勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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短いですが…

【御報告】
仕事中に左肘を痛めまして(脱臼)、もしかしたら明日や明後日の更新は出来ないかもしれません。ご了承頂けましたら幸いです。


コーヒーと砂糖と相談、時々バイク

 

 

 半ば連行される形となったムーアが二人組のニケに連れられてきたのは、かつてカウンターズ(分隊)の宿舎も置かれていた区画だ。

 

「…バイク…格好いいですね」

 

「ありがとう。ここよ」

 

 連なる宿舎のひとつへ彼女達が歩み寄るとムーアは舎前へ駐車されている1台のバイクに目を向ける。

 

 おそらくは彼女達の持ち物だろうと考えながらそのフォルムを誉めると銀髪の片割れが応じた。扉が開いて中へ入って行く二人の後に続く寸前、ステンシル調の印字が綴られた表札の存在を認める。

 

CAFE SWEETIE

 

 これが彼女達の分隊名なのだろうか。などと考えつつムーアは表札を一瞥し、先に宿舎の中へ入った彼女達の後を追った。

 

「──入って」

 

 レザージャケットを纏う銀髪のニケが顎をしゃくる。示された部屋へ足を踏み入れると──ソファにアイマスクを着けて寝転がり、寝息を立てる人影があった。

 

「プリム、また寝てんのか。指揮官の兄貴、座りなよ」

 

 サラサラと手触りが良さそうな黒髪をボブカットに整えたニケが呆れ混じりの溜め息を吐くと、ソファを勧める。

 

 頷いて空いている席へ腰を下ろし、足元へ軍服等が収まった袋を置いて間もなくのこと。

 

 一応は客ということもあってかレザージャケットを纏ったニケがマグカップを携えて運んでくると彼の眼前へそれを差し出した。

 

「──コーヒーよ。飲んで」

 

「あぁ、これはご丁寧に…」

 

 勧められるまま黒褐色の湯気立つコーヒーが注がれたマグカップを摘んで静かに一口啜り──

 

「────」

 

 ──ムーアは悪い意味で言葉を失った。一気に眉間の縦皺が三本ほど増えてしまう。無言のまま舌へ僅かに乗った液体を嚥下すると、マグカップを机上へ置いて煙草をスーツのジャケットから取り出した。

 

「…ここ…煙草は?」

 

「禁煙よ」

 

「…そうですか」

 

「それより美味しい?」

 

「……()()()()()ですね」

 

 渋味は感じられなかったというのに渋面を浮かべながら喫煙の可否を問うが、返ってきた答えにムーアは渋々とソフトパックを仕舞う。

 

 味へ関しての感想は個性的と返したが、本音を言えば《暴力的な味》である。

 

 甘味の暴力であった。なんなら歯どころか歯茎まで溶けてしまいそうなほどの暴力。是非とも次はノンシュガーで頼みたいと彼は切実に考えた。

 

 銀髪を揺らしながらレザージャケットを纏うニケが右隣へ──しかもそこまで隙間を空けずに腰を下ろし、ジッと無言で見詰めて来る。今日は居心地が悪い気分となる機会が多すぎると思いながらムーアは、世辞にも好みとは言い難いコーヒーへ逃げるしかなかった。とはいえ逃げた先でも思わず思考停止しそうな程の甘味の暴力で打ちのめされるのだが。

 

「ちょうどいい糖分の摂取にはなりそうです」

 

「そう。…いつもそんな喋り方なの?」

 

 ポジティブに考えようとした途端、銀髪を揺らしつつ傍らのニケが不思議そうな表情で首を傾げる。先程から敬語を崩さない姿に疑問を抱いたのだろう。

 

「いえ、違いますが…」

 

「なら普段通りに喋って」

 

 随分とグイグイ来るな、と率直な感想が内心で漏れてしまう。このニケは彼をカウンターズ(分隊)の指揮官であると知っていたようだが、ムーアは彼女や彼女達に見覚えがなかった。

 

「…どちらで私のことを?」

 

 普段通りの話し方や口調で構わないなら彼も必要以上に気を遣うことがなくて楽だが、それよりも気になる点を尋ねる。すると傍らへ腰掛けた彼女が携帯端末を取り出し、何度かタップしたかと思いきや画面をムーアへ見せて来た。

 

 その画面に映し出されていたのは北部へ向かう途中のエレベーターでアニスに腕を組まれながら撮影された写真。そのまま細い指先が画面をスライドさせ、続けて映し出したサングラスのみを外した格好の彼の写真をムーアへ見せる。

 

「──アニスがテトラのグループチャットに貼り付けてたわ」

 

「…アニスとお知り合いでしたか」

 

 となると彼女、或いは彼女達もテトララインで製造されたニケの可能性が高い。ムーアは推測しながらマグカップを摘み、渋々と甘味が強すぎて味覚が麻痺しそうなコーヒーを啜った。

 

「…それで俺に何か用事でも?」

 

「その喋り方の方が素敵よ」

 

 マグカップを置き、望み通りの口調に変えてみせると何故か称賛が飛んで来てしまい彼は反応に困ったまま一度は仕舞ったソフトパックを取り出し、振り出した一本を銜えた。火は点けないが気分だけでもニコチンとタールを味わいたいのである。

 

「…改めて自己紹介を。ショウ・ムーア大尉だ。知っての通り、カウンターズ分隊指揮官と前哨基地司令官を拝命している」

 

「宜しく。私達はカフェ・スウィーティー。私はシュガー、あの子がミルク。寝てるのはリーダーのプリムよ」

 

「ミルクだ。宜しくな」

 

 てっきり銀髪のニケ──もといシュガーがリーダーだと思っていただけにムーアは意外性を感じたが、それは表情には出さなかった。

 

「…それで…話を元に戻すが…俺に何か用事でも?」

 

「えぇ。用事というより相談したいの」

 

「…相談?」

 

 唇の端へ銜えた煙草を上下に緩く振りつつ彼はシュガーへ続きを促す。そのムーアの姿を見て、余程、煙草が吸いたいのだろうかとシュガーやミルクは考えてしまう。実際、彼はヘビースモーカーになりつつある。いや、既になっているのだろう。

 

「前哨基地は土地が余っていると聞いたけど本当?」

 

「…余ってはいるが…それが何か?」

 

「カフェを開きたいの」

 

「…喫茶店(カフェ)?」

 

 シュガーが口にした単語を確認を兼ねてムーアが復唱すると頷き返される。前哨基地に喫茶店──なんともミスマッチと第一印象では感じてしまった。

 

 しかし良く考えれば副司令官であるアンダーソンからは前哨基地への異動に際してニケ達への全般的なケアを望むという希望が出されている。フィジカルやメンタル両面でのケアと彼は解釈しており、仮に喫茶店の設置が福利厚生へ繋がるのであればムーアも拒否はしない。

 

 とはいえ問題がある。

 

「…基地司令官の権限で許可しても構わんが…建設費用をどうするか。それとウチのニケ(彼女)達の口にこのコーヒーが合うのか。この二点が問題になってくる」

 

 ついでに言えば建設と一言で済ませてしまうムーアだが、地質調査やら測量やらも絡んで来るのだ。許可を出しても一朝一夕でどうこう出来る問題ではない。

 

 しかしシュガーの返答は予想外であった。

 

「問題ないわ。建設の費用は私達(カフェ・スウィーティー)が持つし、必要ならマイティツールズに連絡する。もう設計図も書いているわ」

 

「…用意周到だな。恐れ入った」

 

「そりゃそうさ。シュガーの奴、ブラックタイフーン(バイク)を走らせたいから前哨基地に喫茶店を開きたいって言ってたぐらいなんだ」

 

「…バイクを?」

 

「アークは狭いのよ。思うように走れないわ」

 

 当然のようにミルクの発言を肯定したシュガーはどうやらスピード狂の気があるらしい。それを感じ取ったムーアは騒音問題に発展しないか今更ながら不安を抱いてしまう。

 

「…コーヒーの味についても問題ないわ。私、ミルク、そしてプリムが別々のコーヒーを売り出すから」

 

「バリエーションがあるなら…まぁ飽きることはないか。…細部は後で詰めるとして…話の続きは現地を見てからだな」

 

 シュガーが小さく頷いて腰を上げると彼へ向かって顎をしゃくる。そのジェスチャーをせずとも口にすれば良いだろうに、と思いつつもムーアも席を立った。

 

「ミルク。留守番をお願い」

 

「あぁ、気を付けてな」

 

「…まさか今から前哨基地に行くのか?」

 

「なにか問題でも?」

 

「いや、無いが…」

 

 来客に備えて諸々の準備──などする殊勝な場所ではない。彼は渋々と頷き、吸わなかった煙草をスラックスのポケットへ投げ込んでから机上へ置いていたマグカップを掴むと(ぬる)くなったコーヒーを一気に嚥下する。途端、渋い顔となった彼は足元へ置いていた袋を携えてシュガーの後に続いた。

 

 宿舎の外に出ると彼女は愛車へ跨り、エンジンを掛ける。内燃機関が唸りを上げ、排気筒からは猛々しいエキゾーストノートが奏でられる中、シュガーが彼へフルフェイスのヘルメットを投げ渡す。

 

「被って。乗って」

 

「……えぇ……」

 

 ──スーツ(この格好)で?

 

 ムーアが視線で問い掛けるも彼女は、何か問題でも?と言わんばかりに早くタンデム(二人乗り)するよう促すだけだ。

 

 もう何度目かになる渋々と言った具合で彼はヘルメットを被り、果たして何千ccあるのか分からないバイクへ──シュガーが腰を下ろすシートの後方へ跨った。

 

「掴まって」

 

 これまた渋々と彼は促されるままシュガーの細い腰へ腕を回す。携えた軍服や靴が入った袋を生じた互いの僅かな隙間へ入れた途端、彼女がアクセルを回してエンジンを吹かす。

 

 そしてクラッチレバーを握り、チェンジペダルを押し下げてギアが1速に──

 

「──速っ!?」

 

「──掴まってて」

 

 1速はもっとゆっくりなのでは──その疑問を置き去りにしてシュガーと彼を乗せたバイクは一陣の風の如く駆け出した。

 

 




シュガーも推しなのです
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