勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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第4話

 

 

「──いつまでここで待てば良いの?」

 

「──合流するまで」

 

 接近してきた異形の敵へ銃撃と擲弾(グレネード)を浴びせかけ、沈黙を認めると二人組の片割れが不満を零す。それにもう片方は素っ気なく返しながら弾を撃ち切った弾倉を交換した。

 

()()()()じゃないよね?」

 

()()()()()()よ」

 

 同じことを何度尋ねて来るのだ、と言わんばかりにベレー帽を被ったニケの口調へ棘が生じる。先程から同じことを問われ続ければそのような反応となるのは仕方ないだろう。

 

「さっき見たでしょ!?輸送機が墜落するとこ!」

 

 しかしベレー帽をあみだに被り、亜麻色の髪をボブカットに整えた片割れの不満は理解出来なくもない。

 

 空中で爆発を起こし、黒煙の尾を引きながら墜落する輸送機の姿は集結地点であるこの場所からでも捉えられたのだ。

 

 荒廃したビル群の中へ機影が消えたかと思えば墜落の轟音と共に更なる爆発を起こしたのであろう黒煙が見えたとあっては生存者は皆無と考えても不思議はない。むしろそれが真っ当な考え方だ。

 

 その論をぶち撒けられると相方は深く溜め息を吐き出し、壁の大半が崩れ落ちた建物の一階の窓から撃破したばかりの敵の残骸がある奥へと紅い瞳を向けた。

 

「──まだ死亡報告は入って来てない」

 

 それこそがここを固守する理由だと口にする。

 

 すると亜麻色のボブカットをした片割れが再び不満を呆れ混じりに返す。

 

 死亡報告が来るまでにどれだけ待てば良いのか。待てど暮らせど現在まで全く連絡がないではないか。

 

 ここを放棄すれば作戦そのものが破綻する可能性は理解出来る。しかし既に破綻している可能性の方が高いだろう。

 

 互いに論を交わしていた最中のこと。

 

 不意に駆け寄って来る足音が二人組の耳へ届く。

 

 視線を向けるよりも前に──反射的に突撃銃(AR ミリタリア)擲弾発射器(RL リバティーンテール)の銃口がそちらへ向けられつつ引き金へ軽く指を乗せるのを見るに二人は相当に戦闘へ慣れているのが伺えた。

 

「──味方だ!撃つな!」

 

「──合流します!」

 

「うわ!ビックリした!」

 

 機関銃を携えた青を基調にした服を纏うニケ、そして手にはテトラライン製の突撃銃を握り、背嚢を背負った長身の軍服姿の青年が駆け寄って来るのを認めた二人組は思わず発砲しかけたと慌てて銃口を逸し、引き金から指を離した。

 

「マリアンです!指揮官と共に合流しました!」

 

「…え?本当に?輸送機に乗ってたのよね?あの爆発で生き残ったの?」

 

 建物の中へ滑り込むように──崩れ落ちて通気性が抜群の“勝手口”から入ってきた男女二人組へ亜麻色のボブカットに纏めたニケが疑いの眼差しを向ける。

 

「…ニケはまぁ良いとして…あなた…人間よね?」

 

「あぁ」

 

「…怪しい…本当に指揮官なの?」

 

 鉄火場のような巷へ軍属や軍人以外の者が物見遊山で来ると思うか、と考えながら青年は眉間へ皺を寄せる。

 

 とはいえいつまでもこのようなやり取りをしている暇はない。身分を証明する為に彼はネクタイを緩め、上着の下へ纏ったワイシャツのボタンをいくつか外す。首から吊るされた2枚の認識票を彼女達へ見せると赤みを帯びたライトブラウンの髪色の片割れが進み出た。

 

 ──その進み出た彼女の姿を間近で認めた途端、ズキンと彼の脳裏に痛みが走る。

 

「──失礼します」

 

 言うが早いか紅い瞳が光り始める。ややあって──

 

「──指揮官認識コード、アクセス──分隊04-Fの指揮権、変更完了」

 

 玲瓏な声で紡がれた“指揮権変更”のそれに亜麻色の髪をボブカットに纏めた片割れが慌て始める。あまりにも唐突すぎたのは否めない。

 

「ちょっとラピ!こんな正体の分からない人間とそんな軽率に…!」

 

 確かに、と痛みが引いた青年も頷きそうになったが──割れた窓の向こうで何かが動いたのを視界の端へ捉える。反射的に握っている突撃銃の安全装置を指先で解除していた。

 

「──っ!」

 

 青年の反応を間近で確認した赤みを帯びたライトブラウンの髪──ラピと呼ばれたニケは紅い瞳で彼を仰ぎ見る。驚いた、というのが率直な感想であった。しかしこれ以上、驚いている暇はない。

 

「ラプチャーが来た。現時点を以て貴方は私達の指揮官となります。前指揮官は命令を下せる状況ではない為、別途の指揮権引き継ぎのプロセスはありません」

 

「…省略ではなく、か?」

 

 無い、とはっきり口にした彼女へ青年は問い掛けつつも窓際へ移動し、銃口を外へ向ける。

 

 視線の先──300m先の廃屋が連なる区画にラプチャーらしき物体の敵影が多数蠢いていた。その方向へ銃口を指向しつつ言葉の先を促す。

 

「ご覧の通り一刻を争う状況です。詳細は戦闘が終わってからお話しします」

 

「了解した。──分隊、集まれ」

 

 背嚢をその場へ下ろしながらも銃口の指向は外さない青年は左手の人差し指を立てつつ頭の少し上まで突き上げ、クルクルと回す集合のハンドサインを行う。

 

 それを見た3体の、或いは3人のニケが素早く歩み寄った。

 

「敵はこの方向。11時だ。突撃破砕線(FPL)は…200m先。あの赤く錆びている道路標識と電柱が見えるか?あそこを目安にしろ。全員でこの建物を出て、前方10m先に見える遮蔽物まで移動。そこからは追って指示する。極力、身を晒すな。間隔を空けて前進しろ。──良し、始めるぞ。分隊前進。続け」

 

 背嚢から弾薬が詰まった弾倉を4本引っ掴み、それを軍服のポケットへ捩じ込んだ彼が先頭に立って足早に建物を出て行く。それを追い掛けてマリアンも続くのだが──

 

「──って!?なんでアイツまで!?」

 

 あまりにも当然のように出て行くものだから流しかけたが、これは普通ではない。何故、指揮官である筈の人間が突撃銃を握って前進しているのだ。

 

「──行きましょう!」

 

 これでは二の舞いになりかねない。それを危惧した二人も急いで彼等の後を追った。

 

 二人を指揮していた指揮官は戦死した。戦死した、というよりも手の込んだ自殺、が表現としては正しいだろう。ラプチャーに対人用の小口径火器は効果がないと知識は持っていたであろうに無謀にもそれを射撃して反撃を喰らったのだ。

 

 お陰で二人は指揮官不在のままこのランデブーポイントで待ちぼうけを続けていたのである。

 

 それは別に構わないのだが、二度も指揮官を死なせる訳には行かない。

 

 また同じ光景が広がるようであれば、あの指揮官である青年の襟首を引き摺ってでも後ろへ下がらせてやる。

 

 そう心に決めて彼女達は前進し、先んじて到着していた青年の指示に従って配置へ付く。

 

 果たして大丈夫なのか、と危惧しながら戦闘がはじまったのだが──

 

「──マリアン!弾幕を張り続けろ!擲弾(グレネード)!敵の鼻っ面にぶち込め!!」

 

 どういうことだこれは──

 

「──側面に回り込ませるな!!機関銃(MG)擲弾(グレネード)は正面の敵に集中しろ!!移動するぞ、付いてこい!!」

 

 どういうことだ──

 

「撃ち方止め!撃ち方止め!分隊集合!損害を報告しろ!!」

 

 呆気ない程に襲来したラプチャー数十機が物の見事に残骸と化している光景に亜麻色のボブカット──アニスは呆然に近い感覚のまま眼前に広がる光景を眺めながら敵へ指向していた銃口を下ろした。相方であるラピと自身の練度なら勝てるとは思っていたが、まさかこれほど一方的に鏖殺できるとは考えていなかったらしい。

 

 側面へラピを伴って移動し、共に銃撃を加えていた青年が集合を命じればアニスとマリアンが駆け出した。

 

「──ラピ、あちらはアニスです。急な要請にも関わらず、ありがとうございます」

 

「ラピとアニスか。交戦中は済まなかった。名前が分からなかったもので…変な呼び方をしてしまった」

 

 突撃銃の弾倉を抜き、残弾を確認してから青年は再びそれを挿入口へ叩き込んで安全装置を掛けた。

 

 見る限り大きな損害はないようだ。集合する彼女達からも口頭で報告を受け、損害なしを認めると彼は安堵の溜め息を小さく漏らして胸ポケットを漁る。

 

 無意識に死亡したパイロットの持ち物であった煙草を取り出して一本を銜える。

 

「──ところで何故、急に指揮官を地上へ?…まさか…」

 

 簡単な自己紹介も終え、マリアンが尋ねるとその答えをアニスが簡潔に返した。前指揮官の戦死、その理由を。

 

「守れなかったんですね…お二人は…」

 

「──違うわ」

 

 マリアンの放った一言へアニスが眦を吊り上げて反論した。

 

「私達は指揮官様を守る。何があっても、この命に代えても。でもね──自分から死のうとする人を守るのは無理」

 

 道理だろうな。青年は内心で頷きながら銜えた煙草へ遺品であるオイルライターで火を点ける。

 

 確かに自殺志願者めいた人間を守ろうとしたところで苦労をするだけであろう。死ぬのを遅らせるのが関の山に思えてしまう。──まさか自分に向けて言ったのではなかろうな、と続けて考えてしまった青年はいたたまれなくなった。

 

 眉間へ皺を追加で寄せながら火を点けたばかりの煙草を左手の人差し指と中指で軽く挟み込んだ時、頭ひとつほど低い位置から見上げて来る視線を感じて彼も目を向ける。

 

「──失礼ですがお名前を伺っても宜しいでしょうか?」

 

「…自己紹介が遅れたな。ムーアだ。ショウ・ムーア少尉」

 

「アニス」

 

「うん。検索してみるね」

 

 ラピに促され、アニスが何処からか端末を取り出す。その画面をタップする様子を眺めながら彼は紫煙を吸い込むと──

 

「──ゴホッゴホッ!!」

 

 ──思いっきり噎せてしまう。背を丸めて咳を頻りに何度も繰り返してしまう彼を見兼ね、マリアンが歩み寄ると背中を擦り始めた。

 

「大丈夫ですか指揮官?」

 

「あ、あぁ…ごほっ…大丈夫…」

 

 自然に煙草を銜えたのでてっきり喫煙者かと思いきや、真逆の反応を見せる青年と背中を擦るマリアンの様子を横目にアニスは端末の画面へ表示された結果を見て目を見開く。

 

「どうしたの?」

 

「…この指揮官様…完全な新人みたいよ」

 

「…は?」

 

「昨日、士官学校を卒業したんだって…」

 

 ほら、とアニスがラピの隣へ移動し、手にしている端末の画面を見せる。

 

 何度も画面に映る写真と煙草の紫煙に噎せる青年を見比べる。

 

 顔写真と実際の姿は相違ない。何度見比べても同じだ。士官学校を卒業した年月日も何度見比べても昨日付けである。

 

「…卒業が昨日…?」

 

「あぁ…ゴホッ…そうだな…」

 

 噎せながらも頷くのは彼の律儀な性格故だろうか。

 

 完全な新人であるのは資料が証明しているのだが、先程の指揮を考えると──ラピはどうにもチグハグな印象が拭い切れなかった。

 

 いずれにせよ、ここは危険だ。端末をアニスへ返すと彼女は噎せているにも関わらず尚も紫煙を燻らせ続ける青年へ移動を促したのだった。

 

 

 

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