勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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ニケのショートアニメシリーズが近日公開されるという報せに歓喜している私でございます。

ネオンのマグカップ(?)の取っ手がキャリングハンドルで非常に火力とタクティカルを感じさせる代物でございました。


第4話

 

 

 

 やはり、対話は大切だ。特に()()()()()()をすれば、頑なである相手も幾らかはこちらの言い分に耳を傾ける可能性が高くなる。コミュニケーションに勝る相互理解の方法は然程多くはない筈だ。

 

「──状況終了」

 

「指揮官様、ラピ、こっちは──あっ……」

 

「どうして急にラピを殺したんですか?」

 

「何言ってるのよ」

 

「普通、そういう台詞は死んだ仲間がもういないって気付いた時に言いますよね」

 

「いつものクセよ、クセ」

 

 その()()()()()()は非常に効果的だったと言える。

 

 エレベーターが射出された地上の座標付近までムーアはアニスやネオンを引き連れて到達するなり、異常を捉えた。やたら多数のラプチャーが集結する一点を発見したのである。

 

 おそらくは射出口から勢い良く飛び出したエレベーターの轟音によって周囲の有象無象が集まって来たのだろう。或いは──エレベーターの中で缶詰めとなっていたヘレティック達やドロシー、そしてラピが地上へ到達後に交戦した際の騒動を聞き付けてか。いずれにせよ、数十のラプチャーが集結していたのだ。

 

 ラピを捜索する為にも何かしらの手掛かりは掴んでおきたい。しかし捜索するにせよ、あの邪魔な有象無象(ブリキ共)は何処かへ行って貰わねば話にならない。

 

 その為、彼やアニス、ネオンは()()()()()()で彼等に退散頂いた訳である。

 

 効果抜群だったのは言うまでもない。

 

 徹甲弾で装甲を撃ち抜かれ、(コア)も破砕されたラプチャーの残骸を彼はタンカラーのブーツで蹴り飛ばして息の根が完全に止まったことを確かめつつ部下達へ尋ねた。

 

 彼女達も()()()()()()には自信があったらしい。その成果を報告する部下達へ満足しながらだが──本来なら傍らに侍り、呆れの籠もった溜め息を漏らしていただろう副官かつ分隊のリーダーが不在の現実を直視せざるを得ないムーアは微かに細く息を吐いた。

 

「──邪魔者も居なくなった。捜索するぞ」

 

「……捜索、するのは良いんだけど……ここ、メチャクチャすぎるわ」

 

「何かあったんでしょうか?」

 

「……少なくとも煙草に点ける火には困らないな。まだ火が燻ってる」

 

 丁寧なお願い──もとい、掃討は終わった。ここから本題であるラピの行方へ関する手掛かりを捜索するのだが、彼等が掃討の為に戦闘へ突入する以前から周辺一帯は荒れていた。

 

 地面が巨大な農業機械の類で耕されたのか、と思う荒れ具合だ。建造物が経年劣化で崩壊した──と考えるには難しい程に粉微塵である。コンクリートは高熱で灼かれた痕跡が伺える。剥き出しの鉄筋が何かしらのオブジェを彷彿とさせる格好で溶けていた。切れ味鋭い刃物で切り裂かれたのだろう。一次侵攻当時に放棄されたと考えられる赤錆が覆った当時の主力戦車が両断されているのも発見した。

 

「……怪獣大決戦でもあったんでしょうか?」

 

「……まぁ、あながち間違ってもいないわね。ヘレティック2体にトーカティブなんて、充分すぎるほど大怪獣でしょ」

 

トーカティブ(お喋り野郎)に関しては一度、ぶっ殺してやったがな。……もう一度、ぶっ殺せるとは嬉しい限りだ」

 

 彼の低く漏れ出た呟きを聞き取ったアニスは、本当に何度でも殺してしまいそうだ──と率直な感想を抱く。

 

 自生していた樹木は高熱に晒されたからか、葉は焼け落ちて幹も炭化したのだろう。ブスブスと燻る様子を認めたムーアが紙巻き煙草を指先で摘み、亀裂が走った幹の内部で燻る火種で先端を炙った。

 

「それに戦った二人も大怪獣だしね。周りが綺麗だったら、そっちの方が変よ。……アークで戦い続けてたら、とんでもないことになってたわね」

 

「確かに──」

 

 乾燥気味の唇へ銜えた煙草の紫煙を燻らせつつ、ムーアがアニスへ同意の頷きを返した矢先だ。不意に彼は携行する突撃銃の安全装置を指先で弾いて解除する。

 

 瞬く間に臨戦を整えた彼の姿に遅ればせながらアニスとネオンも緊張を高めた時だ。

 

「──怪獣扱いとは、あんまりな話ですね?せめて、強い、と言って頂きたいところです」

 

 純白の天使が彼等の傍らへ舞い降りた。撫子色の長髪が靡き、純白の拡張武装を纏った姿のまま荒れ果てた地面へ降り立った人影を認め──ムーアは紫煙と溜め息を混ぜながら吐き出し、弾いたばかりの安全装置を掛け直す。

 

 その彼の姿を瞳に映した人影──ドロシーはムーアへ向かい、軽く目礼しつつ纏わせた拡張武装を解除した。

 

「──ッ!ドロシー!」

 

「──はっ!わ、私は怪獣だなんて言ってませんよ!」

 

「……見たところ、無事でなによりだ」

 

「随分と遅かったですね。ずっと待っていたんですよ、ムーア少佐」

 

「……これでも急いで来たんだ。宮仕えしていると制約もあってな。女性を待ち惚けさせる趣味はないんだ。多めに見てくれ。それと、甚だ迷惑なことだが……中佐になってしまった」

 

「それはおめでとうございます」

 

 ドロシーは穏やかに微笑を浮かべつつ長身かつ大柄の青年を見上げる。サングラスに覆われた目元だが、深く刻まれた眉間の縦皺が、心底からの面倒臭さの現れであろう。

 

 昇任とはめでたいことの筈だが──それを面倒と断じる姿が無性に誰かと重なってしまう。

 

「……それで、こんなところで何を?」

 

「皆さんを待っていたのです」

 

「そうか。……ラピは?近くにいるのか?」

 

 副流煙がドロシーへ流れないよう、ムーアは顔を背けつつ唇を窄めて紫煙を吐き出しながら尋ねる。

 

 射出されたエレベーターに乗り込んだ者達の内の1名と遭遇出来たのだ。となれば、ラピの手掛かりを得られるだろう。もしくは彼女達が行動を共にしている可能性も高い。

 

 希望も込めて問い掛けた青年へドロシーは淡々とした口調のまま答えた。

 

「エレベーター射出後、ここでヘレティック達と戦闘がありました。互角の勝負──とはなりませんでした。ラピが圧倒していましたから」

 

「……凄いですね」

 

「……それで?」

 

 ()()を信奉する師弟の内の弟子は感嘆の溜め息と率直な感想を口にする中、その師匠たる青年は続きをドロシーへ促す。

 

「不利と悟ったのかヘレティック達は敗走──ヘレティックと敗走という言葉が並ぶと妙な気分ですね。兎に角、ヘレティック達は逃げ出し、ラピはそれを追ってここを離れました」

 

「どうして追い掛けなかったの?……あぁ、命を賭けてまで戦う必要はなかったから?」

 

「そう思われますか?」

 

 ドロシーが口にした状況の変遷や過程へ疑問を投げ掛けたのはアニスだ。かなり辛辣な物言いでもある。

 

「アークの中で、私が誰と、どのように戦ったのかお考え下さい」

 

 失礼極まる物言いでもあったアニスへ向かい、ドロシーが何かしらの追撃の言葉を放とうとする寸前、おもむろにムーアが割り込んだ。

 

「それについては感謝をしている。復活したヘレティックやトーカティブ(お喋り野郎)の撃退に貢献してくれた。ありがとう」

 

「───」

 

 重ねられたいくつかの感謝の言葉に彼女は皮肉を紡ごうとした唇を閉ざし、彼を見上げる。

 

 彼の言葉は──額面通りのそれだろう。率直な感謝以外の意味はない。

 

「……どう、いたしまして」

 

「……話を戻そう。追跡しなかったのは、戦闘の影響で何かしらの負傷が発生したからか?」

 

 感謝はいくら述べても足りないのだが、肝心のラピの行方についてムーアは知りたいところだ。感謝はいずれ改めて、と脳裏の片隅へ浮かべながら彼は話題の軌道を修正した。

 

「……正確には出力が安定しなかったから、ですね。少し無理をしすぎたようです」

 

「出力が安定しないって?ピルグリムなんでしょ?それもエデンの」

 

「ピルグリムも万能ではありません。エデンも同じです」

 

「……エブラ粒子の影響かもしれんな」

 

「なにより永遠に全力で戦える訳ではありません。……それに近い何か、をこの目で見てしまいましたが」

 

 要領を得ない返答も含まれているが、ムーアを始めとした彼女達は心当たりがあった。ドロシーが目の当たりにした光景の一端を彼等は目撃した経験がある。

 

「私からもお聞きしたいことがあります。──ラピは、いったい何者なのですか?」

 

 アメシストの双眸が順繰りに正対するムーアやアニス、ネオンへ向けられる。問われた彼や彼女達は互いに顔を見合わせ、軽く頷き合った後に答えを返した。

 

「──私の友達」

 

「──私の友人でもありますね」

 

「──俺の大切な部下の一人だ」

 

「役に立つ情報をありがとうございます。──もう一度、お聞きします。ラピは、何者ですか?何故、()()()()()が出来るのですか?」

 

「……あまりそう問い詰めないでくれ。敵対している訳ではないだろう。あまり強く問い詰められると、ビビって話も出来なくなってしまう」

 

 対話は大切だ。それは認めよう。ただし、遣り方というモノも存在するのだ。

 

 圧倒的な武力や戦闘能力を有するピルグリムに対して、彼等は一介の指揮官に率いられたニケ分隊でしかない。

 

 紫煙混じりの溜め息を漏らすムーアがドロシーを窘めつつ──分隊でも古株であり、なによりこの中でラピと一番長い付き合いであろうアニスへサングラス越しの視線を向けた。

 

 その視線に気付いたアニスは──仕方ない、と言わんばかりの様子で肩を軽く竦める。

 

「私も知らないわ。たまに()()()()のよね」

 

「カッコいいでしょう?」

 

「……良く分かりました」

 

 彼女達の言葉に嘘はないだろう。ただし、全てが真実ではない。

 

 この場で深く追及はすまい、とドロシーは脳内で思考を巡らせた後、改めて分隊を指揮する青年を見上げた。

 

「ラピを捜しているのでしょう?私もお供致します」

 

「……有り難い話ではあるが……その心は?」

 

「皆さんが正直にお話してくれないので。最初から彼女に直接、聞けば良いだけの話だと思っただけです」

 

「……ふむ……」

 

「何か問題でも?」

 

「……いや、そういう訳ではないが……」

 

 問題はいくつかある。些細なことも含んでいるが。

 

 まず──3名分の戦闘糧食しか受領していなかった。食事は大切だ。人間であるムーアにとってはカロリーを摂取し、体力を維持する為に。そしてニケである彼女達にとっては思考転換を防ぐ為に。

 

 そしてなによりだが──

 

「──何を企んでるの?」

 

 彼とドロシーの間へ身体ごと割って入った人影──アニスだ。彼女は眼前のドロシーへ鋭い眼差しを向けながら単刀直入に真意を問う。

 

 ムーアとの会話に割り込まれるのは些か気分が優れないのだろう。ドロシーはこれ見よがしに溜め息を吐き出した。

 

「皆さんは、私のことを全く理解していないようですね。あなた達の()()()()()()()()──」

 

 アメシストの双眸がアニスから外れ、その背後に向けられる。

 

 眼差しは──彼に指向されていた。

 

「──断りなど入れずに持ち出せば済む話です。手間を掛ける必要はありません。そして見たところ……苦戦なされているようですから、私が助けて差し上げましょう」

 

 随分と傲慢な同行の申し出だ。とはいえ、頼りになるリーダーであり、副官の不在は分隊の戦力を低減させているばかりか支障を僅かながら、しかし明確に発生させつつあるのも事実である。

 

 それに指揮官であるムーアが気付かない筈もない。

 

「……こちらとしても同行を願いたい」

 

 彼の返した言葉にドロシーは微笑を浮かべながら首肯する。賢明な判断、と言わんばかりの態度だ、

 

「──ヘレティックとラピが向かったのはこちらです。付いてきて下さい」

 

 ドロシーが歩み始める。アニスやネオン、ムーアの傍らを通過し、手掛かりとなる行き先へ向かって進み出した。

 

「……指揮官様。大丈夫かな?」

 

「……問題はないだろう。今の所は、という前置きが付くがな」

 

「そうですよ。それに私達、エデンとは仲が良いじゃないですか。大丈夫だと思いますよ」

 

「……うーん……」

 

 この師弟は似ている。師の方はそこまでではないだろうが、良くも悪くも楽天的なのは共通している。

 

 弟子に関しては、また()()()()()()()()()()を発動しかねない友人に対して敢えて楽観論を振っている可能性も──あるかは微妙な所ではあるが、いずれにせよ、師弟はアニスが抱く不安をひとまずは忘れるよう促すかの如く、左右から軽く背中を叩いた後、ドロシーへ続行する。

 

「……まっ、なんとかなるわよね?」

 

 肩を竦めたアニスも歩み出す。

 

 鬼が出るか蛇が出るか──同行者が増えた捜索任務が本格的に始動した。

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