勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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こんなに連日更新するのはいつぶりでしょうか………


第14話

 

 

 

「──真っ昼間の都会で銃撃戦(ドンパチ)をする日が来るとはね」

 

「──ラプチャーのせいで人々がシェルターに避難しているから出来たことです」

 

 笑えば良いのか、或いは複雑でなんとも言えない表情を浮かべれば良いのか、ロザンナは少しばかり困った。

 

 エターナルスカイに空いた大穴は塞がれつつある様子が伺える。それは僥倖だろう。

 

 まぁ、その点については彼女が心配する領分ではない。あくまでもアークを管理するA.I.や軍部に政府高官達の心配事、若しくは関心事の筈だ。

 

 彼女の心配事と言えば──広場で撃ち合いを続けている現在の状況だ。率いる組織の中でも()()に慣れた者達を連れて来たが、広場の噴水や遮蔽物となる壁の向こう側から応射を返して来る量産型ニケ達との銃撃戦は一進一退が続いている。

 

 ロザンナは広場に設けられていた長椅子へ腰掛けつつ、優雅に長い脚を組みながら前方で繰り広げられている銃撃戦の模様を一時、観戦することにしていた。様子見とも言える。

 

 その彼女の傍らには白い中折帽を被る相談役(コンシリエーレ)が侍る。買い替えたばかりの銀無垢の輝きを放つシガレットケースの蓋を開けた彼女が整然と並んだシガリロを摘み取り、形の良い唇へ銜えた瞬間、コンシリエーレは腰を下りつつライターを翳した。

 

 銀無垢のシガレットケースは余計な装飾や刻印が存在しない。精々、ブランドのロゴが刻まれている程度だ。ロザンナ(ボス)にしては地味な買い物──にも思えるが、身辺の世話も任せられるコンシリエーレは彼女の心情を察していた。

 

 ()()()()()()──ショウ・ムーアという青年将校が持つオイルライターと同じブランドらしい。

 

 耐風性が高く頑丈。かつ必要最小限の構成の為に部品点数も少なく、修理も容易──突き詰めれば、何処でも火さえ点けば良い、という合理性の塊のようなライター。

 

 歴史の長いブランドだとはコンシリエーレも知識として持ってこそいるが、まさかロザンナも同じブランドの商品を求めるとは思いもしなかった。

 

 それほど()()()()()()に御執心の証拠だろう──と考えつつ、コンシリエーレはロザンナが銜えたシガリロの先端を炙り終わるなり、ライターを懐へ仕舞った。

 

 ロザンナも一見すると地味な銀無垢のシガレットケースを仕舞い、脚を組み替えながら銜えたシガリロの紫煙を堪能する。

 

「え〜っと……?()()()()にあとどれくらいいんの?」

 

「50機程、用意していると聞きました。20機は今、ドバンが直接率いてアウターリムへと向かったそうです」

 

 流れ弾が何発か彼女達の真横を通り過ぎる。風切り音を響かせながら過ぎ去った流れ弾が広場へ野晒しのまま放置された露店のショーケースを打ち砕く中、ロザンナの哄笑が響いた。

 

「──ハハッ!バッカじゃないの!」

 

 アークにラプチャーが侵入し、大混乱が生じている渦中で軍部の副司令官がそれを差し置いて、事もあろうに()()()()で武装した量産型ニケを率いてアウターリム一掃に出動する──という暴挙。

 

「ねぇ、どう?まともな奴だと思う?」

 

「……冗談でもそうとは思えません」

 

「あいつ、アウターリム出身だって言ってたよね?」

 

「ドバンですか?えぇ」

 

 ロザンナからの問いにコンシリエーレは首肯しつつ、片手に携行する銃を握り直す。先程よりも流れ弾の数が増えていた。

 

 舗装され、整備された広場が銃撃戦で台無しだ。市民の憩いの場を荒らすのは些か良心が咎めてしまう。

 

「あらゆる情報を売り飛ばしてアウターリムを地獄にする代わりにアークには平和を齎した──っていう()()で最短期間で副司令官になった男。なんでそんな生き方を選んだのかな?」

 

「……消したいから、ではないでしょうか」

 

 コンシリエーレの言葉の真意を探ろうとロザンナは優雅に長椅子へ腰掛けつつ傍らに立つクリーニングされた服を纏う側近を緩く仰ぎ見る。

 

「ドバンにとって一番の恥はアウターリム出身ということでしょうから」

 

「……ふーん。あたしの考えはちょっと違うな」

 

「……と、言いますと?」

 

 堪能していたシガリロも短くなってきた。ロザンナは細い指先──爪も丁寧に仕上げられた指先を覆うグローブ越しにそれを摘み取るなり、足下へポトリと落とす。

 

 組んでいた脚が解かれ、靴が緩く紫煙を立ち昇らせていたシガリロを踏み潰した。

 

「──あいつはただ、人を殺すのが好きなんだと思う。つまりクズってこと」

 

「……なるほど。それも正しいかと」

 

 人物の評価は、それぞれである。コンシリエーレのドバンに対する評価、そしてロザンナが下した評価も、彼の人物を示すそれと大差はない筈だ。

 

 また、ロザンナやコンシリエーレの真横を流れ弾が過ぎ去った。

 

「──それより、なんでこんなに時間掛かってんの?」

 

「相手は精鋭部隊ですからね」

 

 コンシリエーレが告げた事実にロザンナは舌打ちを漏らす。

 

 閲兵や行進等を専門とする部隊──という訳ではないらしい。

 

 長椅子へ立て掛けていたゴールデントミー(機関銃)が乱雑な手付きで握られた。

 

 掴み取ったそれをロザンナは肩へ担ぎつつ長椅子から腰を上げる。

 

「──行こっか。実戦は久しぶりだけど、この後の予定も詰まってるしね。──あ、そうだ。撃ち合いが終わったらロイヤルロードで一番良いレストラン(いつものところ)の予約もしておいて。二人分」

 

「はい、ボス」

 

 この分ではアークの大半の飲食店は暫く休業になるのではないか──という危惧もコンシリエーレの脳裏へ過ぎったが、彼女は無茶振りに慣れている。いつものことだ。

 

「──ミスターにも予定を空けて貰わないと。まさかアークに帰って来てたなんて知らなかったな」

 

 ドレスコードに来店予約も必須のレストランでのデートへ誘うよりも、銃撃戦の加勢を依頼する方が()()()()()()は応じてくれるのではなかろうか──などとコンシリエーレは考えつつも握った銃器の槓杆を引く。

 

 いつもの通り、彼女はロザンナ(ボス)に従い、鉄火場へ向かって歩み始めた頭目の後へ続いた。

 

 

 

 

 

 

 彼方から何十もの銃声が遠雷の如く響いている。

 

 ラプチャーを掃討する為の戦闘か──いや、それにしてはどうも毛色が異なる気もした。

 

 ここまで疾走を続けたモランは息を整えつつ、彼方からの戦闘の様子へ聞き耳を立てた後、通話中の側近へ声を掛ける。

 

「──銃声が聞こえる。サクラとロザンナが?」

 

〈──だから言ったでしょう。で、どうするつもりですか?〉

 

 清明会当主のサクラ、そしてヘッドニアの頭目であるロザンナ──アンダーワールドクイーンの他2名も差し迫っている危機に行動している、と側近(ジン)から告げられたモランは安堵の息を整える呼吸へ混ぜた。

 

「サクラとロザンナが援軍を防いで、アウターリムの皆に武装させないようにしてるなら──俺が()()()()()()はただひとつ。ここに攻め込んで来るドバンの部隊を止める」

 

〈──……一人で、ですか?〉

 

「あぁ、一人で、だ」

 

〈──いや、姉貴、それは……っと、遅かった……〉

 

 無茶にも程がある姉貴分の発言へ、彼女の弟分は電話越しに呆れを混ぜた言葉を返しそうになったが──開放されたアウターリムの防壁へ次々とエンジン音を響かせながら到着する多数の軍用車輌を何処からか認めたのか諦念の籠もった声を漏らした。

 

 弟分が何処から高みの見物をしているのかは定かではないが、モランは握っていた携帯端末の液晶画面を指先でスワイプし、通話を切って端末を仕舞い込む。

 

 停車した車列のドアが次々と開き、車内から20名前後の人影──武装した量産型ニケが姿を現す。

 

 一際目立つ装輪式の装甲車輌──装甲兵員輸送車(APC)の車体へ登り、訓示を垂れる大柄かつ筋骨隆々を誇示する人影の姿もモランの瞳は捉えた。

 

 時代錯誤とも言える腰に佩いた大振りの蛮刀、そして45口径の自動拳銃を携え、帽章を付けた赤いベレー帽に髭面の巨漢──軍部の副司令官の一角に君臨するドバンだ。あんな目立つ姿を見間違える筈もない。

 

「──全員、良く聞け!アウターリムの中にいる生きている者は全て!テロリストだと考えろ!全部ぶち殺せ!!」

 

 蛮声、と評して差し障りのない大声が響き渡る。

 

 ()()が副司令官の一角とは世辞にも思えない──弟をその座へ据えた方が相応しいのではなかろうか、とモランは我知らず考えてしまう。

 

 とはいえ、脅威であるのは間違いない。

 

 さて、どうするか──とモランは、こちらも世辞に言っても出来が良いとは評価できない頭脳の中で思考を巡らせる。

 

 どうすればアウターリムの蹂躙を止められる。

 

 何をすれば軍靴で踏み躙られずに済む。

 

 この中へ一歩でも通せば、その時からアウターリムは地獄の様相を呈するだろう。老若の男女を問わず──それこそ生まれて間もない赤子まで。死屍累々の有り様をモランは想像する。換気の能力が著しく低い環境もあって死臭は数カ月、或いは数年先まで滞留するところまで想像出来てしまった。

 

 思い付いた行動は──咄嗟や衝動的と言えばそれまでだ。

 

 しかし火力から異なる集団にたった一人で抵抗する手段はそう多くはない。

 

 ドバンが太い腕で掴んだ蛮刀を抜き払い、一丁前の指揮官ぶってアウターリムの防壁──唯一の侵入路へ切っ先を振り翳した。装甲兵員輸送車(APC)の車体上から蛮声で突撃の号令が響く。

 

 自動歩槍(ドラゴンヘッド)──彼女が携えるその火器へ付けられた名前。

 

 まだ地上で人類文明が謳歌していた時代に見られた寺社等の施設内に設られていた梵鐘や釣鐘。これの綱を通して吊るす部分は竜頭(りゅうず)と呼ばれている地域もあったという。

 

 竜頭の言葉が現す通り、その装飾が付けられる場合も多かったらしい。起源は、龍に似て良く吼えると言われた蒲牢(ほろう)という伝説上の生き物の頭が装飾としてあしらわれたのが興りのようだ。

 

 龍の咆哮がそうであるように、梵鐘や釣鐘の音が遠くまで良く響いて欲しい、という願いが込められていたのだろう。

 

「──オイッ!!」

 

 その自動歩槍を抱えながら、侵入路へどっかりと座り込んだモランの一喝は──さながら龍の咆哮にも似ていた。

 

 良く響き、突っ込んで来た量産型ニケ達の行き足を止める程に。

 

「──お前ら、この中に入る気か?」

 

 覇気、という不可視の存在が現実にあるとすれば、それは間違いなく大侠客(モラン)から放たれているだろう。

 

 武装し、リミッターが解除された量産型ニケ達の行き足が完全に止まった。

 

 防壁の開口部()は幅が広い。人間一人どころか3輌程の車輌が並んだまま出入り出来る程には広い。

 

 アウターリムへ突入するのはそう難しいことではない。それこそ開口部の中央へ座り込んだモランを無視すれば良いだけだ。

 

 だが、量産型ニケ達は大侠客から放たれる圧倒的な威圧感を前にして肝心の一歩が踏み出せない。

 

「──ここは俺の縄張りだ。通れると思うなよ」

 

「──……ここでも邪魔をするのか……死にたくないなら道を開けるんだな」

 

 威風堂々とした佇まいで立ち塞がる姿に装甲兵員輸送車(APC)の車体上から見下ろす格好のドバンは奥歯を強く噛み締める。歯軋りの音が鈍く響いた。

 

 果たして苦虫を何十ほど纏めて噛み潰しているか。是非とも伺いたい──ドバンの浮かべる表情を緩く仰ぎ見るモランが鼻をひとつ鳴らす。

 

「こっちのセリフだぜ。死にたくねぇなら失せろ。それか、ここじゃなくて他の入り口に行けよ」

 

 侵入路(入り口)はここが唯一という訳ではない。モランが指摘するように、他の場所にも存在する。ただし、開口されているのか否かまでは知らない。

 

 大侠客からの指摘にドバンは奥歯を更に強く噛み締める。その様子からモランは状況をいくつか察した。

 

 部隊を率いて移動しない様子から見るに──おそらくは侵入路は()()()()しかないのだろう。たぶん、きっと。

 

 そしてもうひとつ。これは状況ではなく、ドバンという一個人の心境や心情の類であろうか。

 

「──()()()()()()よなぁ?副司令官サマが、たった一人のニケのせいで回り道するなんて恥だもんな?」

 

 大侠客の放った一言は──ドバンに良く効いた。

 

「──最後の警告だ。退け」

 

 髭面に埋もれそうな唇を震わせ、双眸をこれでもかと見開き──それでも冷静であろうと努める余裕のない表情。

 

 これは良い。見物(みもの)として上等だ。

 

 優越感に浸りつつ大侠客は尚も動かない。

 

「だーかーらー。ここは俺の縄張りだって」

 

 あの余裕がなさそうな表情──その内、感情の制御が追い付かなくなり、ベレー帽から覗き見える太く浮かんだ青筋が千切れて出血しそうだ。

 

 その光景もついでに見たくなった大侠客は更に副司令官を煽る言葉を続ける。

 

「けど、もちろん通る方法はあるぜ。俺を殺すか、通行料を払うなら通してやるよ。通行料なら安いぜ。俺に一発殴らせろ。そしたら通してやるよ」

 

 熟れた棗にも似た紅い瞳が装甲兵員輸送車(APC)の車体上へ立つドバンを貫く。

 

 嘲り笑う口調と声音──いよいよ、副司令官の我慢も限界に達しようとしたその時だ。

 

 複数の重低音。量産型ニケ達にとっては聞き慣れたエンジン音だ。近付きつつある軍用車輌の気配を彼女達は感じ取る。

 

 動員された別部隊の車輌か──と彼女達、次いでドバンは考えたが、どうも違う様子を察する。

 

 その轟きは──アウターリムの内側からだ。

 

 目を凝らせば開口部の奥深くから速度を維持したまま接近する武装車輌とトラックの車列がある。

 

 車列の先頭を走る武装車輌はヘッドライトを照らしながらモランの背後で急制動を掛ける。ノーズダイブ──車体の前部が沈み込み、後部が浮き上がる現象を僅かに見せながら停車してみせる。

 

 武装車輌の左右を塞ぐように次々と同様の車輌やトラックが並んで停車し、たちまちの内に封鎖の格好となった。

 

 ドバンが怪訝な表情を浮かべる中、乱入した車輌の数々から下車する量産型ニケ達。全員が完全武装──それも対ラプチャー用の火器で武装した部隊である。

 

 副司令官の瞳は、次いで車輌のルーフ上へ据えられた50口径の機関銃の銃座が動く姿を捉えた。銃座へ就いているのも量産型ニケらしい。彼女達は揃って機関銃の握把を掴みつつ、バイザー越しにモランを隔てたアーク側に立つ対人火器で武装した量産型ニケ、そしてドバンを睨んでいる──ようにも感じられた。

 

「──何処の部隊だ!指揮官は!」

 

 ドバンが装甲兵員輸送車(APC)の車体上から吼えるように誰何する。それへ応えるかの如く、対ラプチャー用の火器を携えつつ立ち塞がる量産型ニケ達を割って姿を見せた青年の姿。

 

「──自分であります」

 

「官姓名を名乗れ」

 

「パトリック・グリフィス伍長であります、閣下」

 

 伍長か──とドバンは内心で青年へ付与された階級に対して、或いは見るからに若造である下士官へ対して侮る感情を抱く。

 

「伍長、貴様は()()()ではないな?」

 

 将校ですらない。良く観察すると、ボディアーマーやヘルメットこそ纏っているが、その下は私服であろうカジュアルな衣服だ。

 

 大方、騒動(テロ)が発生した時、シェルターに逃げ遅れてしまい、途中で遭遇した量産型ニケの一部隊へ同行したのだろう──と副司令官は予想する。間違ってはいない予想だ。ただし、正解とも言えない。

 

「命令だ、伍長。()()()()を排除し、道を開け」

 

 軍隊に於いて階級は絶対だ。それも副司令官直々の命令を伍長程度の下士官が拒絶など出来る筈もない。

 

 すると伍長がホルスターから拳銃を抜き取った。

 

 やはり()()は良く効く──ドバンの顔に喜色が浮かぶのも無理はない。

 

 抜き取った拳銃のスライドを僅かに引いて薬室に実包が装填されていると確認したのだろう。伍長が息を整える様子を見せた。

 

 ニケとはいえ、()()()()()()()()()を撃つことへの躊躇いだろう。やはり、若造か──ドバンが考えた次の瞬間、伍長が握る拳銃が持ち上がる。

 

 モランの後頭部に銃口が突き付けられる──ことはなかった。

 

 その銃口が向けられたのは伍長から見て前方、対人火器を握る量産型ニケ達やドバンに対してだ。

 

 事態が飲み込めないのだろう。副司令官が、そして率いる量産型ニケ達が呆気に取られた表情を浮かべ、思考が止まる。

 

 それを見逃すことなく、対ラプチャー用の火器で武装した量産型ニケ達が一糸乱れず携えた銃火器を構え、銃口を同じ顔をした者達や副司令官へ向けた。

 

「なんの真似だ!これは抗命か!?」

 

「いいえ、閣下。これは抗命ではありません。命令を遵守しているのです」

 

「命令だと!?誰の命令だ!」

 

 抗命罪は程度によって処罰は異なるものの重罪と判断されれば銃殺刑を科せられる。それを理解していない筈もない下士官へドバンが行為の真意を問う。

 

 返された言葉に合点がいかず、副司令官は更に尋ねた。

 

 誰の命令か──それを問われた伍長は、自身に命じた人物の名を告げる。

 

「──中央政府ニケ管理部所属、前哨基地司令官であるショウ・ムーア少佐殿であります」

 

 ショウ・ムーア──ドバンも名前と顔だけは覚えがあった。資料上の事ではあるが。彼は記憶を遡る。確か、同じく副司令官の一角に君臨するアンダーソンの子飼いの指揮官だった筈だ。

 

 特殊別働隊などと呼ばれる専属の分隊を率い、難易度の高い地上奪還の作戦に派遣される度に一定以上の成果を挙げ、帰還を果たしている──英雄の名だ。

 

 噂、或いは真偽の程は定かではないが、対ラプチャー用の火器を自在に操り、ニケに比肩する戦闘能力で単独撃破の記録もあるという──人間の皮を被った()()()の名でもある。

 

「──自分はムーア少佐殿から本小隊をお預かりし、指揮官の代行をするよう命じられました。軍人としての義務を、お前が宣誓した矜持を果たせ──そう命じられたのです」

 

「御託は良い!命令だ!そこを退け!」

 

 蛮刀を投げ捨てたドバンが腰から拳銃を抜く。副司令官の手には小さく見える45口径の自動拳銃の銃口が向けられる。

 

 伍長が遠目に捉えた真円の銃口──彼自身も不思議だったが、全く恐くない。

 

 不思議なものだ。銃口も、そして拳銃を握るドバン副司令官の表情は厳しさをこれでもかと露わにしているが──恐怖を微塵も感じないのである。

 

 精々、癇癪を起こした子供を相手にしている気分だった。

 

 あぁ──と伍長は納得する。

 

「──少佐殿の方がよっぽど恐い」

 

 小さく漏れ出た呟きは傍らのイーグルにも届かない。

 

 恐怖は先般にたっぷり味わっていた。それに思い至った伍長は、小さく笑ってしまう。

 

「何がおかしい!」

 

「いいえ、失礼致しました。繰り返しとなりますが閣下、命令を遵守する為、ここをお通しすることは出来ません。お引き取り下さい」

 

「貴様ァ…ッ!」

 

 たった一機のニケに突入を阻止されただけでなく、伍長という下士官でも最下級の者にまで楯突かれるとは。

 

 ドバンが拳銃の引き金へ掛けた指先に力を込める。照星と照門、そして伍長が一直線に並ぶよう見出されたまま()()が引き絞られようとした刹那──双方の量産型ニケ達が各々、身に着けるか内臓された無線機の交信を捉える。

 

 

 

 

 避難先のシェルターから飛び出した市民がラプチャーに襲撃を受けている──その交信は風雲急を告げるものだった。






姉貴(──全然、話聞いてなかったんだけど。え?なにこれ?どういうこと?)

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