勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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誤解とすれ違いと解決、時々銃弾

 

 

「──ただいま戻っ…た……」

 

 極寒の地へ赴くまで書類仕事に励んでいた指揮官室へムーアが久しぶりに足を踏み入れる。

 

 トラックから降ろされた基地要員の全員へ贈る飲み物は全て量産型ニケ達に宿舎へ運び込むよう頼んで来たのもあって彼は右手へ掴んだバッグひとつという非常に身軽な格好だ。

 

 おそらく指揮を執る分隊の3名は指揮官室に集まっているだろうという予感は見事に当たり、足を踏み入れた際の第一声は誤りとならなかった。

 

 だが──色違いの3名分の視線が一気に突き刺さると形容し難い圧力を感じてしまい、思わず彼は回れ右をしたくなる。

 

「──指揮官。退院と昇任、おめでとうございます」

 

「…あ、あぁ。話は聞いていたのか。…あまり嬉しい話ではないが…仕方ない」

 

「…仕方ないって…なによそれ…」

 

「…師匠…」

 

 まずはラピが彼へ相対して定型文のような祝いの言葉を事務的に紡ぐ。それへ彼は「昇任」について一切触れず、最後に「仕方ない」という諦念を滲ませる声を返した途端、アニスはムーアを睨み、ネオンは沈痛の面持ちで目を伏せた。

 

 ──何かやらかしただろうか。

 

 思いもよらない反応に彼は困惑してしまう。

 

「あぁ、いや……色々と迷惑を掛けてしまったのは間違いないな…済まなかった」

 

「──()()?なによ迷惑って!」

 

「アニス…?」

 

 突然、激昂しながら腰を上げたアニスが足早に彼へ歩み寄ったかと思えば軍服の胸倉を掴む。これにはムーアも困惑の極みに達してしまう。

 

「──仕方ないだの迷惑を掛けただの…それしか指揮官様は言えないの!?」

 

「いや、うん…悪かった…?」

 

「──そうじゃない!…ッ…!……もういい……」

 

「お、おい」

 

 掴んでいた胸倉を離したアニスが顔を伏せ、彼を押し退けて指揮官室を出ていく。

 

 その後ろ姿を見送るしかないムーアは何がマズかったのかと考えを巡らせるが──やはり思い当たる点は帰還後に5日間とはいえ入院してしまったというそれしか心当たりはなかった。

 

「…大丈夫ですか師匠?」

 

「あ、あぁ…問題ない」

 

「…なら良かったです。私も…失礼しますね」

 

 火力の信奉者である弟子は師と仰ぐ彼を気遣うも、濃い茶色の瞳の視線を受けた途端に目を伏せて、アニスの後を追って指揮官室を去ってしまう。

 

 それも彼は大人しく見送るしかない。

 

「…ラピ、二人はいったい…」

 

「…私の口からは申せません。二人共、まだ混乱しています。機会を見て…指揮官からきちんとお話なさって下さい」

 

「…話?」

 

「はい。…では…私も失礼致します。前回の任務の最終報告書は完成していますので…ご確認をお願い致します」

 

「分かった。ありがとう」

 

 彼が頷くと彼女は踵を合わせる音を響かせて挙手敬礼。それへムーアは答礼を返し、ラピも指揮官室を後にする。

 

 3名とも妙によそよそしかった。ラピは普段と変わらない様子だった──しかし僅かに表情が強張っていたな、とムーアは思い出しながら、真新しい大尉の階級章が付いた軍服を右手のみで器用に脱ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

 その夜の宿舎の食堂はいつにも増して賑やかな雰囲気だ。

 

 たとえ3食とも戦闘糧食という味気のない代物であっても、不思議とアルコールやジュースの類があれば豪華に見えるモノだ。それでも貧弱なレパートリーには違いないが。

 

「指揮官からだって。気前良いね〜」

 

「私はこのオレンジフレーバーのビールにしよっと」

 

 量産型ニケ達が冷蔵庫を開け、中に詰め込まれた飲料を取り出しては品定めし、好みのそれを握って席へ向かう。

 

 わざわざムーアはニケ用のアルコール飲料を購入してきたらしい。人間用のそれでは酔えないニケ達も──あくまでも()()()飲めば気分が良くなる。そこは人間と変わらない。

 

「──っ〜!!…ゲフッ…!…あ"ぁ"…ヂクショウ…ふざけんじゃないわよ…指揮官指揮官指揮官って…!」

 

 その食堂の席のひとつへ腰を下ろしたアニスが顔を真っ赤にしながら缶ビールを煽っている。既に500mlのそれを8本は空けたらしく、握り潰された空き缶が机上へ散乱していた。

 

「…アニス。飲み過ぎ」

 

「うっさいわね…飲まなきゃやってらんないのよ…!」

 

 その対面へ腰掛けているのはラピだ。戦闘糧食を平らげたばかりの彼女があまりの醜態にアニスへ注意するものの本人は空になった缶ビールを握り潰して投げ捨ててしまう。

 

 手を伸ばして未開封の缶ビールを手繰り寄せ、プルタブを開ければ炭酸が抜ける音が響いた。

 

 喉を鳴らして勢い良く飲む姿は非常に威勢が良いのだが──

 

「…あまり良い飲み方ではないと思うわ」

 

「…知ってる。自棄酒よ。これってアレよね…指揮官様のことだから異動前に今までの御礼ってやつ…」

 

 諫めるラピを亜麻色の据わった瞳が捉え、やがて缶ビールを握った手が勢い良く机上へ叩き付けられたかと思えばアニスがそのまま突っ伏してしまう。

 

「…その内、指揮官から正式に異動の件でお話があると思う」

 

「…うっ…うう…!」

 

 怒っていたかと思えば今度は泣き始めたらしい。アニスが肩を震わせ、飲み掛けの缶ビールをベコッと握り潰す様子を見たラピは思わず嘆息を漏らした。

 

「…袖が濡れてるわ」

 

「…し、指揮官様はさ…さ、最初から…へ、変だったよね…」

 

 今度は独り言か。酔っ払いの扱いには慣れていないラピだが、ここは大人しく聞こうと語り掛ける本能に従って無言のまま先を促す。

 

「わ、私達…ニケだよ…へ、兵器だよ。なのにさ…女として見てて…人間と同じく扱ってくれて…一緒に戦って…な、何度も怪我して…」

 

「…そうね」

 

 それには彼女も同意だ。人間の身で、と思ったことがないと言えば嘘になる。しかし共に戦う度にニケと互角──或いはそれ以上の戦果を見せる後ろ姿に呆然としたことがないとも決して言えない。

 

 彼は確かにアニスが言う通り()だった。

 

 ──だが人間という生き物が持つ()()()()の在り方に魅せられてしまった自分もいる。

 

「…しかも…すごく…や、優しいじゃん…?いっつも私達のこと…気に掛けてくれてさ…なのに自分のことはズボラで…髭剃るの忘れたり…」

 

 それは忙しかったからなのでは、とラピは思うも──概ねは同意できた。

 

「──アニスはどうしたんですか?」

 

「…見ての通りよ、ネオン」

 

 ふとネオンが彼女達が腰掛ける席へやって来たかと思えば、机上へ一本の酒瓶(ボトル)を置く。【WOLF KILLER】とラベルに印字された蒸留酒だ。琥珀色の液体が並々と充填されたそれはどうやら人間用らしい。

 

「…冷蔵庫に入ってました。きっと師匠のですね。…混ざっちゃったんでしょう」

 

「…私が届けてくるわ。食事も終わったから」

 

 ラピが搬入の際に誤って宿舎へ来てしまったのだろう酒瓶を掴もうとした直後、それを奪い取る腕があった。

 

 その腕の持ち主はアニスだ。奪い取ったかと思いきや、机上へ突っ伏していた赤ら顔を上げ、据わった目で立ち上がる。そのままドスドスと足音も高らかに冷蔵庫へ向かい、扉を開けた先にある一本のニケ用の蒸留酒を引き摺り出す。

 

 封を切り、勢い良くラッパ飲みしながら喉を鳴らす。

 

「──あ"〜〜」

 

 とてもではないが人には聞かせられない声を漏らし、濡れた口元を袖で拭うと彼女はフラフラとしながら食堂を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「……アークも終わりだな」

 

 物騒極まりない言葉を漏らすのは指揮官室の窓を開け放ち、晩酌をするムーアだ。着替えはとっくに済ませて半袖の黒いシャツにオリーブドラブのパンツを履きながら渋面を浮かべて缶ビールを煽っている。

 

 入院中は煙草こそ屋上の展望台で吸えたが、飲酒は不可能だった。積もり重なったストレスの解消に少しばかり高い酒をいくつか購入して帰って来た訳なのだが、どうにも舌に馴染まない味ばかりに辟易としていた。

 

 特にこの【ホップの苦味を完全再現!】とポスターやテレビのCMで謳っていたビールは最悪の一言だ。ただ苦いだけで、眉間に皺が寄る味である。

 

 とはいえ開けてしまった物をそのまま捨てるのは流儀に反する。我慢して飲み干し、空き缶を握り潰してゴミ箱へホールインワン。口直しに煙草を銜え、オイルライターの火を点けた。

 

 体質なのか何らかの異常でもあるのか、彼は酒に酔えない。アルコールを直ぐにでも分解してしまうのだろうか。

 

 酒の味は好むところなので飲む機会は多いのだが──

 

「…酔えないのは…少し辛いか」

 

 気晴らしも出来やしない。ソファへ腰掛ける彼は一本しかない右手の指先に挟んだ煙草の紫煙を燻らせ、やがて天井へ緩く吐き出した。

 

 いっそのことニケ用の酒でも飲んでみよう。酔えるかもしれない──と考えていた矢先、指揮官室が面している廊下が騒がしくなって来る。

 

 重々しい足音を立てる1名、その周りに2名の異なった足音をムーアの耳朶は捉えた。

 

 やがて指揮官室の扉が開くと──

 

「──ック…指揮官様ぁ…」

 

「申し訳ありません指揮官。…止めたのですが…」

 

「ほ、ほらアニス!師匠に迷惑ですから…!」

 

「うっさい!指揮官様がぁ…私達にぃ…迷惑かけたって言うなら…私達が迷惑掛けたって…いいでしょっ…!」

 

 ──完全に出来上がっていると一目瞭然のアニスが両手に酒瓶をぶら下げて入って来る。止めようとしていたのだろうラピとネオンを振り払った彼女は左右へフラフラと身体を揺らしながらムーアが腰掛けるソファまで歩み寄ると、机上へ琥珀色の蒸留酒が充填された酒瓶を音を鳴らして置いた。

 

「あぁ…無いと思ったら宿舎の方に混ざってたのか。わざわざ──」

 

 自身の為に購入した酒だと気付き、持ってきてくれた彼女へ礼を告げようと吸いかけの煙草を灰皿へ置いた彼の言葉を遮って、アニスは封を切ったばかりであるニケ用の蒸留酒の酒瓶をムーアへ突き出す。

 

「注いで」

 

「…え?」

 

「注いで」

 

 完全に据わった亜麻色の瞳を向けながらアニスが頻りに酒を注げと言ってくる。ここまで酒癖が悪かったのだろうか。

 

「ほら、アニス。帰ろう?」

 

「やだ!ここで飲む!指揮官様に聞きたいことが山程あるんだから!」

 

「……なら…面談でも始めようか。ラピ、ネオンも冷蔵庫から好きな物を取ってくれ。俺とアニスのグラスも取ってくれないか。氷は冷凍室の中にあるから」

 

 今度は駄々を捏ね始めたアニスにラピが嘆息する様子を眺めながら彼は了承したのか首肯してみせる。

 

 ムーアが腰掛けるソファの左側にスペースを発見したアニスがドカリと腰掛けると、ラピとネオンも諦めの溜め息を吐きながら冷蔵庫へ向かった。

 

 彼が求めた通りにグラスへ氷が入れられ、机上へ置かれるとムーアはまずアニスのグラスへニケ用の蒸留酒を注いで手渡す。

 

 続けて自身のWOLF KILLER(蒸留酒)の封を切る。片手だけでもなんとか開けられるものだ。琥珀色の50度程の酒をグラスへ注いで一口嚥下する。

 

「…あぁ、さっきのビールよりは美味いな」

 

 これを今後も飲もうと決める程度には口へ合ったらしい。

 

 数本のミネラルウォーターと酒類、そしてアニスが持ち込んだ炭酸水しか冷蔵庫には入っていなかった為、ラピとネオンは炭酸水のボトルを持って彼と彼女が腰掛ける対面のソファへ並んで座った。

 

 二人が炭酸水の封を切り、炭酸が抜ける音を響かせる最中、並んで腰掛けるムーアとアニスは──特にアニスは先程まで騒いでいたのが嘘のように大人しくグラスへ浮かんだ氷を揺らしつつ蒸留酒を味わっていた。

 

 一足早くグラスを空にしたムーアが続けてもう一杯と酒瓶を掴んで蒸留酒を注ぎ始めた時、アニスがやっと口を開く。

 

「…昼間はごめん…」

 

「気にしてないから謝る必要はないぞ。だが…何故、急に怒ったんだ?」

 

「…特殊…別働隊…」

 

「…あぁ…」

 

 それか、とムーアは納得する。確かに唐突すぎる命令であったのは否めない。蒸留酒を注いだグラスを掴み、脚を組むと半分ほどを一気に嚥下し、鼻から酒精の香りを抜いてグラスを机上へ置いた。

 

 灰皿へ預けていた吸いかけの煙草を摘んで唇の端へ銜えると横目で左側へ腰掛けたアニスを伺う。

 

 グラスを握る彼女は俯いており、亜麻色の前髪が目元を隠していて表情は伺えなかった。

 

「…アンダーソン閣下がどのような意図で任命を下達したのかは分からん。妙なことも仰っていたが……」

 

「…そんなこと…どうだっていい…」

 

「…え?」

 

 割りと重要な事だと思うのだが、切って捨てるアニスへムーアは意外過ぎる反応を見たからか煙草を銜えつつ器用に口を半開きにしてしまう。

 

 ゆっくりとアニスが顔を上げる。酔っているのもあって顔は赤くなっているが亜麻色の瞳が潤み、目尻へ水滴が溜まり始めている。

 

「──なんで断らなかったの…?」

 

「…いや、正式な通達であったし…断るにしても妥当な理由がないと──」

 

 真っ当な返しだった筈だ。だというのにムーアが向ける視線の先では──アニスがとうとうボロボロと涙を流してしまう。

 

「ア、アニス…?」

 

「…一緒に戦って来たじゃん…何度も危ない目にも遭って来たじゃん…なんでそう割り切れるの…?やっぱり指揮官様も…他の人間と同じで…私達のこと…兵器だと思ってるの…?」

 

「…は?」

 

 ──何故、そんな話になるのだ。

 

 彼が困惑している中、アニスが蒸留酒を一気に流し込むとグラスを机上へ投げ捨てるかの如く置いてソファの上に膝立ちとなる。

 

 スンスンと鼻を鳴らしながら彼女は彼を抱き寄せると頭頂部へ顎を乗せ、滂沱の涙を流しつつしゃっくりを上げ出した。

 

「…やだぁ…!指揮官様と一緒の分隊がいい…!他の指揮官なんて…!」

 

「……ん?」

 

 ──ここに至ってやっとムーアもなにやら妙だと気が付いた。銜えている煙草の火種がアニスの腕に当たらないよう指先へ挟んで取り除く。

 

 顔面の左側がやたら柔らかい物に埋まっている格好のまま彼は対面のソファに腰掛け、成り行きを黙って見守っていたラピとネオンへ視線を向ける。

 

「…特殊別働隊のことなんだが…なにか勘違いしてないか?」

 

「…と申されますと?」

 

「…今日付けの通達で師匠が特殊別働隊の指揮官に任命されたとメールが届きましたが…」

 

「それは間違いない」

 

 ムーアは頷いて肯定する。頭上で尚もスンスンと鼻を鳴らされ、離さないとばかりに頭を強く抱擁されている中、彼はラピとネオンへ問い掛けた。

 

「…まるで俺が異動するような物言いをアニスがしてるんだが……いつそんな話が?」

 

「……は?」

 

「……え?」

 

「…まさか分隊の指揮官から解任する、なんて命令でも出たのか?俺は知らないが…アニス、ちょっと離してくれ」

 

「やだぁ…!」

 

「…ラピ、代わりに確認してくれ」

 

 下手に振り解こうとしたら頚椎が損傷するかもしれない。そのような予感が脳裏をよぎったムーアは自らデスクトップのメールボックスを確認するのを諦め、ラピへその役目を頼んだ。折れた肋骨がまだ完全にはくっついていないのである。その上、頚椎損傷となれば目も当てられない。

 

 頷いた彼女が腰を上げ、指揮官室の隅へ設けられたデスクトップへ移動すると機器を起ち上げた。パスワードを入力し、承認されるとラピはメールボックスを開く。

 

 新着はない──その下へ移動して昼間に届いたメールを確認する。

 

 

【ショウ・ムーア大尉。特殊別働隊指揮官への着任を命ずる】

 

 

 当然ながらその内容は昼間と変わりなかった。

 

 通達をラピが読み上げると──ムーアはアニスに抱き着かれ、顔面の左側が豊かな胸に埋もれるという一部男性にとって夢のような状況の中、彼は大きな溜め息を吐き出す。

 

「……あぁ、なるほどな。もしかして俺が異動すると?」

 

 問い掛けた時、換気の為に開けていた窓の向こうで白銀が揺れたように見えるもムーアは意識の先を彼女達へ直した。

 

「…勘違いするのも無理はないが…もし俺を異動させるなら、まずは分隊指揮官の職を解任してからだ。というか何故、人事異動の枠でメールが送られて来たんだ…?」

 

「…となると…」

 

 ネオンの視線がラピへ向けられる。デスクトップの前へ置かれた椅子へ腰掛ける彼女が──とんでもない勘違いをしてしまったと察し、急いで立ち上がるとムーアへ謝罪を述べる。

 

「…申し訳ありません指揮官…私としたことが……」

 

「いや、そう気にするな。昇任と同時に異動は珍しい話ではない筈だ。勘違いしても無理はない」

 

 頭を下げるラピへ彼は穏やかに返しつつ右腕を伸ばして灰皿に煙草を押し潰した。

 

 珍しいことだが彼女も冷静ではいられなかったのだろう──そう結論付けたムーアはグラスを掴んで半分ほど残っている蒸留酒を一口嚥下する。

 

「…って…ことは…指揮官様…どこにも…行かない…?」

 

「あぁ。…というより()()()()が正しいだろうな。今回の命令は俺とキミ達が特殊別働隊に任命された、って話だぞ。それにキミ達以外と分隊を組んでも思うように動かせてくれなさそうだ」

 

 特に負傷の危険性から、とは続けなかったがそう考える時点で自身が負傷が多すぎる点は彼も自覚はあるらしい。

 

 しかし彼の返答を聞いた直後、安堵したのかアニスが再び号泣を始めてしまう。──頭上で泣かれるのは別に構わないが、今度からは程々に飲むよう命令しようと心に決めたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「──やだぁ…指揮官様と一緒にいるのぉ…目離したら…あっさり死んじゃう…」

 

「…どうしよう否定できない…」

 

 その後も散々と飲んでは思いの丈をぶち撒けられ──要約すれば「迷惑掛けても良いから、あまり心配させるな」という有り難い言葉を間近から吐かれ続けた彼はラピとネオンに左右から担がれて退室するアニスを見送る。

 

 扉が閉まると机上の隅へ置いたソフトパックを掴み、振り出した一本を銜えてオイルライターの火を点けて紫煙を燻らせた。

 

「──居るんだろう?入ってきて良いぞ」

 

 紫煙を鼻孔から漏らしながらムーアは唐突に窓の外へ向かって告げる。

 

 その言葉が響いて間もなく──換気の為に開いていた窓から白銀の髪を揺らして、あくまでもムーア視点で小柄な背丈を持ったニケが現れる。

 

「──久しぶりだな。借りた物を返しに来たが…その必要はなかったらしいな」

 

「──お陰様でな。自前の脚よりも具合が良い程だ」

 

 床へ置かれた外骨格が金属音を奏でる中、ムーアは頷きながら紫煙が彼女──スノーホワイトへ掛からないよう顔を逸らして吐き出す。

 

「…身体は大丈夫か?」

 

「大丈夫だ。左腕は…まぁ、このザマだが義肢を付ける予定だ。まだ肋骨は完全には治っていないが…なんとかなるだろう。問題ない」

 

 半袖の黒いシャツの左袖。そこから僅かに覗く肌色の先端には黒い金属の接合部品が付けられていた。僅かだけしか残らなかった左腕を軽く揺らして見せた後、肩を竦めたムーアへ彼女は溜め息を吐き出した。

 

「…お前はそれしか言わないな。──あのヘレティックと何か関係があったのか?」

 

 軽口を返そうとした瞬間、続けてスノーホワイトが尋ねると彼の表情が強張る。ジリジリと煙草を燃やしつつ紫煙を吸い込み、やがて肺を満たしてからゆっくりと燻らせながら頷きを返してみせる。

 

「…最初に指揮した部下であり、仲間だったニケだ。ほんの数ヶ月前の話になるが…」

 

「…そうか。──受け取れ」

 

 関係性が納得出来たらしくスノーホワイトも頷くと、おもむろに懐を漁って取り出した鈍色に光る何かを彼へ向かって指先で弾いて投げ渡した。

 

 胸元へ飛んできたそれを右手で受け取り、握った手の平を開いて何を渡して来たのか確認する。

 

 1発の拳銃弾だ。 

 

「──お前も45口径を使っていたな。調べてみろ。必ず役に立つはずだ」

 

 薬莢の底部の刻印を確認するまでもない。手に馴染むドングリのような形状の弾薬は彼も使用する45口径の自動拳銃にも装填が可能な拳銃弾である。

 

 何故、ラプチャーへ対しては豆鉄砲にしかならない拳銃弾をスノーホワイトが持っているのかと不思議に思うムーアだが、直ぐに感謝を伝えた。

 

「…礼を言う。……俺がキミに何か手伝えることがあれば良いんだが……」

 

「…今は無いが…その時になったら連絡する」

 

「分かった。…ちょっと待て」

 

 窓枠へ脚を掛けようとする彼女を呼び止めたムーアが指揮官室の片隅に置かれている机へ向かった。抽斗を開け、中から戦闘糧食が詰まっている包装をいくつか取り出してスノーホワイトへ歩み寄り、それを手渡す。

 

「差し当たって力になれるのはこれしかないが…」

 

「…いや、充分すぎる。ありがたく貰う。……命を助けてくれたことは絶対に忘れない」

 

「…いや、それはこっちの台詞だ。部下達を救ってくれた。感謝してもしきれない」

 

「…帰る」

 

「気を付けてな」

 

 脇へ戦闘糧食を抱えたスノーホワイトが窓枠に脚を掛けて飛び降りる。

 

 その様子を見送ったムーアは紫煙を燻らせつつ手元へ残された1発の拳銃弾を手の平で転がした。

 

 役に立つ、とはなんの意味なのか──

 

「──待てよ。その前にどうやってここまで来たんだ」

 

 ──平然と受け入れてしまっていたが、今更の疑問が浮かんだ。

 

 

 




アニスがクソデカ感情を抱きすぎ?大丈夫です。チャプターが進むにつれて、かなりのクソデカ感情をゲーム本編の指揮官様へ抱いていると判明しますので(それこそ過保護

というかスノーホワイトはどうやって前哨基地まで……やはりエレベーター…?警備や管理はなにをしていたのか…外部からの侵入を許すなんて…。
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