勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
ヤニねこ、最初はアニメしか観ていなかったのですが、いつの間にか単行本を纏めて購入していたばかりか、身体が勝手に二次創作を描き始めていたのです。それどころか投稿までしていたんです。ここ最近、こちらの更新が疎かになっていたのは私の別人格が暴走していたからなんです。信じて下さい。
残敵の掃討──荒野に散乱する敵機の残骸の数々を認め、駆動するそれらは存在しないと確信した青年は携えた突撃銃へ安全装置を掛ける。
「──ドロシー」
挿入された弾倉には残弾が十数発は残っているだろう。それを感覚で捉えつつ、彼は純白のフリルが目立つ衣装を纏うピルグリムを呼んだ。
彼女の視線が青年へ向けられるなり、彼はハンドサインで先に前進し、他の敵機が増援へ駆け付ける兆候がないかを偵察するよう促す。
その指示を正しく受け取ったのだろう。仕方ない、と言わんばかりの溜め息を漏らしながらも彼女は先へ進み出した。
「──損害はないな?」
「大丈夫」
「問題ありません」
「あたしもへーきへーき」
指揮下にいる分隊だけでなく、ある意味で言えば臨時編入した格好の恵体を誇るニケへ彼は尋ねる。損害は皆無であると告げられ、首肯で返答に代えると愛煙の煙草をボディアーマーのポーチから引き抜いた。
ソフトパックを軽く振り、飛び出した吸い口を銜えた途端だ。真横から腕が伸び、奪い取られてしまう。
「──へへ、もーらい」
「……はぁ……」
これみよがしに彼女──レッドフードは勝ち誇った笑みを浮かべつつ整った形の唇へ紙巻き煙草を銜えてみせた。
ソフトパックの中身は残り2本。次の小休止に入ったら背嚢を漁り、カートンの中から未開封の煙草を出しておかねばなるまい。
貴重な精神安定剤を奪い取られたムーアだが、彼は強く咎める言葉を吐きはせず、彼女へ向かって火を点けたオイルライターを差し出した。
その火で先端を炙って悠々と紫煙を燻らせるレッドフードを横目に彼自身も煙草の先端を火で炙る。
──妙に距離が近くないだろうか。
ムーアとレッドフード──二人の距離が、やたらと近すぎるようにアニスは感じてしまう。具体的にはレッドフードの方から彼へ迫っている、ような感覚さえ捉えられた。
まぁ、彼が男前である点を彼女は否定しない。その通りだ、と全面的に肯定もしよう。確かに世間一般で言うところの甘いマスクのイケメン──とは縁遠い顔立ちを持っているが、それが彼の魅力のひとつだ。
それに彼自身が気付いていないのが何よりの救い──もし彼が自覚した上での仮定の話をしよう。そのルックスを用いてアークで手当たり次第に声を掛けたら、たちまち前哨基地は一個大隊規模のニケで埋め尽くされるに違いない。いや、ニケだけでない。人間の女性すらも押し寄せるだろう。
ただでさえ
ざっと列挙するだけでもどれだけいるだろうか。アニスが内心で指折り数え始めて間もなく、ムーアが前進の指示を出す。
長身かつグラマラスな恵体を誇るニケは──外見的には彼の好みだろうか。たぶんそうかもしれない。レッドフードがちょっかいを掛けても拒みはしないのがその証拠に思える。
長髪で、長身の女性を好む傾向にあるのか──それを彼へ尋ねても外見のみで判断している訳ではない、と一蹴されるのが関の山だ。それだけは確信出来る。
「──アニス、どうかしましたか?」
「──なんでもない」
丸っこい猫のような瞳を細めつつ彼の背中へ視線を向けていたからか。傍らを歩くネオンは違和感を覚え、アニスへ問うも彼女は軽く手を振って異常はないと返してしまう。
彼が好む女性の傾向は確かに気にはなるが──アニスはそれよりも注意を払うべき対象が出来てしまったことが気に掛かって仕方ない。
彼女が肩越しに振り向くと、十数歩ほど後方を進むクラウンとチャイム──白騎士の主従の姿が視界へ入った。
その二人の視線を追うと、彼女達はアニスの
「……ネオン。気の所為かもしれないけどさ。さっきからあの子達、指揮官様のことばっかり見てない?」
「クラウンとチャイムですか?」
「うん、そう」
「……実は私もそう思ってました。さっき戦っていた時から、ずっと師匠のことばかり見ていましたよ」
「でしょ!?やっぱり気の所為じゃないわよね?」
「はい。驚くべきことに今回はアニスの勘違いではないようですね」
「
師弟なのもあってネオンの皮肉にも磨きが掛かっている様子をアニスは感じてしまう。
それはそうと──アニスは歩む速度を早めた。ネオンも釣られて歩みが早くなり、たちまち先を進んでいたムーアとレッドフードへ追い付く。
アニスは平手を作ると、彼が背負う背嚢を強く叩いた。
「──ちょっと指揮官様〜?いつの間にナンパしてたの?このニケ誑し。今度は何をしたのよ?何かプレゼントでもした?それとも歯が浮くようなあまーい台詞でも言ってあげたの?」
次いで、アニスは自然な動きでレッドフードとムーアの間へ割って入る。銜え煙草のまま紫煙を燻らせる長身の両者に挟まれる格好になったが、彼女は臆することなく傍らを進む自身の指揮官を問い詰める。
「……藪から棒になんだ?」
「クラウンとチャイムのことです」
突然の詰問へムーアが困惑する中、アニスとは反対側──彼女と共に彼を挟む格好で並び立ったネオンが背後を付いてくる白騎士主従の視線を暗に告げる。
「……あぁ。見られているのは気付いていたが……珍しいからだろう。ニケ用の火器を扱う人間なんて、早々いないからな」
「そいつはどうかな〜」
このクソボケ──もとい、鈍感で唐変木も視線には気付いていたらしい。まぁ、背中に穴が空きそうな程、見詰められていたら当然ではある。
彼の物言いで、一定の納得をしそうになったアニスだが、長大な大口径狙撃銃を肩へ乱雑に担ぐレッドフードはムーアの推測を一笑しつつ否定した。
「ありゃ、男前のことが気に入ったみたいだな」
「えっ!?」
「あいつら、あたしと会った時もそうだったんだ。一緒に戦った時から物欲しそうな目で見てきてさ」
出会って間もないのだが、民になれ、と勧誘され、挙句に追い回されるようになった──とレッドフードは銜え煙草のまま告げる。
「も、物欲しそうな目……!?じ、じゃあ……指揮官様を欲しがってるって、こと!?」
アニスの脳内では妄想が逞しくなりつつあった。
チンチクリン──もといチャイムは兎も角として、クラウンの方から
もう一度、アニスは肩越しに背後を確認する。白騎士の片割れ──クラウンは長身かつ、体形も恵まれている。ついでに長髪だ。推測として、彼が好む女性的な、或いは魅力的と感じるだろう外見の特徴に一致している可能性が高い。
「欲しがってる……つまり師匠を奪おうとしているんですね!」
「……それは違うと思うが……」
「これはいけませんね!アニス、聞いてきて下さい!師匠を奪うつもりなのか、って!」
「……まぁ、言われなくてもそのつもりだったけど……なんで自分で行かずに私に頼むの?」
「そんなの決まってるじゃないですか」
やれやれ──そう言わんばかりにネオンが肩を竦めつつ左右へ頭を振る。
「──他人へ噛み付くのはアニスの専門分野ですから」
「まったくもうっ!」
「──はははっ!!」
なんとも愉快な遣り取りだ。存外、
レッドフードが腹を抱えて笑い出したい衝動に耐える最中、踵を返したアニスがクラウンとチャイムの下へ向かう。彼女からしてみると、来た道を戻っているようなものだった。
動向が気になるムーアやレッドフード、そしてネオンは揃って背後へ肩越しに視線を遣る。
視線の先ではアニスが彼女達の傍らを歩きつつ、何事かを問い詰めている姿が見えた。
同時にクラウンとチャイムが互いに顔を見合わせ、何かしらを相談し合っている姿も伺える。
彼や彼女達から向けられる視線に気付いたアニスは、訳が分からぬといった具合で肩を竦めていた。
といえ、特にこれといった異常がある訳ではないらしい。
偵察を終えたドロシーが一行の到着を待機する地点に辿り着く。
「──予定されている進路上に敵影は発見できませんが、伏兵に適した地形はいくつか。通過する際は警戒を厳にするべきかと」
「……了解した。偵察と報告に感謝する」
口頭による報告を受けたムーアが礼を告げると、ドロシーは軽い会釈で応じ、再び周辺を警戒する為か一行から離れてしまう。
それを見送りつつ、彼が15分間の小休止を言い渡した。
ムーアは背嚢を漁り──その中から未開封のソフトパックが詰められたカートンを取り出す。包装を破き、セロファンが巻かれたソフトパックのひとつを開封してボディアーマーのポーチへ捩じ込んだ直後だ。
頭上へ不意に影が生じる。何かと思えば、ワシが舞い戻ったのだ。何処へ行っていたのか、などと問うても答えはしないであろうし、ワシ自身も付いてくる必要もないのだが。いつぞやのオオカミ達のように道連れが出来た、と考える他ない。
左腕を翳し、そこを止まり木にしたワシが掴まる。広げた翼を折り畳む前にムーアが肩へ移動するよう促すと、大人しくワシは従った。
「──もし。指揮官の方」
ワシを肩に乗せながら、彼は岩へ腰を降ろす。小休止の間はタンカラーのブーツの靴紐を緩め、休息を取っている最中のこと。
彼へクラウンとチャイムが歩み寄って来た。
ムーアの傍らには同様の格好で休憩を取るレッドフードやアニス、ネオンの姿があり、彼女達は歩み寄って来た二人へ自然と視線を向ける。
「……どうかしたか?」
「──皆様の孤独奮闘、しかと拝見致しました」
「……それを言うなら
「──貴様ぁ!お嬢様が孤軍奮闘をセンス良く言い換えたのが分からぬのだ!?」
「……センス、良く……?」
「ただの言い間違いでしょ……」
「き、貴様〜!不敬なのだ〜!!」
果たしてセンスが良いのか──それはさておきだが、指を突き付けて非難するチャイムとアニスの間で勃発した言い争いの様子から眼差しを逸らし、その傍らへ立つクラウンへ濃い茶色の瞳を向ける。
すると彼女は頬を紅潮させながらも咳払いの後、言葉を続けた。
「特にニケ達にそれぞれの役割を与え、指揮をしながらも御自身で戦うあなたの姿が印象的でしたわ。決心や判断、そして勇気も非常に優れておいでに見受けられます」
「……それは、ありがとう」
随分と好意的に受け取られたものだ。遠回しに自殺志願者じみた評価を告げられるのかと思いきや、彼は意外を感じてしまった。
「まぁ、指揮官様はちょっと特別よね」
「師匠から学べることは多いです!」
本当は
「──そういう訳で、そちらの指揮官の方。お尋ね致します」
「……なんだろう?」
勿体ぶった前口上にも思えてならないが、ムーアは先を促し、中身が残り2本となったソフトパックをボディアーマーから取り出した。潰れかけのソフトパックを振り、飛び出した煙草の吸い口を銜えた直後である。
「──クラウン王国の軍師となりませんか?」
「…………は?」
当然のスカウトにムーアは彼自身でも信じられないほど、気の抜けた声を漏らした。