勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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聖夜ですね

クリスマスイベントの特別動画をYou Tubeで視聴しましたが、エヌが可愛かったですね



報告と銃弾と頭痛、時々再開

 

 

 長い休暇──戦力回復期間とも呼べる1ヶ月が間もなく終わろうとしている。

 

 前哨基地司令部庁舎の司令官室と指揮官室を兼ねたムーアの部屋へ集まった分隊(カウンターズ)の3名がソファへ腰掛け、この1ヶ月間で調べた──それもアウターリムまで足を運んで調査した結果を報告し合うも芳しいとは世辞にも言えないようだ。

 

「──先程、エクシアから解析結果が届きました。どうぞ師匠」

 

 ネオンがデータセンター勤務の知人へ依頼した一発の銃弾の解析結果を自身の端末上へ表示して対面に座るムーアへ差し出す。礼を返しながら端末を受け取った彼は解析結果を流し読むのだが──

 

「…弾頭の被覆(ジャケット)は銅合金…一般的だな」

 

「はい。ですが硬鉛で出来た外殻の内側にある弾芯(コア)は…」

 

「…タングステンの他にUNKNOWN(未知の物質)が混ぜられている、と」

 

「というよりもデータベースに登録されていない、が正しいだろうとエクシアは言っていました」

 

 妙な話もあった物だ。端末上に表示された拳銃弾をスキャンした結果の項目のいくつかはそれほど特筆すべき物ではない。無論、データベースに登録されていない未知の物質が弾芯に混ぜられているという結果も無視できないのだが──

 

「…徹甲弾(アーマーピアシング)か?拳銃弾の弾芯にタングステンを用いるなんて普通はしないんだが」

 

 ──拳銃弾を構成する素材からどのような用途を想定していたのかは推測が出来た。とはいえ、わざわざ加工に手間が掛かる金属まで使ってこのような物を造ったのかは分からなかったが。

 

「それとエクシアによれば、その物質に関するデータベースが消去された痕跡があるようです」

 

「…消去された?」

 

 ネオンが知人からの言伝を告げると彼は怪訝な様子で眉間へ皺を寄せる。なんとも不思議な話だ。

 

 借りていた端末をネオンへ返しつつムーアはソフトパックを取り出す。振り出した一本を銜えた途端、ネオンがライターを握って差し出すと()()の火力で設定された赤い火を点火させた。

 

 礼を返しながら彼はそれで煙草の先端を炙るのだが──彼の視界の両端ではラピとアニスが出遅れた様子でそれぞれライターを握っている光景が映った。そんなに火を点けたいのだろうかと疑問符が頭上へ浮かびそうだ。

 

「履歴管理が徹底している中央政府ぐらいの規模ではないと突き止めるのは難しいと…」

 

「…ふむ…」

 

「…師匠。ピルグリムから貰った銃弾ですが…普通の銃弾ではないと思います」

 

「どうして?」

 

「──銃弾の中に眠る炸薬の妖精がそう言っています」

 

「…炸薬の妖精って寝言を言うんだな」

 

「いやいや、そうじゃないから」

 

 紫煙を燻らせながら、かなりズレた茶々を入れたムーアへすかさずアニスが左右に頭を振りつつツッコんだ。どうにも調子が狂う──いや、これが彼の通常営業かと今更ながら思い出した彼女は小さく咳払いを漏らした。

 

「じゃあ今度は私の報告ね。ヘレティックに関しては完全な空振り。記録自体が少なすぎる。都市伝説みたいなものはいくつかあったけど、本当にただの都市伝説。事実かどうかも確認されてないわ」

 

 アニスの報告にも耳を傾けるが、ムーアが公文書館で確認できた真偽不明の情報と大差ないようだ。眉間の皺がまた一本増え、燻らせる紫煙の量が少し増えたように見える。

 

「当然、脳が破壊されて死んだマリアンがどうやって生き残ってヘレティックになったのか知る術がないのよ」

 

「……あの時、間違いなく俺は彼女の頭を撃ち抜いた」

 

「えぇ。それは私とラピも見てたから…。中央政府のライブラリを確認出来たら良いんだけど…指揮官様、なにかツテはない?」

 

「…ツテがあるなら真っ先に利用しているからな。それは諦めてくれ」

 

 知ってる、と言わんばかりにアニスが肩を竦めてみせる。そもそもとして中央政府の要人等にツテがあるならムーアは前哨基地へ異動はされていないだろう。まぁそこまで狗に成り下がっていない、とも言えるのだが。

 

「…結局、やることはひとつに絞られます。先に申し上げておきますが中央政府への出入りは厳重に規制されています。いくら特殊別働隊であっても立ち入りは不可能です」

 

「…高性能爆薬をたんまり詰め込んだバスでも庁舎に突っ込ませ──冗談だからそんな目で見ないでくれ」

 

 ラピを除き、アニスとネオンが少し引いた目でムーアを見詰めると彼は双眸を細めながら軽口だと告げる。しかし彼女達は──割りと本気で考えているな、と思う程度には彼の声音から本気の度合いを感じ取ってしまった。

 

 彼は短くなった煙草を灰皿へ押し潰しながら考え込む。スノーホワイトから譲られた1発の拳銃弾。未知の物質で構成されているというそれの詳細を調べるにせよ、ヘレティックに関する情報を調査するにせよ、いずれも結局は中央政府という難関が立ち塞がった状態だ。

 

 ムーアは本音を言えば──中央政府の管轄下にあるニケ管理部へ所属する軍人ではあるがアークの統制を行う中央政府という組織を盲信してはいない。むしろ動脈硬化を起こしている存在とすら考えている。

 

 しかし現状、これらの難題を解決する手段は──と考えたところでラピが口を開いた。

 

「──アンダーソン副司令官に協力を要請しては如何でしょうか?」

 

 その提案に彼の眉間へ深く縦皺が刻まれた。続けて寄せられた眉間の狭さから()()を感じているとラピは直ぐに分かってしまう。

 

「あの人間だけは全く信じられないわ!目的がなんなのか分からないし、いつも扱き使ってばかりで御褒美もくれないしね!」

 

「…この1ヶ月の休暇が閣下からすればアニスの言う()()()なのだろうとは思うが……まぁ概ねは賛同する。俺も閣下を全面的には信頼と信用もしていない」

 

「…指揮官…」

 

「…内通者の件もある。目星を付けた存在はいるが…まだ閣下の可能性を俺は捨て切れない。まぁそれだけが理由ではないが…」

 

 ヘビースモーカーとなってしまった彼は新しい煙草を銜え、オイルライターの火を点けながら溜め息混じりに目を伏せるラピへアニスとは異なる遠回しな拒絶を返した。

 

 間違いなくアンダーソンは()()を知っている。しかしそれをあの手この手で知られるのを逃れようとしている様子が伺えるのもあってムーアの心中には疑惑が生じていた。

 

 特に──彼を前哨基地という地表近くの最前線手前へ異動させた意図を聞かされた約1ヶ月前の発言が気になってしまう。

 

 中央政府に自身の存在を知られたくなかった、とはどういう意味なのか。

 

「──この件は外部の助けを得ずに動いた方が良さそうだ。幸いにも特殊別働隊は独自の裁量で作戦行動を行える権限がある」

 

「…最初は私達のみで調査を、ということですか?」

 

「それに共有すると余計に事が大きくなりそう」

 

「…あまり外部との連絡を取り合うとラピの記憶消去が効かなかった件も発覚する恐れがある。それは避けたい」

 

「ですね。──あっ」

 

 ふとネオンが何かを思い出したような声を上げた途端、彼を含めた全員の視線が彼女へ集中する。

 

「そういえばエクシアが言っていました。地上には中央政府と同じような規模の施設があるって」

 

 その報告にムーアの目が細められたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 ──全員が付いて来ることはないだろう。

 

 軍服を纏ったムーアは背後に続く3名の部下達の存在を感じながらデータセンターの廊下を進んでいた。

 

 入出許可証を首からぶら下げながら進む廊下のガラス張りとなった左右の壁へ視線を向けると多くのスーパーコンピュータが並び、今尚も起動していることを報せる小さなライトの点滅を繰り返している。

 

 このデータセンターはアーク内の情報収集を専門とする部隊──プロトコールの勤務場所だ。そして拳銃弾の解析を依頼した人物の勤務先でもある。

 

 廊下を進んだ先にある扉の前に立ち、入出許可証を翳して電子ロックを解除。音を立てて横にスライドした扉の奥へ入ると──視界一杯に光の洪水が溢れていた。

 

 室内の至るところに画面が、或いは投影された3Dホログラムが浮かび上がり、生身の目にはあまり優しい環境とは言えない中、椅子へ腰掛けつつゲーム機を忙しなくタップする人影をムーアは認めた。

 

「──彼女か?」

 

「はい。彼女がエクシアです」

 

 ネオンへ確認を取ると間違いないと頷きが彼へ返る。その視線の先で人影が腰掛ける椅子が回転し、彼等へ対面する形でやっと姿が露わになったのは──

 

「…はじめまして、でいきなり恐縮なんだが…寝た方が良いんじゃないか?」

 

 ──おそらくはニケなのだろう少女が折角の整った顔立ちをボサボサの黒髪と紫水晶のような瞳の下へこしらえた黒い隈で台無しにしている姿を見ては思わずムーアも睡眠を勧めてしまう。

 

 とはいえ、サイズが合っていないシャツをさながらワンピースのように纏い、その上からだらしなく白を基調にした制服の上着を羽織った格好のまま尚もゲーム機のボタンをタップし続けている彼女の耳へ彼の勧めは届いたのかは分からなかった。

 

「──ハァーイ。…あなたが()()()()()ですか…それにお仲間さんまで…どういったご用件ですかー?」

 

「…初心者?」

 

 気怠げな──それこそ起床後の覚醒しきっていない頭脳と唇から紡がれる以上の声音のまま彼女、エクシアがムーアを妙な呼称で呼ぶと彼は首を傾げた。まぁそこまで大きな理由はないのだろうと考え、彼は早速用件を切り出す。

 

「預けた銃弾の返却と、地上にあると聞いた施設の件で伺ったんだが…」

 

「…あー、あの…銃弾は…そこにありますから…」

 

 気怠い様子のままエクシアは顎で少し離れた場所にあるスキャン装置の台へ置かれた一発の拳銃弾を示した。歩み寄ったムーアは拳銃弾を摘み上げ、薬莢底部へ刻印されたアルファベットや数字が記憶の通りの配置だと認めてから軍服の胸ポケットへ仕舞い込む。

 

 その直後、逆側の胸ポケットへ仕舞っていた携帯端末がバイブレーションを起こして何らかの着信があったと報せて来た。引き抜いたそれを確かめると──分隊のグループチャットへの着信であった。

 

 

 

 

【エクシアが入室しました】

 

エクシア《中央政府の施設と似たような規模のスキャン施設が地上に存在》

 

エクシア《古い情報だから確かではないけれど可能性は高》

 

 

 

 

「──もう普通に喋っちゃダメなの?」

 

 同じくテトララインの出身のアニスでさえも、この変貌には付いて行けないのか携帯端末を片手に握りながら、視線の先でゲーム機から持ち替えた携帯端末を忙しなくタップするエクシアへ目を細めつつ呆れた眼差しを向けてしまう。

 

 また再びメッセージが飛んできた。

 

 

エクシア《口を動かすよりこっちが楽》

 

エクシア《口で話すよりも考えを頭の中でもう一回整理することもできる》

 

エクシア《だからあなた達もメッセンジャーで喋ったら?》

 

ムーア《まぁ理解できなくもない。分かった》

 

 

 

 

 相変わらず変な奴、とアニスが思わず漏らすが──彼女の亜麻色の視線は携帯端末でメッセージを送るムーアへ向けられていた。てっきり喋った方が早い、という性分かと思いきや意外な一面もあったものだ。

 

 溜め息を吐きながらアニスも改めて携帯端末へ視線を落とす。

 

 

 

 

エクシア《古い施設だけど元々は軍需品を製造する施設》

 

エクシア《だから内部の設備もレベル高い方》

 

エクシア《当然スキャン装置もあり》

 

アニス《古すぎるんじゃない?》

 

アニス《稼働するかどうかは置いといてスキャンは可能なの?》

 

エクシア《可能だと思う》

 

エクシア《火力さんが持ってきた銃弾を製造した年と月が》

 

エクシア《軍需品製造施設よりも昔》

 

エクシア《内部の物質に関するデータベースが残っているはず》

 

エクシア《多分》

 

ムーア《座標は?》

 

エクシア《私が知っている。案内できる》

 

ネオン《一緒に行ってくれるんですか?》

 

エクシア《いや》

 

エクシア《私とノベルは仕事があって行けない》

 

エクシア《サポート程度なら可能》

 

 

 「…()()()()…」

 

 誰を指す呼称なのかは不思議と分かってしまった。思わずムーアはネオンへ横目を向けるとメッセンジャーへ更に文章を打ち込んだ。

 

 データセンター勤務のエクシアへ念の為、ヘレティックについて尋ねるも──彼女も巷の都市伝説程度の知識しか持ち合わせていないようだ。

 

 

 

エクシア《ラプチャーが怖くて降伏したニケという噂もあるし》

 

エクシア《ラプチャーに捕まって改造されたという噂》

 

エクシア《ニュータイプ、もしくは強化人間だって噂もある》

 

 

 

 

「──ッ!?…ア…ガ…ッ…!!」

 

 突然、ムーアが握った携帯端末を床に落としてしまう程の頭蓋の内に駆け巡る凄まじい痛みが生じる。脳を締め付け、心臓の鼓動がけたたましい早鐘を打ち始めて息が苦しくなった。

 

 携帯端末が床に落下した音が室内へ反響し、全員の視線が集まる中、耐え切れなくなった彼が膝から崩れ落ちてしまう。ラピが足早に歩み寄り、頭を押さえる彼の異変の原因を確かめようと機能を起動させるが──

 

「指揮官…如何なさいましたか…!?」

 

「…大…丈夫…落ち着いた…」

 

 ──息を整えた彼が腰を上げ、床へ落ちた携帯端末を拾い上げる。

 

 まだ完全には息を整え切れていないが、ムーアは拾い上げたばかりの携帯端末をタップし、エクシアへ死亡したニケが生き返ったケースの有無を問い掛けた。

 

 しかし──当然ながらメッセージで返ってきたのは予想通りのそれだ。

 

 

 

エクシア《今ノベルも色々調べているけどあまり期待しない方が良いと思う》

 

エクシア《初心者さんが望むなら中央政府のデータベースを探ってみる》

 

ムーア《気持ちだけは有り難く受け取っておく。無理はしないでくれ》

 

エクシア《オーケー。状況次第》

 

 

 

 メッセージでのやり取りを終え、各々が携帯端末を仕舞い込む。ムーアは額へ浮かんだ脂汗を手の甲で拭い、やっと治まった痛みから解放された安堵もあって溜め息を吐き出した。

 

「指揮官、大丈夫ですか?」

 

「…心配させて済まん。問題ない」

 

 背中へ手を添えながらムーアを見上げるラピへ彼は頷きを返す。

 

「本当に大丈夫ですか師匠?まだ体調が……」

 

「体調の方は問題ない。この1ヶ月間、ラピにも指導して貰ってリハビリとトレーニングを積んだからな」

 

「なら…久しぶりに地上へ上がりましょうか。目的地は軍需品製造施設で?」

 

「あぁ。最後のリハビリは実戦に限る」

 

 地上は1ヶ月ぶりだ。

 

 現状、ヘレティックに関しては何も情報を得られる手段がない。しかし軍需品製造施設へ赴けば、スノーホワイトから譲られた拳銃弾の正体──未知の物質の正体が判明する可能性はある。

 

 ならば選ぶ道はひとつだろう。

 

「…地上へ上がるぞ。カウンターズ、営業再開だ」




次からはやっとメインストーリー本編となります

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