勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
目前まで彼のアイドル復活が迫っており、書き手の私のテンションも上がっています。
………サイドストーリーを皆様は御覧になりましたでしょうか?私は就業時間前に読んだのがいけなかったですね。その日は仕事にあまり集中できませんでした。
始まりとは、いつも突然だ。その発端、或いは切っ掛けの行き着く先がどのような結末を迎えるかに関わらず、前触れらしいそれは感じ取れない。
いや、正確には
兎も角、始まりは突然だった。
前哨基地司令官を兼ねるムーアの
好き勝手に取り付けることは出来ない。礼式に則って順番を守る必要がある。
既に軍服の上着の胸元は彼へ贈られた勲章の略綬が彩られている。いくつかの略綬を連結金具から取り外し、等級や順番を守って、改めて取り付け直すのだ。
これがまた面倒臭いのである。
「……出動しただけ、地上から帰還しただけでこんなに勲章が来るとは……アーク防衛功労章の受勲条件に入るのか?」
「──いや、入らなかったらおかしくない?」
「──防衛功労章の副賞って年金が保証されていませんでしたっけ?」
「──そうね。確か……それに併せて住宅も用意されると聞いた覚えがあるわ」
「……名誉に名声は……趣味ではないが、有り難く受け取るとして……副賞はどれも要らんな。どうせなら
ソファへ腰掛けるムーアの傍らではライトブラウンの長髪を耳へ掛けつつ、彼の作業を手伝う
対面には
何度目となるか分からない戦闘用の装甲車輌導入を希望する彼の言葉──役に立たない
「……軍曹が来たからな。整備も出来そうだ。まぁ、宿舎のボイラーが直るかどうかで決まるが……」
人材が入って来たばかりでもある。彼が半ば無理矢理の格好で前哨基地へ迎え入れた
流石に建設支援部隊として名高いマイティーツールズには及ばないだろうが、日々の雑用に加えて定期的な訓練も重ねつつ、前哨基地へ所属する要員達の要請で工具箱片手に駆けずり回っている。
今日は量産型ニケを始めとした彼女達が目下の優先して解決すべき問題としている宿舎の
いつまでも冷水のシャワーは御免被る。感覚センサーを切っていてもだ。ただ身体の整備作業の為にシャワーを浴びるのではない。
──ちょうど略綬が等級や順番を守り、連結金具へ通された状態で再び軍服の上着へ戻された時だ。
彼の携帯端末が着信のバイブレーションを起こす。
ムーアが纏っている戦闘服のパンツのポケットから携帯端末を引き抜き、液晶画面に表示された着信元を確認するが──知らない番号だ。
彼は用済みとなった軍服をラピに預ける。彼女も承知しているかの如く受け取り、クローゼットへ収納する為、ソファから腰を上げるのを横目にムーアが通話をスワイプする。
〈──失礼します、ムーア中佐〉
電話口の向こうから響いた女性的な声。しかし感情らしいそれの類が読み取れない無機質さも併せ持った高い声。
アークの管理を担うA.I.であるエニックだ。
彼に自身の直通の番号を教えた記憶はない──まぁ、相手は管理A.I.である。彼の携帯端末の番号を知るなど造作もない。きっと携帯端末の製造番号まで知れる筈だ。
だとしても急な電話だ。そこまで友好な関係性とは言い難い。
「どうした、エニック」
〈──今直ぐM.M.R.へ
「……出撃?」
移動しろ、等ではなく、不穏な空気を否応なく感じ取れる文言。彼の眉間へ深い縦皺が寄った。
その様子は彼女達も捉えたのだろう。対面へ腰掛けるアニスとネオン、そしてクローゼットに軍服の上着を収納したばかりのラピ、それぞれの視線が彼へ集中する。
「──出撃と言ったな?」
〈──はい。あなたと特殊別働隊は直ちに出撃して下さい〉
「準備しながら事情を聞く。──分隊、出動準備。弾薬庫で弾薬受領後、10分後にエレベーター前へ集合。爾後はM.M.R.へ前進する。復唱の要なし」
まずラピが頷く。ただならぬ気配と空気を感じ取ったアニスとネオンも腰を上げ、先を急いで指揮官室を飛び出した。
携帯端末はハンズフリーとしつつムーアも立ち上がり、クローゼットの前へ向かう。
〈──突然、M.M.R.の中枢部から超高濃度エブラ粒子が大量散布され、スキャンが出来ず、詳しい事態を確認出来ない状態です〉
「──なにかしらの事故が発生した、という訳ではないようだな。出動や調査ではなく、
ハンズフリーとなった携帯端末はクローゼットの棚へ置かれた。
収納されている戦闘服の上着を掴み取り、黒い半袖のシャツの上から着込む。続けて整備を済ませ、新品のセラミックプレートが挿入されたばかりのボディアーマーを纏った。
ズシリとした重さ──常人なら身動きもままならないだろうそれを着込んだ彼は次いでヘッドセットを装具する。ヘルメットも被り、
「──話は無線で続けてくれ」
すると直ちに携帯端末の通話が切れ、続けて両耳を覆うハウジングにザッと短い雑音が走る。
〈──アークの戦力がM.M.R.に集結しています。あなたも分隊と共に迅速な合流をお願いします〉
「それだけか?他にも理由がある筈だ。でなければ、
〈──はい。ですから、あなたに直通回線を使って御連絡したのです〉
クローゼットの扉を閉め、隣に設けられた銃架へ立て掛けられたテトラライン製の突撃銃をムーアの大きな手が握った。掴み取ったそれの槓桿を引き、引き金を引く。機関部の撃鉄と撃針が駆動する感覚を捉え、細部の部品に脱落がないかを目視で確認。速やかに点検を済ませた。
ボディアーマーへ装具した
装具するのに掛かった所要時間は3分足らずだろう。
予備弾薬を詰め込む背嚢を背負い、ムーアが部屋を飛び出し、大股の早足で廊下を進み、階段を降る最中、ハウジング越しではエニックの無機質な説明が続いた。
〈──超高濃度エブラ粒子は今まで観測された回数が非常に少ないのです。その内の一回はヘレティック・インディビリアとの交戦中に観測されました〉
「インディビリアというと……マテリアルHの原型となったヘレティックだったか」
司令部庁舎を抜け出ると、そこからは駆け足である。ちょうど隣接する宿舎からラピを先頭にして、各々の突撃銃や擲弾発射器、そして散弾銃を握った分隊が飛び出して来た姿をムーアは目視する。
〈──メティスとアブソルート連合により深手を負ったインディビリアは逃走後、身体を回復しています。そこで観測されたのが超高濃度エブラ粒子です。エリア内の全通信機器を麻痺させ、ニケの機能の大部分を停止させます。まるで時間を稼ぐ為の煙幕のように〉
「門外漢にも分かり易い例えに感謝する。──弾薬庫開放!」
「──はい!弾薬庫開放します!」
覆土式の弾薬庫前へ到着するなり、ムーアが声を張り上げる。警衛隊に上番し、弾薬庫の警備へ当たっていた量産型ニケが厚い扉の封印を解くパスワードを打ち込んだ。
開放された扉の奥へ入った彼等は各々が用いる火器の規格に適合する弾薬を受領する。ムーアとラピは空弾倉へ徹甲弾や曳光弾を詰め込み、擲弾をポーチや
「──それで、まさかヘレティックがM.M.R.の中枢部で復活した、とでも言いたいのか?どうやって?」
〈──M.M.R.のアトラスケージに保管されていたマテリアルHは、あなたが仰ったようにヘレティック・インディビリアの破片です。──ヘレティック・ニヒリスターはそもそもM.M.R.中枢への侵入が目的で、死を偽装して目的地に潜入。マテリアルHを解放し、インディビリアとして復活させることが最終目的であったと推測されます。その場合──〉
「アークに2体のヘレティックが侵入したことになる、と。なるほど、確かに──大問題だ。あなたの想定する
〈──はい、
警衛所が目前に迫る。警戒に当たる量産型ニケが駆け足で向かって来る彼等のただならぬ雰囲気を察したのだろう。通行の邪魔となる拒馬を持ち上げてくれた。
警衛所を通過する際、彼は窓ガラス越しに立ち上がった人影へ、駆け足のまま軽く挙手の敬礼を送る。警衛隊司令に今朝上番したばかりのイーグルだ。彼女もムーアや彼女達へ──さながら緊急出撃を思わせる様子に緊張の面持ちを浮かべながら敬礼を返した。
〈──ただし、ピルグリム・ドロシーが最後に確認された場所もM.M.R.であることが分かっています。
「随分と気軽に言ってくれる。好みのトッピングにも応じるデリバリーピザじゃないんだぞ。……もう少しで昼飯だったのに……」
「……今日のお昼はピザじゃなかったっけ?」
「冷凍ピザらしいですけど、軍曹さんが少しアレンジして焼くとかなんとか」
「……食べ損ねたな」
前哨基地全体の胃袋を掴み掛けている──最早、掌握していると言っても過言ではないだろう。食事に頓着しない彼でさえも、食べ損ねた、と残念そうな声音を発する程度には気に入っているらしい。
〈──あなたと隊員の付近にエブラ粒子の浄化シーケンスを集中させます。それでも濃度は高いと思いますが、機能に問題は起こらない筈です〉
「……ご丁寧にどうも」
〈──ではお急ぎ下さい〉
エレベーターを呼び出すタッチパネルをムーアが操作する。エレベーターを稼働させるには本来なら複雑な段階を踏む必要がある。ただし、特殊別働隊という一種の独立した作戦行動が認められた彼等の場合は別だ。認識番号をムーアが打ち込んで呼び出すと、ただちにエレベーターが到着する。
それに乗り込み、目的地をM.M.R.付近の搭乗口へ設定した。
ガクンとエレベーターが動き、加速する感覚を捉える中、ムーアは戦闘服のポケットに入れたままだったソフトパックをオイルライター共々、取り出して
「……ねぇ、指揮官様。これ大丈夫なの?私達、アンチェインドも無いじゃない。本当にヘレティックが2体もいたら……」
「──何体いようが、
「……えぇ……」
ヘレティック──特にニヒリスターは好戦的な性格だった記憶がある。それに負けず劣らずで好戦的なのだろうか。
ムーアの返す言葉にアニスは少し引いてしまう。
「……事が起こった以上、あれこれ考えても意味はない。それよりは楽観的に対処した方が精神衛生的には健全だぞ」
「……そういうもの、かなぁ?」
準備や想定は悲観的に、対処は楽観的に──と言いたいのだろうが、アニスからしてみれば俄には首肯しがたい考えでもある。
「そうですよ。ずっと私達、勝ってきたじゃないですか。ヘレティックに」
「……まぁ、それもそうね」
いつぞやの
効果はあったらしく、彼女の肩から力が抜けた。
「……それに、ここはアークだ。
「ラジャー」
あくまでも楽観論を口にするムーアだが、その声音には、そうあって貰いたい、という念が滲んでいる。それを感じ取ったラピは頷きつつ、自らが握る
エレベーターの下降の動きが次第に緩慢となる。
目的地に到着した瞬間、閉鎖されていた扉が開く。
ムーアやラピを先頭に、アニスとネオンも続いた。
あ、それと宣伝なのですが【一般指揮官】名義で、このハーメルンで不定期更新になりますが武装警備員のオリジナル作品を書き始めましたので御興味のある方のお時間を頂戴出来ましたら幸いです。