつ頭上を見上げている。溜め息には呆れのそれが混ざっているのは想像に難くない。

 

「──まぁまぁ…」

 

 庇う形になるが、彼女達を宥めるのはイーグルだ。

 

「…おそらくだけど、指揮官も分かっていた筈よ。これが初めてになるってことは。それを分かった上でグリフィス伍長に任せたんだと思う」

 

 そうだろうか、そうかも、だといいんだけど。反応は様々だが、一様にそれなりの納得を示す彼女達が簡易的な座席へ座り直す。

 

 とはいえだ。

 

「──グリフィス伍長」

 

 隣へ腰掛ける青年へイーグルは顔を向け、厳しい口調で続ける。

 

「今後、二度と()()()()()()はないのが一番だが、同じヘマはやらかさないように。周りも分かっているだろう、と思うな」

 

「…はい、申し訳ありません」

 

 訓練教官から叱責を受けている気分だ。志願して入隊し、数年が経過した彼は昇任試験を受けて最近に伍長へ昇任したばかり。兵卒であった頃とは違う。最下級とはいえ下士官に組み込まれる階級なのだ。

 

 やらかしてしまった──自責の念が込み上がって来る寸前、不意に肩が強く叩かれる。

 

「──だが、爆薬の取り扱いの指示、砲弾を現地で爆弾へ作り変える機転は見事だった。爆薬なんて手榴弾ぐらいしか私達は使う機会がないからな」

 

「──まぁ、確かに。実際の経験の有無を言わなかったのは問題だったかもしれないが……指示と動きは悪くなかった」

 

 イーグルの言葉へ同意するのは同じく分隊長のプロダクト12。彼女は爆破によって崩落し、大小の瓦礫となった2棟のビルから昇る建材の細かい粒子が大半であろう白煙を見詰めていた。

 

 プロダクト12に頷いたイーグルは改めて伍長へ向き直る。

 

「伍長。今回が初めてだと言っていたな?」

 

「はい、そうであります」

 

「そうか。なら──忘れられない記念日になるな」

 

 事実、その言葉通りになった──と、イーグルは後に語った。

 

 

 

 

 

 ズズンと舗装道路から地震にも似た振動が伝わる。

 

 続けて背後から衝撃波が音と共に伝わった。

 

「──爆破に成功したようですね」

 

「──そのようだ。初めての割には上手く出来たようだな」

 

「え!?初めて!?あの人、初めてなの!?」

 

 普段なら人の往来が活発なエリアだというのに閑静なものだ。閑静──どころか人っ子一人いない。

 

 エニックの言葉によれば、避難指示を下したのは状況発生の10分前──おそらくはエターナルスカイに穴ができ、そこからラプチャーが降下する可能性大の近隣住民へ対しての発令だろうが、そのお陰もあって現時点での人的被害はゼロとのことだ。メティスの勝利イベントで近隣住民が集まっていたのもあり、シェルターへの避難は比較的順調だったらしい。

 

 尤も侵入したラプチャーが増える毎に避難指示を出す区画は広がっていったようだが。

 

 そのラプチャー──現時点でタイラント級の存在は確認出来ないが、ロード級を含めた相当数の敵機がアーク内部へ侵入している。

 

 念には念を入れ、ビルを倒壊させて捕捉されても追撃を遅らせる措置を取った。時間稼ぎの為である。

 

 量産型ニケの7個分隊と人間1名で編制された小隊の指揮を一時的にイーグルへ委ね、彼や特殊別働隊、そしてポリとミランダはエニックが待つA.I.研究所までの道程を徒歩で進んでいた。

 

 その最中、爆破成功を感じさせる振動と轟音を捉えたのだ。

 

 やはりと言うべきか、ムーアは伍長が今回の爆破が実際に建造物の類を破壊する初めての任務であると察していたらしい。

 

「…なんで任せちゃうかなぁ…」

 

「自信がありそうだったからな」

 

 自己申告で爆薬の取り扱いの経験がある──元は工兵であった旨を告げ、彼にビルの爆破を任せて欲しいと啖呵を切ったのだ。

 

 アニスは呆れた様子だが、ムーアは肩を竦めてみせる。

 

「──俺もキミ達に会った時は初めての実戦だったぞ」

 

「それは……まぁ、そうだけど…」

 

「──色々と言われたな。ラピにも、アニスにも」

 

 それは今言うことなのだろうか。それとも当時のことを引き摺っているのか。

 

 いや──間違いなく()()()()()()()、と察したアニスは軽く頬を膨らませた。

 







 空港はごった返していた。

 押し寄せる民間人の群れの総数は果たして何千か、何万か。

 航空優勢(制空権)は人類の敵の手にある。

 民間人を脱出させる為の旅客機、軍用機──固定翼機や回転翼機、機体の大小と官民を問わずにあらゆる機体へ次々と人々が乗り込み、滑走路から飛び立って行く。数十秒、或いは十数秒間隔の最小間隔離陸──戦略爆撃機等が緊急発進する際に見られる代表的なそれ。

 負傷者、女子供に老人──兎に角、一刻も早く、一人でも多くの民間人を逃がす。

 機体の整備や燃料補給、民間人の誘導──空港職員、そして展開した部隊の将兵の目的はただそれ一点のみだ。

「──諸君、集まってくれ!」

 滑走路から次々と飛び立つ機体の轟音。

 フェンスの向こうで続く避難の様子を横目に戦車の車体へ登った将校──纏った戦闘服の襟には将官の階級章がある。

 長く第一線で働いて来たからだろう。将官の声は良く響いた。

 将校や下士官達が集合の指示を下し、たちまち戦車の周りには武装した将兵が集まり、車体へ仁王立ちとなった将官を仰ぎ見た。

「──ありがとう諸君。ここにいる諸君は──しぶとい海兵隊員だ。良く訓練され、場数を踏み、いくつもの死線と苦戦をくぐり抜けた正真正銘の戦士達だ」

 集まった将兵──肌や髪、瞳の色、そして信仰する宗教も異なる。しかし統率された軍装と統率された挙動が何者であるかを如実に物語っていた。

「──恐れ知らずで命知らず。諸君の頭の片隅には敗北も、降伏の文字など一切ないだろう」

「「「──Oorah!!」」」

 当然である。一斉に吼えられた応えに将官は頷きを返す。

「──諸君は勇敢かつ懸命に任務を果たし、命を賭けて戦って来てくれた。それも心強い戦友(兄弟)と共に戦い抜いて来た。今更言うまでもないことだが──諸君は間違いなく最高の海兵隊員だ」

 だからこそ言わなければならない。将官は一度、呼吸を整えた。一瞬だけ俯かせたが、直ぐに上げられた精悍な顔が集った将兵達へ向けられる。

「──その諸君を前にして嘘や偽りは言えない。敵は目前まで迫っている。我々を凌ぎ、圧倒的な戦力で迫っている。今日、私と共に敵と立ち向かう者は──間違いなく生き残れないだろう」

 だろうと思った──元々、分かっていたことだが、改めて告げられると溜め息が将兵の中から漏れ出る。

「──だが思い出して欲しい。我々は、そして先人達はこれまであらゆる戦いで先陣を切って敵に殴り込んだ。我々の先人達は溢れんばかりの勇気と闘志で戦い抜いた戦士達だった。これは紛れもなく歴史が証明している。その勇気と闘志は時代を超え、世代を超えても尚、諸君の心の深くへ根ざしているだろう」

 そうだ──その通りだ。

 軍歌(賛歌)にも歌われている。先人達は勇気と闘志を失わなかった。決して、如何なる状況であろうと。

「──1分1秒でも長く敵の侵攻を遅らせ、一人でも多くの民間人を脱出させる。いずれその人々が今日の出来事を後世にまで語り継ぐ筈だ。勇敢に戦った英雄として諸君は永遠に人類の歴史に名を刻まれるだろう。これから後に生まれるだろう子供達が争いとラプチャーの脅威に怯えることのない世界の為に、どうか諸君──ここで最期の瞬間まで戦って死んで欲しい」

 一拍の間──不意にそれまで轟音が支配していた空港一帯が静まり返る。

「──()()を舐め腐りやがってるクソッタレのブリキ共に!!泣く子も黙る海兵隊(デビル・ドッグ)の恐ろしさ!!目にもの見せてやれ!!」

「「「──Oorah!!」」」



いつか第1次ラプチャー侵攻のお話とか短編集として描きたいです。
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