勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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作戦が一段落した。書けなかった分も含める為、今日の日誌は長くなる。

遠征軍に所属していた我が大隊も今や中隊程度の人員しか残っていない。この1週間で38名の戦死者を出した。負傷者は数えたくない。補充兵は来ないだろう。

欧州を奪還すべく第二次ノルマンディー上陸作戦が発動され、連合国軍が総力を結集しての史上最大の作戦となったがその顛末は言うに及ばない。我々が解放出来たのはパリが限界だった。以東を奪還するだけの余力は残されていない。生存者を探し、民間人を優先して避難させるのが急務だ。

48時間の休暇中に彼女達へ広報の取材があった。へし折れたエッフェル塔を背景にしてだ。広告塔の如く勝利の女神と宣伝される彼女達の力が無ければ、とうの昔に全員が玉砕しているだろう。いくら■■■■■されているとはいえ、我々は脆弱な人間に過ぎない。

広報は挙って勝利を宣伝するが、勝利の凱歌には程遠い。一度、最前線に来て見ると良い。スクリーンに投影されるような雄々しい軍隊など今や何処にもない。みすぼらしい敗残兵のような集団が辛うじて組織としての軍隊を構成しているだけなのだ。

信心深くはない上に神という存在がいるとすれば、横っ面を殴りたくなる程に嫌悪しているが──こんな事を言ったら彼女に怒られるのだろうが──聖書の一節がどうしようもなく思い出される。ガニーを庇って死んだハルを見たからかもしれない。もっとも神学者の連中は解釈違いを揃って口にするだろうが。

それを綴って今日の日誌のペンを置く。

ヨハネ福音書15章13節『友の為に自らの命を捨てる。これに勝る大きな愛は無し』

──中央政府所蔵の遺失物 【I MEF所属 海兵隊少尉の日誌の1ページより抜粋】──


第5話

 

 

 

 

 

 

 

 ──なんだあの馬鹿みたいな砲は。

 

 スクラップの山を登り、その頂上からムーアが双眼鏡越しに向ける視線の先で異様な存在感を放つ巨大な粒子砲を認めた際の第一印象はそのようなモノである。

 

 北部の研究基地──あの要塞化された基地と戦った記憶が否応なく呼び起こされる。どうやらアレを()()せねばならないらしい。シフティーとエクシアが語るところによればラプチャー化の反応を検知したとか。

 

 ミシリスが開発、製造したMSIC-007だとハウジングの奥でエクシアが語り、続けて諸元の概略が紡がれた。

 

〈…直線でバキューン…って撃ちます…あの()()()()()()()()みたいなものでーす〉

 

「…すまん。元ネタが分からん。…射程は?」

 

〈2000ぐらいですね…射線上の遮蔽物や障害物を計算…〉

 

「…その射程はメートルか?それともマイルか?」

 

〈…当たったら完全燃焼…骨も残りませーん…〉

 

「聞けよ」

 

 距離の単位が異なるだけでだいぶ変わるのだがエクシアは彼の質問が届いていなかったのかもしれない。しかし1ヶ月前に左腕を粒子砲の光線で灼かれたばかりの人間へ気遣いが皆無の言葉を投げるのは如何なものだろう。無論、彼女には彼を皮肉るような意識はないのだろうが。

 

〈…内部にエネルギー反応あり…でも今すぐ発射される気配はなし…何がトリガーかは不明…〉

 

 エクシアの報告にムーアは怪訝な様子で眉間へ皺を寄せる。

 

「…エネルギー反応?大気圏内で荷電粒子が直進するには最低でも10ギガワットの出力が必要とかなんとかと何かの論文で読んだ覚えがあるが…」

 

〈──初心者さーん。それ…かなり古い論文ですよー〉

 

〈兎に角、射線には入らないよう注意しながら交戦して下さい!発射されてからでは遅いですから!〉

 

 ハウジング越しにエクシアが、そして()()()()()の声が響く中でムーアは携えた双眼鏡で粒子砲の周辺を──その奥にある巨大な建屋を見詰める。あれがどうやら軍需品の製造工場であるらしい。

 

 ふと直下からスクラップの山を登ってくる気配がひとつ。視線を向けるまでもなくその気配の持ち主を正しく察知した彼はスクラップが崩れ落ちないか心配にもなってしまうが賢明にも声として発することはなかった。

 

「──如何ですか指揮官?」

 

 隣まで登ってきたのはラピである。真下にアニスとネオンを残しておくのは──まぁ大丈夫であろうが、些か気掛かりにもなってしまうムーアは改めて構えた双眼鏡で目的地周辺の偵察を再開する。

 

「…あの粒子砲の奥に製造工場があるらしいが…」

 

「…ラプチャーは見えますか?」

 

「ここからでは確認できない。シフティー。反応はあるか?」

 

〈──お待ち下さい。……多数のラプチャーとこれは…ロード級がいます!〉

 

「…了解した。タイラント級でないだけ有り難いと思うことにしよう」

 

 とはいえ五十歩百歩だろう。溜め息を吐き出しながらムーアは双眼鏡をポーチへ仕舞うとスクラップの山を降り始めた。それにラピも続く。

 

「──聞こえていたと思うがロード級がいるらしい。おそらく地上型のラプチャーも相応にいるだろう」

 

 地上へ降り立った彼は待機していたアニスとネオンの前へ立ち、これから交戦するであろう敵情を通達する。

 

「ネオンは俺と一緒に来い。ラピはアニスと組んでくれ。両翼へ展開して左右から十字砲火を浴びせつつ前進する。交戦中に指示をその都度、出すと思うが…まぁそれはいつも通りか。質問は?」

 

 全員を見渡しながら問い掛けるも3名とも質問は特にないらしい。それを認めたムーアは前進を命じた。

 

 

 

 

「──飛行型なんて聞いてないぞ!」

 

 航空優勢が取られている、と接近してやっと気が付いたムーアは恨み節を()()()()()へぶつけたくなるがそれは戦闘後だ。

 

 スクラップの山が作り出した道を駆け抜けた先にはコンテナ等が並んだ貨物集積場らしき開けた場所があった。

 

 そこへ進入した途端、コンテナを吹き飛ばしながら上空へ舞い上がった一対の機械の翼を持つ巨大なラプチャー。

 

 あれでロード級なのか、と率直な疑問が浮かぶが──

 

「──師匠!地上型のラプチャーが沢山!」

 

「──分かってる!撃ちまくれ!」

 

 分隊をふたつに分けたのは失策であっただろうか。その危惧も浮かんだが、右翼へ回ったラピとアニスはしっかりと対応しているらしい。ラピが指揮を執っているのだろう。アニスが擲弾を地上を駆けてくるラプチャーの先頭へ的確に撃ち込んでいた。

 

 十字砲火を浴びせるには些か遮蔽物が多すぎるが──交戦の影響で大半は破壊されるだろう。射線が確保され次第、纏めて銃弾の雨霰を降らせてやれば良い。

 

 コンテナを遮蔽物として利用し、角から半身を覗かせたムーアが突撃銃の引き金を引いて接近してくる数体のラプチャーへ銃撃を加える。

 

 発砲の反動を吸収しながら銃声を響かせる度に薬莢が散らばる最中、頭上から影が差した。

 

 上空に浮かぶロード級のラプチャーだ。

 

 一対の翼──とも思えるが、ムーアの目には知識として持っている海洋生物のマンタのようにも見えてしまう。

 

 とはいえあれほどの巨体をどうやって浮かせているのか。

 

 相変わらずラプチャーとは規格外の個体ばかりである。

 

 銃口を上空へ向け、悠々と浮遊するロード級へ対空射撃を始める。

 

 銃弾が吐き出される銃口から発射炎(マズルフラッシュ)の閃光が走る中、粗方の地上型ラプチャーを片付けたのだろうネオンの聞き慣れた散弾銃の銃声も響き始めた。

 

 散弾銃は飛翔する鳥類を撃ち落とすのに最適だろうが、吐き出されているのは対ラプチャー用の大粒のペリットだ。鳥類がこれを喰らったら跡形も無くなるのは必至である。

 

 地上型のラプチャーはそれほど多くはなかったらしい。右翼側からもラピが放った曳光弾が光跡を描きながら何発もロード級へ弾着し、ややあってアニスの撃ち込んだ擲弾が炸裂する。

 

 両翼から攻撃を受け続けるロード級に備えられた二門の砲口に光が収束を始める。反撃の前兆だと察したムーアが声を張り上げて避けるように促した瞬間、その砲口が光の奔流を放った。

 

 いつぞやの二の舞で腕を灼かれるのはごめんだ。

 

 彼は地上を灼きながら向かってくる光線を真横へ飛んで避けると、そのまま前転しながら立ち上がり、突撃銃を構えて引き金を引く。

 

「ネオン!無事か!?」

 

「はい、大丈夫で──また来ます!!」

 

 ネオンの警告が一瞬早かった。光線を放ったかと思えば、今度は光弾が次々に撃ち込まれ始める。

 

 狙いはそこまで定まっていないらしい。周囲のコンテナへ弾着し、爆発を起こしてそれらを上空へ吹き飛ばすのだが少なくとも分隊には損害が出ていない。

 

 しかし一発でも喰らえば彼女達は良くて大破だろう。ムーアであれば間違いなくあの世行きである。

 

「──悠々と飛びやがって…!」

 

 これ以上は撃たせない。彼はボディアーマーのポーチから擲弾を抜き取ると、突撃銃の被筒下部へ取り付けた擲弾発射器へ装填した。

 

 専用の照準具を、そして銃口側の照星を起こして上空を飛ぶロード級の後方で回転しているプロペラのような推進機へ狙いを定める。

 

 引き金を引いた途端、シュポンと気の抜ける発砲音と共に擲弾が撃ち出された。緩く弧を描きながら飛翔した擲弾が吸い込まれるように推進機へ着弾し、炸裂するとロード級の全身が左右へ大きく動揺した。

 

 (コア)ではなかったようだが急所だったのだろう。推進機が停止したかと思えばロード級はその場へ浮遊するだけの存在となったのがその証拠だ。

 

 その隙を分隊の全員が見逃す筈もない。ムーアの命令が飛ぶ前に各個が握った火器の銃口をロード級へ向け、立て続けに引き金を引いた。

 

 銃弾、大粒のペリット、そして擲弾が何発も直撃した敵機から小規模の爆発が起き、そして黒煙が上がる。

 

 徐々に高度を落としたロード級が地面へ墜落しても尚、分隊の射撃は続く。

 

 特に赤い光を放つ核への射撃を集中し──やがてそれが撃ち抜かれれば、敵機は完全に沈黙する。

 

「撃ち方止め!……敵機撃破を確認。分隊、集合しろ!」

 

「──へへ。楽勝だったね」

 

「アニス、気を抜くな!全員、損害報──」

 

〈──っ!粒子砲が稼働!エネルギーチャージ中!!〉

 

 速やかに集合し、損害を報告するようムーアが急かす最中のことだ。

 

 シフティーの鋭い警告が飛び、彼は反射的にそれまで沈黙を保っていた巨大な粒子砲へ視線を向けた。

 

〈あ…なんてタイミング…ツイてないですね…〉

 

 全くだ、とエクシアへ返す余裕はない。

 

 砲口へ光が収束を始めている。発射寸前であると察したムーアは声を張り上げた。

 

「──射線から出ろ!急げ!!」

 

〈──アニス、ネオン!今、射線上にいます!回避して!〉

 

 駆け出そうとした矢先、シフティーの警告にムーアの足が止まる。

 

 ロード級の攻撃もあって粗方のコンテナが吹き飛ばされ、見晴らしが良くなった貨物集積場。集合しつつあった分隊へ向けて粒子砲の砲塔が回転し、砲口が指向される。

 

 その直線上にいたのはアニスとネオンだ。

 

「──指揮官!!」

 

「──ラピ!粒子砲を撃て!!」

 

 弾き飛ばすぐらいは出来るだろう。駆け出したムーアへラピは叫ぶも、彼の命令に従って粒子砲へ銃口を向けるや否や銃撃を加える。

 

 しかしその装甲は下手なラプチャーよりも頑強だ。貫通は不可能である。

 

 ──その時、アニスとネオンは互いへ向かって駆け出す。

 

 このままでは粒子砲の光線の中に彼女が消える。それが脳裏に浮かんだからこその咄嗟の反応だったのだが──

 

「「──え?」」

 

 体当たりし、突き飛ばす勢いで駆け出したからだろう。ニケの脚力もあってあっという間に彼我の距離はゼロとなる。

 

 亜麻色と翠色の瞳が丸く見開かれ、互いの顔が想像よりも至近にあると驚いた途端、二人の額が勢い良く衝突する。

 

〈──粒子砲、発射されます!!〉

 

 額同士を衝突させた二人が地面へ倒れる中、ムーアのヘッドセットからはシフティーの警告が響き渡る。

 

「──え、ええ!?」

 

「──うわ!うわぁ!!?」

 

 視線の先で自分達へ向けられた粒子砲の砲口に収束する光を見たアニスとネオンが互いに抱き合う。思わず身を竦める彼女達が固まる中──飛び付いたムーアが二人を抱き竦めながら地面を転がって射線上から退避した。

 

 その瞬間、粒子砲の砲口が目が眩まんばかりの光を放とうとし──直ぐにそれが消えてしまう。不発のようだ。

 

〈──古すぎ…発射するだけの出力…なかった…〉

 

 ハウジングの奥で溜め息を吐き出すエクシアの声が響くが──徒労となったことにムーアは安堵の息を漏らしながら抱擁したままアニスとネオンの下敷きとなっていた。

 

「…良かった…」

 

 ──また部下を喪うかと思った。

 

 その言葉は喉の奥へ飲み込みつつ、彼は二人へ回していた腕を解く。

 

「…あ、ありがとう指揮官様…」

 

「…ありがとうございます師匠」

 

「……帰ったらビールを奢ってくれ。それでチャラだ」

 

 不可抗力とはいえ抱き竦められたアニスとネオンは羞恥もあって、腕が解かれると彼から急いで身を離す。すると間近で互いの顔を見合わせ、何を言うべきかと今更ながら悩み始めた。

 

「──な、何か言う事があるならどうぞ!?助けに来てくれてありがとうとか!」

 

「…あなた、怒ると思ってたより性格悪いわよね」

 

「アニスも思ったより疑り深いみたいですね!」

 

 まず口火を切ったのはネオンだ。続けてアニスが応じる様子を見ながらムーアも身体を起こして立ち上がる。吊るしていた突撃銃に問題がないかを確かめると、ポーチから取り出した煙草を銜えてオイルライターの火を点けた。

 

 ネオンの言い分にアニスは何度か唇を震わせ、やっとの思いで開くと観念もあるのか白状の声音で言葉を紡ぎ始める。

 

「……私……前に……」

 

「──もういいです!」

 

 その白状を聞くことなくネオンが腰を上げたかと思えば、へたり込んだままのアニスへ向かって片手を差し伸べた。

 

「いつか聞かせてくださいね!」

 

 まだ機嫌は完全に治ってはいないらしい。頬を膨らませながらネオンは彼女へ手を差し伸べ、早く掴むよう無言で促す。

 

 その手とネオンの顔を交互に見比べるアニスの片手がゆっくりと持ち上がり、彼女の手を掴んだ途端のことだ。

 

 ネオンも途中までアニスを引き上げようとしたのだが──何を思ったのか握っていた手を離してしまう。すると当然だが彼女は重力に従って尻から地面へ落下し、呆然とネオンを見上げながら亜麻色の瞳を何度も瞬きさせる。

 

「──考えてみたら本当にムカつきますよね!?私のことが信じられない!?皆さんと一緒にいて私が何回、死にかけたと思っているんですか!?」

 

 堰を切ったように不平不満が、我慢を重ねていた愚痴がネオンの唇から溢れ始める。

 

 アニスは居た堪れなくなるが、それよりも複雑な表情を浮かべてしまうのはムーアだ。分隊指揮官として何も言い返せないのである。

 

 不可視の鋭利なナイフで身体を何回も刺されているかのような気分を彼は味わってしまう。

 

「──私はスパイだから適当に報告だけしておけば良いのに!!それでも一緒に命を賭けて戦ったのに!!」

 

「…えっと…ごめん…」

 

「…済まん…」

 

 へっぴり腰のまま座り込むアニスが、そして釣られるように銜え煙草のムーアが思わず謝罪を漏らす。

 

 しかしネオンはその謝罪は不要とでも言いたいのか、顔を背けると一人で乱暴な足取りのまま先を目指して歩き始めた。

 

「──もう知りません!自分で起き上がって下さい!」

 

 その後ろ姿を見送りながら居た堪れない様子のムーアが溜め息混じりの紫煙を燻らせる最中、傍らにラピが移動してくる。

 

「……何故か俺まで怒られた気分だ」

 

 ラピへ彼はボヤくと、彼女は肩を竦めるだけである。

 

 一方のアニスは遠くなるネオンの後ろ姿へ指を向けながら彼とラピを見上げて尋ねる。

 

「……もう怒ってないよね?」

 

「…たぶんね」

 

「…たぶんな」

 

 彼とラピが揃って肩を竦めてみせる。ムーアがアニスへ片手を差し伸べれば、彼女がそれをしっかりと握り、今度こそ立ち上がった。

 

 

 




これが今年最後の投稿となります。

11月の初旬から投稿を始めましたが、ここまで多くの皆様に読んで頂けまして感無量でございます。来年もお付き合いを宜しくお願い致します。


──それはそうと年末年始のイベントのバーニンガムの豚野郎、何をほざいてやがんだ。テメェのガキのプレゼントなんぞ知ったこっちゃねぇんだよ(暴言
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