勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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昨日は更新が出来ず申し訳ありませんでした。

お待ち頂けているかは分かりませんが…ゲーム本編のチャプター17…少し衝撃的な展開と、思わせぶりな発言にイヤ〜な予感が脳裏を駆け巡りまして考察に忙しかったのです。



第7話

 

 

 不意にそれまで吹き荒んでいた吹雪が落ち着き始める。

 

 しかしこの極寒の環境であのような軽装のまま活動し、武装する人間がいる訳がない。十中八九、ニケであろうと判断した彼は銃口を一応は下ろしつつも引き金へ掛けた指は外さなかった。

 

 その場へしゃがみ、膝撃ちの姿勢を取っていたムーアは腰を上げると眼前へ現れた二人組のニケへ歩み寄る。二人組も彼へ向かって来るが──少しウェーブが掛かった金髪を靡かせる如何にも高貴な雰囲気を醸し出す方のニケはムーアへ対して警戒を解かない様子で銃器を握っていた。

 

「──貴方、所属と名前を言いなさい」

 

 普通は先に答えるモノでは、と彼は思わず返しそうになってしまう。しかし眼前のニケが握る独特の形状をした突撃銃なのか、機関銃なのか──実際は短機関銃(サブマシンガン)なのだが、それを握る彼女を挑発しかねない言動は慎もうと考えた。

 

 まず彼自身が突撃銃へ安全装置を掛け、攻撃の意思はないと表明してから誰何へ答える。

 

「…ショウ・ムーア中尉。前哨基地に所属している」

 

「──ふぅん。やっぱりそうだったのね。指揮官、かしら?」

 

 金髪を靡かせるニケが再び尋ねると彼は頷いて肯定する。足下ではオオカミ達が見知らぬ者達へ警戒と威嚇をしていた為、彼は僅かに身を屈めて軽く頭を撫でて落ち着かせた。

 

「そう…。なら今から貴方は私の()()()よ」

 

「…Servant(しもべ)?」

 

 確かに公僕(軍人)の身分ではあるが、彼女が言うのはもっと従属的な意味合いが強いであろう。わざわざ()()()と口にしたのだから。

 

「──女王様!この人をしもべにするんですか?」

 

「…アリス、下がりなさい。まだ話の途中よ」

 

 金髪のニケの背後からひょっこりと顔を覗かせたピンクがかった銀髪をツインテールに纏めたニケ。身の丈の倍はある背嚢を背負ったそのニケが付けるヘッドセットのヘッドバンドにある動物的な耳を模した装飾が何度か小刻みに動くのをムーアの瞳が捉えた。

 

「ひとつ聞くわ。女王と指揮官、どちらが偉いと思う?」

 

 それは間違いなく女王(Queen)だろう。

 

 ──というよりも自分のことを女王と呼ばせているのか。

 

 眼前のニケにそちらの方面の趣味があるのか、ともムーアは考えてしまうが、あまり返答を長引かせると面倒そうな雰囲気を察し、素直に常識的な答えを返す。

 

「宜しい。その通りよ。だから貴方は、女王である私のしもべとなるの」

 

 形の良い唇を笑みの形にしながら金髪のニケが宣言すれば、パチパチと傍らのニケが拍手を送り始める。

 

「女王様!おめでとうございます!」

 

「ふふっ、騒がないのアリス。さぁ、行きましょう。あまり長居すると奴等が集まって来るわ。しもべ、付いてきなさい!」

 

「しもべ、遅れちゃダメですよ」

 

 ──いったいどうなっているんだ。

 

 彼は思わず足下のオオカミ達へ視線を向ける。雪崩に遭遇し、分隊から逸れたかと思いきや、今度は良く分からない状況と展開だ。

 

 何故こうなったのかは当人である彼も理解は出来ないが、このままでは二人組に置いていかれてしまう。ひとまず先を進む彼女達へ追い付くとムーアは二人の背中を眺めながら同行する運びとなった。

 

 黙って付いていくしかない。今の所、彼女達は敵ではない。とはいえ味方とも言い切れないが。

 

 ムーアは足下に集まったオオカミ達を侍らせ、彼女達の背中を見ながら道なき雪原を歩き続ける。その様子を察したのか、金髪を靡かせるニケが大きな溜め息を吐き出した。

 

「──しもべ。聞きたいことが多いようね」

 

 少し小休憩とでも言いたいのか彼女は彼へ振り向くとその場で足を止める。

 

「いいわ。私が説明してあげましょう。──私達は“アンリミテッド”。邪悪なハートの女王を倒す為に旅をしている」

 

「…ハートの女王?」

 

 ニケが語る人物名には聞き覚えがある。ムーアは脳内にある記憶を辿ると──旧時代の児童文学の名作に登場するキャラクターではないかと思い至った。

 

 彼が記憶を辿っていた時、少々オーバーなボディランゲージを用いてピンクがかかった銀髪のニケが補足説明を続ける。

 

「ここは元々、緑豊かな世界だったんですけどハートの女王が吹雪を起こして…今は不幸な世界になってしまいました。だから私達は仲間を集めているんです!ハートの女王を倒すため、幸せな世界を作るため!」

 

「…ふむ…む?」

 

 ──そんな能力はあっただろうか。

 

 あの児童文学に登場するキャラクターはしょっちゅう「首を刎ねろ!」と酷い癇癪を起こしている印象しかないムーアが生半可な刃物では落とせそうにない太い首を傾げる。

 

 疑問符を頭の上へ浮かべる彼だが、補足説明をしたニケは更に首を傾げながらムーアへ視線を向ける。

 

「…ところで…しもべは誰ですか?何でここまで来たんですか?何であんなところにいたんですか?」

 

「…だいぶ予定時間を過ぎてしまったが…」

 

 彼は思わず左手首の内側へ文字盤が来るようにベルトを巻いた腕時計の時刻を確認する。その仕草に──眼前の少女の印象が強いニケが瞳を大きく見開いた。

 

「任務で研究き──」

 

 本来ならば既に研究基地へ到着している時刻だったが、不測の事態が立て続けに起こっている。超過してしまったのは致し方ないが、任務の内容を掻い摘んで説明しようとした時──ムーアへ金髪を靡かせるニケが睨むような視線を遣る。

 

 ──それ以上は言うな。

 

 無言だが、その瞳が如実に彼を制していた。

 

「……ハートの女王を倒す為に参上した」

 

 こんな物言いをする人間ではないと自覚はあるが、ひとまず話を合わせようと──後々に破綻するかもしれないが、話を合わせて彼が口にした途端、金髪を靡かせるニケが形の良い口元へ微笑を浮かべた。

 

「じ、女王様!仲間です!仲間が現れました!」

 

「騒がないでアリス。実はね、私がしもべをここへ呼んだのよ」

 

「女王様がですか!?」

 

「えぇ。ハートの女王に奪われた私達の家を取り返す時が来たの」

 

 彼の返答に、そして金髪を靡かせる女王陛下の言葉に少女が歓喜と期待を表情へ浮かばせる中、ムーアは困惑の極みに陥ろうとしていた。

 

 吹雪も止み始めている。ひとまず落ち着こうと彼は煙草をポーチから取り出し、オイルライターで火を点けて一服すると精神安定剤の代わりになるかは分からないが足下に集まるオオカミ達の頭を順繰りに撫でる。──舌を出しながら撫でられる様子にムーアは割りと癒やされた。

 

「しかし、しもべ。どうして一人で来たりなんかしたの?」

 

 女王陛下の御下問があれば、下賤なしもべは素直に答える他ない。しかも設定を維持したままで。言葉を適切なそれへ変換しなければならない手間もあるが──彼も半ば()()()()になりつつある。

 

「…陛下の召喚に応じ、我が仲間達と共にこの地へ参った次第だが…突然の敵の来襲、続けて雪崩に巻き込まれ、離れ離れとなった」

 

「…ふぅん…」

 

 割りとノリは良いらしい。そう感じたのか金髪を靡かせるニケは再び口元へ笑みを作る。

 

「仲間がもっといるんですか!?」

 

「勿論よ。一人だけ呼ぶ訳がないじゃない」

 

「流石、女王様!」

 

「ふふっ。……それにしても雪崩なんて面倒なことに。──しもべの()()()()()()なの?」

 

 金髪を靡かせるニケの問い掛けに違和感を覚えたムーアは「もっと撫でて」と舌を出しながら彼を見上げるオオカミ達から手を離して腰を上げた。

 

 寒風と共に燻らせる紫煙が掻き消える中、彼は首を左右へ振る。

 

「彼女達は私とは姿と形は似ているが少し違う。だが私より遥かに強い」

 

 意図は伝わったらしい。それを感じ取った金髪の女王が頷きを返した。

 

「そう、ならまだ生きているわね。アリス。これからしもべの仲間を探すわよ。吹雪は止んだようだし、捜索はそう難しくないはず──」

 

「──女王陛下。そうは行かないようだ」

 

 不意に彼が突撃銃を握り、指先で安全装置を解除する。

 

 怪訝な様子を浮かべる金髪を靡かせるニケは次いで彼の足下に侍るオオカミ達が同じ方向へ視線を送り、鼻先へ皺を寄せている姿を捉えた。

 

「…どうやらハートの女王が手下を送り付けて来たようね。しもべ、貴方は後ろに下がりなさい」

 

「それは無理だ。Servant(しもべ)如きがQueen(女王陛下)の背中に隠れるのは沽券に関わる」

 

「……怪我しても知らないわよ。──アリス!」

 

「はい!女王様!」

 

「…エンカウンター」

 

 紫煙を燻らせる煙草を銜えつつ彼は呟く。いつもはラピの役目だが、今は自身しかいない。最近はこれを聞かないと戦闘に身が入らない気がしてならなかった。

 

 敵は四足歩行の地上型ラプチャー3機。いずれも他の地域と比較して動きが鈍い。雪に脚でも取られているのかもしれない。

 

 アリス──と呼ばれている少女はその場に背負っていた背嚢を置き、土台代わりにしながら狙撃銃を構える。その横でムーアも背負った背嚢を雪上へ置き、伏せながら突撃銃を預けて依託射撃の姿勢を取ると銜えていた煙草の吸い口を左側の雪上へ突き刺す。

 

 距離は200mだろう。幸いにもラプチャーは彼等に気付いて真っ直ぐに接近を続けている。

 

 ACOGを右目で覗き込んだムーアは300m先に調整した零点規正(ゼロイン)を念頭に入れ、クロスヘアのレティクルへ収めた敵へ狙いを定めた。

 

「…スゥ…フゥ…」

 

 呼吸を繰り返し──肺の中へ残った空気を白い吐息として全て吐き出した時、手ブレが収まる。引き絞った引き金へ乗せた指へ僅かな力を込めると、呆気なく引き金が引き切られ、撃鉄が落ち、続けて撃針が雷管を叩いた。

 

 薬莢内で炸薬が燃え、押し出された弾頭が銃身内へ彫られた施条(ライフリング)に沿って回転を起こしたまま銃口から外界へ解き放たれる。 

 

 一射目は──僅かに左へ逸れ、狙いを付けたラプチャーの左側の脚一本を打ち砕くに留まった。

 

「…風に流されたか」

 

 割りと近い筈なのだが、風の影響を受けたらしい。風速計代わりに雪上へ突き刺した煙草を見ると確かに左へ向かって紫煙が靡いている。

 

 予想される弾着点を考えて狙いを修整し、再び引き金へ指を乗せる最中、隣で少女が発砲した銃声が響き渡る。

 

「──やりました!」

 

 一発目で命中、撃破をするのは流石としか言いようがない。無邪気に、はしゃぐ少女の声が届くムーアも引き金を引いた。

 

 床尾が肩へ食い込む反動を吸収しつつ覗き込むACOGには核を撃ち抜かれたラプチャーが雪上へ倒れ込む姿が映る。

 

 あとひとつ。

 

 ほぼ同時に少女とムーアの銃口が最後のラプチャーへ向けられ、2発の銃声が重なって響き渡った。

 

「──やるじゃない、しもべ」

 

「…お誉め頂き、光栄だ」

 

 吸い口は濡れてしまったが、吸えない程ではない。煙草を指先で拾い上げて銜えたムーアは残りのニコチンとタールを堪能しようと紫煙を燻らせる。

 

 2発の銃弾を核へ喰らったラプチャーが黒煙を上げながら沈黙した様子に出番は必要なかったと察する女王が金髪を靡かせつつ彼の手腕を称賛した。

 

「凄いですね!あっという間に手下を倒しちゃいました!…そういえば、片足が変ですね。珍しいです」

 

「…外骨格。……折れたの?」

 

「いや、()()()()()()()()()と戦った時に脚をくれてやっただけだ。これは…そうだな…いわゆる()()()()()という奴だ」

 

「──っ!伝説の…防具…!?じ、じゃあ…伝説の武器も…!?」

 

 自分から言ったことだが、何故そんな表現をしてしまったのだろうとムーアは少し後悔しながら戦闘終了を察して寄ってきたオオカミ達を撫で回す。現在の状況では数少ない癒しである。

 

「…伝説の武器…なら、これが該当するだろう。古い銃だが性能はお墨付きだ」

 

 腰を上げ、依託射撃の土台にした背嚢を背負ったムーアが右脚へ巻いたレッグホルスターから45口径の自動拳銃を抜いて見せる。

 

「タイラント級でも狙い所が良ければ一発で仕留められる」

 

「一発で!?わ、私達…ハートの女王に勝てそうです!伝説の防具と武器を持つしもべだなんて…!!」

 

「勿論よ。私が普通のしもべを呼ぶわけないでしょう」

 

 ──普通とその反対の線引は何処で決めるのだろう。

 

 伝説の武器──もとい自動拳銃をレッグホルスターへ収めたムーアは脳裏に過ぎった答えの出ない疑問へ一瞬の思考を巡らせてから、吸い切った煙草を携帯灰皿へ放り込んだ。

 

 彼女達と逸れてだいぶ時間が経過してしまった。3名が早々に死ぬ訳はないが、流石に彼も心配である。早めに合流せねば、と再び手首へ巻いた腕時計の時刻を確認するムーアを認めた少女が彼をジッと見詰めた後、金髪を靡かせるニケへ尋ねた。

 

「──女王様。もしかしてしもべは…()()()()()ですか?」

 

「……は?」

 

 ウサギ目ウサギ科に属する耳介が比較的大型の動物──ではないだろう。この話の流れからして、児童文学に登場する白ウサギだろうとムーアは察した。

 

 ──何処がだ?

 

 まず率直な疑問符が浮かぶのは仕方ない。

 

「何故、そう思うの?」

 

「なんとなくそんな感じがします。伝説の防具に伝説の武器を持った人と偶然会うわけないですから!それにさっきから時計を何度も見ています!」

 

 ──あぁ…そっちか……。

 

 確かに何度も時計は見ていたな、とムーアは思い出す。しかし「大変だ!遅刻だ!」などとは口走っていない上に正装もしていない。

 

 ついでに言えば作者がヒロインの対比として表現した“老成”、“臆病”、“虚弱”、“神経質な優柔不断さ”もそこまで持ち合わせているとは彼自身は考えていない。第一、そんなに歳を取ってはいないのだ。

 

「ふふっ…しもべに聞いたら?」

 

「は、はい!しもべ!貴方はもしかして…ウサギさんですか?一緒にハートの女王を倒して、私を幸せな世界へ連れて行ってくれるウサギさんですか!?」

 

 純粋無垢の期待の眼差しが突き刺さると、彼は思わず金髪のニケへ非難の視線を向けた。

 

 どうしてくれる、と言う非難が多分に含まれた視線を受けた彼女は軽く肩を竦めるだけであった。

 

 いっそのことCaterpillar(青虫)とでも答えてやろうか。あちらは水煙管だが、こちらも喫煙者であるので大した違いはなかろう。

 

 しかし──眼前で瞳を輝かせている少女からの期待を裏切るのはなけなしの良心が咎める。

 

 もはやヤケクソになるしかない。

 

 溜め息の後、ムーアは少女の姿のニケへ顔を向けると小さくだが頷いた。

 

 すると彼女は瞳を輝かせたまま彼へ歩み寄り、両手でムーアの片手を掴んだかと思いきや勢い良く上下に振り始める。

 

「やっと…会えましたね!私、ずっと待ってたんですよ!一緒に行きましょう!幸せな世界へ!!」

 

 

 ()()()()()の定義とはなんだろうか。生じた疑問へ対する答えを彼は出すことは叶わず、ひたすら少女に片手を握られたまま上下に振られ続けるしかなかった。

 

 

 




「…まさかラピに記憶消去が効かなかったのって…過去ではなくあの時が原因じゃなかろうな……いや、そんな訳が……いやだが…となると……」などと考察が忙しかったのです
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