勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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アプリの運営というか脚本は人の心がないんか!?(褒め言葉


第5話

 

 

 

 

姓名   ショウ・ムーア

出生   アーク

生年月日 2☓☓☓.9.14

期別   BCC40期

認識番号 O1258031

 

 

 

 

 何度も見ても端末が映し出す情報の羅列は変わらない。

 

 昨日付けで更新されたばかりのライブラリの情報源は中央政府直轄の組織が発している人事発令だ。その精度は言わずもがなである。

 

「──本当に昨日、任官されたのですか?」

 

 思わず問い掛けてしまう程度にはラピも困惑している様子だ。移動途中の小休止を取っている最中だからこそ尋ねた、とも言えるのだが。

 

 問われた青年──ムーアはこの小休止を突撃銃の整備と喫煙時間へ当てるらしい。先程よりも吸えるようになった煙草の葉を燃やし、ニコチンとタール、その他が混合された有毒ガスを肺へ送り込んでは紫煙を燻らせている。その喫煙と共にテトラライン製の突撃銃を分解し、汚れたピストンをウエスで拭い、軽く油を差す。

 

「あぁ。何か問題でも?」

 

 咽ることはなくなったようで大きく吸い込んでは煙草の葉を灰へ変えながら彼は頷くと今度は逆に問い掛ける。

 

「…作戦中に死亡した指揮官の代わりに来たという新人の指揮官──何を考えているのやら」

 

「……全くだ」

 

 所詮はBCC──Basic Commander's Course(指揮官基礎課程)を修了したばかりの人間だ。実戦の分隊運用や作戦参加の経験が皆無の人間に指揮を執られる、命を預けるのは不安しかないだろう。

 

 しかもこのBCCの課程は指揮官候補生の大量養成を念頭へ置いているのもあり、課程設立の当初から比べると実に修了までに習得すべき知識や技術、聴講すべき座学の所要日数は1/2程度に短縮されている。それだけならマシだ。いわゆる詰め込み教育でなんとかなる。個人の程度を度外視すれば。問題は精神教育へ重きを置きすぎ、僅か1年間という限られた短期集中の課程の大半が費やされているという点である。

 

 これで指揮官を大量生産し、地上奪還の聖戦へ赴かせる。アークの未来はどうなるか、とその末路を思い浮かべると僅かな苦笑が彼の表情に現れる。当事者であるはずなのだが、課程と士官学校を卒業したばかりの青年は何処か他人事のように考えていた。

 

 このような状況下だが、やらなけれらばならない任務に変更はない。ラピは軽く頭を左右へ振ると改めて指揮官となった彼へ視線を向ける。

 

「──とにかく…ムーア少尉。貴方は今から分隊の指揮官となります。現在、遂行中の任務について引き継ぎが必要ですが大丈夫でしょうか?」

 

「構わない。続けてくれ」

 

 野戦分解ではこの程度か。突撃銃の整備を終え、彼は部品の結合へ移りながらラピに頷いて先を促した。

 

 彼女の説明によれば、46時間前にこの区域一帯を捜索中の分隊からの通信が途絶。通信履歴が残っていない事から04-F(彼女達)の投入が決定され、捜索開始となった訳だが、その最中に前任の指揮官が戦死という事故が発生。

 

「…問題は…その指揮官だけが作戦区域の座標を知ってたってこと」

 

「…は?」

 

 アニスが引き継いで事情を話せば、ムーアの目が点になる。分隊員へ知らせずに任務を開始したのか。自身の戦死等の非常時について考えていなかったのか。などと彼の内心で彼女達の前任指揮官へ苛立ちさえ芽生えるのだが今更なにを言ったところで解決しない。苛立ちは紫煙を吐き出して忘れてしまうに限る。

 

「指揮官様。座標について何も聞いてない?」

 

「…聞いていない」

 

「だよねぇ…だと思った。うん、分かってた」

 

 溜め息を吐き出し、肩を竦めてアニスが諦めを滲ませる。最初から答えは分かっていたので感慨もないらしいのだが──

 

「──私が知っています」

 

「うんうん。そうだよね〜……うん?」

 

 唐突にマリアンが声を上げるとアニスは目を点にして彼女を見詰めてしまった。

 

「…え?マジ?」

 

「作戦前に情報が入力されましたので」

 

 指揮官である筈なのに全く知らされていなかったムーアもどんな反応をすれば良いのか分からない。というよりも何故知らされなかったのだろうか、と疑問を生じてしまう。

 

「私が先頭に立ちますから、付いてきて下さい」

 

 先導するとマリアンの言葉に彼を始めとした彼女達も頷く。ちょうどムーアも分解した突撃銃の結合を終え、槓桿を引いては引き金を引き、作動に問題はないかの最終点検を始めた。

 

「ですがその前に…貴女、ラピでしたっけ?」

 

 唐突にマリアンがラピへ顔を向ける。何か伝える事でもあるのだろうかと彼女が続きを待っているとマリアンの眦が吊り上がり、ラピを睨み付けた。

 

「…自分の指揮官も守れなかった癖に…新米だのなんだの難癖付けないで──」

 

「マリアン!!」

 

 彼女が口にしようとする何かを察した彼が声を張り上げる。途端にマリアンだけでなく、ラピやアニスまでもが僅かに身体を跳ねさせた。

 

「…それ以上は言うな。それ以上は彼女達への侮辱だ。それは許さん」

 

「で、ですが指揮官…!」

 

「許さん、と俺は言ったぞ?」

 

 眉間へ皺を寄せながら青年は弾倉を挿入口へ叩き込み、槓桿を引く鋭い金属音を奏でつつマリアンに視線を向けた。濃い茶色の瞳が細められ、睨まれる形となった彼女は一瞬たじろいてしまう。

 

「ですが…!指揮官も私達と同じく命を賭けて戦っています!しかも銃を握って!なのにさっきから彼女は…!!」

 

「…俺は構わん。むしろ正当な評価だと思ってる。実戦経験が皆無に近い指揮官へ疑いを持つのは当然だからな」

 

 吸い終わった煙草を地面へ投げ捨て、腰を上げると靴底で踏み潰す。吸い殻を拾い上げてスラックスのポケットへ仕舞い込みながら彼は肩を竦めてみせた。

 

「…そうね。私の失言だった。謝る」

 

「…謝るのなら私にではなく、指揮官へお願いします」

 

「申し訳ありませんでした、ムーア少尉」

 

「気にするな。さっきも言ったが気にしていない」

 

「…ははっ。今回の指揮官様はちょっと変わってるね〜」

 

 アニスの軽口へ青年は肩を竦めて反応すると地面へ下ろしていた背嚢を背負った。どうやら分隊のムードメーカーは彼女らしい。この手の人材は貴重な存在だ。

 

 全員の準備が整うと彼はマリアンへ先導を命じ、続けて分隊に前進を下達する。

 

 周辺を警戒し、間隔を空けて移動を始めて間もなくに彼は姿勢を低くしながら先頭を進むマリアンへ寄ると声を掛けた。

 

「…さっきは怒鳴って悪かった。庇ってくれた事は嬉しい。ありがとう。それだけは伝えたかった。先導を頼む」

 

 必要次項を簡潔に述べ終わると彼女の背中を軽く手の平で叩き、ムーアは元の位置へ戻った。

 

 彼の気遣いとフォローは不器用ながらも律儀である。

 

 謝罪と感謝を簡潔に済ませるのはどうかと思うが──それだけでも彼女の心に再び温かさが広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その温かさをもっと感じていたいのに──先程から邪魔をするように体調が優れないのはどうした事だろうか。

 

 

 

 

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