勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
そしてこの話で通算40話となる節目ですが……少しだけキャラ崩壊注意となります。
「──指揮官様ァァァァ!!」
「──師匠ォォォォ!!」
「──指揮官!どちらにいらっしゃいますか!!返事をして下さい!!」
雪崩に巻き込まれた彼女達は先日と同様に纏まった地点から雪上へ這い上がると声の限り叫んでムーアの消息を捜索する。
──何故、あの時に手を離してしまったのだろう。
起こってしまったことを悔いても仕方ない。しかし山腹で雪崩へ巻き込まれる寸前、振り解かれた彼の手を何としてでも握り返すべきだった。
ラピの心中に後悔が渦を巻いて蝕む中──彼女の紅い瞳が雪上へ斜めに突き刺さる格好で露出している人工物を捉える。
見慣れたそれは間違いなくムーアの突撃銃だ。雪に足を取られて縺れそうになるが慌てて駆け寄り、それを掴むと引き上げる。
「──指揮官…っ…!」
いつも首から右脇下へスリングベルトを通していると知っているからこそ、きっと彼がこの下に埋まっていると考えていたからこそ──呆気なく引き抜いてしまった感触にラピは一瞬だけ呆然としてしまった。
丈夫な筈のスリングベルトが半ばから千切れてしまっていたのだ。
ならばと突撃銃が刺さっていた場所の雪を掘り返すも──彼の姿も形も発見できない。
彼女が最後にムーアを目撃したのは今や遠くに見える山腹だ。
押し寄せる雪崩の大波を背景に、トーカティブへ向けて突撃銃の銃撃を加えていた姿である。
「…っ…指揮官…!」
──何故、手を振り解いたのですか。
心中で彼への文句を口にする彼女は掴んだ突撃銃を胸へ掻き抱く。
まだ硝煙の香りと発砲による熱が微かに残るのは彼が確かに存在していた証にすら思えてくる。
「…違う…!まだ…!」
──
尋常ならざる生命力と体力、精神力で右脚を、右目を失っても戦う意志が潰えなかった人間だ。
──まだ生きている!
自身を叱咤したラピは千切れたスリングベルトを切断面で固く結んで彼の突撃銃を肩へ吊るす。
「──アンタたち!無事だったの!?」
ふとアニスが声を上げる。
彼女達へ駆け寄ってきたのは6頭のオオカミ達だ。無事に雪崩から逃げおおせたらしい。
そのオオカミ達が視線を巡らし──何処にも彼の姿が見えないと気付いたのか、おもむろに空へ向けて鼻先を上げる。
「…な、なにしてるの…?」
「…さ、さぁ…?」
不思議な仕草にアニスとネオンが顔を見合わせる。
オオカミである彼等の嗅覚は人間より、或いは強化されているニケよりも遥かに優れている。
それこそ風向きにもよるが大気中の匂いで数km先の獲物を捉える程だ。
その凄まじい嗅覚を有する
群れの5頭が先に進む中、一際大きな体躯を持った1頭が彼女達へ金眼を向ける。
「四の五の言わず付いて来い」と語っているようだった。
「──行こう!」
「──そっちに指揮官様がいるのね!?」
「──嘘吐いたら承知しませんから!!」
彼女達も駆け出すと巨躯のオオカミも先導するように雪原を疾走する。
「──おう、テメェ。無視すんなよ。いつものお喋りはどうした
トーカティブは凄まじく後悔していた。
あの人間もどき達と引き離せば、いくら“戦闘狂”とはいえ戦意や士気も挫け、こちらの思う通りに事が運ぶだろう──そう思っていた。
「──殺し合いをしたいんだろ?お望み通りに殺し合ってやるから、まずは服を返せよ。こちとら
雪崩に巻き込まれ、気絶していた“戦闘狂”を回収し、今の内に打てるべき手は打とうとトーカティブはまず武装解除と同時に彼の身包みを剥いだ。
情けとして上半身だけに留めたのは失敗だった。
しかし全ての身包みを剥いでも結果は変わらなかっただろうとも理解出来てしまう。
──また会えて嬉しいな
確かにあの山腹で意気揚々と口にした記憶はある。
だが今となってはトーカティブは訂正したい気分にある。
全く嬉しくない。
「──おう、聞こえてんのか?耳糞でも詰まってんのか
「──うるさい!黙れ!!」
──いちいち逆撫でしなければ話も出来ないのだろうか。舌の根に塗ったグリスは余程、質が良いらしい。
大の人間嫌いであるトーカティブだが、妙に人間臭い様子で溜め息を吐き出すと視線を雪上で胡座を掻いているムーアへ向けた。
この極寒の中で上半身は裸である。様々な人種の血が混ざっているが比較的白い肌に近いそれが霜焼けを起こして赤くなりつつある。
浮浪者の方がまだマシな格好をしているだろうに自分こそが上位者とでも言いたいのか全く動じていない。
一喝が効いたのか短く刈り上げた黒髪を持つムーアが押し黙るとトーカティブはやっとこちらから話が出来ると察して口を開いた。
「いくつか質問がある。どうか誠実に答えてくれ」
どうやら大人しくなったらしい。彼が黙っているのを好機と見て、更にトーカティブが尋ねた。
「貴様と一緒に動く人間もどきの性能が高くなったことはあるか?」
質問を放つとトーカティブは返答を待った。
待った。
待った。
しかし一向にムーアが口を開かない。
「おい!聞こえているのか!?」
「──ん?あぁ喋って良かったのか?黙れなんて言われたから喋っちゃならんのかと。答える前に言わせて貰うがテメェは“誠実”って言葉の意味知ってるか?テメェが一番言っちゃならん言葉だぞ?少なくとも罠を仕掛けたり奇襲して雪崩を起こすような奴が──」
口を開いたかと思えば凄まじい勢いで遠回しな皮肉と罵詈雑言を始めそうだった為、トーカティブはムーアの左腕の関節を狙って尾を振った。
鈍い音と共に関節が外れ、あらぬ方向へ曲がった左腕に彼は一度だけ視線を落とすと、右手でプラプラと揺れる左の前腕を掴んで元の位置へ嵌め直してみせる。
「──なんだ?図星だったか?そりゃ悪かったな。謝ろう」
「質問に答えろ!!」
「…誠実、誠実、誠実にねぇ。なら誠実に答えよう。分からん。これが誠実な答えだ」
再びトーカティブが尾を振りかぶる。それを見たムーアはゆるゆると左右に首を振りつつ溜め息を吐いた。
「尋問のはずが拷問か?オツムの具合は大丈夫か?言っておくが分からん以外の答えは出ないぞ。分隊を指揮するのは彼女達が初めてだ。
「…次の質問だ」
癪に触るが、一応は納得するしかない。トーカティブは次の質問へ移った。
「貴様の出身は?」
「アークだ」
「幼い頃、病気になった経験は?」
「…テメェ馬鹿にしてんのか?あるんじゃないか?覚えていないがな」
嘘を吐いている反応ではない。言葉はアレだが、彼なりに
「最後の質問だ」
これが本題であると言わんばかりにトーカティブが告げるとムーアは興味なさそうな様子で膝へ頬杖を突いて先を促した。
「──
ドクンとムーアの心臓が一際大きく跳ね上がり、続けて強烈な頭痛が起こる。
「…ガッ…ハッ…!?」
頭が割れそうな痛みに耐えかね、寒い筈なのに脂汗を額から滲ませて蹲るムーアを認めたトーカティブが哄笑を高々と奏で上げる。
「フハハハッ!間違いないな!!人間!!貴様にはこれから私と一緒に来て貰う!!」
「…ハァ…行くのは構わないが…ハァ…ひとつ条件がある」
ここ最近で一番酷い頭痛だったが、直ぐに回復した彼が上体を起こしつつ脂汗を拭うとトーカティブを見据えた。
既に武装解除され、防寒着である服まで奪われている。身柄は拘束されたも同然だ。
最早、対抗手段は無きに等しいというのに健気な虚勢を張るつもりか。
本来であれば聞き届ける必要もない。しかしこの期に及んでも戦意を失わない者がどのような条件を付けるのかが気になり、トーカティブは戯れの気分で問い掛ける。
「言ってみろ」
「何処まで連れて行くのかは知らんが飯はしっかり食わせろ。それと煙草とライターを寄越せ。テメェの足下に転がってるボディアーマーのポーチだ。ニコチンとタールを吸わせないなら、ずっとテメェをおちょくりまくるぞ?」