勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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第8話

 

 

 電波塔へなんとか辿り着くと休む間もなくラピはアークとの直接回線での通信を試み、アニスとネオンは周辺警戒へ就く。

 

 ムーアは暫く休んでいるよう勧められ、電波塔の制御室で椅子へ腰掛けながら銜えていたロリポップ(鎮痛剤)を取り除き、代わりに我慢していた煙草を銜えるとオイルライターで火を点けた。

 

「ラピに怒られるわよ?」 

 

「…吸わんとやってられん。それにこのまま死んでしまったら煙草が心残りになる」

 

 紫煙を燻らせつつ右脚の膝下を──包帯が何重にも巻かれた切断面の辺りを軽く撫でるムーアはミハラの言葉へ肩を竦めながら答えた。

 

 鎮痛剤のお陰か、それとも痛覚が鈍ったのか。いずれにせよ酷い痛みではなくなったのは幸いである。

 

「…大怪我をした指揮官には申し訳ないけれど……逃してしまったわ」

 

「うん…ユニ、どうすることも出来なかった」

 

「…あぁ。俺も殺し合いが中途半端に終わってしまった。…だがユニには助けて貰えた」

 

「…え?」

 

「無反動砲に弾を装填しておいてくれた上、指紋認証の設定も解除していたからな。お陰で野郎の腹に風穴を空けられた。ありがとう」

 

 直ぐに塞がってしまったが、と彼は肩を竦める。軽口は幾分かでも叩けるようにはなったらしい。しかし相変わらず顔色は優れないのだが。

 

「う、うん…どう…いたしまして?」

 

「…でも…ラプチャー捕獲分隊(ワードレス)がラプチャーを逃してしまった事実は変わらないわ」

 

「…ユニ達…廃棄されるの…?」

 

「…それはシュエンの考え次第だわ」

 

 何処か達観した様子でミハラが語るも、桃色の髪を振り乱す勢いでユニは頭を何度も左右へ振って予測される未来の光景を振り払おうとしていた。

 

「ユニは廃棄されたくないよ…!ミハラと離れたくない…!」

 

「…そうね。私もそうよ」

 

 幼子のような振る舞いをする相方を宥めるようにミハラが手を伸ばし、ユニを抱き寄せると頭を優しげな手付きで撫でて行く。

 

 彼女達が仰せ付かった作戦と任務は失敗に終わった事実は覆らない。シュエンが求めたのは成功であって、それ以外は謝罪や釈明も聞き入れるつもりはないだろうと二人は理解しているようだった。

 

「──指揮官!ユニ達が廃棄されないように助けて!」

 

 ミハラに抱かれながらユニは椅子へ腰掛けるムーアへ視線を向けると懇願を口にした。

 

 その懇願を聞き届けたいのは山々なのだが──

 

「…俺の力では及ばんだろう。相手は腐ってもCEOだ。一介の指揮官程度でどうこう出来る相手じゃない」

 

「…えぇ、そうね…」

 

 彼もまた覆しようのない事実を口にすればミハラも頷く他ない。しかし──どうせなら気休めでも「助ける」の一言ぐらい言えないのだろうか。気が利かない男はモテないだろう、と彼女は同時に考えてしまう。

 

「──だが…」

 

「…なに?」

 

 紫煙を燻らせる彼は負傷や出血による疲労感もあるのだろう。顔色は悪く、死相の如き影が差している様子のまま彼女達を見据えた。

 

「…キミ達はこれまでラプチャー捕獲を成功させている実績がある筈だ。その手腕はあのお嬢さんも認めているだろう…使える…こういう例えは好みではないが、使える手駒は手元に置きたい部類の人間だと俺は考えている。…廃棄はないだろう。…まぁ俺はどうなるか分からんが…仮に…廃棄されそうな時は俺の名を出して良い。ついでに「今度は大衆の面前で小便を漏らさせてやる」と俺が言っていた、ともな」

 

「あら…本当に言っちゃうかもしれないわよ?」

 

「あぁ、構わん」

 

 この気休めなら──まぁ及第点だろう。ミハラは僅かに身体の力を抜くと紫煙を燻らせる彼へ視線を向けながら微笑みを浮かべた。もう少し早く出会っていれば良かったかもしれない、と率直な感情が芽吹く程には眼前の指揮官に惹かれてしまった。

 

「──指揮官。シフティーと繋がりました」

 

 その時、ラピが吉報を携えて戻って来た。それに反応し、彼は両耳が嵌まったヘッドセットを起動させるのだが──うんともすんとも言わない。どうやら壊れてしまっているようだ。

 

「どうぞ」

 

「…済まん。ありがとう」

 

 彼女から別のヘッドセットが手渡される。礼を告げながら彼はヘルメットを脱ぎ、続けてそれまで着けていたヘッドセットを外すとハウジングを片耳へ宛てがい、マイクを口元へ運んだ。

 

「──ラピと代わった」

 

〈──いったいどういうおつもりなんですか!!

 

 オペレーターの第一声は怒鳴り声だ。ハウジング越しだというのに眼前で彼女が激怒している光景すら幻視してしまった。

 

〈何の報告もなく地上へ上がるなんて正気ですか!?しかも分隊まで動員して…!軍法会議に掛けられますよ!〉

 

 もう少し手心を加えて欲しい、と思うのは負傷者の特権なのだろう。とはいえシフティーは怒り心頭のようでムーアへ言葉を発する余裕を与えさせない。

 

 しかし一方的に言われては彼も黙っている訳にも行かない。やっとのことで訪れたシフティーへ対しての反論の瞬間を見逃す筈もなく口を開く。

 

「今回の一件についてはミサイルス…もとい、ミシリス・インダストリーのCEOであるシュエン氏の()()が原因だ。当方に全く責任がないとは言わないが非難は向こうに頼む」

 

〈…シュエン?シュエン会長ですか?〉

 

 彼がシュエンの名を口にするとハウジングの向こうで押し黙るシフティーの気配がある。数秒ほどの沈黙の後、彼女が再び言葉を紡いだ。

 

〈…分かりました。何か絡んでいますね。アンダーソン副司令官に報告します〉

 

「あぁ、宜しく頼む」

 

〈それで…状況はどうですか?〉

 

「最悪だ。ワードレス分隊に負傷者2名発生。カウンターズ分隊は…目立った負傷は俺のみだ。右脚の膝下辺りから切断、右目も失明している」

 

 沈黙が唐突に訪れる。何かあっただろうか、と彼は心配になったが──

 

〈──は、はぁぁぁ!?せ、切断!?それに失明って何が…!?〉

 

「…ラピから大まかな報告は受けただろう。それとこのやり取りは記録されているんだよな?なら宣言しておくぞ。負傷については本作戦へ参加したニケ達に一切の責任はなく、ショウ・ムーア中尉自身が脚を切り落とし、右目に刺さった破片を抜いた故に発生した。以上を記録してくれ」

 

 指揮官絶対保護の法則、という訳の分からない規則があると彼も知っていた。だというのに負傷や死亡の可能性が格段に跳ね上がる戦闘へムーアの参加が()()されているのは、その参加が指揮官の自発的な行為であり、拡大解釈すれば自傷行為や自決行為と見做されているに他ならない。

 

 それが適用されるかどうかは定かではないが、今回の無視できない負傷が彼女達の責任とならぬよう彼は念の為にここで公式記録に残した形となる。

 

 ──この人は本当に大怪我をしているのだろうか。

 

 シフティーから思わず溜め息が漏れてしまう。

 

〈分かりました。その電波塔から10分ほど歩くと崩壊した旧時代の空港と滑走路がある筈です。そこへ輸送機を送ります。とにかく覚悟して帰ってきて下さい!これタダでは済みませんから!〉

 

「…あぁ。タダで終わらせようとは思ってない。デートや買い物にも付き合うし、酒でもなんでも奢るつもりだ」

 

〈…はぁ…通信を終了します!〉

 

 それだけ軽口が叩けるなら心配は要らないだろうと考えたシフティーは早々に通信を切ってしまう。

 

 それを認めた彼は額に浮かんだ脂汗を拭い、吸い殻を携帯灰皿へ放り込むと唇を真一文字に結びながら再び鎮痛剤のスティックを銜えて大きな溜め息を吐き出した。

 

「…また痛くなってきたな」

 

「…大丈夫ですか指揮官?」

 

「…大丈夫だ。輸送機が来る。早めに着陸地点(LZ)を確保しよう」

 

 鉄パイプを杖にして腰を上げた彼はその些細な動きでさえも、しんどそうな様子のままゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 

 ──砂嵐が襲来し、砂塵が視界を埋め尽くす戦場は銃声の響きと共に光線が何筋も空中を飛び交い続ける。

 

 砂塵の先で赤い単眼が、それこそ数えるのが馬鹿らしい程に輝く中で彼女達は携えた火器を構えては引き金を引き、押し寄せるラプチャーの群れを撃破していくのだが──

 

「──数が多い…!」

 

 撃破しても全く減らない様子はアニスが舌打ち混じりに擲弾を撃ち込む理由となるのに充分すぎた。

 

「もう少しで輸送機が来る!弾幕を張り続けろ!!」

 

「──ッ!師匠!」

 

 片脚を失くし、右目も失くなったが、分隊火力を少しでも維持しようとムーアも敵へ向かって銃撃を加えていたが、彼へラプチャーの光線が集中しそうになった気配を察したネオンが纏ったボディアーマーを引っ張って彼の身体を遮蔽物へ隠した。

 

 その途端に頭上を幾筋もの光線が通り過ぎるのが仰向けとなった彼の視界へ否応なしに映ってしまう。

 

「──済まん…助かった…!」

 

 グッと腹筋へ力を入れ、上体を起こすとムーアは再び瓦礫へ突撃銃を預けて依託射撃の姿勢を取るとACOGを覗き込み、レティクルへ捉えた赤い単眼を目掛けて短連射で銃弾を撃ち込んだ。

 

 その弾頭が四足歩行のラプチャーの核を撃ち抜き、攻撃寸前だったのか敵機が崩壊しながらあらぬ方向へと光線を放った。

 

 その光線は数十年前に駐機していたであろう旅客機の残骸へ命中し、まだタンクに幾ばくかの燃料が残っていたのか爆発を引き起こした。

 

 爆発の衝撃波を肌で感じるムーアだが、突如として老若男女の()()が脳裏へ反響する。

 

 ──なんだ、これは。

 

 ズキズキと頭痛が激しくなるのに比例して脳裏へ反響する悲鳴も鮮明になり始めた。

 

 まだ鎮痛剤は効いている筈だ。だというのに頭が割れそうな程の痛みを生じるのか訳が分からない。

 

 その時だ。響き渡る数多の悲鳴へ混ざり、2発のターボシャフトが奏でる爆音が彼の鼓膜を震わせた。

 

「──来た!!」

 

 ラピが砂塵が舞い上がる上空を見上げ、輸送機が接近してくる様子を捉える。だがラプチャーも大人しく輸送機の接近を許す筈もない。

 

 対空砲火の光線が空中へ何筋も描かれ始めるや否や、輸送機は回避運動を取り出す。

 

 対空火器で上空へ接近する輸送機への攻撃を続けるラプチャーを撃破しようとラピが瓦礫から飛び出そうとした瞬間、回避運動を繰り返す機体の後部へ設けられているカーゴドアが降り、機内で何かが光ったのを彼の左目が捉えた。

 

「──伏せろ!!近接航空支援(CAS)だ!!」

 

 彼の注意喚起が響くのが僅かに早かったか。輸送機の機内でカメラのフラッシュが焚かれたような閃光が走ったかと思えば、それまで盛んに上空へ対空砲火の光線を走らせていたラプチャーが撃ち抜かれ、たちまち爆散する。

 

 それだけでは終わらず続けて滑走路へ一直線上に土煙が巻き上がった。その後に響くのは毎分4000発近い凄まじい発射速度もあって途切れることもなく伸び続ける重低音の銃声だ。

 

 弾着が一筋の線を描くように地面へ刻まれ、その線へ触れたラプチャーが次から次へと破壊されて行く。

 

 その様子は伏せていた為に残念ながらムーアは目撃する事は叶わなかったが、近接航空支援が終わったのを察して身を起こすと上空を見上げる。

 

 双発となるローターが回転する輸送機のカーゴから飛び降りた複数の人影が重力に従って地面へ向かって降下する。

 

「──アブソルート…エリシオンの最強分隊…」

 

「──凄い援軍ね…」

 

 ロープすら使わずに降下出来るとは便利なモノだ、と率直な羨望を、そして降り立った3名の人影が纏う衣服がラピのそれと酷似していると感じつつ──ムーアは救援が来たことに安堵()()()()()()のだろう。

 

「……師匠?師匠!?」

 

「ネオン、どうしたの!?」

 

 ──視界が霞む中で部下達の慌てた声が耳へ残ったまま彼は限界を迎え、意識を手放してしまった。

 




これだけの戦闘外傷を負っても尚、意識保ってるだけで充分に人間を辞めてると思う指揮官

※2/22 コラボでまさかの「アーク製の武器は基本的に指紋認証。設定された個人以外は基本的に使えない」との情報が出て参りましたので(おいおいマジか!?)、無理矢理過ぎるこじつけ…
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