勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
それもあって短い内容で申し訳ありません。
図らずもY字の形となって分岐していた道は最終的に同じ道へ繋がっていたようだ。
数機のラプチャーと交戦になったがムーアとネオンが無事に合流を果たし、再び分隊はラピを先頭にして前進を始める。
──とはいえアニスとネオンの雰囲気はいまだに宜しくはないのだが。
ギスギスとした空気が幾分かは緩和しているのは幸いだが、雪解けには時間がもう少し必要らしい。
左右へ高く積み上げられたスクラップで迷路のような作りにもなっている道を歩き、マーキングされた地点まで向かう最中、不意に先頭を進むラピが左手の握り拳を肩ほどまで挙げて後続へ合図を送る。
止まれ、というそれだ。
「──どうした?」
すかさず背後を進んでいたムーアが駆け寄り、彼女が発見しただろう異常を問えばラピは地面へ視線を向ける。
「地面がおかしいです。掘り返された痕跡があります」
ラピの向ける視線を追い、彼も顔を向ける。──開けた道は地面が不自然に凸凹となっている箇所が目立った。
なんだ、と考えるよりも早く、不思議と確信を抱いたムーアがスリングベルトを襷掛けにして突撃銃を背負うとその場へ伏せた。ボディアーマーの脇へ吊るしたファイティングナイフを抜きつつ、慎重な匍匐前進で不自然に土が盛り上がっている一点へ接近するとナイフの刃を斜めに突き刺した。
サク、サクと何度かナイフの刃を土へ突き刺して行くと何かが埋まっている硬い感触がハンドルを通して感じ取る。
溜め息を吐き出しながら、刃の腹をスコップ代わりに土を掘り返す。やがて姿を見せたのは金属の踏み板、そして信管の部分が露わとなる。
「──地雷か。まだ生きてるのかどうかは分からんが…」
「…って…これ全部…?」
「いいや。障害──地雷の埋設の基本は
目に付く限りでも土が不自然に盛り上がっている箇所は数十を下らない。となれば外見では分からないが地中へ埋設された地雷は少なくとも倍には達するだろう。
地雷がまだ生きているか否かの判別は一見しては分からない。経年劣化や状態にも左右されるが、一度活性化された地雷は放置されても数年〜数十年は虎視眈々と炸裂の機会を伺う代物である。
地雷原を処理し、進路を啓開するには装備を整えた工兵のお越しを願いたいところだが生憎とそれは望めない。
ポーチの中へ収めていた携帯端末がバイブレーションを起こすと彼は慎重に膝立ちとなり、引き摺り出した端末のロックを解除した。
エクシア《あ……これはちょっと……》
エクシア《エブラ粒子の濃度が濃すぎ…詳細な位置把握が困難》
エクシア《ミ○フ○キー粒子が大量に散布されてる…》
オペレーターの真似事をなし崩し的とはいえ担っているエクシアがメッセンジャーへ送る内容に彼は溜め息を吐き出す。
神様との仲直りが更に遠くなった気分だ。余程、彼のことが嫌いなのだろうか。
ラピやアニスが自身の携帯端末を介してエクシアと遣り取りを続けるが──浄化シーケンスを実施するには司令部、あるいは情報部のみしか実施出来ないのだとか。
ハッキングさえすればエクシアも可能だが、発覚した場合は銃殺さえ有り得る危険な橋である。
しかし迂回して進もうにも道はこれしかないようだ。
結論としては手詰まりである。
「…スクラップを伝って進もうにもな」
左右へ高く積まれたスクラップの山を登り、その頂点を伝って移動する方法も考えたが──問題はニケである彼女達の体重だ。下手に加重を与え、均衡が崩れた場合のリスクが大きすぎる。却下であった。
携帯端末をポーチへ戻し、迷案だろうがなんでも思い付く為に煙草を銜えてオイルライターの火を点けたムーアの背中へラピが声を掛ける。
「…指揮官。バックアップなしでこの地雷原を通り抜けるのは危険です」
「あぁ、分かってる。…手作業で処理しながら地道に進むか…或いは手榴弾を使って爆破処理…
「爆破処理をした場合、爆発を聞き付けてラプチャーが集まって来る可能性が高くなります」
「…危険か…」
「…はい。…勿論、突破せよ、という命令には従いますが…」
「──冗談でも止めてくれ。言っておくがその命令を出す時も俺が先頭だ」
肩越しにラピを振り向いた彼がヘルメットの庇へ僅かに隠れる双眸を細めながら告げるも名案は浮かんで来ない。
さてどうするべきか──いくつかの案を脳内でシミュレーションし、成否を問うがいずれも成功の確率は大きいとは世辞にも言えなかった。
〈──ちょっと失礼しますね。浄化シーケンスを稼働します〉
ザッとヘッドセットのハウジングからノイズが一瞬響く。続けて耳に馴染みがある声がムーアの鼓膜を震わせた。
その声はラピやアニス、ネオンにも届いたのだろう。一様に驚愕の表情を浮かべていた。
〈──濃度64.57%…31.51%…〉
〈──地雷のスキャン開始…〉
その声の持ち主──シフティーが電波妨害の原因となるエブラ粒子の浄化を実施する中、通信へ割って入ってきたエクシアも埋設された地雷の位置を特定する作業を始める。
やがてエブラ粒子の浄化が完了したのと同時に特定作業も終わったのだろう。ムーアがポーチへ戻したばかりの携帯端末がバイブレーションを起こした。引き抜いて確認すると地図上に光点がいくつも浮かんでいた。
〈…上手く避けて進んでください〉
〈凄く早いですね。やっぱりプロトコール〉
「──そんなことより…シフティー…いつからいたの…!」
アニスが不信感を露わに無線越しとはいえ再び姿を現したシフティーを問い詰める中、彼は左手の指二本を揃えて前後に何度か振る。
前進の合図であった。頷いたラピにも埋設されている地雷の位置情報が送信されたのだろう。携帯端末を片手に先頭を切って歩き始めた。
〈すみません!気になったので戻ってきました!〉
アニスの不信感を露わにする声音とは正反対に位置する明るい声が響く中、ラピが進路を僅かだが変えた。地雷が目と鼻の先に埋設されているらしい。
背後へ続くムーアがその刻まれた足跡を上から踏み締めて後を追う。
〈疑われても仕方ないとは思いますけど……私は皆さんが好きです。…皆、知ってるでしょう?親しくなったと思ったらニケ達は消えてしまう。オペレーターの行動指針に「ニケに心を許すな」がある程なんです〉
──それは妙だ。
シフティーの言葉に彼は我知らず双眸を細めながら左耳を覆うハウジングを手の平で押さえる。聞き間違いではないのだろう。
〈でも……それが出来ないんです。私は皆さんに長く生きて欲しい。そう出来るようにお手伝いしたいんです。もう…別れは嫌です。
彼女の独白がハウジングの奥から響き渡る。その声音は確かに信じたい感情を揺さぶられる程に迫真のそれだ。思わず信じてしまいたくなる。しかし──ムーアにはそれがどうしても出来なかった。
〈──信じて…貰えませんか?〉
「……いや、キミを信じようシフティー。疑って悪かった」
ハウジングを押さえていた左手で今度はマイクを摘んだムーアが語り掛ける。その返答に続いてハウジングからは安堵の溜め息が響いた。
彼の表情を誰も見ていなかったのは幸いだろう。
無表情のまま、そして左目の瞳孔のみを細めながら彼は「信じる」という言葉を投げ掛けていたのだ。明らかに信じている相手へ対して浮かべる様子ではない。だというのに柔らかく落ち着きのある声音を発していた。
「…指揮官様とは違って私は…ごめん。完全に信じるってのは無理かな。──でも…頑張ってみるよ!」
背後でアニスの普段通りに近い明るい声が響く。
それに続いて彼女が頼んでいたアークレンジャーの録画をシフティーが忘れていたばかりか、盛大なネタバレをエクシアが告げた途端、アニスが騒ぎ始める中、ムーアは左手に携帯端末を握る。
アプリを起動し、メッセージを送る相手をラピ個人に設定すると片手で素早く文字を打ち込んだ。
《キミにだけ送る。シフティーを疑って掛かれ》
そのメッセージを送って間もなく地雷原を歩いていたラピが立ち止まり、携帯端末の画面を見詰めた後、ムーアへ肩越しに視線を向けた。
──本気ですか?
その眼差しが問う意味を受け取った彼が頷きを返す。
やや考え込んだ後、再びラピが前方を向いて歩き出すのに合わせてメッセージが送信される。
《了解しました》
それを確認した彼は携帯端末をポーチへ仕舞い込み、改めてラピの足跡の上を歩きながら地雷原を突破する為に進み続けた。
──本当の理由は……久しぶりにバンド・オブ・ブラザーズを全話視聴していまして……次はザ・パシフィックです。
下手したらこれが今年最後の投稿となるかもです。ヨーロッパ戦線から、今度は太平洋戦線に…(年末年始に何を観てるんだ