勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
握手を交わす長身の二人──特にやたら恵体で、色々と
これも正体不明の感情だが、非常にモヤモヤする何かを感じたのだ。
「──はいはい、そこまで。ちょっとごめんね」
アニスは
その大義名分を翳しつつ彼女は、はじめましての握手を交わす両者の間へ割って入った。
割って入り、正体不明のニケ──レッドフードの眼前へ立ち塞がると、彼女は丸っこい瞳をキッと吊り上げながら長身かつ恵体のニケを見上げる。
「──そのマフラーはなに?」
「──へ?これ?あたしのだけど?」
アークでラピが見せた形態の特徴──それに酷似した物を身に付ける眼前のニケへ彼女は問い掛ける。返ってきた答えは至極当然の気配を漂わせていた。
嘘ではないのだろう。
であれば、質問を変える必要がある。
「──あなた、ラピとどういう関係?」
「……ラピ?ラピを知ってるのか?」
「……どういう関係なの?」
喜色を浮かべたニケが問い返す。質問に質問で返すな、さっさと答えろ──それを滲ませつつアニスの片手は携行する擲弾発射器の安全装置をいつでも弾いて解除できるよう指先が動いていた。
それを認めたレッドフードは──随分と警戒されている、まぁ当然か、と感じつつ、彼女としても知りたいのか逆に問い掛ける。
「……そういうお前らこそ、どういう関係なんだよ?」
「──友達」
「──仲間です」
「──彼女の指揮官だ」
レッドフードからすると小柄な色素の薄い髪を持つニケ──ネオンもいつの間にかアニスの傍らへ移動してきた。
三者三様の、しかし似た答えが断言にも近い声音で返された。であればレッドフードも答えねばならないのだが──
「あたしはラピの……うーん……友達?師匠?仲間?……何って言うのは難しいな。兎に角、そういう関係さ」
「……ふむ……」
無精髭が薄く生えた顎を撫でる銜え煙草の
「──ラピは何処ですか?」
続けてネオンが問う。その片手は携行する散弾銃の安全装置へ掛けられていた。
「……うーん……たぶん──ここ?」
これまた難しい問いだ。
唸ったレッドフードは、やや考えた後──自身の豊かな胸元に生じる深い谷間の奥を指先で示してみせる。
その意図や真意を捉えられず、彼女の眼前に立つ3名は揃って渋面を浮かべながら言葉を咀嚼する。
「……それはつまり……自分の中にいる、という意味か?」
眉間へ深い縦皺を刻むムーアが推測を述べた。まだいくらか頭痛は続いているのだが、だいぶマシになった様子だ。
「……ええっと……ヘンな目で見ないでくれよ?声が聞こえるんだ。ラピの」
「……え?」
「……はい?」
「………」
「だーかーらー!ヘンな目で見んなって言っただろ!?」
「……俺達とキミの立場を逆転させてみてくれ」
わざわざ前置きしてから口にしたというのに眼前の3名が表情へ浮かべた「こいつ……頭、沸いてんのか?」と言わんばかりのそれを目撃したレッドフードは真紅の長髪で覆われた頭部を掻き毟る。
ムーアが冷静に低い声で立場を逆にしてみろ、と言えば──彼女も分からないでもないのか、唸りつつ頬を指先で軽く掻いた。
「……あ〜……うん、そうだな……まぁ、うん」
「……いや、それが本当だとして……ラピの声だって、どうして分かるの?」
「ラピとは知り合いなんだ。あたしが死ぬ直前まで一緒にいたから」
「……今、なんと」
アメシストの双眸を見開いたドロシーが彼等の遣り取りへ割って入る。
いつも澄まし顔だったお嬢サマがこんな顔をするとは──と一種の新鮮さもレッドフードは感じた。
「だから、一緒にいたんだよ。まぁ、あん時ゃもう侵食末期中の末期だったから、ロクに覚えてないけどな」
「………」
「……じゃあ、なに?ラピはあなたの中に閉じ込められてる、ってこと?」
淡々とした物言いで端折った経緯を語るレッドフードの様子にドロシーが言葉を失う中、アニスは眦を釣り上げつつ問い掛ける。
レッドフードとしても
「さぁね。むしろ、こっちが聞きたいぜ」
肩を竦め、自身でも良く分からない点を強調する仕草を彼女は見せる。その態度は──初対面であるのも手伝い、アニスからすると煙に巻こうとしていると感じるのだろう。釣り上がる眦の角度が鋭角となった。
若干の一触即発にも似た空気感へ包まれる中──それを知ってか知らずか、或いは気付いていないのかもしれない。いずれにせよ、甲高い高い声が響いた。
「──そいつは
全体的に白を基調色とした装束を纏う二人組──その片割れであるチンチクリンなニケが宣う。
同時に彼女達、そして彼の視線が向けられた。
「──そういえば……あんた達、誰?」
「──あぁ、忘れていた。俺としたことが申し訳ない。はじめまして」
「──あら、ご丁寧に。こちらこそですわ」
「──おっ、なかなか礼儀正しい奴なのだ」
「いやいやいや」
律儀に挨拶を──いや、古い時代から挨拶という習慣は大切なのかもしれないが、だとしてもここでする必要はないだろうとアニスは背後に控えている自身の指揮官へ一言、二言は物申したくなる。
コホンとチンチクリンなニケは咳払いの後、胸を張って堂々とした名乗りを上げた。
「──我々はヴァイスリッター!高貴なる白騎士なのだ!」
「……ほぅ……
「──もーっ!新キャラが多すぎるわよ!!」
こんないっぺんに複数人も新登場のキャラクターが出てきたら漫画や小説、脚本の書き手は困るだろう。誰の台詞なのか、誰の行動なのか、誰を指し示しているのか──と表現するのに難儀するに違いない。それどころか視聴者や読者もだ。実際、アニスもこうも沢山の新顔が揃い踏みとなって混乱しかけている。
しかしムーアは──チンチクリンのニケが名乗りを挙げた
その様子を認めたレッドフードは金眼を細め、彼へ向けて言葉を投げ掛けた。
「──なぁ、男前。一本くれないか?」
一本、それが何を示しているのかは言わずもがなだ。彼女が人差し指と中指を立て、自身の唇へ近付ける仕草を取ることからも明白だろう。
彼女が吸えるのかどうかはさておき──背嚢の中には念の為、2カートン分の煙草をストックしている。精神安定剤の在庫問題は、まぁ問題ないだろう。
チンチクリン──チャイム、そしてもう一人の片割れが目撃したという
ボディアーマーのポーチを漁り、取り出したソフトパックを軽く手首で振った。飛び出した紙巻き煙草の吸い口をレッドフードへ向けて差し出すと、彼女は唇で銜えて引き抜く。
常習的に喫煙の習慣や嗜好があったのかは分からないが、少なくとも経験はあるのだろう。仕草がそれを物語っている。
ソフトパックを仕舞い、オイルライターの蓋を特徴的な金属音と共に開き、ホイールを回す。フリントと擦れて飛び散った火花が芯へ火を灯した。
灯った火で煙草の先端を炙り──彼女はゆっくりと深く吸い込む。
ズキリ、とムーアの頭蓋の深くで痛みが鈍く走った。同時に──妙な既視感を覚える。
蓋を閉じ、オイルライターをポーチに収めると、彼女はやがて安堵や恍惚にも似た吐息と共に紫煙を吐き出した。
「サンキュ。……久しぶりに吸った気分だぜ」
「……そうか。口には合うか?」
「あぁ……なんつーか、懐かしい味だな」
思っていた通り、重い銘柄だ。仄かに香るラム酒のフレーバーも言葉の通り、懐かしい味わいである。
彼女も妙な既視感を──尤も彼女の場合は強く抱いた。
半ばまで燃え尽きた紙巻き煙草を乾燥気味の唇へ銜える青年の顔は、身振り手振りも交えて説明を続けるチャイムへ向けられる。
「一人で三人を圧倒しながら、バンバン飛び回って──三人が逃げ出した後、一人で残されて暫く棒立ちになっていたのだ──それから、バターッと倒れて──」
擬音がやたら多い上、相変わらずの甲高いキンキンとした声で説明──それをなんとか理解し、咀嚼しようとしているのだろう。無意識に眉間へ深い縦皺を刻む横顔を、レッドフードはチラリと横目で伺う。
──やっぱり、似てる……よな?
生き写しの如く似ている──当初は印象はそれだが、その評価を修整する必要があるとレッドフードは感じる。生き写しではない。
煙草を吸いながら黙考する時、彼女の指揮官は──
ジッと横目を向けつつ観察する彼女の視線の先で、戦闘服へ包まれた両腕が組まれた。腕組みしながら眉間へ縦皺を何本も刻み、無意識なのだろうが銜えた煙草の位置を微調整する様子が見て取れる。
彼女の記憶が確かなら──という条件は付くが、他人の空似とはどうしても思えなかった。
さて、ヴァイスリッターが目撃したという変身の瞬間についてだが──チャイムの説明によると、
「……要するに……あまり口にするのは憚られるような変身だった、と」
「まぁ、そういうことなのだ」
彼の要点をかなり纏めた言葉にチャイムは頷いた。ムーアの脳裏に浮かぶのは──ラピの四肢があらぬ方向へ折れ曲がり、身体そのものが膨張や収縮、伸展しながら、現在のレッドフードの姿と形へ変わったというもの。
本音を言えば、俄には信じられない。
「チャイムの言った通りですわ。私も保証致しましてよ」
「初めて会った怪し〜いニケの保証なんて信じられないんだけど」
「──お嬢様に向かって怪しいとは!無礼なのだ!私達こそ初めて会った貴様らに親切に説明してやっているのだ!」
「──さっきから
「──き、きき、貴様ぁぁぁ!!」
アニスとチャイムの売り言葉に買い言葉──小型犬同士が対峙して威嚇し合う幻覚が重なって見えたムーアは深い溜め息を漏らす。短くなった煙草を携帯灰皿へ投げ込み、それをレッドフードに手渡すとアニスへ歩み寄った。
「──アニス。キミの不安と疑心は理解するが、流石に無礼だぞ。俄には信じられない点はその通りかもしれんが」
「……むぅ……」
唇を尖らせる彼女を一瞥した後、彼はヴァイスリッターを名乗った二人組へ軽く頭を下げる。
「──部下の非礼をお詫びする」
「構いませんことよ。お気になさらず」
寛大な物言いへ彼は再び頭を下げた。
そもそもとして彼女達──ヴァイスリッターが彼等へ虚言を用いることにメリットはないだろう。わざわざそんな時間を割くなど無駄の極みだ。
アニスはまだ物申したげではあったが──彼が頭を下げて謝罪と礼を述べると、矛を引っ込めざるを得なくなる。引き下がる他なかった。
概ねは──甚だ理解が及ばない点は多々存在するものの、事の流れは飲み込めたムーアは改めて視線をレッドフードへ向ける。
彼女も久しぶりになる喫煙を堪能したのだろう。短くなった煙草を携帯灰皿へ入れ、蓋を閉じるなり彼へ向かって緩く投げ渡した。
「──ラピは
投げ渡された携帯灰皿を受け取ったムーアがポーチへ収めつつレッドフードに問い掛ける。
その言葉の意味を量りかねるのか、彼女は渋い表情を浮かべた。
「……あたしを使う?そりゃまた、どういう意味だ?」
「……済まんが、こちらとしてもこれ以上の説明のしようがない」
「私達にも分かんないのよ」
「……ところで、そもそも
ネオンが一同へ問う。そんなこと──つまりはラピのボディが変化・変身し、レッドフードとなったという点だ。
「──有り得ませんね」
声を挙げたのはドロシーだ。彼女は有り得ない、と断じる。
次いで、一瞬だけムーアに横目を、続けてレッドフードへアメシストの双眸を向ける。
「──
「……でも、あたしはここにいるぞ?」
論理的に説明がつかないばかりか、長年の経験と知識を基にしたドロシーの言い分は一定の──常識から言っても至極真っ当なのだろう。しかしレッドフードは現実として
常識的に考えた時──やはり疑いは強くなる。
「……もう一回、真面目に答えて。ラピは、どこ?」
アニスが剣呑な雰囲気を纏ったままレッドフードへ鋭い眼差しを注ぎつつ尋ねる。しかし彼女が返せる答えはひとつのみだ。
「
「──だから、それをどうやって信じろって言うのよ!」
アニスの言葉はレッドフードとしても困る。確かにその通りなのだ。しかし証明する方法も手段もない。真紅の長髪が覆った頭を乱雑に掻き、学のない脳を全力で回転させるが、これという解決策は思い付かない。
「──そもそも、あなたが本当にレッドフードかどうかというところから怪しいですね。無論、私は偽者だろうと思っていますが」
胸の下で腕を組み、眼前の知人、旧友、戦友──の姿を模した偽者をドロシーは見据える。最初こそ動揺してしまったが、無理もないことだろう。
「──何を企んでいるのです?レッドフードの姿で何をするつもりですか?」
まさかそこまで疑われているとは思わず、レッドフードは深い溜め息を漏らした。アニスを始めとした面々になら──百歩譲って疑われても仕方ない。
しかし戦時下で苦楽を共にした戦友から疑いの眼差しを向けられるのは──いや、このお嬢サマなら当然か、とも考えてしまう。
「──ったく、日傘のお嬢サマは相変わらずだなぁ」
何気なく放った軽口と皮肉──それを聞き取ったドロシーの瞳が揺れ動く。
「……今、なんと……?」
「──その服も変わってないよな?おチビちゃんに改良してもらって、そのまんまか?」
「……どうして、それ、を……」
「──そりゃ、あたしはあたしだから」
そんな筈はない。有り得ないことだ。
しかし──どうしても確かめたい衝動にドロシーは抗えなかった。
彼女の細い首の内側で生唾を飲み込む音が微かに響く。
「古いものほど──」
「──いいものなんだ」
ドロシー、レッドフードの示し合わせたかのような言葉。それがムーアの鼓膜を震わせた直後、この短時間で何度目かすら定かではない頭痛が駆け抜ける。
思わず顔を顰め、ズキズキと痛む頭を振ると視界の端に湖面を滑空する鷲の姿を捉えた。
頭部が白く、200cmにはなろうかと言う翼を広げた鷲は湖面を滑空しつつ、鋭い鉤爪を水面へ突き入れ、魚を捕獲していた。そのまま湖畔へと滑るように舞い降り、獲物へありつき始める光景がある。
「──そんな、はずは……」
「あれ?お二人はお知り合いだったんですか?」
「あぁ、よーく知ってる」
「──ひとまず……ひとまずは理解、しました。あなたがレッドフード本人だと……しかし、ラピがあなたとボディを共有しているという話は……」
まだ半信半疑──ではあるが、本人でしか知り得ない情報の数々、そして口癖も語られては信じざるを得ない。ドロシーが震える声を隠せないままレッドフードへ語り掛けるが、彼女は肩を竦める。
「取り敢えず、ちょっと場所を変えないか?ラピがうるさくてたまんねーんだ。歩けば少しマシになるからさ」
「……ラピはなんと?」
「同じことばっかり繰り返してるよ。「故郷へ……」ってな。──さっ、取り敢えず歩こうぜ。歩きながら話すからさ。うるさくてたまんねー」
故郷──とは誰のそれなのか。
不可視の疑問符が一同の頭上へ浮かぶ中、レッドフードが湖畔の砂の上を歩き出す。何処へ向かうのかも聞かぬまま、ドロシーが、ヴァイスリッターが、そしてアニスとネオン、ムーアも進み始める。
複数の人影の接近を認めたからか、鷲は食事の途中にも関わらず獲物を放置し、翼を大きく広げて飛び立つ。
「──デッカ……」
空の王者として君臨していた猛禽の威容にレッドフードは眼を細めながら飛び立つ鷲を見送る。
やがてムーアも彼女達が通過した場所へ辿り着いた。食べ残しの魚──マス類のそれが砂の上へ放置されている。
頭上を見上げると、獲物を奪われないかと観察する鷲の姿があった。
彼はその魚を掴むと、旋回飛行を続ける鷲へ見せ付け──頭上高くに向かって高々と投擲する。
猛禽は総じて視力が良い。飛行性能と運動能力に優れているとも聞く。その性能に違わぬ動きで、鷲は投げ渡された魚を鉤爪で掴むと鋭く甲高い鳴き声を上げながら飛び去った。
レッドフードの故郷へ向かうマップ上には時折、鷲が飛んでいるのが確認出来ます。
そして皆様も察しているでしょう。ムーアと動物が触れ合うと、どうなるか……