勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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新年あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致します。


第6話

 

 

 

「──怯むな、進め!!俺に付いて来い!!押し返すぞ!!」

 

「──行くぞ野郎共!!少尉に続け!!」

 

「──突っ込め!!突撃だ!!」

 

「──伍長が撃たれた!!衛生兵!!衛生兵!!」

 

 

 

 ──なんだ…これは──

 

 

 

「──第1分隊、射撃を絶やすな!!第2と第3分隊は側面に回り込め!!」

 

「──少尉!嬢ちゃん達が来ました!!」

 

「──別嬪さん達が来たぞ!野郎共、格好悪いところ見せんじゃねぇ!!どうせ俺達に墓標は立たねぇんだ!!死ぬならカッチョ良く死んでやれ!」

 

 ──アレは……──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロード級や地上型ラプチャーによる攻撃、そして不発となったが粒子砲による射撃を退けた一行はやっと軍需品の製造工場へ足を踏み入れる。

 

 第1次ラプチャー侵攻──半世紀以上も前に勃発し、世界各地で繰り広げられた一連の戦闘をそのように呼称するのは周知の通りだ。この施設はその末期まで稼働していた工場だとエクシアは語る。

 

 ラプチャーの群れが迫って来ている中、慌てて工場を放棄したのだろう。一部の生産ライン上には錆びた兵器や火器の類いが放置されたままだ。

 

 この工場の一部では個人用の携行火器や戦車、装甲車も製造されていたようだ。

 

〈──思ったよりも広いですね〉

 

〈──ラプチャーと戦い始めてから…どんどん火器が…大きくなりました。…一般常識ですけど…シフティーは教育時間中に…眠ってたから…頭が…悪いのですね…〉

 

 彼女達が受信する無線での遣り取りは容赦ない文言が一方的に浴びせられている状態だ。

 

 アニスはチラリと横目を生産ラインへ向ける。そこに鎮座する錆び付いてしまい、レストアしても果たして機能するか分からない火器を何気なく拾い上げてみた。

 

 これらの火器は()()()()()でも辛うじて使用に耐えられる性能であったらしい。あくまでも当時はだ。しかし現在の対ラプチャー用の火器、つまりニケ用のそれとなっては普通の人間は取り扱えないだろう。()()()()()()()であるが。

 

 その極一部に該当する人物の姿を脳裏に思い浮かべた彼女は薄く苦笑を浮かべ──そういえば静かだな、と気付いた。とはいえ背後にいる気配は察しているため顔を向けないまま声を掛ける。

 

「ねぇ指揮官様。ここの火器、何挺か持って帰らない?他の指揮官にも武装させてさ、ラプチャーと戦って貰うとか……」

 

 返事がない。

 

 軽口の類いだったが、気にでも障っただろうか。

 

「もう冗談だって。そんなマジに──指揮官様?」

 

 そういえば変だ。この程度の軽口なら彼も応じて皮肉や更なる軽口を返してくれるモノなのだ。それが全くない事実が気になり、火器を投げ捨てたアニスは背後を振り向く。

 

 ──ヘルメットを被った頭を左手で押さえつつ、瞳を大きく見開きながら歯を食い縛り、脂汗を流す彼の姿がそこにあった。

 

「──指揮官様!?ラピ、ネオン!!」

 

 明らかな異変を生じている彼へアニスは駆け寄りながら分隊のリーダーと仲直りしたばかりの友人を呼んだ。

 

 今にも膝が崩れ落ちそうなのか、生産ラインの大きなベルトコンベアの縁へ掴まり、歯を食い縛りつつ荒い息を繰り返している。ムーアへ駆け寄り、その背中を支えようとするが──彼はその手を振り解くと口元を押さえながら放置されて何十年も経つコンテナの物陰へ足早へ向かった。

 

 ──たちまち嘔吐する音と共に鼻を突く刺激臭がアニスへ、そして遅れて駆け付けた彼女達にも届く。

 

 吐きたくもないのに吐いている苦しげなそれは長く続いた気がする。やがて水筒の水で口を濯いでいるのか、それが察せられる水音と吐き捨てた水が床へ落ちる音が響いた。

 

 少し覚束ない足取りでコンテナの物陰から出て来たムーアが口元を袖で拭いながら彼女達の元へ戻って来るとアニスが恐る恐る声を掛けた。

 

「…指揮官様…大丈夫?」

 

「…大…丈夫だ」

 

「…でも顔色が真っ青…」

 

「…朝に喰った飯が悪かったみたいだ」

 

 ──嘘、下手すぎ。

 

 強情なのは今更の為、諦めの境地に立っている彼女達だが、もう少し素直な物言いを──もっと言えば自分達を頼っても良いだろうと考えてしまう。

 

 注がれる三対の視線から逃れるようにムーアはヘッドセットのマイクを摘み、目的地の詳細を尋ねる。

 

「…スキャン装置は何処にある?」

 

〈ちょっと待ってくださーい…エブラ粒子が濃すぎ…シフティー…浄化シーケンス開始…〉

 

〈あ、はい!〉

 

〈終わったら高密度のところから確認…して…中心部付近のチェックよろ…〉

 

 エクシアの指示が矢継ぎ早に飛び、その次から次へのタスクを達成しようとシフティーが四苦八苦している様子が無線からも伺えた。

 

「厳しい教育を受けてますね」

 

「まぁプロトコールはこの分野では強いものね。いくら中央政府の情報部でもちょっと劣るみたい」

 

「でも滅多にない機会よ。実戦で鍛えられたニケに教育を受けるのは悪くないことだと思うわ」

 

 彼女達の会話を尻目に彼は煙草を銜える。オイルライターを取り出し、蓋を開けてホイールを回す──

 

 

 

 

 

「──火をくれないか?オイルが切れちまった」

 

「──少尉。煙草は止めた方が…俺は兎も角、アンタは嬢ちゃん達に嫌われますぜ」

 

「──構うもんか。俺が禁煙するのは死んだ後だ。それに今更だろう。こんな場所で長生きは出来んよ」

 

 

 

 

 

 

「──指揮官?」

 

 玲瓏な声が耳朶を打つ。それに弾かれたように彼が顔を上げる。部下である三名のニケ達が視線を向けていた。

 

「…やっぱり大丈夫そうじゃないわ」

 

「師匠。どこかお加減でも?」

 

「…いや、平気だ」

 

 どれほどそうしていたのか。煙草の先端には火が点いていない。オイルライターの火を灯してから暫くは固まっていたのだろう。それを察した彼はいまだに整わない呼吸、そして激しく脈打つ心臓の鼓動を無視しながら改めて煙草へ火を点ける。

 

「…本当に大丈夫ですか?」

 

 眼前まで歩み寄ったラピが突撃銃の握把を握る彼の筋肉で張り詰めた右腕を軽く握りながら紅い瞳で見上げつつ問い掛ける。ジッと見詰められたムーアは小さく頷きを返した。

 

「…大丈夫だ。問題ない」

 

「…分かりました。無理はなさらないで下さい」

 

 ──嘘が下手ですね。

 

 顔色が青いままでそのような言い訳は通用しない。しかしムーアが大丈夫と言うのだ。信じるしかない。──頼ってくれないのは少し悲しいが。

 

 なんとも言えない空気になりそうな気配を察したアニスが咳払いを漏らし、話題を変えようとラピへ視線を向けた。

 

「んんっ。ところでラピも大変ね」

 

「…え?」

 

「シフティー」

 

「あ、あぁ…そうね。言葉には気を付けているつもりよ。北部では通信状態も悪くなってあまり一緒にいなかったから大丈夫だったけど…」

 

 不安は残るが、あまり気にしていては不意の敵襲に即応出来ない。掴んでいた彼の右腕から手を離したラピが頷くとムーアは一歩退いて燻らせた紫煙を緩く吐き出した。

 

「ラピの状態を知ってる人もいれば知らない人もいる。…もっとややこしくなったわね」

 

「シフティーにも教えたらどうで──」

 

「──それは駄目だ」

 

 ネオンがオペレーターとして参加することとなったシフティーにもいっそのことラピへ実施された記憶消去が効果を発揮しなかった旨を伝えてはどうかと問い掛けるが──全てを言い切る前にムーアが割って入る。

 

 いまだ顔色は優れぬというのに双眸を細めながら彼はネオンの提案を切って捨てた。

 

「し、師匠?」

 

「…俺は…済まないが…まだ彼女を信じていない」

 

「ハァ…師匠…少し疑心暗鬼になりすぎじゃありませんか?」

 

「まぁまぁ…」

 

 呆れたように溜め息を漏らすネオンと自然に鋭い視線となるムーアの間へ入ったアニスが双方を取り成そうとする。

 

「でも指揮官様の言い分も確かだわ。シフティーは中央政府と密接な関係にあるもの」

 

「…やっぱりアニスも疑い深いですね」

 

「あなたねぇ…!」

 

「──やっと和解したばかりだろう馬鹿共が。またおっ始めるつもり──あぁ…クソ…済まん…」

 

 彼の言葉遣いが荒くなる。直ぐに自身でも気付いたのだろう。荒い口調のまま言葉を投げてしまったアニスとネオンへ詫びを告げたムーアはその場から少し離れた途端、深く項垂れてしまう。

 

「…指揮官様、本当に大丈夫?」

 

「…もしかして私達…師匠にストレスを…?」

 

「…安心してくれ。ストレスじゃないのは確かだ。……ありがとうアニス」

 

 ──この子は天然なのだろうか。

 

 彼へ歩み寄り、背中を擦って気にしていないことを伝えながらアニスは気遣うも同時に辿り着いたネオンが見当違いの危惧を漏らす。──まぁ完全な否定は難しいのだが。

 

 ヘルメットを片手で押さえ、目深に被って表情をなるべく隠しながら銜えた煙草を燻らせるムーアも背中を擦られたことで幾分かは具合が良くなったらしい。

 

 彼がアニスへ礼を告げて間もなく、シフティーからスキャン装置の位置を把握した旨が伝えられる。

 

 ──()()()()()()()()()()()()。ムーアは別の意味でそう考えながら煙草を携帯灰皿へ投げ込んだ。

 

 

 

 

 

 スキャン装置は生産ラインが並ぶ工場の奥にあった。

 

 解析室とプレートが扉へ打たれた室内には医療現場で用いられる検査機器のMRIを思わせる大きな装置が中央へ鎮座している。

 

「──すごく大きいですね…このスキャン装置…」

 

〈火器が大きいからスキャン装置も当然大きいのです…ネオンは応用力が…足りないのですね…〉

 

 率直な感想を漏らすネオンへ辛辣な言葉がエクシアから飛ぶ。

 

 とはいえ大きい点はムーアも同意する。生産ラインの一部に対戦車火器をベースに対ラプチャー用のそれに改造された武器も錆びたまま放置されていたのを思い出す。ならばこれほどの大きさの装置は必要だったのだろう。

 

 エクシアが天板の上へスキャンする銃弾を置くよう促してくると彼はポーチのひとつへ仕舞ってきた1発の拳銃弾を摘み出し、それを指示された場所へ置く。

 

 続けて機器を操作する為にコネクティングデバイスを接続するよう告げられ、携帯端末から飛び出ている摘みを引っ張り出した。ケーブルが伸び、それをスキャン装置のポートへ差し込んだ。

 

〈繋げましたね?…シフティー…操作を…〉

 

〈あ、はい!ちょ、ちょっと待って下さい…!〉

 

〈………私がやります。シフティーは…()()()()()()()でもやってて…ください〉

 

 暗に「遅い」と告げるエクシアの様子が伺えたアニスとネオンは顔を見合わせ、容赦がないと口を揃える。

 

 そうこうしている内にスキャン装置が稼働を始めた。果たして何十年ぶりに稼働したのだろうか。埃を被っているが、問題なく動き、トンネル状のガントリーの中へ拳銃弾が乗せられた天板が入っていく。

 

 解析にはどれほど掛かるのだろうか。

 

 ムーアがそう考えていた矢先──この部屋へ入る為、進んできた廊下の壁に反響する複数の足音を捉えた。金属音の如く硬い足音は工場の更に奥から響いて来る。

 

 反射的に彼は突撃銃の安全装置を外した。

 

〈──ラ、ラプチャーが来ます!〉

 

〈──解析が終了するまで…暫く掛かります…それまでスキャン装置を…一生懸命…守って…ラプチャーを倒して…くださーい〉

 

 遅い、とムーアは文句を漏らしたくなるが敵は複数らしい。工場の奥にまだ隠れていたラプチャーだろうか。

 

「──掃討するぞ!付いて来い!!」

 

 彼が解析室を飛び出すのに合わせて彼女達も後を追う。

 

 とはいえ、僅かに数体のラプチャーだ。瞬く間にスクラップとなった敵機が廊下へ転がったのを認め、ムーアや彼女達は揃ってそれぞれが手にする火器へ安全装置を掛けた。

 

〈──スキャン…終了でーす。解析室に…戻って…ください〉

 

 エクシアからの通信で解析が無事に終わったと報告される。ラプチャーを撃破したばかりだが周囲を警戒しつつ解析室に戻ったムーアはスキャン装置の天板へ乗せていた拳銃弾を摘み上げ、それをポーチの中へしっかりと仕舞った。

 

「…何か分かったか?」

 

〈…平凡な…拳銃弾ですが……ただ…〉

 

「…ただ?」

 

()()()が…ひとつ…混ざっています〉

 

 解析結果はエクシアがスキャン装置を操作した為、彼女の眼前にある画面へ映っているのだろう。

 

 その解析結果──彼女が言うところの()()()はエクシアも聞き覚えがないらしい。しかし画面へ映った物質の名称の綴りをそのまま告げた。

 

〈──アンチェインド

 

 解放、などのニュアンスの意味を持つ名称。それへ如実な反応を示した存在があった。

 

〈アンチェインド…?〉

 

〈シフティー?…なにか知ってますか…?〉

 

〈あ…い、いいえ…〉

 

 シフティーが名称に強く反応を見せたことにエクシアが問い掛けるも彼女は曖昧な否定を返すのみだ。明らかに()()を知っている様子だが、殊更強く追及しても口を割るとは思えない。エクシアも諦めたのか、ならば自身で検索しようと考えを改める。

 

〈そう…ですか。…初めて聞きましたね…アンチェインド…アーク内のデータベースを漁ってみます。皆さんは…戻って…ください〉

 

「…え?これで終わり…?」

 

〈はい…終わり…です〉

 

 なんとも呆気ない。道中こそ苦労はあったが、こうもあっさり終わると肩透かしも良いところだ。

 

 アニスが不承不承の様子であると察しつつ、ラピはアークへ戻る為の命令を出して貰おうと彼へ振り向いた。

 

「指揮官──ッ!?」

 

 ──彼が双眸を大きく見開き、ヘルメットの上から頭を押さえながら脂汗を顔から滴らせている姿が映る。それを認めた途端、ムーアが膝から崩れ落ちかけた。慌てて彼を抱き止める彼女の耳元で消え入りそうな程に小さな声が囁かれた。

 

 

「──…NIMPH…破壊…」

 

 

 

 




おやぁ?ムーア大尉の頭痛が慢性的になってきたようですね。血の巡りでも悪いんでしょうか(かくいう私も頭痛持ちなのでマッサージ等を受けないとあっという間に…
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