勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
とうとう本編軸にカントリーミュージック大好きな彼女が登場です
「──いやぁ、助かった。ありがとな、
「──何度も言うが隊長じゃない。しかし、何故だろうな。キミが俺の部屋に来る時は大概の場合、追われている気がする。……そういうジンクスの類でもあるのか?」
飛空艇の一室、狭くもなければ広くもない居室はゴッデス部隊の随伴部隊を率いる青年将校の居室だ。
部隊の全員へインタビュー──という体裁を取ったは良いが、方々で騒ぎを起こしているとは青年将校の耳へも届いていた。その内、こちらにも来るだろうとは予想こそしていたが、まさか逃げ込んで来るとは。
溜め息を吐きつつ、ベッドへ腰掛ける青年将校は銜え煙草のままタブレット端末をスワイプし、次の作戦へ関する事前情報を頭に叩き込む作業中である。
それを邪魔しないよう沈黙を保つ──そのような殊勝な性格の持ち主ではない
暫くして複数の気配が遠ざかった様子を認めたのだろう。乱入者──もとい、レッドフードは盛大に安堵の溜め息を吐き出す。
「……ラプンツェルやリリスまでキミを追ってたのか。何をしたんだ?紅蓮やスノーホワイトはまだ分かるが……」
「これにはふかーい事情があってさ……話すと長くなっちまう」
「……どうせ、碌でもないことだろうとは察せられるから言わんで良い」
説明が不要でなによりだ。実際、一から全てを語るとしたら事情は随分と込み入ってしまう。彼女としても願ったりだった。
とはいえ、一刀両断に説明を断られては立つ瀬がないのも事実。彼女は燃えるような真紅の長髪を片手で乱雑に掻いた。
「……まぁ、座ってくれ。立っていられると落ち着かん」
いつまでも立っていられても困る。青年将校は腰掛けるよう勧めた。
その言葉に従い、レッドフードは彼が座るベッドの端へ移動し、人間一人分の間を空けて右側へ腰を下ろす。
すると、彼女の目の前へソフトパックが翳される。わざわざ一本の紙巻き煙草の吸い口を飛び出させながらだ。
傍らに腰掛ける青年将校がタブレット端末から手を離さず、空けた片手に握ったソフトパックから煙草を覗かせて彼女へ勧めた格好である。
「──サンキュ」
細く長い指先で摘み取った煙草。吸い口をトントンと何度か軽く爪の上へ叩き付け、筒状に巻かれた紙の中へ詰められた葉を更に詰める。
潤った唇へ銜えた直後だ。ソフトパックを仕舞ったばかりの青年将校の手がオイルライターを握って彼女の目と鼻の先へ差し出し、蓋を開けて火を灯した。
その火へ煙草を近付け、少し吸いながら先端を炙れば紫煙が立ち昇る。
ラム酒の香料が混ぜられた、重めの銘柄だ。もう少し軽く、メンソール配合なら彼女の舌にも合う味ではあるが、これはこれで味わい深い。
「あ〜……久しぶりに吸うと、やっぱ美味ぇわ。……つーかさ。あたし、貰い煙草ばっかりじゃね?」
「……随分と今更だな」
彼の記憶にある限りの話ではあるが、少なくともレッドフードが自前の煙草を持っていた覚えはない。全て貰い物ばかりだ。
「……吸いたいなら、補給物資の申請に入れたらどうだ。俺達はそうしてるぞ」
「いや、いいよ。それにあたしが吸ってたのはとっくに廃盤になってるし」
「そうか……」
いつ終わるとも知れない戦争の影響だ。むしろ吸えるだけ有り難いのだろう。或いは彼等が恵まれた環境にいる、というだけで済む話なのかもしれない。
ベッドの脇に鎮座するサイドテーブルの上から卓上灰皿を拾い上げた青年将校は、レッドフードとの間へ生じた隙間へそれを置く。既に何本もの吸い殻が溜まった灰皿へ彼と彼女は慣れた手付きのまま煙草を近付けると指先で叩き、灰を落とした。
二人の間に暫く沈黙が落ちる。互いが静かに喫煙で得られる脳が痺れる酩酊感の中にあった時、不意にレッドフードは思い出す。
「あ、忘れてた」
何を──と青年将校は問うより先に、ベッド上へカセットレコーダーが置かれた。
「……たぶん、あと2分か3分ぐらいは録音出来ると思うんだよな」
カチリ、と彼女の指先が機材に設けられた録音のボタンを押し込む。カセット内に巻かれたテープが回転を始めた様子を青年将校の視線が捉えた。
「……あぁ、それでインタビューをしてたのか」
「そーそー。アルバム作りしながらさ。隠しトラックって奴だよ。皆にインタビューして回ってたんだ。
「……
「そういうのは良いから。あ"〜〜おほん!──名前を教えてくれるかな?」
マイクを──握ってもいないのだが、それを持っているフリのままレッドフードが片手を青年将校へ向ける。胡乱な、そして面倒臭い眼差しを横目に彼女へ向けた彼だが、やがて諦念の溜め息と共に紫煙を吐き出した。
「──リチャード・スミス。階級は少尉だ。認識番号も必要か?」
「いや、そこまでは。……あ〜……そうだなぁ……好きなタイプは?ほら、胸がデッカイとか、背が高いとか、髪が長いとか、ゴツい武器を使ってるとか、性格が豪快とか」
「──……強いて言えば……自分の意見を持っている芯のある女性が好みだ。……美人なら尚、良い、とは思うが」
「へ〜……じゃあ、次に……最後に
「──乗ると思うか?」
「ん?もしかして
興味津々とレッドフードが問う。それに答えることはなく、青年将校は深い溜め息のみを吐き出す。
「やべ、テープもあんまり残ってないな。──じゃあ、最後に一言」
「……一言?」
「ほら、なんつーの?将来これを聞いて懐かしく思うようなこととかさ」
そんな将来は決して訪れない──それを肌感覚で理解している青年将校は渋い表情を浮かべる。仮にこのテープが再生されるとしたら、その時、自身は存在しないだろう。
「……まるで遺言のような気がするな」
「遺言じゃないって。メッセージだよ、メッセージ」
似たようなものだろう。鼻を軽く慣らした青年将校は短くなった煙草を灰皿へ押し潰した後、このテープが再生された時、耳にするだろう者へ向け、メッセージを紡いだ。
「──
幾度も紡がれた文言がカセットテープへ刻み込まれた。
あの日から何十年の星霜が重ねられたのだろうか──概ねは察している彼女だが、正確な年月までは分からない。
記憶へ刻まれたあの日の青年将校の姿が脳裏へ浮かんだのは──
「──まったく!信じられないのだ!よりによって焚き火!焚き火だなんてぇ!ラプチャーに自分の居場所をアピールしてどうするのだ!?」
キンキンと甲高い声で非難する
「──
「──いや、だからごめんって。しつこい奴だな」
「謝って済む問題ではないのだ!お嬢様が強すぎるおかげで助かったものの、またこのようなことが起きたら……!」
「──だ〜もう!あんたのその
散々と言われっぱなしで彼女もそろそろ立腹間近だ。
真紅の長髪を靡かせ、赤いマフラーを首へ巻き、長身の恵体を誇る彼女──レッドフードは赤いジャケットへ設けられたポケットを漁る。取り出したターボライターを見せ付け、これで焚き火の火種を熾したことを知らしめた。
それにしても──このターボライターは彼女も見覚えがない。目が覚めて間もなくの頃から脳裏や胸の内より響く
しかし彼女が煙草を吸うような性格の持ち主には思えず、レッドフードはこのターボライターを見る度に内心で首を傾げてもいた。
いずれにせよ、このライターを見付け、キンキンと甲高い声で非難を続けるチンチクリンが言うところの
──あたしじゃなきゃ、ブチギレてる。
などと自画自賛も彼女は忘れない。
自生していたイモのツタを発見し、その根元を掘り起こしてみたところ人の手が入っていないにも関わらず、土壌が良かったのか、それとも品種の影響か、随分と肥えたイモが入手出来た。
わざわざ場所を選んで──湖畔という消火が容易い立地条件で火を熾したのだ。まぁ、ラプチャーに熱源探知され、襲撃を受けたのも事実ではあるのだが。
「その時、お嬢サマが何してたか分かるか?」
「と、止めたはずなのだ!」
「止めるかよ!ヨダレを垂らしてたぞ!フォークとナイフを持ってな!」
ナプキンも用意してやりたい衝動へ駆られる程度には準備万端の様子だった。
それをレッドフードが指摘すると、チンチクリンは愕然とし、そして
「なんでイモ焼いてる時にフォークとナイフを構えてんだよ!?」
「失敬な!お嬢様は高貴なる御方!素手で食べるなど下品なマネはしないのだ!」
「大事なのはそこじゃないだろ!!」
「それで、イモは焼けたのだ!?」
「お前に文句言われたから火は消してきただろ!もう忘れちまったのか!?」
「なんたること!今すぐ焼いたイモをお嬢様にお出しするのだ!!」
「だーーっ、もうっ!!」
話が通じない。通じる気配がない。
前言撤回だ。もうブチギレても良い気がしてならない。
「──お二人とも。お止めになって。私が公平に調停致します。これは双方共に非があることですわ」
「……へ?」
沈黙を破り──赤面の残滓が頬へ浮かんだまま
双方共に非──つまりはレッドフードにもそれが存在すると口にされてしまい、彼女はポカンと口を開きながらお嬢様へ金眼の双眸を思わず向けた。
「わ、
「ははぁ〜っ!やはりお嬢様、お考えがあってのことでございましたか。この不肖チャイム、お嬢様の深いお考えを汲み取ることが出来ず、大変申し訳ございませぇん!!」
これが、アレか。太鼓持ちというヤツか──平伏する姿を見せるチンチクリン、もといチャイムを見下ろすレッドフードは率直な感想を抱いた。
同時に素朴な疑問が脳裏へ生じる。
「……合格したら、どうなるんだよ?」
「は、はい?」
「合格と不合格があるんだろ?合格したら、どうなるんだ、それ?」
素朴な疑問をお嬢様へ尋ねたレッドフードへ、問われた彼女は返すべき言葉を探しているのか暫し虚空へ視線を彷徨わせる。
「よ、より良く私に仕えられる栄誉を授けられますわ」
「光栄なことなのだ」
「……参ったな……」
どうすりゃいいんだ、これ──学がないとは承知しているし、その自覚もあるレッドフードだが流石に反応の選択肢へ困る。
怒るべきか、嘆くべきか、或いは呆れるべきか。どれが正しい反応なのか。
──参った、と口にした直後だ。
視線を感じた。それも後方から。
ラプチャー──ではないようだ。それを感覚で捉えたレッドフードは携行する
狼の如き金眼を細め、視線の先に目を凝らす。
確かに──いる。4名分の人影を彼女は捉えた。
「──おい、白騎士サンよ。誰か来たぞ」
「……ニケ?そ、そんな……!き、貴様の大声のせいで他のニケ達にバレてしまったのだ!!」
「──断言しても良いが、お前の声が一番大きいぞ」
それだけ甲高いと何km先、何マイル先にも否応なく響き渡るだろう。
「4人、ですか。振り切りましょう」
「ははぁっ!ただちにトロンベを呼び出します!」
逃亡する算段を付けるチンチクリンとお嬢様の慌てふためく様子を尻目に──レッドフードは更に目を凝らした。
遠目に捉えていた人影達が明瞭な姿形となるまで接近している。
「──ちょっと待った……」
その最先頭を進んでいる人影──純白のドレスに、深窓の令嬢を思わせる
我知らず、レッドフードが歩み出す。湖畔の砂を粒子を靴底で感じ取りながら前へ──接近する人影達へ向かって進み出して間もなくだ。
「──レッド……フード……?」
「──ドロシー……?」
相対したのは、懐かしい顔。おそらくは双方ともだろう。
深窓の令嬢を思わせるお嬢サマがアメシストの瞳をこれでもかと見開き、呆然とした様子のまま視線を対面する彼女へ向ける。
アメシストの瞳からの眼差しを向けられるレッドフードも、金眼の双眸を対面へ向けたまま逸らせない。
不意に──撫子色の長髪が靡いた。
「──ちょ!ちょっと!──っ、指揮官様!?」
「──危険で──し、師匠!?」
「──お嬢様!戦闘準備を!」
「──いいえ、お下がりなさい」
飛び出した深窓の令嬢は、その風貌に反して大胆極まる行動を見せる。
駆け出したかと思いきや、真紅の長髪を持つ恵体の彼女の首筋へ抱き付いたのだ。
「──おいおい、お嬢サマじゃねーか。暫く見ない間に随分、大胆になったな」
記憶にある限り、ここまで熱烈な行動はしない筈なのだが──そう悪い気分でもない。
恵体へ抱き付いた深窓の令嬢──ドロシーの背へ片手を回し、随分と勢い良く抱き付かれたのもあって衝撃を分散させる為にグルンとその場で一回転だ。
砂の上へ足を付かせたレッドフードが緩く彼女を見下ろすと、ドロシーのアメシストの瞳が潤んでいた。
「──ど、どうして……生きて……ッ!!」
次いで──彼女が自分自身の漏らした言葉で思い出したのだろう。レッドフードが背へ回していた腕の緩い拘束から逃れ、数歩退いて間合いを取った。
潤んでいた双眸は、今や眦を鋭く吊り上げ、強い警戒の色を湛えている。
「──あなたは、誰です……!?」
「……ん?どうした?」
「──誰ですか!?」
「……いや、レッドフードだけど?……おい、ドロシー?大丈夫か?」
「──どうして、こんな、ことが……」
有り得ない、有り得る筈がない。何故なら彼女は──疑念、困惑、警戒、諸々の意味を孕んだ言葉がドロシーの唇を震わせる。
「──……あなたは、死んだ、はず……」
さて、なんと答えるべきか。
「──ねぇ、そこの
なんという形容だろう。まぁ、怪しく見えるのは仕方ない。これも美人なのが悪いのかもしれない。美人なのも罪なことだ。
ドロシーの背後に隠れて良く見えていなかったが、他にも人影はあった。
金眼を対面する深窓の令嬢から逸らし、進み出て来る人影──亜麻色の髪を持つニケへレッドフードは視線を向ける。
その彼女と、もう一人のニケであろう色素の薄い髪を持つ少女の姿をした人影がそれぞれの肩を貸しながら歩行の補助をしている長身かつ大柄の──指揮官と思われる男性。
男性は頻りに乱れる息を整えているのだろう。荒い息遣いのままヘルメットを被った頭が項垂れている。顎の先から汗が滴り落ちる姿が捉えられた。
「……アニス、ネオン。大丈夫、だ。……ありがとう」
低い声が震えている。苦悶のそれを滲ませながらも気丈なことに彼女達が貸す肩から外れ、自らの脚で立ち直った。
レッドフードも背は高いが、ほんの僅かに見上げる程度には男性の方が長身だ。
ニケ用の対ラプチャー火器、装備品もニケ用のそれらをスケールアップした代物だろう──と彼女の瞳は捉える。
まるで何処かの誰かさん達を思い出す風体だ。そもそもあの火器を満足に撃てるのだろうか──などと素朴極まる疑問が生じた直後だ。
ヘルメットを被ったまま項垂れていた男性が、ボディアーマーへ設けたポーチの中からソフトパックとオイルライターを取り出す。
慣れた手付きで振り出した紙巻き煙草を銜え抜き、次いでオイルライターの火を点ける。
スンとレッドフードは形の良い鼻を動かし、その漂う紫煙の香りを嗅覚で捉える。
ラム酒の香料──タールやニコチンの含有量が重い銘柄だと察せられる紫煙の香り。
項垂れていた顔が上がった。
顔立ちは──整っているのだろう。紫外線避けや砂塵、戦闘中に発生する破片から眼を守る為のサングラスで瞳の形は分からないが、精悍な顔立ちを持っているとは察せられる。
乾燥気味の唇の端へ銜えられた煙草の紫煙を燻らせ、息を整えている様子を捉えつつ、レッドフードは彼へ歩み寄った。
するとすかさず、二人組のニケ達が立ち塞がるのだが、彼が手振りでそれを制した。
彼女達の間を通り抜け、タンカラーのブーツで湖畔の砂を踏み締めながら長身のレッドフードと男性が対面する。
背丈は──彼女の記憶にあるそれと大差ない。
「──なぁ、あんた。サングラス、取ってくれないか?」
出会い頭に言うことではない、とレッドフードも思うが求めずにはいられなかった。
彼はそれに応じ、双眸を隠していたサングラスを外し、ボディアーマーへテンプルを引っ掛けて吊り下げる。
露わになった濃い茶色の瞳──狼を思わせる鋭い眼差しに彼女は強い既視感を抱く。
──いや、まさか。
そんな筈がない、と思いながらも彼女は衝動に抗えなかった。
我知らず、レッドフードの片手が上がり、彼のヘルメットを固定している顎紐を緩めようとする。
警戒の色を強くした二人組のニケが飛び出そうとするのを再び、彼の片手が制した。
顎紐が汗で湿っているのを彼女の指先は感じ取る。
金具で締められた顎紐を緩め、ヘルメットを外してみると──黒と灰色の頭髪が半々の割合で占められ、短く刈り上げた髪型が金眼の視界一杯に広がる。
「──は、はは……マジか。マジかよ」
乾いた笑い声が漏れ出るのをレッドフードは我慢出来ない。
「……イメチェンか?しかもこれ……何処で付けられたんだよ」
右眼へ縦に刻まれた戦傷らしき傷跡。その痕跡を指先でなぞったレッドフードは──感無量の心持ちとなる。
「──久しぶり、だな。──隊長、元気してたか?」
可能なら、或いはもう少し学があれば、それっぽい再会の文言を放てたのだろう。それが悔やまれるが、彼女らしいとも言える。
「……ちっとも変わらないな……ちょっとイメチェンが強すぎる気もするけど……いや、似合ってるぞ?うん、クールになったな。あたしが保証する。随分と
ここまで男前になって、どうするつもりなのか。ハーレムでも築きたいのか、とも思う程だ。まぁ、そんな趣味を持っているとは考えられないが。
再会の歓喜を静かに噛み締めるレッドフードだが──眼前の彼は脂汗を流し、眉間へ深い縦皺を何本も刻みつつ口にする。
「──……
「──………は?」
「──こんな美人、会っていたら忘れる筈がないからな」
──どういうことだ。
呆然と、レッドフードは緩く対面する彼を見上げ、次いでドロシーへ視線を向ける。
その眼差しを向けられたドロシーは──ややあってレッドフードから視線を逸らした。
「……名前、聞いても良いか?」
女性にしては少し低い声で彼女は改めて彼を緩く見上げながら問い掛ける。
「……ショウ・ムーアだ。はじめまして」
「……ショウ……ムーア」
──別人ということだろうか。それにしては似すぎている。生き写しと言える程だ。
鸚鵡返しに彼女は彼──ムーアの姓名を紡いで確かめる。紡がれた発音が正しいと言わんばかりに青年は頷きを見せた。
──そうか。それもそうだ。
あの日から何年経ったかすら分からない。何年どころではない。きっと何十年の星霜が重ねられたのだろう。
であれば、
その事実を冷静に咀嚼した時、レッドフードは酷く残念に思った。残念という言葉や表現では足りない。落胆以上の感覚が胸中を占める。
「……そっか……ごめん。ありがとう。返すよ」
取り除いたヘルメットを彼へ返せば、それを慣れた手付きで被り直し、顎紐が掛けられる。
「──あたしはレッドフード。宜しくな、男前」
はじめまして──事実の理解と咀嚼もしたが、それを自ら告げる過酷さがこれほどとは思いもしなかった。
胸の奥がズキズキと痛みながらも、それを無視してレッドフードは快活に自己紹介を述べる。
差し出した右手を濃い茶色の瞳が捉え、次いで左手が携行する突撃銃を抑えつつ、同様に右手が出された。
はじめまして、それを意味する握手が交わされる。
その大きな手の感触に、更なる懐かしさが込み上げた。
こいつ、いったいどれほどのニケやキャラクターを曇らせたら気が済むんでしょうね。
ご感想頂けましたら幸いです。