勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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皆様、お久しぶりです。

精神的な諸々が随分とありまして、投稿が滞っておりましたが、やっと続きを書き上げられました。出来についてはリハビリもあって拙い点が多々ありますが、お目溢し頂けましたら幸いです。今後もお付き合いを宜しくお願い致します。


第12話

 

 

 掘削用爆弾。それこそが結論を先に言えば今回、アークへラプチャーを案内する通路を啓開した代物である。

 

 侵入する穴が地上へ穿たれた後は連鎖的だったのだろう。近辺に存在したラプチャーが爆発音に導かれるまま集結。ロード級が発したコーリングシグナルがまた更なる増援を誘引し、アークへの侵攻を許したという訳だ。

 

 しかし()()()()()が何故、地上で炸裂したのか。当然だが偶然ではない。そこに至るまでの経緯──と言えば断片的な説明ではあるが、ムーアが片手に持つ携帯端末の液晶画面へ映された記録動画を元にアークの管理を担うA.I.から説明を受けた。

 

 アニスが率直な疑問を投げ掛ける。

 

「──どうして止めなかったの?」

 

 アークに彼女──アニスの言葉を借りれば超スーパーA.I.たるエニックの監視の目が届かぬ場所はない。また付与された権限も絶大だ。そのエニックが付与された諸々の権限を以て、中央政府軍なり、或いは三大企業が抱える部隊を動員すれば今回の事態は引き起こされなかったであろう。

 

 アニスが尋ねるとエニックは彼女達の聴覚、そしてムーアが両耳へ嵌めたヘッドセットのハウジングを震わせる短い一言を返す。

 

〈──気付けませんでした〉

 

「……えっ?」

 

 A.I.に感情という物は存在しない。ただ淡々と事実のみを語っている。それを思わせる味気のない声音だ。

 

〈──個々の行動が重なり、このような結果に繋がるとは予測が出来ませんでした。おそらく私が、()、というものを理解出来ないせいでしょう〉

 

 ──ムーアがあの時、拳銃を抜き、撃鉄を起こし、あまつさえ銃口を突き付けた理由も理解は出来ていない可能性もあった。

 

 その可能性へ思い至ると彼は僅かに鼻を鳴らす。幸いにも気付く者はこの場に誰もいなかった。

 

 個々の行動──記録された動画の始まりはコインラッシュから。そこでの一悶着はアンダーワールドクイーンと双子の遣り取りが主だったが問題はその後だ。このコインラッシュに於ける一悶着(茶番劇)は一連の騒動の序章に過ぎなかったとも言える。

 

 アウターリムのテロ組織であるエンターヘブンの暗躍──それこそが今回のアークへのラプチャー侵攻の切っ掛けと仄めかされたが、どうにも妙な展開がいくつか発生した。

 

 ブラックネットで新式の個人銃器──突撃銃へ分類されるそれがざっと200挺、弾薬も相当数が売れたという。故障も少なく、反動も抑えられたニケ用のそれは()()()()()()()人間も撃てる代物だとか。

 

 エリシオン・ハーパー──もといE.H.と呼ばれるエンターヘブンのリーダーと中央政府軍副司令官の一角へ君臨するドバンとの裏取引。尤もその裏取引は袖にされたようだが。

 

 最も気掛かりな点は一見すると個々の思惑が複雑に絡み合い、重なり合って、今回の事態が引き起こされた──ようにも見えるが、その裏に暗躍するエキゾチックの影だ。

 

 ──何を企んでいる。クロウ。

 

 あの翠色の瞳と共に脳裏へ彼女の声が不意に思い出される。

 

 ──()()()()()が打ち上がる日、もう一度、あたしがお前を天国に送ってやる為だ

 

 ──()()()まで──地獄になんか墜ちるなよ?

 

 その時、とはいつを指していたのか。深く考えたことは無かったが、或いは、もしかすると──

 

「……殺しておけば良かったかもしれんな」

 

「──指揮官?」

 

「……なんでもない」

 

 少なくとも相討ちには出来たであろう、と思い至っても後の祭り。悔恨の念が声音に混ざっていたのか、ラピがムーアへ気遣いの視線を向けるも彼はヘルメットを被る頭を左右へ振り、気にする必要はないと返した。

 

 辿り着いたA.I.研究所──エニックに招かれた施設は閑散としていた。人間の所員、研究員は避難したのだろう。残されたアンドロイド兵ばかりが目立っている。警備に立つ少数のアンドロイド兵にはムーアを始めとした一行の通過許可が事前に達せられていたようで誰何を受けることもなく施設の深部へ向かうことが出来た。

 

 この非常事態にいちいち誰何を受けていては時間が勿体ない。こればかりは有り難いことだった。

 

「──ようこそ」

 

 至る所にホログラムが投影され、スーパーコンピュータの類が忙しなく稼働を続ける管理A.I.の一室。部屋の主は彼等の来訪を事前に承知していたのもあり、実体を露わにしているものの感情がない事務的な挨拶を述べつつ歩み寄った。

 

「──改めて。ムーア少佐、お久しぶりです」

 

「……あぁ」

 

 大きな帽子から垂れ下がる薄いヴェールの向こうに透けて見える整った顔立ちが彼を見上げ、軽く目礼をした。それにムーアも事務的、或いは礼儀的な軽い目礼を返す。

 

「こんにちはぁ。初めましてですよん」

 

「ははは、はじ、はっ、初めまして!あああ、アークの主人であるエニックとお会いできて、こ、光栄──」

 

 同行したポリとミランダは初対面だったらしい。後者の彼女は気の毒と思える程に緊張が隠せない様子だった。

 

「私はアークの主人ではありません。管理A.I.です」

 

「あっ、そ、そうなのですか…?」

 

「……本題に入ろう。勝算はあるのか?」

 

 挨拶ばかりに時間を割いては意味がない。ムーアは以前の()()()()()を暫し忘れることに決め、管理A.I.を見下ろしながら単調な低い声音で尋ねる。

 

 ボディアーマーのポーチから引き抜いた煙草を取り出すと眼前の管理A.I.が薄いヴェールの向こうで双眸を僅かに細めた──気がした。

 

「──ここは禁煙です」

 

「知っている。銜えるだけだ」

 

 火を点けず、乾燥気味の唇の端へ煙草が銜えられる。まるで、これで話を聞く姿勢は整ったと言わんばかりの態度だ。

 

「勝算があるのか、という質問ですが──これから6時間後に全ての状況が片付きます」

 

 エニックは淡々と語る。

 

 掘削用爆弾で穿たれた穴──ラプチャーの侵入を許した穴を再び塞ぐ為、マイティツールズが緊急投入されており、目下作業が続けられている。

 

 その作業現場の付近となる地点ではアブソルート、メティスが新たなラプチャーの侵攻を阻止する為に戦闘を繰り広げ、作業は順調に進んでいるとか。

 

 管理A.I.がムーアの目と鼻の先で両手を胸の辺りにまで持ち上げた。すると白い長手袋に包まれた手の平の上へホログラム──さながら精巧なミニチュアや箱庭と思えるアークの全景を投影する。

 

 そのホログラムに小さな赤い光点がいくつも浮かび上がる。これは各地で交戦中のニケ分隊等を示しているとエニックは説明した。

 

 交戦中のニケにも少なくない損害が発生している模様だ。小破や中破──しかし大破、死亡処理がなされたニケはまだ存在しないと言う。

 

「──戦力及び各種インフラは迅速に復旧中であり、5分後にアーク内の通信が全て回復します。状況整理後、34日後に全被害を復旧可能です。その為のプランを確認されますか?」

 

「……いや、それは構わない。門外漢だ。専門的な確認が出来ないからな。……ほぼ奇襲に等しい侵攻であったにも関わらず順調なことだ」

 

「アーク内部に自律型武装を内蔵し、いつ、何処でも補給出来るよう環境を整えておきました。私は常に()()()()()を想定しています。そしてこの事態は最悪ではありません。その為、比較的スムーズに対応できます」

 

 管理A.I.が両手を下ろす。それに合わせて投影されたホログラムは光の粒子となって消失した。

 

「……凄いわね」

 

「でも良かったです。最初は本当にどうなるかと思っちゃいましたよ」

 

 アニスが感嘆した後、ネオンは同意しつつ緊張の糸が僅かに緩んだのか安堵の、もしくは楽観的な言葉を漏らす。

 

 この状況と事態の中で()()()()()()と断じた管理A.I.の所見へ思うところは尽きない彼が銜えた煙草を意味もなく揺らす最中、傍らに立つラピがエニックを見据えた。

 

「……指揮官を呼んだ理由は?」

 

 彼の副官、参謀──とも捉えられる立ち位置の彼女が道中、エニックが口にした言葉の意味を問う。

 

「そうね。指揮官様がすべきことがある、って言ってなかった?」

 

 アニスも思い出したのだろう。ラピに続いて問い掛ける。

 

 問い掛けを受けたエニックは頷く。この部屋、この施設へムーアを始めとした一行を招いた理由を忘れてはいない。その真意を語る為、管理A.I.は薄いヴェールの向こうで唇を開く。

 

「──はい。ヘレティック・ニヒリスターがアークにやって来る筈です」

 

 紡がれた言葉にその場が一瞬静まり返った。

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