勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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本編は進まず…書き殴っていた結果です。どうか許して下さい。


第10話

 

 

「──3時間前の航空写真だ。10機のドローンを飛ばして偵察させたが、帰還は2機のみ」

 

 天幕内は紫煙が満ちている。椅子へ腰掛けた中隊長や小隊長達へ下士官と兵卒数名がA4サイズの用紙へ急いで印刷されたのだろう航空写真を配り出す。

 

 偵察に飛ばしたドローンの型式は古い物ではないようだが、随分と写真は粗く見える。対空砲火であろう火線や閃光が写っていることから、どうやらそれらを避ける為に飛行した結果、このような粗っぽい写真となったらしい。

 

「──これだけじゃ分かりませんよ」

 

「──ラプチャー(ブリキ)共の型式や機種が分からなきゃ、攻撃優先順位も決められない」

 

「──偵察衛星の方は?」

 

 中隊長達が溜め息混じりに上座──大隊長の席へ腰掛ける男へ鋭い視線を向けながら不満を、次いで疑問を投げ掛けた。

 

 不満は分からないでもない大隊長は、その点に異論は挟まず、疑問を口にした大隊を編制する中隊を率いる将校へ言葉を返す。

 

「師団の方でも再三、偵察衛星についての文句は司令部へ言ったが……衛星が機能不全を起こしてるとかなんとか。要はアテにするな、ってことだ」

 

 大隊長の言葉に天幕内で大きな溜め息が一斉に響く。

 

 アテにするな、とは随分な指導である。まぁ、無いもの強請りしても仕方ないとはこの場に集った全員が理解しているのだろうが。

 

「…総合的に見て戦闘力優勢であるのは…」

 

「…旧市街地側のブリキ共だろう。一昨日の戦闘でも()()()()を何機か──」

 

「──3時間前まではな。その写真が撮られたのは新市街地(こっち)側だ。敵の数が一気に増えた。概算だが、1個師団規模の戦力が集結している」

 

「ちょっと待って下さい──つーことは…」

 

 居並ぶ将校達──長机を挟んだ両側に腰掛けた彼等は互いを隔てているそれの天板へ広げられた地図を食い入るように見詰める。

 

 地図は透明なフィルム──何枚かのオーバーレイが覆い、その上からマジックペンで様々な記号が綴られ、色で塗り潰され、コマが配置されているという、中々に賑やかな状態となっていた。

 

 その地図上へ全員の視線が集中し、たちまち彼等の眉間へ深い縦皺が刻まれる。

 

「これまでの主攻は旧市街地方面の連中だったらしいが、同等戦力が新市街地側に集結した。──言ってしまえば、俺達は二正面からの攻撃に耐えなきゃならなくなった」

 

 大隊長の言葉は明確に、そして冷酷な響きを孕んで天幕へ響いた。

 

「──A中隊。防御陣地の状態はどうか?」

 

 次いで大隊長は長身かつ大柄の身体──骨と皮を除いて全身が筋肉で作り上げられたであろう中隊長の一人へ視線を向けつつ尋ねる。

 

「昨日の報告にも上げましたが補修は終了。吹き飛ばされた機関銃陣地も再度構築しました。迫撃砲陣地も同様です。全小隊の再編も済みました。1小隊長は先の報告通り、戦死の為、小隊軍曹の()()()に代理でやらせます」

 

 中隊長の背後へ控える形で椅子に腰掛けている青年──下士官である三等軍曹の階級章を認めた大隊長は昨日の報告を思い出した。

 

 一昨日の戦闘は激しく、大隊にも相当の損害が発生したばかりか拵えた防御陣地も至る所が敵弾で吹き飛ばされた。土砂に混ざった人肉がそろそろ異臭を放ち始めるだろう。

 

 階級に関係なく無視出来ない損害だった。戦死者──身体の一部ないし大部分が残っている者──は言うまでもなく、程度の重い負傷者は後送の処置が取られた。陣地へ残った無傷、軽傷を纏めて健在とするが、その兵力は当初の8割。これで二正面からの攻勢を凌ぎ切れるか疑問符は付く。

 

 大隊は丘に防御陣地を築いたが、その斜面を下った先の左第一線(最前線)を担うのがA中隊だ。一昨日の戦闘で最も多くの損害が発生した中隊であるとも補足できる。

 

 決して中隊を編制する将校に下士官、兵卒の個々人毎の練度が低かったから、或いは連携が取れなかったから──などの理由が損害発生の理由ではない。

 

 それを重々承知している大隊長は新任の小隊長──つい先日に元々の小隊軍曹が戦死した為、三等軍曹であるが抜擢されたばかりの青年を見定めるかの如く視線を向ける。一昨日に小隊軍曹となったばかりであるのに小隊長──御苦労なことだ。将校としての専門教育は当然ながら受けていないが、青年の練度や統率力、なにより経験を期待する他ない。

 

 大隊長は戦闘服を纏った上へ装具したボディアーマーのポーチを探る。マジックテープを剥がし、中へ突っ込んだ指先が探り当てた階級章──それを摘み出すなり、中隊長の背後へ控える件の三等軍曹へ放り投げた。

 

「──師団長と連隊長の許可は取っている。今からそれを付けろ。今日から将校だ、()()()()()

 

 投げ渡された階級章──三等軍曹から最下級とはなるが将校へ一気に昇任する事実を突き付けられた青年だが、彼は溜め息を吐く様子もなく、ボディアーマーのポーチのマジックテープを剥がすなり、そこへ階級章を捩じ込んだ。

 

「──()()()()()()()()()()()、A中隊第1小隊をお預かりします」

 

 細々とした──と言ってもそこまで細かい訳ではない。ざっくりとした防御戦闘の作戦計画や指導が大隊長や大隊本部の将校達から下達される。次の集合が命じられるのはいつになるか分からないが、解散の命令を受けて天幕から抜け出た全員は悟っていた。

 

 この面子が集うことは二度とない、と。

 

 長身かつ大柄の中隊長──他の中隊長達もそうなのだが──A中隊を預かる中隊長は200cmに迫る巨漢だ。

 

 丘の頂上を少し下った所──勿論、敵正面とは逆側に張られた天幕を抜け出た巨漢の中隊長の背後へ小隊長達が続く。人員用の交通壕へ入り、入り組んだ形状に構築された壕内を進む。足下からは泥濘のなんとも言えない粘性を感じさせる水音を孕んだ足音が聞こえた。

 

 敵を正面に捉えた丘を下り、麓の近くまで。そこが中隊の指揮所となる。幾度となく繰り返した野戦築城の訓練と演習の賜物だろう。防御準備へ与えられた期間は5日足らずであったが、本職(工兵)に負けず劣らずの陣地となった。

 

 都合良く調達できたライナープレートを使用し、蒲鉾型に構築された中隊指揮所。屋根となる部分には補強として土嚢が積み上げられ、更に土砂で被覆され、上空からの曝露を防いでいる。

 

 出入口にも土嚢が重ねられていた。中隊長以下の人員の平均身長は180cmを超える。その彼等からしてみれば狭苦しくて仕方ないが、熊のような巨漢の中隊長が腰を僅かに折りつつ出入口をくぐって内部へ足を踏み入れた。床となる地面もシャベルで削られ、長身揃いの人員が問題なく収容できるよう天井の高さが稼がれている。

 

 続いた小隊長達へ中隊長は指揮所内に置かれた椅子を手振りで勧めた。中隊長席を上座として任官順に小隊長達が腰を下ろしつつ脚の間へ小銃を挟んだ。巨漢の中隊長が愛煙の煙草を取り出すなり、視線で全員を見渡す。

 

「──吸って良いぞ。ジャック、接収された奴を配ってくれ」

 

 中隊指揮所内には既に詰めている人員が存在した。中隊長付きの将校に下士官や兵卒である。先程までいた天幕と同様に指揮所のほぼ中央には長机が置かれ、その上へこれまた何枚かのオーバーレイで覆われた地図が広げられている。

 

 中隊長の指示に頷いた上等兵が腰掛けた小隊長達へ接収された煙草のソフトパックやボックス──銘柄は様々だが、空の弾薬箱に詰め込まれたそれらを勧めて行く。

 

 先程、任官したばかりの少尉の順番は最後だ。

 

 この頃、煙草を覚えたばかりの若者が残っている銘柄の中に彼が吸っているそれの絵柄を認めた。ソフトパックを掴んで拾い上げた直後である。

 

「──()()()()、それはダメだ」

 

「は?」

 

 突然、中隊長が彼の愛称を口にしながら注意を放つ。

 

「──お前、自分の分しか取ってないだろ。小隊の奴等に配る分も持って行け」

 

「──失礼しました。申し訳ありません」

 

 早速の注意と指導だ。見れば他の小隊長達は彼等が好む銘柄の他にもいくつかのソフトパックやボックスを掴み取ってダンプポーチへ捩じ込んでいる。

 

 こういうところ──将校には細々とした気遣いが必要なのだろう。特に中隊や小隊と言った、いわば()()、或いは()()()()()などの表現が出来るコミュニティを率いる者には。

 

 ならば、と青年は上等兵が差し出す弾薬箱の中へ残った銘柄の全てを次から次に掴み取ってはダンプポーチへ投げ込む。それを見た小隊長達、続けて中隊長は苦笑いを漏らした。

 

「それは欲張りだろ。まぁ、どうせ残り物だから良いケドな」

 

「軽くて紙みてぇだし、2小隊(ウチ)じゃ要らねぇから持ってけ」

 

「まだ3箱分はあるから問題はないか。賞味期限近い奴ばっかりだから早めに吸わんと煙草農家さんに失礼だ」

 

 中隊長が、小隊長達が早速、煙草を銜えてオイルライターや使い捨てのガスライターで火を点ける。それを認めた青年も残りが数本の煙草が詰められたソフトパックをボディアーマーのポーチから取り出す。

 

 クシャクシャに丸まったソフトパックだった。その中へ申し訳程度に何本かが残っている。指先で摘んで引き抜き、僅かに曲がった煙草を銜えた直後、隣へ腰掛けている小隊長がガスライターを握りつつ差し出した。

 

 礼を口にし、差し出されたライターで火を点けて貰うと青年は炙られた先端の火を大きくしようと強く吸い込んだ。

 

 ──まだ吸い慣れないのだろう。途端に眉根が寄り、苦々しい表情に顔が歪む。しかし続けてニコチンやタールが血流へ乗って脳に至ったのか、酩酊感を覚えた。僅かにクラクラとする。

 

「──そのままで良い。A中隊(ウチ)の防御計画と戦闘指導の確認を実施する」

 

 中隊長の言葉が引き金だった。小隊長達が防水加工されたメモ帳を取り出した。やや遅れて、青年も同様のそれを取り出してボールペンをノックし、ペン先を押し出す。

 

 椅子から腰を上げた中隊長は指示棒を伸ばすなり、大隊()の位置、続けて主敵()の位置を指し示す。

 

「──大隊長からも説明はあったが、これまでの主敵は旧市街地のブリキ共。主攻もこっちだった。新市街地の連中はあくまでも助攻と見做していたが、状況が変わった」

 

「同等戦力が集結したと言っていましたね」

 

「あくまでも偵察での概算だ。実際はもっと多いだろう。1個師団規模──とは言っていたが、果たしてどうだか」

 

 疑問符が付く。敵の実情は──おそらく攻勢が始まってやっと分かる筈だ。全く嬉しくもない可能性だが。

 

中隊()の位置は左第一線(ここ)、右隣はB中隊。対戦車火器、迫撃砲の残弾は俺達も向こうも多くはない。補給は明日になる()()だ。それまで攻勢が掛けられないことを祈るしかないが、戦闘になったら無駄撃ちは控えるよう徹底しろ。一発必中だ。必ず潰せ」

 

 小隊長達が、青年が中隊長の指導へ頷きを返す。破られた有刺鉄線も再び張り直し、対戦車地雷もその前へ埋設を済ませているが、上手く触雷してくれる保証はない。

 

 相手は戦車等の車輌ではないのだ。四足歩行の機動する──機械と動物が交配した結果、生まれ落ちたとしか表現が出来ない敵である。触雷してくれたら吹き飛ばせるが、履帯やタイヤを用いた戦闘車輌の足回りとは幅が違う。事実、埋設された地雷の半数も触雷はしなかった。無いよりはマシ、程度の効果だったのは言うまでもない。

 

 尚も中隊長直々の防御計画、戦闘指導の確認は続く。小隊長達にも質問が飛び、各々が率いる小隊へ付与された務めを口にする。青年も言葉を返せば、大柄の中隊長は頷きを返した。

 

「──敵機撃破の優先順位はこれまで通りで構わないが、相手は対機甲戦闘の教範通りとは言えない動きをしてくる。経験上、全員が分かっていると思うがな。兎に角、キルゾーンに入ったら潰せ。必ずだ。──質問?」

 

 状況によって小隊、分隊毎の判断に任せた防御戦闘を実施するよう中隊長は暗に示す。それを承知している小隊長達は頷いた。

 

 中隊長は小隊長達を見渡しつつ質問事項の確認を求めた。すると一番若手の──とは言え、数歳しか違わない青年が挙手する。その律儀な姿に中隊長は苦笑した。

 

「──ディック。いちいち手を挙げなくて良い」

 

「失礼しました。──地雷や有刺鉄線(各障害)を破られ、突入を許した場合の対処は白兵戦で構いませんか?」

 

 白兵戦──読んで字の如くだ。この場合、埋設し、構築した、対戦車地雷や有刺鉄線を破られ、敵機が塹壕内へ──防御陣地へ突入を始めた状況を示している。その対処行動としての近接戦闘──携行した小銃、或いは陣地構築に用いたシャベルやハンマー等の土木用具、最終的には徒手(素手)

 

「──構わない。……他の連中なら潰されるだけだろうが、大隊(俺達)は違う」

 

 一方的に蹂躙は出来ないが、されもしない──その自負がある中隊長が頷いた。続けて小隊長達も銜え煙草のまま頷く。

 

 防御計画、戦闘指導の再確認、大隊の遥か後方へ配置と展開がなされた自走榴弾砲や多連装ロケット砲(MLRS)を有する砲兵部隊への火力支援要請の要領、新たな命令下達──中隊長からのそれらを各小隊長達がメモ帳へ書き留めた。それを認めた中隊長は煙草を取り出した携帯灰皿へ投げ込む。

 

 打ち合わせが終わりの合図であると察し、小隊長達はメモ帳を仕舞うと銜えた煙草を床に投げ捨てて泥塗れのブーツで踏み潰すなり椅子から腰を上げて中隊長へ正対した。青年も同様に立ち上がって上座へ正対する。

 

「──ブリキ共に思い知らせてやれ。どっちが化け物(怪物)かを徹底的に」

 

 中隊長の短いながらも訓示を受け、最先任の小隊長が敬礼の命令を各小隊長へ達した。ヘルメットを被る長身かつ大柄の将校達の挙手敬礼に中隊長は答礼を返す。

 

 右腕を下ろした中隊長が解散を達した。小隊長達が指揮所を抜け出て、自らが預かる小隊へ向かう。今度は小隊へ戻り、分隊長達を集めて下達事項の連絡を行わなければならないのだ。

 

 面倒臭いことこの上ないが、これも仕事の内だ。分隊長達もそうであろうが、割り切って貰いたいものである。賄賂代わりの嗜好品(煙草)もあるのだ。

 

 本来なら空弾倉を投げ込むか、細々とした小物を放り込むダンプポーチの中はソフトパックやボックスの煙草でパンパンだ。それを詰め込んだまま青年は調節を済ませている小銃のスリングベルトを身体へ通した。銃口は下に向かうよう──万が一にでも味方(仲間)へ向かわないよう、最悪は自分の脚を撃ち抜くよう処置を取る。安全装置も掛かっていると認め、指揮所を抜け出ようとした瞬間だ。

 

「──ディック」

 

 中隊長の声が掛かった。

 

 振り向き、再び正対する。

 

「──あまり気負うな。お前ならやれる」

 

 正式に昇任、そして任官を受けたばかりの将校へ対しての激励だろう。ただし言葉だけのそれではなく──本心からの激励であることは視線が物語っていた。

 

「──ありがとうございます。──()()()()()

 

 その激励へ青年──まだ10代の彼は限られた一部の書類上(データ上)にしか存在しない上官へ礼と共に姓や階級を合わせて告げた。

 

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