勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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夏イベはクルーズ船もとい幽霊船でのハチャメチャなギャグ展開──になるとは思えないのがNIKKEなのですよね。

それはそうと──ラピ……そのエグい角度と狭い布面積のマイクロビキニは──ッ!!透けたシャツを捲るんじゃあない!!誘ってるのか!?エンカウンターか!?エンカウンターしていいんか!?



第3話

 

 

 ムーアは何度かミシリス本社へ来訪の経験がある。当然だが受付へ話を通す点に変わりはない。

 

 ただし今回に限ってはアポイントメントの有無は問われなかった。状況が状況である。中央政府発行のIDカードの提示で事足りてしまった。

 

 受付の担当者からCEO達が集まっている会議室を示されると彼は短く礼を告げて目的地へ歩き出す。

 

 エレベーターを乗り継ぎ、廊下を進むが行き交う社員達はいずれも慌ただしそうだ。実際、慌ただしいのだろうが。

 

 目的地まで残り僅か。彼は被っていたヘルメットの顎紐を緩めた。脱いだそれを左脇へ抱えつつ携行した突撃銃の弾倉が抜かれていることを確かめる。薬室を開放し、空撃ちも済ませてから扉の前へ立つ。扉が横へ滑り、室内の様子が露わとなる。

 

「──あぁ、ムーア少佐。敬礼は省略してくれ」

 

「──イングリット社長、お久しぶりです」

 

 入室した彼へ三対の瞳が向けられた。一番に視線を向け、声を掛けたエリシオンのCEOたるイングリットへ挨拶を済ませたムーアがサングラスを外し、ボディアーマーのポーチへ引っ掛けつつ三大企業の頂点に君臨する面々が集う机上に歩み寄る。

 

──Major Moore!Long time no seeですNe!

 

「マスタング社長もお久しぶりです。──シュエン会長も」

 

「……えぇ。元気そうね」

 

「いつ帰って来た?」

 

「ほんの3時間前です。前哨基地に戻って1時間と経たずにこの事態で髭を剃る暇もありませんでした」

 

──Oh!それはdisasterでしたNe!

 

 オーバーリアクション気味のテトララインCEOであるマスタングは普段と変わりがない。薄い胸の前で腕を組むミシリス・インダストリーCEOのシュエンは彼の顎や口周りに生える無精髭を認め、眉根を寄せて僅かな不快感を示す。

 

 髭を剃る暇が与えられたのなら、もう少し格好も良く参上しただろう。しかし状況が状況である。身形に構ってはいられなかった。

 

 抱えていたヘルメットを机上の天板へ置いたムーアは投影されているアークの地図に視線を向ける。

 

 現在の状況なのだろう。いくつかの光点が瞬き、交戦中であることを示している。

 

「──疲れているだろうが、ベッドに倒れ込むのはもう少し先延ばしにしてくれ」

 

「ご心配なく。そのつもりです。──それはそれとしてエニックから送られたファイルについては?」

 

 暫く被っていたからだろう。ヘルメットのお陰で首が凝った。無意識にゴキゴキと首を鳴らしてしまうのは育ちの悪さ故──と見逃して貰いたい気分になりつつムーアは尋ねる。

 

「あぁ。エニックからの映像は確認した。……しかし、あれだけでは判断材料に欠ける」

 

心証はありますGA、決定的な証拠がないですNE。エキゾチックの行動には一貫性がありませんYO

 

 イングリットが柳眉を寄せ、言葉通り判断に困る様子を醸し出す。

 

 マスタングは──いつもの調子ながらトレードマークであるティアドロップの奥で双眸を細め、何処となく淡々とした口調のまま事実を述べ始める。

 

クロウは掘削用Bombを買って、またBlack Netに登録したDAKE。バイパーはいつものように知人に情報を提供しただけですNE。ジャッカルはElevatorの固定装置をBiteしてCutしただけですYO

 

 なるほど──確かに。

 

 彼女と彼の物言いに誤りはない。一理ある。

 

 無性にムーアはニコチンやタールを含んだ空気を吸いたくなった。ほぼ無意識の領域で彼は右手をボディアーマーのポーチへ向かわせ、そこからソフトパックやオイルライターを取り出す。

 

 すると咳払いが響く。それを発したのはシュエンだ。小柄な彼女の眼差しが壁際へ送られ、彼の視線を誘導する。

 

 NO SMOKING──禁煙を示すプレートが壁に打たれていた。

 

 世知辛い世の中である。肩を竦めたムーアは取り出したばかりのそれらをポーチにしまい込んだ。

 

──But、とてもSimpleに確認する方法がありMASU!

 

「そうだ。脳スキャンをすれば簡単に解決する。それにディープスキャンを使えば、その意図まで──」

 

「──なんでそこまでする必要があるの?」

 

 脳スキャン、そしてディープスキャンを実施してエキゾチックが今回の一連の騒動に関与した意図を把握しよう──それを提案しようとしたイングリットへシュエンが言葉を重ねて遮った。

 

「状況から見てほぼ確定じゃない。簡単に解決できるのになんでわざわざそんな面倒なことしなくちゃいけないのよ」

 

 幼さが残る声音だが、それもまた一理ある意見──ではあるが、シュエンの手元に握られた携帯端末がムーアの視界へ入った。細い指先が液晶画面をタップしている。

 

「──失礼」

 

 イングリットの背後から回り込んだムーアがシュエンの細い手首を掴み、携帯端末を奪い取った。

 

 無体な行動にシュエンが抗議を発するのも無理はない。

 

「ちょっと、何すんの!返しなさい!」

 

 開かれたままのアプリの画面にはエキゾチックに所属する3名の名前がそれぞれ浮かび、その隣にはself-destructの赤文字が綴られている。

 

 彼女達の首に巻かれたチョーカー──それに内蔵された爆薬を起爆させる為のアプリであろう。

 

「……何故、これを急に?」

 

「決まってるでしょ?こいつらの頭を吹き飛ばすのよ。アークに穴を空けたのよ。頭がおかしいにも程があるわよ」

 

「──真相を闇に葬るおつもりですか?それとも隠蔽工作の意図が?」

 

「……は?」

 

 上背がある彼が生身と義眼の双眸を細めながら彼女を見下ろして尋ねる。

 

「エキゾチックはミシリス・インダストリーが主軸となって編成された部隊だと聞いています。その企業で製造されたニケが前代未聞のテロを起こした──それが表沙汰になり、メディアが報じれば株価や評判が大幅に下がるのは目に見えています」

 

「──ア、アンタ…地上に行って頭がおかしくなったんじゃないの!?」

 

「……私の頭がおかしいというのは随分と前から評判だった記憶がありますが」

 

 今更の指摘である。皮肉を返しつつ彼は一度は仕舞ったソフトパックを取り出した。手首で軽く振り、飛び出した煙草を銜えて引き抜くとオイルライターの火を点ける。

 

「──いくら気に入らないからって私が()()()()()でそんなことするように見える?ねぇ?」

 

「…………えぇ、まぁ。やるかやらないか、で言えば……やる、と」

 

 紫煙のニコチンとタールを堪能しているからか、思わず口に出てしまう本音。それを聞き取ったシュエンは双眸を細めながらムーアへ歩み寄ろうとする。──しかしそれは叶わなかった。

 

「──やめるんだ」

 

 両者の間へ白い外套の裾を翻しつつイングリットが割り込む。

 

 ムーアとシュエンを牽制する女傑は続けて口にする。

 

「この事件の犯人は必ず突き止めねばならない」

 

「ハァ?何が問題なのよ?」

 

 牽制をするのは変わらないが女傑も言葉にしないが、エキゾチックの3名へ対する自爆信号を発しての処分には反対の立場だと伺えた。

 

 眉尻を釣り上げるシュエンは既に問題の粗方は始末がついている認識──なのかもしれない。

 

 市民はシェルターへ避難し、アークへ侵攻したラプチャーもこれ以上の被害が出る前に全滅させる方針だ。

 

 ヘレティックまでもが侵入したが、それはピルグリム──ドロシーによって撃破されている。

 

「何の問題もないのに犯人を突き止めるのがそんなに大事?罪を犯したなら償わないと。エキゾチックの奴等は処分されて当然よ」

 

「そう簡単に終わる話じゃない。──E.H.がこの事件の犯人として挙げられている」

 

 E.H.──エニックから見せられた映像記録にもその姿は捉えられていた。彼女はエンターヘブンのリーダー。そしてエンターヘブンとはアウターリムのテロ組織である。

 

「──これが何を意味するか分からないのか?」

 

「知らないわ。どうでもいい」

 

 自分には関係のない話だ。そう言わんばかりの態度のままシュエンが吐き捨てる。

 

 するとマスタングが細く、小さな溜め息を漏らしながらティアドロップを指先で押し上げ、位置を直すなり唇を開いた。

 

──中央政府がOuter Rimを一掃する口実を手に入れたという意味DESU。Arkに穴を空けた前代未聞のテロDESU。少しでも関係があると判断すれば躊躇わないでSHOW

 

 アウターリム──街並みとも言えないゴミ溜めの如き光景が彼の脳裏に思い出される。

 

 あの時に吸った空気──人間の体臭やあらゆる廃棄物から発せられる悪臭が混ざった重い空気は一度吸えば充分だ。忘れられそうにない。

 

 同時に彼の脳裏に浮かび上がったのは小柄で痩せっぽちの少女の姿。垢に塗れ、体臭もキツく、痩せ過ぎて四肢が枯れ木のような有様の少女──記憶のデータベースから浮上した少女が手話で別れ際に交わした言葉。

 

 ──やくそく

 

 ──わすれないで

 

 成長した少女との再会を誓い合った──誓うなど大層なことは言えない。ままごとにすらならない約束だった。しかも叶うこともなかったであろう約束である。

 

──ドバン副司令官が既に動いているそうDESU。彼はOuter Rimを憎んでいますYO。このChanceを逃さないはずDESU

 

 アウターリムの一掃を正当化する大義名分、或いは口実を中央政府に与えてはならない。

 

 その為にはアウターリムが関与したのではなく、あくまでもエキゾチックが犯行に及んだと証明する必要がある。彼女達は生きて捕らえねばならない。

 

 そうでなければ──アウターリムは、あのゴミ溜めや糞溜めに等しい中でも生きている住人達は、老いや若き、或いは男女の区別なく、屍山血河の有り様に成り果てる。

 

 少女──アンナ。あの哀れで、健気で、しかし懸命に生きていた筈の少女の最期の姿が克明に蘇る。

 

「だからアウターリムの奴等なんかどうなっても──」

 

「──それはダメだ」

 

 バキリ、と何かが砕ける音が室内に響く。ムーアから響いたそれを聞き取ったCEO達の視線が向けられる。

 

 彼が握っていたシュエンの携帯端末──それが握り潰されていた。端末の砕けた液晶画面が床へ散らばる中、事態をやっと飲み込んだ持ち主が目を丸くしつつ彼へ強く抗議を放つ。

 

「馬鹿じゃないの!!何してんのよ!!」

 

──Oh!Major Mooreは地上から帰ってきたばかりですからNE。Powerの調整が出来ないんでSHOW

 

「……かもしれないな。それに、ミシリス本社(ここ)へ来るまでラプチャーとの交戦もあっただろう」

 

 燻らせる煙草の紫煙の香りだけでなく、硝煙独特の鼻を突く香りを纏っているムーアだ。()()()()()気が立っていても仕方ない──とイングリットやマスタングの弁護がされる。

 

 そこまでされると居心地が悪い。思わず握り潰してしまったのは意図的ではないのは確かなのだが。ムーアは溜め息混じりにスクラップとなったシュエンの携帯端末を机上へ置く。

 

──Major Moore。エキゾチックの追跡を任せMASU

 

「我々もサポートしてやりたいが、アークに侵入したラプチャーの数が多い。全戦力をそこに注いでいる。君に手を貸すのは厳しそうだ」

 

「……問題ありません。いつものことです」

 

 短くなった煙草を最後に深く吸い、紫煙を緩く吐き出しながらムーアは携帯灰皿へ吸い殻を投げ込む。

 

「その代わりになるがエクスターナー部隊、メイデンとギロチンを待機させておこう」

 

「……エクスターナー……あぁ、確か……」

 

 イングリットが口にした部隊と名前。マテリアルH──あれを確保する際の任務で遭遇した2名だろうとムーアは思い出す。

 

──ではMeはMy Queen達を動かしてみましょうKA?

 

「……アンダーワールドクイーンを?ドバンとのトラブルのせいで謹慎中では?」

 

 マスタングが告げる思いも寄らない人選にイングリットの柳眉が寄る。それを認めた稀代のエンターテイナーは大仰な手振りと口振りで懸念を一蹴してみせる。

 

──Haha!My Queen達はそんなことに囚われませんYO!勿論、MeもそうですGA

 

「………何をするつもりだ?」

 

 女傑から尋ねられるとマスタングはドバン副司令官の邪魔──作戦行動を妨害する、と答える。

 

 収集した情報によればドバンは兵力を集めているとのことだ。何の為に兵力を集めているのか──十中八九で予想が出来る。その妨害をするのだとマスタングは語った。

 

「……内戦でも起こす気か?」

 

──Oh No!Meの目的はあくまでも誰もHurtしないことDESU!ですから精々、小さなFightぐらいでShow!

 

 小競り合い程度に済ませる──とマスタングは確約の言葉を述べた。

 

「……そうか。お前なら上手くやるだろう。それでムーア少佐。何処からエキゾチックを追跡する?」

 

 マスタングから視線を外した女傑が見上げながら彼へ問う。

 

「……まずはアウターリムから。彼女達の本拠地です」

 

「そうか。良い判断だ。では各自動くとしよう」

 

Good Luck

 

 情報の擦り合わせ、そして今後の行動の打ち合わせは終わった。

 

 各々が動き出す。ムーアは机上へ置いていたヘルメットを拾い上げ、会議室を抜けようとしているイングリットやマスタングを認めるが違和感を覚えた。

 

 足りない──それが覚えた違和感だ。瞬時にその正体を理解した彼は立ち去ろうとしていたイングリットを呼び止める。

 

「イングリット社長。アンダーソン閣下は?」

 

 今更の違和感──それも直属の上官の姿が見えないことに気付くのが遅すぎると誹りを受けかねない。しかしこの面々が集っているにも関わらずアンダーソンの姿がないのは不可解だ。

 

 彼からの問い掛けにイングリットは歩みを止め、暫しの沈黙の後、背後を振り向いて彼へ視線を送る。

 

「──………アンダーソンは今、治療中だ」

 

「……治療中?」

 

 女傑が口にするまで幾らかの時間があった。言葉を選んでいたのだろうことは彼にも理解が出来た──のだが、解せない。

 

「……何かの持病で?それとも今回の襲撃で負傷を?」

 

「……命に別状はない。ただ動けるほど軽くもない。……彼は今回、いないものとして考えろ。詳細は後日、説明する」

 

「……了解しました」

 

 副司令官の不在──直属の上官の不在如きでムーアが混乱する性格の持ち主ではないことはイングリットも承知している。だが彼の眉根が寄り、縦皺が深く刻まれているのを見ると、不可解に感じている様子が伺える。当然であろう。

 

 だが彼はその話は一旦、追及を止め、出発の為の準備に動く。ヘルメットを被り、顎紐を掛け直して戦支度を済ませたムーアが扉へ向かって歩き出す。

 

 それに合わせ、イングリットとマスタングも進み出した。

 

「……この件が済みましたら、新しい武装車輌(ハンヴィー)を1台頂けませんか?廃車にしてしまいまして」

 

「請求書はニケ管理部に送れば良いか?それとも少佐宛か?──冗談だ。何台でも都合しよう。その代わり、頼んだぞ」

 

Yeah

 

「……微力を尽くします」

 

 扉が自動的に開き、3名の姿が消える。それを見送ったシュエンは彼等が消えた扉の向こうを睨み付けていた。





………あのうじゃうじゃいる幽霊が本物だとしたら、ムーア少佐には近付けないかもですね。彼、大勢憑いている設定ですから。
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