勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
皆さんは今年の夏イベは如何だったでしょうか。
そして新イベント………人間時代のマクスウェル、ちょっとエッ◯すぎませんかね?(;゚∀゚)=3
──ッ!ち、違うんだラピ!これは浮気じゃ───
第1話
・各被験体より第二世代となるサンプル採取を完了。
・サンプルナンバー001〜100の受精を確認。事前計画に従って受精卵のDNA配列を切断・改変作業を実施。爾後、V.T.C.より提供された人工子宮内での発育開始。
・2日後。005、011、016、043、055、062、083、086、095に異常発生。発育停止。廃棄処分。
・3日後。003、014、056、058、061、069、071に異常発生。発育停止。廃棄処分。
・4日後。各受精卵は細胞分裂を繰り返し、桑実胚に成長。同日中、002、007、008、015、033、034、041、045に異常発生。発育停止。廃棄処分。
・5日後。更に複数の受精卵へ異常発生。発育停止。廃棄処分。
・6日後。更に複数に異常発生。廃棄。
・7日後。生存した14の個体サンプルは胚盤胞に成長。
出頭の命令が出た。宇宙より飛来し、世界各地で猛威を振るう
自宅の私室で黒髪を持つ40代前半の長身かつ大柄の男性は着替えを済ませた。
野暮ったい陸軍の軍服には従軍記念章を始めとした各種の略綬が取り付けられ、大佐の階級章が存在感を放っている。それを纏った男性は軍帽を手に取りつつ、私室の壁際へ置かれた小さな机へ歩み寄った。
机上には写真立てがひとつ鎮座し、若かりし頃の男性とその妻であった女性の新婚旅行の際に撮影された写真があった。
自分は歳を取ったのに、妻だけは歳を食わず、美しいままなのは不公平さすら感じてならない。
妻の整った顔立ち──祖先の血筋としては西洋にルーツが多分にある女性のそれを写真立て越しに指先で撫でる男性は続けて、写真立ての前へ置かれた指輪へ視線を移す。
彼自身の左手薬指に嵌めたままの指輪と揃いの意匠だが、その指輪は一回りか二回りは小さく細い。
妻が亡くなって間もなく20年にはなる。後妻を娶らなかったのは軍務や任務の多忙さもあってだが──第一に挙げられるのは彼女を愛していたから、だろう。
その彼女を愛していたからこそ、なにより妻が生前に子供を望んでいたからこそ──
それが果たして許されることだったのか否かは分からない。声が掛けられたのは妻が臨終を迎える間際のことだ。冷静さを欠いていた、と言えばそれまでだが──愛した彼女がこの世に存在していた確かな証拠が欲しかったのだ。
純粋な願望、切実な祈り──妻が救えないというならば、せめて──彼は生涯で初めて神に祈った。或いは、魂を売り渡した。
聞き覚えのない組織から派遣されたチームが臨終間もない妻から
極秘のプロジェクトだとは耳にしたが、その計画が成功したのか失敗したのか。それすら定かではない。
彼女の生きた証しである子供は、産まれ落ちたのか、健やかに成長したのか──気掛かりでならなかったが、多忙な任務の数々が幸いにもそれを忘却させてくれる手助けとなったのは皮肉だろうか。
もし──たられば、の話など意味はない。しかし、もしも叶うのであれば──ごく普通の、有り触れた親子としての生活を無想しなかったと言えば嘘になる。
そこには妻もいて、どちらかに似た息子や娘が──数少ない趣味である釣りを始めとしたアウトドア、乗馬も教えてやれただろうに。
子供の自立心の成長へ伴った思春期や反抗期に世間の親がそうであるように悩み、時には恋愛相談へ乗ってやることも出来た──のかもしれない。
だが──所詮は夢物語だ。
男性は微かに自嘲の笑いを喉の奥で漏らした後、写真立てへ濃い茶色の双眸を向ける。
「──行ってくるよ」
低く落ち着いた声が写真立ての中で微笑む妻へ語られた。
指先が小さな指輪を撫で、やがて男性は刈り上げた短い黒髪が生え揃う頭部へ軍帽を被る。
男性は出頭命令の様式で綴られた書類をファイルごと掴んで私室を後にする。そのファイルには束ねられた矢、実の成ったオリーブの枝を左右の鉤爪で掴む翼を広げたハクトウワシの絵柄が刻み込まれていた。
勇壮な姿をしたワシ。翼を広げれば200cmに達する大型のそれが突如として頭上へ飛来し、何周か旋回したかと思いきや──彼の右肩へ降り立った。鉤爪が戦闘服の生地を貫通しないのは素材が強靭だからだろうが、獲物を捉える為に発達したそれは力強く肩を掴んで離さない。
翼を折り畳んでも全長は100cmを超えているのもあって、存在感があり過ぎる。無視は不可能だった。
「──大きいですねぇ」
「──指揮官様。今度はワシの王様にでもなった?」
「──生憎と覚えがないな……」
右肩へ翼を折り畳みつつ落ち着いたワシの頭部を覆う白い羽毛は特徴的だ。個体としてはそれなりに年齢を重ねていると見える。
明らかに野生の個体──それが何故、人間である彼の肩へ止まったのか、理由は分からない。ただし鉤爪から独特の生臭さをムーアは嗅ぎ取った。魚の生臭さ──となれば、先程、彼が空へ向けて魚を投げ渡し、それを掴み取ったワシであろう。
携帯端末を握る右手とは逆──自由に動かせる左手を上げ、ワシの眼前まで持って行く。すると今度は翼を大きく広げ、ハードナックルグローブに覆われた左腕へ移動してしまった。
退いて欲しいだけだったのだが──移動して貰いたかった訳ではない。
古来には鷹匠という職業もあったようだが、こちらは
知識として持つ鷹匠がそうするように、彼は移動したワシを羽ばたかせる為、左腕を振りかぶる。その動作を本能的に察したのか、ワシが翼を広げて風を捉える仕草を取る。
大きく振り抜いた腕が生んだ風を捉え、両翼を広げながらワシが羽ばたいた。
空の王者として君臨するワシが勇壮な羽ばたきと共に飛翔する。
先頭を進んでいたレッドフードの頭上を通過し、やがて上昇気流を認めたのか、彼等が遥かに仰ぐまでの高度まで駆け上がった。
これで戻って来ることはないだろう。それを認めながらムーアは途中だった携帯端末の液晶画面越しで続いているチャット──
本来の彼女が持つBlablaのアイコンやIDではないそれは、イングリッド──もといエリシオンの極秘回線だとか。
バレそうな気がしてならないが──まぁ、そんな危惧はどうだって宜しい。気にしたら負けな気がするのだ。
それはさておき、彼女がこのルームで開示したのは機密情報の数々だ。
ラピとレッドフードがひとつのボディを共有している──これだけでも充分すぎるのだが、話はこれだけでは終わらない。読み間違いかと疑ったムーアが何度か読み返した程なのだが、これだけでは済まなかった。
ひとつのボディを共有しているという表現は正確ではない。より正確に表現すれば、2機──つまりはラピとレッドフードの2機のボディが1機の形と大きさとなる格好で圧縮されているとのことだ。
故に重量も2倍、コアもふたつある、とか。
ボディの主導権は通常、ラピが握っているが、必要に応じてレッドフードのボディを活性化させられる。しかしその際、2機のボディが互いの主導権を握ろうとする為、コア同士の反発作用が起こる。
出力されるエネルギーは莫大かつ爆発的。ヘレティックのコア出力も超える──のだという。これがラピが時折、見せていたレッドフードの能力である点は推測が出来た。
しかし当然ながら、そのような能力には代償が存在する。
ボディの主導権を一部とはいえレッドフードのそれへ委ねている時間が長引く程に、ラピのボディはレッドフード側へ移っていく。
主導権がレッドフード側へ完全に移譲される前に停止するとラピのボディ内へ蓄積された一種の毒──という表現をイングリッドは綴ったが、それがレッドフードのボディを分解を始める。その際に超高温の熱が発生する。場合によっては冷却水を大量に用いての緊急冷却を実施しなければ脳まで燃えてしまうとのことだ。
冷却水の大量使用──総力戦の後、指揮官室で認めた空のそれらの容器の数々がムーアの脳裏へ蘇った。
とはいえ、俄には信じられない話だ。
彼は液晶画面をタップし、文言を打ち込む。その話が事実だとしたら、レッドフードのボディを分解した際にコアも同じく分解されるのではないか、と。
それにイングリッド──もとい
論理としてはそうなるのが道理であるが、ラピがボディを再構築するのと同時にレッドフードも蘇っている──という突拍子もない答えだ。
オカルトの分野に片足を突っ込んでいる気分ですらある。
全てを解明している訳ではないのだろう。しかし詳細を知っている──つまりはラピのボディがレッドフードのそれへ変化した事例が過去に存在する可能性を彼は考えた。
それを問うと、チャット相手の彼女は肯定を返す。
一度だけ、過去に事例が存在するという。その時に使用したのが、彼へ渡された注射器の中身だとか。
しかし当時、注射器での
抵抗を受けたのだという。ボディこそレッドフードだが、脳波のパターンはラピのそれ。つまりはラピが抵抗していた、という事実に他ならない。
時間が経過するにつれて物理的な抵抗、ラピの脳波も弱まり、毒を注射してラピは戻って来たが──その代償か、彼女は数ヵ月分の記憶を失っていた。
つまるところ──レッドフードのボディが顕現している時間が長引く程にラピの記憶は失われていくことを示唆している。
あまり長引かせてはならない──と考えつつムーアは視線の先に見えるレッドフードの後ろ姿へ視線を向けた後、チャット相手へ返信を打ち込む。
レッドフードにラピの声が聞こえる、というそれだ。
彼女曰く、故郷へ──そう言っていると。
するとチャット相手はラピもレッドフードの声が聞こえると漏らしていた事実を告げる。
その声は、アークを破壊せよと語っていたらしい。
それらが何を意味しているかは、まだ分からない。
しかしレッドフードの言動、立ち居振る舞いからは、アーク、ひいては人類へ対する悪感情の類は感じ取れない。
様子見、しかない。
これらの遣り取りで得られた情報は内々で共有しても問題はないか、と彼は問う。
その内訳を告げると、チャット相手は暫しの熟考の時間を要した後、肯定を返した。
それが解決に繋がるならば、と。
借りを作りすぎている気がしてならない。新車の武装車輌を1台貰い受ける話をしたが、それを無かったことにしてもまだまだ借りの返済には足りないだろう。
いずれにせよチャット相手は彼へ応援の一言を短く告げた。それに感謝を返信した後、ムーアは携帯端末をポーチへ仕舞った。
──それにしても…ラピは本当に私の友達に似ていますね。雰囲気や性格は違うのに…戦い方は瓜二つです。
──それって…レッドフードですか?
──あら?どうして分かったんですか?レッドフードを知っているんですか?
──やっぱり聞き間違いじゃなかったのね。──レッドフード、1次侵攻のニケ、そして伝説の指揮官。──あなた達の分隊名は最初からパイオニアだったのですか?
──いいえ。これは地上で二人に再会した時に貰った名前です。元の分隊名は──
──《
ズキリ、と頭蓋の内側で煩わしい痛みが駆け抜ける。
ラプンツェルとラピとの会話、そして現在の状況から推察するにレッドフードは第1次ラプチャー侵攻当時に存在したニケであり、ゴッデス部隊に所属していた、と伺える。
伝説的存在であるのは言うまでもない。半ば以上、神格化された存在だ。
過去に存在していたニケを現在へ呼び出せる──原因と切っ掛けは不明のままだが、実際にそれが現実としてある。
結果があれば、原因は突き止めれば良い──つまりはそれさえ判明すれば、結果は再現できる。
もしもこの事実がアークに知れ渡ればどうなるか──あまり想像はしたくない。
この情報を共有する必要はあるが、果たして何処まで喋れば良いものか──それを考え込んでいた矢先、彼の傍らを進んでいたネオンがムーアの腕を叩いた。
「──師匠、師匠!戻って来ましたよ!」
「……なにが?」
「ワシです、ワシ!!」
彼女が指差す先へ双眸を凝らすと──空の王者の風格を漂わせたまま、ムーアに向かって真っ直ぐ突っ込んでくる姿がある。
それが先頭を進むレッドフードの傍らを鋭く駆け抜け、彼女の真紅の長髪を靡かせながら滑空する。
反射的にムーアが左腕を翳したそこを着地点として定めたのだろう。ワシは何度か大きく翼を羽ばたかせながら翳された左腕を鉤爪で掴んで留った。
勇壮な外見に反してキッキッ、ヒョッヒョッと高い囀りは小鳥のそれと聞き間違う程だ。ワシの仕草に彼は毒気を抜かれ、鉤爪で掴まれている左腕を左肩へ近付けると、ワシが大きく羽ばたいて肩へ飛び移る。
オオカミの次はワシ──もう少し可愛げのある動物に縁がないものか、と考えていた彼と、先頭を歩いていたレッドフードが肩越しに振り向いた視線が交わった。
訝しむムーアの姿に、彼女は──快活な笑みを浮かべていた。