勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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第3話

 

 

 カウンターズ分隊所属のニケであるアニスはこの頃、どうも()()()()する機会が増えている。

 

 その一因となっているのは彼女の()()()()であろう。

 

 ピルグリム──コードネーム スノーホワイトが現れるだろう座標へ向かう行軍の最中、彼女は分隊の先頭を進むリーダーのラピ、そしてその背後に続く長身を誇る青年の後ろ姿へ視線を向ける。青年の足下にはオオカミ達が集まっているが、視線は広い背中へ釘付けとなってしまった。

 

「──なんだかなぁ……」

 

「…アニス?」

 

「ん?あ〜…なんでもない」

 

 隣を進むネオンが怪訝な表情を浮かべながら、何かあったかと暗に問われるもアニスは左手をヒラヒラと動かして問題ない旨を返した。

 

 この()()()()の原因の多分は指揮官にある。

 

 思えば最初から、通常通りの出会いではなかった気がする。

 

 前任者が戦死して間もなく、ロクな引き継ぎもなしに指揮官へ迎えられた彼も思う所はあったのかもしれないが──不審と疑惑、そして猜疑心の塊と自身でも自覚しているアニスは更に思う所が強かった。

 

 まずそもそもとして彼女は指揮官という存在を快く思ってはいない。いや、いなかった、が正しいだろうか。

 

 大した働きもしないというのに少し疲れただけで不平不満を垂れ流し、敬意を払っていないと口調にすら叱責を飛ばしてくる()()()()()()()()

 

 それがアニスというニケがこれまでの経験や体験で培った指揮官という存在への認識と評価だった。

 

 だというのに──

 

「──…なんだかなぁ……」

 

 また同じ呟きが漏れ出る。

 

 直ぐに怪我をして動けなくなる人間の癖に、ニケと比べては可哀想だが脆弱な肉体しか持っていない人間の癖に──本当に同じ人間なのか、と思う程の出来事を彼女の視線の先にいる()()()()はこれまで何度もやってのけた。やらかしてきた。

 

 ニケであっても何度死ねば良いのか分からない程の死線をたった数ヶ月で何度も経験した。その真っ只中で視線の先にいる彼は突撃銃を構えて何度も先頭で戦っていた。

 

 この時点で()()()()()とは思えない。

 

 ザッと彼女は指揮官様の簡単なプロフィールを思い出す。

 

 生まれはアークのようだが不思議なことに何処の地区なのか記載はなかった。まぁ記載漏れだろう。

 

 そして9月14日生まれの22歳。22歳なのにあの強面は後々に苦労するだろう。可哀想に。

 

 身長が188cm。見れば分かる。ラピとアニスの背丈はそれほど変わらないが、見上げなければならない程だ。

 

 体重は──まぁそれは構わないだろう。あの筋肉を()()()()()()()重いのは見ただけで思い知らされた。

 

「…んっ…!」

 

「アニス?不調ですか?」

 

「ん?なんでもない!なんでもないから!」

 

 不審がるネオンへ彼女が慌てて先程の比ではない勢いで返すが──脳裏に蘇った指揮官室での光景に頬が赤らんでしまう。確か退院して来た翌日だったか。

 

 ──まさか指揮官様が()()だったなんて…。

 

 シャワーを借りに彼女が指揮官室へ赴くと、ちょうど彼もシャワーを浴びて上がってきたばかりの時に鉢合わせしたのだ。

 

 首にタオルだけを掛けた格好で惜しげもなく、堂々と全身を曝け出し──然程、多くの男性を知っている訳ではないがあのピルグリムが持っていた対艦ライフルも裸足で逃げ出すほどの立派なモノが──身体が大きいと大きくなる法則でもあるのだろうか。

 

「ん"ん"っ!!」

 

「ア、アニス!?師匠、ラピ!アニスがさっきから変です!!」

 

「──どうした?」

 

 これはやはりおかしい。ネオンがいよいよ先頭を進んでいるラピと彼を呼ぶ。直ぐに反応したのは青年だ。続けてラピも警戒しながらオオカミを引き連れる彼の後を追い掛ける。

 

「な、なんでもない!なんでもないから!ほら、急ご!?」

 

「…ラピ、ネオン。メンテナンスとチェックを頼めるか?」

 

「分かりました。アニス。服を脱いで」

 

「こ、ここで!?指揮官様もいるのに!?」

 

「…あっちを向いてる。小休止も兼ねるぞ。覗かんから安心しろ」

 

 その場で彼は身体を回転させ、アニスの服を脱がせにかかる彼女達へ背中を向けながら片膝立ちになった。

 

 ──全く興味を持たれないのは少し腹が立つ。

 

 自然な動きで背中を向けるのは、まぁ紳士的なのだろう。だが大した反応も見せず、澄まし顔なのは妙に腹が立って仕方ない。

 

 煙草へ火を点けたのだろう。紫煙の香りと共にオイルライターの蓋を閉じる金属音が聞こえた。

 

 ムスッと頬を膨らませた彼女が自ら服を脱ぎ始め、衣擦れの音を彼の耳へも届けさせるのだが──

 

「…あぁ、よしよし」

 

 ニケを女として見ている筈なのに無関心。それよりも纏わり付いて来るオオカミ達を片手で撫で回していた。

 

 ──まさか女には興味がなくて男の方が好きなんじゃ。

 

 あらぬ誤解が生じそうになるアニスだが、彼の恋愛対象は女性である。

 

「…異常はないわ」

 

「良かったですねアニス」

 

「だから言ったのに」

 

 メンテナンスとチェックを終えたアニスが頬を膨らませながら服を纏い始める。それを認めたラピは紫煙を燻らせていた彼へ歩み寄り、そっと肩を叩いた。

 

「指揮官、終わりました。出発しましょう」

 

「ん?あぁ、分かった。──アニス」

 

「……なに?」

 

 大きい胸もしっかりと寄せて収めたアニスへ彼が肩越しに声を掛けた。彼女の声音が不機嫌に聞こえるのが不思議なのか青年は少し首を傾げながらも続ける。

 

「──不調が起きたら直ぐに言って欲しい。無理や我慢はしないでくれ、良いな?」

 

「…分かった」

 

 それは自分に言うべき言葉だろう。アニスはついつい口に出てしまいそうになった。

 

 小さく頷くだけに止め、再び行軍の先頭へ向かう青年とラピを見送る。

 

 ──あぁ…まただ。

 

 並んで歩いている彼と友人の姿を見ていると()()()()が強くなった。

 

 

 

 

「──ここが座標の付近のようです」

 

「…地形のデータから分かってはいたが…」

 

 ムーアは思わず白い息と共に溜め息を吐き出す。この装備で登山一歩手前の真似をやらかすことになるとは。

 

 雪が全てを覆う凍結した大地を睥睨する形で彼等は山腹伝いを進みながらルドミラ達が収集したデータから導き出された遭遇の可能性が最も高いとされる座標の付近まで辿り着いた。

 

 標高はそこまで高くないとはいえ、健気にも同行するオオカミ達もその場へ腰を下ろし、舌を出しつつ白い息を吐きながら休憩を始める。

 

「この付近で遭遇する確率が高いとの事です。潜伏して──」

 

「師匠!あそこを見て下さい!」

 

 ラピの勧めに従ってイグルーでも構築し、ピルグリムらしき人影を発見するまでオオカミ達の毛皮に包まれて待機する予定を彼が立てた時、不意にネオンが声を上げた。

 

 指差された方向は麓の遥か先──なだらかな雪原が広がっている方向である。

 

「人影が…」

 

「…何処だ?」

 

 確認の為にムーアがポーチのひとつから双眼鏡を取り出した。対物レンズをネオンが指差す先へ向けて探ると──彼等から背を向けた格好で座り込んでいる人影を認める。シルエットは確かに人影だが、全身を白い布で覆っていてはっきりとは分からない。

 

「…運が良いのか…それとも…」

 

「…こういう日もあるのかもな。最近は厄日続きだったから余計に…」

 

「良し!呼んでみよ──」

 

「──待て」

 

 アニスも目を細め、その眼球にある望遠機能を用いて人影を認めたのだろう。

 

 早速とばかりに声を張り上げようとした彼女を彼が制する。

 

 双眼鏡で座り込んでいる人影の周囲を良く観察したムーアの眉間へ次第に深い縦皺が何本も刻まれ始める。

 

「……臭いな」

 

「え!?私!?」

 

「……違う。良く見ろ。足跡がない」

 

「はい。指揮官、射撃の許可を」

 

 ラピが突撃銃の槓桿を僅かに引き、薬室へ初弾が装填されているかを確かめつつ彼へ許可を求めた。その求めに彼は頷きを返す。

 

「い、いきなり撃っちゃうの!?」

 

「罠の可能性があるからな。…ラピ、当てる必要はない。何発か近くに弾着させろ。それで反応を見る。出来るか?」

 

「お任せ下さい」

 

 この二人は気が合うのかもしれない。思考のベクトルが似通っているのだろうか。

 

 この距離、そして山腹と雪原の高低差を考えると狙撃の領域だがラピが“任せろ”と口にするとムーアも信じて頷いた。

 

 姿勢を安定させる為、ラピがその場へ伏せて突撃銃の床尾を右肩へ宛てがう。その横へ観測手の役目も行うのかムーアが片膝を突いて目標との距離を計測して彼女に伝える。

 

 彼女が伝えられる諸元を聞き取り、修整を済ませて引き金へ指を乗せたその時だ。

 

 ──その雪原に座り込んでいる格好の人影が急に爆発した。

 

 ラピは間違いなく引き金をまだ引いてはいない。

 

 近付いていたら吹き飛ばされていたと一旦は安堵する彼だが──続けて聞こえ始めた背後からの轟音に脳内では処理が始まる。その処理の結果、先日と類似の現象が発生したと全身へ向かって警戒が発せられた。

 

「──また雪崩か!」

 

 思わず毒づく最中、オオカミ達が危険を察して駆け出した。

 

「皆、走って!!指揮官、お手を!!」

 

 ラピが全員に退避を促しながらムーアへ手を伸ばす。その手を掴み、先導する形で山腹の緩やかな斜面を駆け下りようとするのだが──

 

「──ラピ!離せ!!」

 

「──今度は絶対に離しません!!」

 

「──離せと言っている!()()だ!!」

 

 一体何が、と彼が背後から怒鳴る声に違和感を感じた時、ムーアに手を振り解かれ、続けて背中を蹴り飛ばされた感覚が駆け巡った。

 

 瞬間、思わず彼の手を離してしまい斜面を転がり落ちてしまう。

 

 途中で止まり、顔を上げると──

 

「──トーカティブ!!」

 

 ──迫りくる雪の大波を背景に見知った異形のラプチャーがその巨躯を悠々と晒し、ムーアと対峙する姿を彼女は捉えた。

 

「──また会えて嬉しいな

 

「──あぁ、俺も待ち焦がれたぞお喋り野郎(トーカティブ)!!さぁ、殺し合いだ!!殺し合いをしよう!!」

 

 異形の気味が悪く歪む口から低い声が響く。それへ応じたムーアが突撃銃を構えた。

 

 体格差は歴然であるというのに全く怯む様子がない。

 

 むしろ嬉々とした声音で、長らく待ちぼうけを食らった相手との再会を歓迎するかのようだった。

 

 雪崩が迫る中、彼は構えた突撃銃の引き金を引き始める。

 

 銃声が響き渡る中、白い波がムーアとトーカティブを飲み込もうとする光景がラピの視界へ入る。思わず彼へ向かって腕を伸ばすが──その指先に白い雪の感触を覚えた途端、彼女の眼前が真っ白に染まった。

 

 

 

 




秒で殺しに行くじゃんこの指揮官…こんな好戦的だったかな(だったわ

ムーア中尉にとってトーカティブはアイドル。それも追っかけしたいぐらい。はっきりわかんだね。
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