勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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えりのる様、そして一般通過マン様、そして皆様、誤字報告ありがとうございます。特に一般通過マン様…とんでもない誤字をやらかしていたと気付きました。後で腹切っておきます。


第6話

 

 

 あの出来事(トラブル)に見舞われてから1時間は歩いただろうか。

 

 電気を補助動力として活動しているメティス分隊のバッテリー残量にも気を配りつつの戦闘が二度発生しつつも、彼女達と彼は目的地であるクレーターが生じた地点まで残り僅かまで前進出来ていた。

 

 この分ならあと1時間程度でアブソルート分隊やアニスにネオンとも合流出来るだろう。

 

 荒野での前進を続け、寂れた風情の街並みが現れる。倒壊や半壊した建物ばかりだが、人の営みの残り香を放つ街へ辿り着いた矢先のことだ。

 

〈──あの…メティス分隊の皆さん…。アーク──正確にはエリシオンから連絡が引っ切り無しに来ています。作戦を妨害する意図は何か説明しろ、と…〉

 

「えぇ…?」

 

「…シフティー。報告したのか?」

 

〈というよりも…作戦の過程は報告する義務がありますから…〉

 

 現場でのトラブルは作戦行動中は避けて通れないだろうに、とはムーアも思うも──他社が管理する分隊の攻撃が影響して橋が崩落した、と報告すればまず疑うのは作戦の妨害であろう。

 

 予想はしていたが、抗議が早いとマクスウェルが溜め息を吐き出しながら分隊リーダーであるラプラスへ視線を向けた。

 

「ラプラス。説明してあげて」

 

「──わざとじゃなく、事故だと伝えてくれ!」

 

〈いえ…ずっとそう言っていますけど…それでも説明しろと…〉

 

「──では同じ内容を繰り返すのだ!」

 

〈私はオペレーターです。同じ言葉を繰り返すロボットではありません!〉

 

 ムーアが両耳へ嵌めたハウジングの奥から響くシフティーの苦言を呈する声。顔は見えないがどのような表情をしているのかは容易に想像が出来てしまった。

 

 反復することを()()と例えるラプラスへ再びシフティーの苦言が飛ぶ中、彼は溜め息を吐き出してソフトパックから振り出した煙草を銜える。傍らのラピがターボライターを差し出し、火を点けてくれた瞬間──

 

〈──失礼する〉

 

「…教官?」

 

 ──ハウジングの奥に響いた女傑の凛とした声音。それが確かに聞こえた。

 

 怪訝な様子で眉根を寄せるムーアの傍らでもターボライターをポケットへ仕舞ったばかりのラピが指先で耳を押さえる仕草を取っていた。

 

「…うへ…オペレータールームまで行ったの…?怒り心頭だね…」

 

 マクスウェルが立ち止まり、釣られるようにメティス分隊の歩みが止まった。自然と彼やラピも前進を止め、小休止という名の釈明の現場へ立ち会うはめとなってしまう。

 

〈──釈明してみろ。どうしてアブソルートの作戦を妨害した?不純な意図があっての行動だと受け取って良いのか?〉

 

「い、いや…イングリッド社長?そういう訳じゃなくてですね──」

 

〈──ヘレティックの破片をメティスが単独で手に入れたことにしたいのか?それともアブソルートをただ懲らしめたいだけか?もしくは我がエリシオンに挑戦したいのか?まさか…エリシオンを破滅させたいのか?〉

 

「……ダメだ。凄く怒ってる…」

 

 だろうな、とムーアは肩を落とすマクスウェルを眺めながら紫煙を燻らせつつ周囲を警戒した。ハンドサインをラピへ送り、周辺の警戒を厳にするよう伝えると彼女は頷きを返して突撃銃を握り直している。

 

「なんだ…怖気づいたのか?情けない!」

 

「じゃあ…あなたが説得してよ」

 

「…イングリッドは苦手だ」

 

「…はぁ…うざい。じゃあ静かにしてよ…」

 

 鼻で嗤ってみせるドレイクだが、返す刀でマクスウェルが告げると直ぐに引き下がってしまう。自身が矢面に立つことへの苛立ちもあるのだろう。やや辛辣な様子だ。

 

〈この件は中央政府に正式に報告する。これは到底見過ごせない──〉

 

〈──うるさいな、もう…!〉

 

 ハウジングの奥からまた別の乱入者の声が響く。それに思わずサングラスを掛けたムーアとラピは顔を見合わせ、互いの視線を交わらせた。

 

 間違いなくミシリスのCEOであるシュエンの声だ。

 

〈あ、あの…オペレータールームは一人で使用するのが原則ですけど…〉

 

〈ちょうどいい。今、メティスのやったことについて問い詰めていたところだ〉

 

〈皆、釈明なんかしなくていい。私がなんとかするから〉

 

 オペレータールームの広さは知らないが、おそらく各種のモニター等が埋め尽くしているのだろう。その決して広いとは言えない室内に追加で2名も入っているのだろうか。

 

〈お前がそんなに甘やかすから作戦妨害なんかを平気でやらかすのだ〉

 

〈それが何?油断したのはそっちの製品(ニケ)でしょう?ねぇ、メティス?〉

 

「…あの…こっちに非がないとは言えない…」

 

〈静かに。お前らが謝る必要はないから。これからもね〉

 

 ──頭が痛くなってきた。

 

 溜め息混じりに紫煙を吐き出すムーアは思わず左手で額を押さえてしまう。

 

 これでは埒が明かない。釈明や謝罪は作戦の後に済ませれば良かろうに、と彼は考えつつ左手の指先で口元へ伸びるマイクを摘んだ。

 

「──失礼。口を挟んで申し訳ありません。現場指揮官として申し上げても宜しいでしょうか?」

 

〈あぁ、ムーア大尉。君からも言ってくれ〉

 

〈なんだ、アンタもいたの?〉

 

 口を挟むことでムーアへ対して火の粉が降り掛かる可能性もあったが、現場を任せられている指揮官としてはこれ以上の遅滞は見過ごせない。

 

「今回の一件ですが、イングリッド社長が考えているような妨害の意図を前提としたものではありません。あくまでも対空射撃の際に撃ち漏らした敵機の残骸が橋へ直撃し、その影響で崩落したに過ぎません」

 

〈ほら見なさい。アイツもこう言ってるわよ、()()()()

 

「…いや、まだお若いですし、お綺麗なのですからそれは…」

 

 流石にその呼び方は失礼ではないか。そのニュアンスを込めてムーアが思わず苦言を呈すると、ハウジングの奥でシュエンの憤慨した様子が窺える声が続いて響いた。

 

〈は?若い?綺麗?こんなシワが増える一方の()()()()が?冗談でしょ?〉

 

〈お前はムーア大尉の爪の垢でも煎じて飲め。礼儀というものを知らないようだからな。こんな奴がCEOとは…〉

 

〈なに喜んでるんだよ、気持ち悪い。歳を考えたら?言っとくけどね、アイツは私の勧誘に興味を持ってくれたんだから。お前みたいな()()()()が社長の会社には興味ないみたいよ?〉

 

 ──何故だろう。急に雲行きが怪しくなってきた。

 

 今すぐにでも通信を切りたいが、生憎と口を挟んだ以上はそれも叶わない。

 

〈──ふん、なんとも幼稚な挑発だな。ムーア大尉の義肢や義眼を提供しているのは我がエリシオンだ。性能に満足してくれている証拠だろう。それに彼は昨日、私の私兵となることを話し合いの場で提案したのだぞ?〉

 

〈──は?それがなに?その程度でマウント取ってくるなんてダサい。──ところで私兵ってどういうこと?アンタ、私の勧誘は蹴ったじゃない。あ、年増の方が好きなんだ?意外ね。ならアンタ好みの女を揃えて上げるからこの前の話、前向きに考え直してくれない?〉

 

〈ムーア大尉がそのような低俗で下賤な勧誘に頷くと思っているのか。おめでたい頭をしているようでなによりだ〉

 

「…………」

 

 もう切っても構わないだろうか、と彼は思わずラピへ視線を向けて無言のまま問い掛けるも優秀な部下は肩を竦めるだけである。

 

「…話を元に戻しますが…今回の一件は現場で発生したトラブルでしかありませんので、アブソルートならびにカウンターズの両分隊へ対する作戦妨害ではないと指揮官として保証します。シフティー。以上を記録してくれ」

 

〈り、了解しました〉

 

〈だって。聞こえた?〉

 

〈…ふむ…ここはムーア大尉の顔を立てよう。君が()()()()()と覚悟を決めた勇気に免じてだ〉

 

〈さっきから馬鹿のひとつ覚えみたいに。更年期障害でも始まったの?()()()()?──あぁ、メティス。こっちは片付けておくからヘレティックの破片を絶対に見付けて来てね。分かった?〉

 

〈ムーア大尉。私の信頼を裏切るようなことはないと信じているぞ〉

 

〈はぁ?もう上司気取り?お前の方がよっぽどおめでたい頭を──〉

 

「──通信終了。シフティー、切ってくれ」

 

〈狭い──あ、はい。了解です〉

 

 オペレータールームで新たな諍いが発生しそうな空気を感じ取るとムーアは通信を一旦切ることを決意した。シフティーには気の毒だが、もうこれ以上の遅滞は許されない。

 

 求めに応じて彼女が通信を切れば、やっとハウジングの奥が沈黙する。それへ安堵の溜め息を漏らしつつ彼はすっかり短くなり、吸い口まで達してしまいそうな煙草を携帯灰皿に投げ込んだ。

 

「──前進しよう」

 

「…いやぁ…助かったよ。ありがとう大尉」

 

「…別に構わん。事情を説明せんとイングリッド社長も納得せんだろうし、なによりこれ以上、()()()()()に時間を持って行かれたくない」

 

 肺へ残った紫煙を吐き出すと彼はポケットから包装された丸いガムを取り出した。今朝の朝食の戦闘糧食へ同封されていた物だが、食べずに取っていたのだ。

 

 包装を破き、それを口腔へ投げ込んで噛み始めるとピリッとした刺激が走る。カフェインや刺激成分がこれでもかと詰め込まれたガムだ。

 

「…愛されているのね」

 

「ん?あぁ、私達?」

 

 前進を始めて間もなくラピが少し先を歩くマクスウェルへ声を掛けた。

 

「えぇ。…シュエンがあんな風にニケに接するのは初めて見たわ」

 

「まぁそうだね。自分で言うのもなんだけど私達は優秀だから」

 

 ガムを咀嚼しつつ彼は隣を歩くラピ、そして先を進むマクスウェルへ交互に視線をやりながらも街路の周辺や無人の建物へ間断なく警戒の瞳を向け続ける。

 

「でも根本的なものは変わらないよ?」

 

「…根本的なもの?」

 

「──()()()()()、という根本か?」

 

 口を挟むと傍らのラピの視線が、続けて肩越しに振り向いたマクスウェルのそれが彼へ向けられる。

 

「本当に察しが良いね。そう、ニケにしては可愛がってるだけ。バッテリーがギリギリなのに容赦なく地上へ上がらせたのを見ても分かるでしょう?」

 

 隣でラピの小さな嘆息がムーアの耳朶を打つ。横目を向けると彼女は紅い瞳をマクスウェルから逸していた。

 

「私達はあいつにとって性能の良いおもちゃだよ。自分の面子(メンツ)を立ててくれる自慢できるおもちゃ。それ以上でも以下でもない。ずっと前からそうだったから──…あぁ、でも…」

 

 ふとマクスウェルが考え込み、再び肩越しにムーアへ振り向くとターコイズブルーの瞳を向けた。──さながら“面白い玩具”を見付けたように瞳を細めながら。

 

「ここ最近、なのかな?何ヶ月前からかニケのことを()()って滅多に呼ばなくなったんだよ。ちょうど前哨基地へ行ってからね」

 

「…ほぅ?」

 

 先を進んでいたマクスウェルが身体毎、振り向くとムーアへ歩み寄る。自然と立ち止まった身長差のある彼を下から見上げ、八重歯を覗かせながらターコイズブルーの瞳を向け、興味津々の様子だ。

 

「なにか知らない?あのシュエンを少し変えちゃった切っ掛けとか?」

 

「生憎と心当たりはないな」

 

「ふぅん?」

 

 忙しなくガムを咀嚼する動きに合わせて乾燥気味の唇から紡がれる言葉にマクスウェルの口角が緩んだ。

 

「──重い話は止めよう!私達に必要なのは勇気だ!行こう!ヘレティックの破片を捜すのだ!もちろん、その功績はアブソルートと分ける!きっちり!半分ずつ!それが正義!輝かしい正義なのだから!」

 

「…キミのところのリーダーは()()が通常運転か?」

 

「…私達のことは眼中にもないみたい」

 

「ご、ごめんね?悪気がある訳じゃないから…ね?」

 

「…まぁ別に構わんが。目的が達成されるなら功績云々は二の次、三の次で構わん」

 

「助かるよ…」

 

 突如として上がったラプラスの気合いの籠もった宣言を彼は肩を竦め、ラピはなんとも言えない表情を浮かべながらそれぞれの反応を示した。平謝りするマクスウェル──その背後に見える倒壊した建物の物陰で赤い単眼が光ったのをムーアが捉えるや否や、彼は指先で突撃銃の安全装置を外す。

 

「──敵襲!!」

 

 眼前のマクスウェルの肩を掴み、横へ退けると彼は銃口を指向し、引き金を引く。

 

 銃声が響き渡り、排出された薬莢が乾燥した地面へ散らばる中、何発もの銃弾を食らったラプチャーが爆散する。

 

「──指揮官!前方にラプチャーが!」

 

「──アリみたいに出てきたな!」

 

 ラピが警告を発しつつ自身の突撃銃を構える中、メティス分隊もそれぞれの火器を携えて駆け出した。

 

 ムーアは1機を撃破したのに合わせ、群れで襲ってくるラプチャー達をアリと形容したが、或いはミツバチの方が正しいのかもしれない。

 

 ミツバチの働きバチには仲間へ警報を伝えるフェロモンを放出する習性がある。巣の仲間に敵襲を知らせるフェロモンであり、これを感じ取った多くの働きバチの攻撃性を誘引するのだ。

 

 さながらそれを思わせるラプチャーの攻撃だが、メティス分隊というミシリスの最高戦力の前には少しばかり力不足かもしれない。

 

 ラプラスのランチャーから光線が、マクスウェルの身体へケーブルが繋げられた彼女自作の狙撃銃が、そしてドレイクの大粒のペリットが吐き出される散弾銃が火を噴いてはラプチャーを1機、或いは纏めて薙ぎ払われて行く。

 

 しかし──

 

「──数が多い!」

 

「──うむ!予想を上回るな!ラプチャーの数が!」

 

 撃破する度にラプチャーの数が増えている気がしてならない。攻撃の手は緩めていないが敵は数の有利を分かっているからか、ジリジリと撃破された残骸を踏み越えて接近してくる。

 

「もう少し弾薬(タマ)を持ってくるべきだったな。後悔してる」

 

 倒壊した建物の中へ移動した彼女達と共に彼も続く。弾倉を交換しようとマグポーチ(弾嚢)を漁るムーアだが、その中身は残り1本しかない。空弾倉が入ったダンプポーチから弾薬を撃ち切ったそれを床へ並べると背負っていた背嚢を下ろした。

 

 背嚢の中から引きずり出した薄い合成樹脂の箱。その中身を引き抜くと金属の挿弾子(クリップ)へ一列に纒められた突撃銃の弾薬が並んでいる。付属の器具を空弾倉へ取り付け、挿弾子を挿し込むと上から指で圧して一気に弾薬を装填する。

 

 それを何度も繰り返し、空弾倉を弾薬で満たすと弾嚢の中へ納めていった。

 

「シフティー、以前と現在のラプチャー分布図を比較して!」

 

 飛び込んで来たばかりの入口へ張り付いたラピが外を窺いつつ構えた突撃銃の引き金を引く。その最中に呼び出したシフティーへ要請して暫く経った頃、ハウジングの奥でノイズが走った。

 

〈──お待たせしました!以前に比べ、312%上昇しています!〉

 

「さんびゃくう〜!?多いとは思ったけど、これは酷すぎない!?」

 

「奴等も狙っているんでしょうね。ヘレティックの破片を──ッ!」

 

「カバーする。弾倉に再装填(リロード)しろ」

 

 ラピの突撃銃が弾切れを報せる。それに気付いたムーアが駆け寄り、彼女の肩を叩くと床へ置いたままの背嚢を指し示す。頷いたラピが場所を交換し、彼が代わって入口へ張り付く。

 

 光学照準器(ACOG)を覗き込み、接近してくるラプチャーの1機を捉えるや否や、引き金を短く引いて短連射で3発を叩き込んで敵機の核を撃ち抜いた。

 

「指揮官、弾薬を頂きます!」

 

「あぁ、好きなだけ持って行け!──訂正する!いくらかは残してくれ!」

 

 ラピも手持ちの弾薬が少ないらしい。彼へ伺いを立ててから背嚢の中身を漁って弾薬を取り出すと、ムーアと同じ手順で素早く空弾倉へ弾込めを済ませて行く。

 

「シフティー!目的地周辺はどうなってる!?」

 

〈はい!目的地に近付くほどラプチャーの密度が高くなっています!乱戦になる可能性が高いです!〉

 

 弾倉を撃ち切り、新しいそれへ交換しつつ彼はマイクに向かって尋ねると返ってきた答えに眉間へ皺を寄せる。()()に、ではなく高くなるというラプチャーの密度へ怪訝な様子を見せたが、やがて目的地に何があるかを思い出せば納得の表情を浮かべた。

 

「あぁ、ラプチャーもヘレティックの破片を回収しようとしているのか。…それだけかは知らんが…」

 

「何かあるかもね。手伝おうか?」

 

「バッテリー切れを起こされては堪らん。手伝いは必要ない。消費を抑えてくれ」

 

「じゃあお言葉に甘えるよ。にしても乱戦か。──ねぇ知ってる?」

 

「…何が?」

 

「指揮官の死亡率が一番高いのって乱戦の時なんだよ?」

 

 唐突にマクスウェルが歩み寄って来たかと思えば、真横の壁へ背中を預けながら意味ありげな微笑と共にムーアへターコイズブルーの瞳を向ける。

 

「全方位からの攻撃、ごっちゃになる敵味方の識別、誤射も多くなり、統制が取れなくなって混乱する。そんなところか?」

 

「まぁそんなところ」

 

「そんなもの指揮官に関わらずだろう。大昔の戦争──フランスとイングランドの百年戦争や、それ以前のモンゴル軍が侵略した各地の戦場でも敵味方入り乱れての乱戦は双方とも比較的、死傷率が高かった筈だ。ちょうどこの辺りだぞ。何百年も前に人間同士の戦争があったのは」

 

「へぇ、歴史に詳しいんだね」

 

「こっちも戦争をやってるんだ。知らなくてどうする」

 

 マクスウェルが感心するように軽く口笛を吹くも彼は大した反応を見せずに再び突撃銃を構えてラプチャーへ向けて銃撃を加える。

 

 白兵戦による乱戦──敵味方双方入り乱れての戦闘は混乱を起こし易いと相場が決まっている。故に指揮を執る人間の統率力や統制が問われるが、冷静さも容易く喪失する場面でもある。一瞬でも思考が停止し、次の行動の指示が出せなくなった時が最後だ。

 

 数の有利を利用する敵に文字通り、()()()()()()というのは過去の数多ある戦争でも度々見受けられた場面だろう。

 

「ふぅん?それを知ってるのに余裕そうだね?その自信は何処から来るのかな?」

 

「余裕そうに見えるか?アークに帰還したら眼球を交換した方が良い。もう一杯一杯だ」

 

 明るい声で彼女が尋ねて来るからかムーアも皮肉と軽口を混ぜて返す。突撃銃が再び弾切れを起こすと、屋内へ身体を引っ込めて弾倉を引き抜いて新しいそれと交換するが──どうにもこれ(ガム)では気合いが入らない。

 

 ポケットへ仕舞っていた包装を取り出し、それへ噛んでいたガムを吐き捨ててしまう。ポケットに捩じ込み、ポーチからソフトパックを引き抜いて振り出した煙草の一本を銜えた。

 

「──まぁ、()()()()()()()と自覚している人間だ。その時が来たら死ぬだろうが、それまでは諦め悪く戦うつもりでもいる。簡単には死なないだろう。それにラピがいる。心強くて仕方ない」

 

「──はい。何があっても指揮官は私が守ります。どうぞ」

 

「──ありがとう」

 

 空弾倉への装填を済ませたラピがムーアと交代しようと歩み寄ると、ポケットからターボライターを取り出した。それを翳して見せるや否や彼が礼を告げながら銜えた煙草の先端を近付ける。ボタンが押され、青い火が噴き上がった。

 

 自然な動きで差し出されたターボライター。そして同じく自然な動きで煙草へ火を点ける姿を見たラプラスがおもむろに声を掛ける。

 

「──ラピ。君は指揮官と()()()()()だ?」

 

 彼と応射の交代をする寸前、ラプラスから問われたラピは質問の真意が分からなかった。

 

「…部下(ニケ)上官(指揮官)の関係よ?」

 

「いや、そういうことを聞いているんじゃない」

 

 ではどういう意味で尋ねたのか。ラピが怪訝な様子となる中、ラプラスは改めて真意を口にする。

 

「──失礼かと思ったが、二人の作戦遂行の内訳を調べさせてもらった。その結果、()()()()()()()()()()()()とは思えない」

 

「……え〜?なになに?まさか二人…?」

 

 興味津々とマクスウェルが瞳を輝かせながら紫煙を燻らせつつ射撃を続けるムーアとその傍らのラピへ順繰りに視線を向ける。どのような想像をしているのかは予想するまでもないだろう。

 

「私の感想としては…戦友に近い感じの印象を受けた。──大尉。この感想は間違っているか?」

 

「──いや、その感想が一番しっくり来る」

 

「…そうか」

 

 彼のヘッドセットはノイズキャンセリング搭載のそれだ。銃声や爆音を搔き消し、会話を増幅して聞き取ることが可能のそれはラプラスの言葉を確かにムーアの耳へ届き、やがて彼を首肯させる。

 

「──()()()()()()()()か。誰かに言ったら笑われるだろうな」

 

「ハハハ!!」

 

「ちょっと止めてよドレイク!大尉、めっちゃ睨んでるの見えないの!?」

 

「…済まない」

 

 ドレイクの名誉の為に言えば、彼女は肯定した彼の考えを否定しようとした訳ではない。少し重い雰囲気を払拭しようと笑ってみただけなのだ。

 

 ただし時と場合を考えないそれはサングラス越しとはいえ、細められた濃い茶色の瞳が向けられてしまう理由に充分すぎたらしい。

 

「──ニケと人間は戦友になれない。ニケは人間を守る存在。助けてもらうことなんて有り得ない。──しかしカウンターズ。君達は指揮官に、つまり人間に助けてもらったことが数回あった。それではダメだ!!助けてもらうなんて、守られるなんて!!ヒーロー失格だ!!」

 

「…キミの信仰を否定するつもりは毛頭ない上に、それが本来のあるべき形だとは理解もするが…そこまで言われることなのか?」

 

「…ごめんね?」

 

 ()()()()()が発症した──むしろ、常時その状態であるリーダーだ。これでも人一倍の正義感はあるのだ、と言わんばかりにマクスウェルはムーアへ頭を軽く下げた。

 

「…私はヒーローじゃないわ」

 

「いいや!全てのニケはヒーローになるべきだ!そうなるべきなんだ!そうしないと地上は奪還できない!!」

 

「…ラプラスってたまに変なことを言うんだ。気にしないで」

 

「どこが()なのだ!何度も言ったように──」

 

「──ラプラス」

 

 これ以上、場が混乱する前に抑えさせようとマクスウェルが動くが──その時、ムーアがラプラスの名を呼ぶ。

 

 傍らのラピの肩を叩き、応射の交代を頼むとムーアに代わって彼女が射撃を始めた。

 

「なんだ大尉?」

 

「──英雄(ヒーロー)とは、なろうと思ってなるモノではない。少なくとも俺はそう考えている」

 

 弾倉を抜いて残弾を確認してから、再び突撃銃の弾倉挿入口へ叩き込んだ彼が身長差のあるラプラスを見下ろしながら淡々と述べる。

 

英雄(ヒーロー)とは──()()を成し遂げた人物が、いつの間にか勝手に周囲からそう評価されている存在だろう。その存在になる、という願望を前提にして英雄(ヒーロー)になった者は……まぁ過去の歴史上、居ないことはないんだろうが、きっと少ない筈だ」

 

「何が言いたい?」

 

 要領を得ない、とばかりにムーアが口にする──いわば“英雄論”。その真意をラプラスは尋ねるが、彼は銜え煙草のまま紫煙を燻らせつつ肩を竦めた。

 

「いや、なに……キミの“正義”や“理想”を否定するつもりはない。──過去の歴史上、数多存在する英雄と呼ばれる者達は()()()()()()()英雄になったのか、と思っただけだ」

 

 




おそらくこの世界線(作品中)では()()という存在に最も近い男(なのか?

いずれエリシオンVSミシリスによるムーア大尉争奪戦の幕が開く……可能性大(そこにテトラ参戦!
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