勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
何かに呪われているのではなかろうか。
思わず指揮官である青年が考えてしまうぐらいにはツイていない事が多すぎる。いわゆる厄日という奴かもしれない。
とはいえ地上でのラプチャーとの遭遇、戦闘発生の確率はほぼ100%とも言われるので仕方ないのかもしれない。
ランデブーポイントへの移動を再開して間もなくにマリアンが敵の接近を認め、急ぎ遮蔽物へ隠れての交戦となったのだ。
ラプチャーも徒に突っ込んで来る訳ではなく、遮蔽物を利用してマリアンの掃射から逃れている。知識として持っている活動の報告よりも中々に利口であろう。
しかし全く有り難い話ではないのは確かだ。
「──クッ…!ラプチャーの増援を確認!」
「視認した!マリアン、撃ちまくれ!弾幕を張り続けろ!!」
「ラジャ──っ!?
「故障排除急げ!!」
銃声を奏で続けていた彼女の機関銃から頼もしい音色が消えた。
これだけ連射を続けていれば、故障も発生するだろう。
マリアンが銃口を敵へ向けつつ直ちに故障原因の特定を始める。
射撃が再開されるのも時間の問題だが──
「待ってくれる訳はないな…!」
当然だが敵からすれば千載一遇の好機である。
遮蔽物で横殴りの銃弾の雨を凌いでいたラプチャー達が動き始めたのを認めた青年は──反射的に予備として携行してきた突撃銃を構える。
依託射撃の要領で突撃銃をコンクリートの大振りの破片へ預けながら照星と照門を覗き込み、敵へ銃口を向けると指先で安全装置を解除。それと一体になっている切替レバーは連射へ一気に回される。
親指程の太さがある“小銃弾”が詰め込まれた弾倉は緊急性を考えて既に挿入口へ叩き込まれている。槓桿を引き、続けてボルトフォアードアシストを掌底で叩いて強制閉鎖。薬室に初弾が送り込まれた瞬間、彼は引き金を引いた。
凄まじい銃声が連射で響き渡り、同時に薬莢が宙へ舞いながら荒廃した街路へ落下する中、青年は曳光弾の軌跡を確認しつつ射撃を修整し、150m先にまで迫ったラプチャーへ命中弾を何発も撃ち込んだ。
「──指揮官!?」
「構うな!早く撃て!!」
突撃銃は対ラプチャー用の火器だ。それは即ちニケ用の火器である。それを人間が使えばどうなるか。反動に人体が果たして耐えられるか。
間近から聞こえた銃声にマリアンが弾かれたように横目を向けるのだが──
「…え…?」
──垂れ目気味の瞳をこれでもかと開いて驚愕してしまう。
射撃しているのだ。
人類が、指揮官である青年が。
射撃の度に肌と肩へ食い込む突撃銃の床尾が強烈な衝撃を伝えるも、それを気にする素振りもなく反動を吸収しながら視線は真っ直ぐに敵を見詰めながら引き金を引いているのだ。
「──マリアン!急げ!」
「は、はい!!」
故障排除が終わり、改めて槓桿を引いた彼女が猛烈な弾幕を張り始める。
奇しくも十字砲火となった2点からの制圧射撃で瞬く間に増援として襲来したラプチャーの群れはたちまち残骸と化した。
「──撃ち方止め!!」
声を張り上げた彼の号令でマリアンは引き金から細い指を離す。敵影は確認できない。
それをしっかりと確認した彼女はまず安堵の息を吐き出すのだが──次いでキッと垂れ目気味の眦を上げた。
「──なにをしているんですか!!」
普段の彼女を知っている者なら同一人物か疑う程の大声である。怒りに震える声音で彼女は青年を叱責したのだ。
「ニケ用の火器を撃つなんて自殺行為です!!死にたいのですか!!?」
「…自殺志願者のつもりは毛頭ないんだが…想像よりも使えるな」
怒りに声と身体を震わせるマリアンを尻目に青年は泰然としたまま突撃銃の点検を済ませ、空となった弾倉を外し、背嚢から取り出した新しいそれを挿入口へ叩き込んだ。
その姿にマリアンの頭脳でプッツンと何かが
「──聞いていますかムーア少尉!!?」
「…聞こえているからそう大声で騒ぐな。ラプチャーが集まってくるぞ」
ノイズキャンセリングが搭載されたヘッドセットが欲しい、と青年──ムーアは内心で呟いた。彼もこれを口にすればマリアンの怒りへ油を注ぐと理解しているらしい。
とはいえ彼女の怒りが分からない訳でもないのだ。溜め息を吐き出すと、いまだに肩を震わせ、眦を吊り上げたままのマリアンへやっと彼は視線を向ける。
「……済まん。故障排除が済むまで敵を接近させるのは危険だと思ってな。咄嗟に撃っていた。…心配をさせて悪かった。許してくれ」
素直に小さく頭を下げて謝罪する。
それを見たマリアンは一瞬、ポカンと呆気に取られた様子だったが怒りを思い出すと顔を背けてしまう。臍でも曲げただろうか。彼は困ったのか頬を指先で掻きながら腰を上げた。
「…発砲する際は…一声掛けて下さい。援護ありがとうございました」
「…どういたしまして」
プイと顔を背けたままマリアンが口にする妥協と感謝へムーアは軽く頷くと彼女へ歩み寄り、片手を差し伸べる。
その手をチラリと見詰めた彼女が細い手を──機関銃を操るとは思えない程にほっそりとした手を差し出して指を絡めた途端、彼の強い腕力を借りて立ち上がることとなった。
この指揮官、ベンチプレスは何kgあげられるんですかねぇ