勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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第5話

 

 

 

 巨躯の異形と人間の奇妙な旅路が始まって早くも3時間は経過しただろうか。

 

 武装解除させられたムーアは人間としては長身だが、隣を歩くトーカティブと比較すればその体格差は歴然である。

 

 厚く盛り上がった胸板、浮かび上がった八つに割れた腹筋──上体の肌を晒しているのもあって寒風と共に全身へ刺すような痛みは走るが我慢出来ない程ではない。

 

 しかし火の点いた煙草を支える唇が青くなり始めているのは体温の低下が進行中の証でもあった。

 

 その銜えた煙草の吸い口ギリギリまで吸い切れば、彼は一際深く吸い込んだのもあって大きく紫煙を吐き出しつつ吸い殻を雪上へと吐き捨てる。

 

 次の煙草を銜えようとソフトパックを振るが──中身が空になっていた。

 

 舌打ちをかまし、それを握り潰して雪上へ投げ捨てるとムーアは隣を進む異形を見上げた。

 

 

「──おう、トーカティブ(お喋り野郎)。煙草」

 

 ()()するかの如く不遜な様子でムーアは追加の煙草を求めた。

 

 するとトーカティブはその場へ立ち止まり、尾に引っ掛けて引き摺って来た背嚢をムーアへ向けて投げ飛ばす。それを受け止めた彼が背嚢を開いて中身を漁り始めた。

 

「──またか…何度も言うが…

 

「年寄りじゃないんだ。一度言われたら覚える」

 

 背嚢の中には突撃銃を失ったことで使い道のない弾薬や手榴弾、そしてトーカティブ自身が彼から奪い取った拳銃も納められている。それに手を付けるな、という警告が一度あったのだ。

 

 なら捨てて行けば良かろうに、などとムーアは考えるが結局はこれらの武器が自身へ通用する筈がない為の傲慢から来る無関心なのだろうと思い至る。

 

 いずれにせよ戦闘糧食や煙草のカートンを捨てて行かなくて彼としては大助かりなのは間違いない。これで生き長らえられる。

 

理解出来ないな。むしろ愚かだ。自らのコンディションを悪化させる物質を摂取するという行為は

 

「あぁ、そうだろうな。テメェには理解出来んだろう。それが()()だ」

 

 煙草に含まれる物質が人間に悪影響を及ぼすのは知識として知っているらしい。嫌煙家のような物言いをする妙に人間臭い異形を彼は鼻で嗤いつつ取り出したふたつのソフトパックの片方をパンツのポケットへ捩じ込んだ。

 

 手の平へ握るそれの封を切り、平らな上面を指先で軽く叩いて数本を飛び出させると内の一本を銜えて引き抜く。

 

 銜えた際に乾燥した唇が切れた感触を覚えたが、構うこともなくムーアはオイルライターの火を点けた。

 

「──暇だ。おい、トーカティブ(お喋り野郎)。質問するから答えろ」

 

うるさい人間だな。いい加減に口を閉ざさんと解剖学の知識を試す被検体に──

 

「あ?解剖学?ならやってみろよ。基礎知識がどれぐらいあるか見てやるからよ。まずは何処からやる?筋肉か?それとも骨か?」

 

 脅しが全く効かない。このような相手が初めてであるトーカティブは諦め混じりの盛大な溜め息を吐き出した。人間嫌いだというのに仕草は人間臭いにも程がある。

 

……質問を許す。言ってみろ

 

「おお、十八番のお喋りに応じてくれるのか。暇で仕方なかったんだ。なら遠慮なく──あぁ、歩きながらで構わんぞ」

 

 再び閉ざした背嚢を乱雑に投げ渡したムーアが煙草を摘み、紫煙を燻らせながら歩き出す。

 

 煙草さえ与えておけば少しは口数も減るかと思いきや誤算であった。

 

「──趣味を尋ねるほど親しくはないからな。率直な質問にしよう」

 

私の気が変わらない内に早く聞け

 

 これではどちらがtalkative(お喋り野郎)なのか分かったモノではない。人間臭い溜め息を吐きながら背嚢を尾へ引っ掛けたトーカティブは催促した。

 

「──テメェらが占拠した、或いは奪取した研究基地…そっちがなんと呼称しているかは知らんが、データを捏造しやがったか?罠を仕掛けて待ち伏せていた、ということは俺達の行動が想定できていた筈だ」

 

あぁ。貴様の推測通りだ。思ったよりも簡単で拍子抜けだったが

 

「そうか。俺もテメェがあっさり喋ったことに拍子抜けしてるところだ」

 

 互いに淡白極まる──皮肉も混ぜての応酬を繰り返してからは暫く押し黙った。

 

 やがてムーアが銜えた煙草が吸い口へ至る寸前まで燃え尽きる。それを吐き捨てる前に新しい煙草の火種としてから指先で弾いて雪上へ投じた。

 

「…二点目。これは質問というよりも確認だ。アークと内通しているな?」

 

 アンダーソンも言及し、疑っていたトーカティブとアーク内の何者かの内通。

 

 地上へ送り込まれるニケ達の脳内へ侵食コードを埋め込む、という行為を可能にする人物はいまだに不明のままだ。

 

 どうせ素直に答える訳がないと考えながらムーアは尋ねたのだが──

 

あぁ

 

 あっさりと認められ、今度は彼が逆に拍子抜けしてしまう。答えるにしてももう少し勿体ぶるかと思いきや誤算も良いところだ。

 

「……ほぅ?やはり内通者がいるか。…アーク内で相当の地位と権限を有し、傍受されない秘匿回線を使用できる上に防護壁の操作や制御も可能…」

 

 アンダーソンは──まず可能性は低い。秘匿回線や防護壁ぐらいはなんとかなるだろうが、彼は良くも悪くも根っからの軍人だ。地上奪還へ血道を上げている。任務を妨害する輩には成り下がらない。

 

 イングリッドやマスタング、シュエンの各CEO達──これも内通者の可能性からは外れる。3名とも自社が製造したニケ達に侵食コードは埋め込めるだろうが、それが地上で発生すれば不具合等が報告され、業務改善や製造方法の見直し等に追われる。ついでに株価も下がって会社には不利益しか生じない。

 

 ならば富裕層やアンダーソン以外の副司令官、或いは中央政府の要人達──判断材料に乏しい。しかし彼等は現在の地位や財産の維持に躍起だ。わざわざ冒険心を募らせはしまい。軍部の副司令官の地位にある者は良く分からないが、こちらもアンダーソンとプロセスのベクトルは異なるだろうが地上奪還という大義名分を旗印にしているだろう。

 

「……ふむ……思考のベクトルを変えるか」

 

 悪意を以ての──アーク、ひいては人類の存続や延命を脅かすという前提で行動している場合を考えていたが、ムーアはここで思考を変えた。

 

 すなわち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からの内通、と思考を切り替えたのだ。

 

 すると──合致する存在が彼の脳裏に現れ、熟考する為にその場へ立ち止まった。

 

「──いや、まさかな。……だが……」

 

質問は終わりか?なら早く歩け

 

「──うるさい、トーカティブ(お喋り野郎)。そのギザっ歯を粉々にされたくなけりゃ黙ってろ」

 

 隣から耳障りにも程がある唸るような重低音を黙らせたムーアは銜え煙草のまま無精髭が生えた顎を片手で擦る。

 

 ──嗚呼、なんてこった…。

 

 考えれば考える程に──合致してしまう。該当してしまうではないか。

 

 となれば、とんだ茶番。出来レースだ。八百長とも言って良い。

 

「──ハッ…ハハッ……ハハハハッ!!!

 

 とうとう寒さで狂ったか。突然、大口を開けて笑い声を上げ、半ばまでも吸っていない煙草が雪へ落ちてしまうも無関心なまま笑い続けるムーアにトーカティブは怪訝な様子となる。

 

なにがおかしい?

 

「ハハハ…いや、久しぶりに笑えた。質問に答えてくれて感謝する。答え合わせはいずれ自分でしよう。それと謝っておく。テメェと目的地に向かうことが出来なくなりそうだ」

 

なに──ッ!?

 

 一瞬の沈黙がムーアとトーカティブに訪れるが、それを切り裂く閃光が異形の腹部を突然貫いた。

 

 肉体が灼かれる異臭と共に巨大な穴が穿たれたトーカティブが仰向けに倒れ込む。爬虫類の骨格のような尾の付け根も閃光に灼かれたのか先端へ引っ掛けていた背嚢ごとムーアの近くに落下すると、彼は素早くそれを掴んでトーカティブから距離を取る。

 

「──また会えて嬉しいよお喋りさん」

 

「──巡礼者ァァァァ!!!

 

 瞬く間に腹部へ穿たれた風穴を修復しつつ咆哮するトーカティブへ2射目となる閃光が撃ち込まれた。しかしそれを紙一重で躱した巨躯が飛び退く。

 

「──無事か?」

 

 いつの間にかムーアの傍らに立った人影──白いマントかポンチョを肩から被り、彼と比べれば小柄な身体の両側面へ大振りの武装をいくつも携行したニケが問い掛ける。

 

「あぁ…なんとか生きてる。まずは感謝を──う…ッ!!」

 

 背嚢を開き、中から拳銃と手榴弾を取り出したムーアは歯で45口径のそれのスライドを引きつつニケを見上げた途端──凄まじい頭痛が襲った。

 

「…何処か負傷したか?」

 

「…いや…なんでもない」

 

 ──こんな大人びた声だったろうか。

 

 脳裏の片隅にその思考が走った瞬間、再び頭痛が駆け巡る。眉間へ皺を寄せながら頭を左右へ何度も振りつつムーアは立ち上がると拳銃の銃口をトーカティブへ向けた。

 

「そんな物が通用する訳がないだろう。これを使え」

 

 文字通りの豆鉄砲を構えて何をしようと言うのか。呆れたように白雪の如き銀髪を持ったニケが携えた一挺の角ばった印象を受ける突撃銃を彼へ投げ渡した。

 

「以前に見たがお前は使えるな?」

 

「…随分と古い銃だな」

 

 左手で受け取った突撃銃を軽く見渡したムーアが呟いた。ところどころの部品は経年劣化に伴ってニケが自ら改修したのだろうが、全体的な外観はネオンが捲る銃火器のカタログや雑誌に載っていたラプチャーによる1次侵攻の頃に製造された突撃銃で間違いない。

 

「しっかり整備はしているから撃つのに問題はない。無駄撃ちはするなよ」

 

 安全装置を掛けた拳銃を腰のベルトへ挟んだ彼へニケが予備弾倉も一本投げ渡した。それを受け取ったムーアがポケットへ納める。

 

 確かに古いが思っていたよりも()()()()()突撃銃である。彼は慣れた手付きで槓桿を僅かに引き、薬室内の初弾装填を認めると銃口をトーカティブへ向けた。

 

「…今更だが…なんと呼べば良い?情報で名前は知ってるが…」

 

「スノーホワイトで良い。今更だが()()()()()()?」

 

「あぁ。是非とも()()()()()()()()

 

「良し。()()()()()()()()。…初めて会った筈なのに…何故か懐かしい気分だ」

 

 長大な白い狙撃銃を構えつつニケ──スノーホワイトが小さく呟いた。射撃に必要な充填が終わり、いよいよ戦闘再開である。

 

忌々しい巡礼者共が…()()()()()()め…!!!

 

「失せろ異端。地上はお前達には渡さない」

 

 本格的な戦闘に備え、スノーホワイトの額にあった黒いプロテクターが彼女の顔面を覆う。

 

 彼も銃口を向けたまま突撃銃の床尾(ストック)を伸ばし、ちょうど良い位置へ調整を済ませる。照星と照門はないが、まぁなんとかなるだろう。

 

 示し合わせたかのように並び立つ黒と白銀の髪を持つ二人の呼吸が重なり合う。

 

「「──エンカウンター」」

 

 ──交戦開始の宣言が唱和の如く雪原へ響き渡った。

 

 

 

 




という訳でスノーホワイト初登場です。スノーホワイトはかわいい。めっちゃ髪を撫で回したい(キリッ

……なお内通者については…私もゲーム本編でここまで進んだ時点で思い浮かぶ人物がおりまして……まさか当たってしまうとは…
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