勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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いつも拙作を御愛顧下さりましてありがとうございます。

ちょっとしたご連絡になります上に投稿下さった方のご感想も消えていましたが「類似設定が他の作品で見受けられる」との御指摘を頂きました。その点は私も確認しておりますが、当方はまったく気にしませんのでどうぞお好きに設定を引用・使用して下されば幸いです。ご感想でも頂いた際に、一言お知らせ下されば……まぁそんな面倒臭いことしなくても結構ですので。

後書きにて少しだけ詳細を載せておきます。


第7話

 

 

 

 

 目的地へ辿り着いたとハウジングの奥でシフティーが報せて来る。

 

 その報せは良いのだが、ムーアは怪訝な様子で周囲を見渡した。

 

「──指揮官、信号弾を撃ちます。アブソルート、アニスにネオンと合流しなければなりません」

 

「あぁ、分かった。頼む」

 

 傍らのラピが頷き、腰の左右へ下げているベルトにいくつか並んだ擲弾の中から信号弾を選び取る。それを突撃銃の銃身下部へ取り付けた擲弾発射器へ装填する様子を横目で捉えながら彼は周辺へ視線を向けるも──事前情報と実際の現場、その乖離した状態に眉間へ皺を寄せた。

 

「…シフティー。ここで本当にヘレティックが撃破されたのか?」

 

〈はい、座標上ではそのようになっています〉

 

「……何も無い…いや、あるんだが……」

 

 ──()()すぎる。

 

 漏れかけた言葉を喉の奥へ引っ込めた矢先、傍らで上空に向けてラピが信号弾を発砲する。気の抜ける発射音が響き、上空にマグネシウムが燃焼する閃光が放たれた数秒後──傘を展開して降下していたそれが砕け散った。やや遅れて遠方から銃声が届くとラピが溜め息を吐き出してムーアへ視線を向ける。

 

「…ウンファが信号弾を発見したようです。それに…まだ相当怒っているようですね」

 

「…うっ…土下座の練習でもしておこうかな…」

 

 メティス分隊のブレーンであるマクスウェルがまた矢面へ立たなければならない予感を抱いたらしい。彼女が項垂れる横でリーダーのラプラスが視線を周囲へ送り、やがて首を傾げた。

 

「…ところでここだが…何もない」

 

「……シフティー。重ねて聞くが、ここで間違いないのか?」

 

〈はい、指揮官。間違いありません〉

 

「…おかしいね」

 

 ムーアが念の為となる二度目の問い掛けを口にしたがシフティーは肯定を返す。それにマクスウェルが首を傾げ、続けてラピが頷いた。

 

「平坦すぎるわ」

 

「だよね?ヘレティックと戦った場所がこんなにキレイなはずないよね」

 

「事前情報では撃破した瞬間にヘレティックが爆発してクレーターが出来たんだろう?…焼け野原にもなったと聞いたが…」

 

 街並みが()()()()である。巨大なクレーターが穿たれる程の爆発だとすれば、衝撃波で周囲の建造物は尽く吹き飛ばされる筈だ。

 

 だというのに何故かは分からないが、倒壊や半壊している建物こそあるが大半に衝撃波を食らった気配は感じ取れない。

 

 カチン、と彼は無意識に突撃銃の安全装置を外した。

 

「覚えてないの?」

 

「勘弁してよ…メティス分隊(こっち)だって死にかけたんだから。覚えている訳ないでしょう?」

 

 アブソルート分隊、そしてメティス分隊ともども廃棄寸前まで至った激戦だったのだ。無我夢中で当時の記憶が曖昧になっている、と暗に語るマクスウェルへラピも一応の納得をしたらしい。となれば──と予想を呟く。

 

「…座標がダミーデータなのかしら?」

 

〈えっと…地形と近くの環境をマッチングしてみますね?〉

 

 それに反応したシフティーが手元の機器を操作しているのだろう雰囲気が察せられた。直ぐにその照合結果が出たのだろう。彼女が息を飲んだ音がハウジングを震わせた。

 

〈──っ!偽の地形です!!〉

 

 ──その瞬間のことだ。地面から飛び出した4本の触手らしき何かが目にも止まらぬ速さでラピとメティス分隊へ向かい、彼女達の胴体へ突き刺さる光景がムーアの視界へ入り込む。

 

 反射的に彼は突撃銃を構え、彼女達の胴体へ突き刺さった触手らしき物体を指向した銃口でなぞるように引き金を引いて銃撃を叩き込んで切断する。──ブラックスミスの時も似たような場面があったな、と何気なく考えてしまった。

 

「──ラピ!」

 

「──大丈夫です!」

 

 ラピへ駆け寄り、彼女の背中を左手で支えつつムーアは損害を確認する。胸のすぐ下を貫かれただろうに。本当に問題ないらしい。ラピは突き刺さった触手の残骸を引き抜くとメティス分隊にも損害はどうか尋ねた。

 

「軽微!」

 

「擦り傷だ!」

 

「浅はかな手だ!私も問題ない!」

 

「…キミ達が羨ましいよ」

 

 これが人間であったら──内臓へ何かしらの損傷を負っているだろう。仮に肺でもやられたら血の泡を吐き出しながら悶え苦しむに違いない。

 

 思わず羨望の声を漏らした彼に背中を支えられたラピが薄く苦笑を浮かべた。しかしその表情を引っ込めた彼女が直ぐにオペレーターへ尋ねる。

 

「シフティー!ラプチャーの反応は!?」

 

〈ラ、ラプチャーの反応はありません!偽の地形の下に妨害装置(ジャマー)が存在する可能性が高いです!〉

 

「地形の規模は?」

 

 無線越しに尋ねるラピの様子を彼は伺うが──本当に大丈夫らしい。胴体へ穴こそ空いているが、触媒の流出は軽微だ。

 

 その気遣わしげな彼の視線を感じ取ったのだろう。ラピが紅い瞳をムーアへ向けつつ頷いてみせた。心配しないで欲しい、という意味を込めた頷きを受け取った彼は離れる間際に彼女の背中を軽く機械仕掛けの手の平で叩いた。

 

〈解析完了!過去に比べて現在地の地面が200mぐらい盛り上がっています!〉

 

「…わざわざ埋め立てた上に建物まで…ご苦労なことだ」

 

「みたいだね。こいつら何をそんなに大切に隠しておいたのかなぁ?」

 

 引き抜いた触手の残骸を投げ捨てたマクスウェルが穴が空いた胸の下を軽く叩きつつ軽口と共にムーアへ水を向ける。

 

「あっちも本気なんでしょうね。ヘレティックの破片を──」

 

〈──上空にラプチャー多数!間もなく接敵しま…これは!?〉

 

 ハウジングの奥でシフティーの警告が飛ぶと同時に彼等を取り囲むかの如く地面から数え切れない程のラプチャーの群れが生えて来る。さながら種子から芽吹いた先端が顔を覗かせるような恰好である。正直に言ってあまり気持ちの良い光景ではなかった。集合体恐怖症(トライポフォビア)を持っている人間は間違いなく潜在的な恐怖を抱くであろう。

 

 その光景にムーアが舌打ちを一発響かせるや否やマイクへ向かって声を張り上げる。

 

「上下で挟み込むつもりか!シフティー、規模は!」

 

〈100機あまりです!〉

 

 数が多い。

 

 これは間違いなく()()となるだろう。

 

「卑怯な悪党共…!待ち伏せなんて恥を知れ!」

 

「まぁまぁ。でも姿を見せてくれて良かったよね?」

 

「勿論だ!」

 

「フフフッ…良い!そう来ないと!」

 

 メティス分隊のラプラスとドレイクが武装を展開し、マクスウェルが背中へ繋げた太いケーブルの先にある自作の狙撃銃を構える。

 

 それを視界の端へ捉えながら──ムーアは口角が緩む衝動を抑え切れずにいた。

 

「──覚悟しろ悪党共!貴様らの邪悪な陰謀は、我々メティスが放つ正義の光で消えるだろう!──エンカウンター!!」

 

 ラプラスの交戦宣言と同時に彼等を取り囲む地上のラプチャーの群れが、そして上空へ殺到した飛行型の敵機の編隊の赤い単眼が怪しく点灯する。

 

 どうやら一斉に攻撃を仕掛けようと機会を窺っているようだ。それを察しながらラピは突撃銃の銃口を敵の群れへ向けつつ、背中合わせとなったムーアへ声を掛けた。

 

「指揮官!私から離れないで下さい!」

 

「…そうも言ってられないぞ。固まると集中砲火を浴びて、下手をすれば共倒れだ。散開しよう」

 

「…しかし……分かりました。でもあまり離れないで下さい」

 

「あぁ、()()()()()()()()()気を付けよう」

 

 別の意味に聞こえてしまう辺り、彼も意図的にそう返したのだろう。ラピは溜め息を吐くが──少し安心もした。軽口が叩けるなら、まだ余裕の証拠である。

 

 改めて全身に硬直しない程度の緊張を走らせ、交戦に備えた矢先、ラピが銃口を向けたラプチャーの1機の砲口が光り始めた。

 

「──来ます!」

 

 ムーアへ警告を発すると同時にラピが引き金を引く。その直後に鳴り響いた銃声が本格的な交戦の号砲となった。

 

 

 乱戦は古今東西に於いて最も指揮官の能力が試させる瞬間と言っても良いだろう。或いは兵士達にとっては一種の()()()だろうか。

 

 何処を見渡しても敵しかいないと言うのに周囲から響き渡る蛮声や怒号、悲鳴は容易く敵味方の識別へ不調を来す。

 

 これが入り乱れての戦闘となれば尚更だ。反射的に発砲した先に味方が立っており、銃弾が背中を貫く──ということも起こり得る。

 

 そして時々程度の頻度の話になるが気に入らない上官を交戦のどさくさで()()()を装っての射殺という後ろ弾も発生しやすくなる。

 

 部内の虐め等を厳禁にする理由のひとつにこれを危惧するのが含まれる程だ。

 

 ──その点は安心か。

 

 思わずムーアは口角が釣り上がる。突撃銃の上部へ備え付けた光学照準器(ACOG)が意味をなさない程の近距離である。

 

 目と鼻の先に敵がいる。生命の息吹を感じられない、無機質な異形の敵が群れを成して彼へ襲い掛かりながら光線を幾筋も放って来るのだ。

 

 それを地面へ転がって避けながら射撃し、半ば()で敵機を撃破する。弾倉が空になれば、すぐさま交換だ。ボルトストップが掛かっている突撃銃のボタンを掌底で叩いて薬室へ弾を送り込む。ボルトフォアードアシストも続けて叩いて薬室を強制閉鎖。

 

 銃口を向け、引き金へ指を乗せ、引き絞って、引き切る。

 

 短連射で3発の銃撃がラプチャーの核を砕いて沈黙する。

 

 地上を進むラプチャーを、そして上空から狙いを付けて攻撃を仕掛けてくる敵機へ銃弾を浴びせ掛けては撃破し、やがて再びボルトストップが掛かった。弾切れである。

 

 慣れた手付きのまま弾倉を交換しようとした瞬間──真横で金属同士が擦れ合う駆動の気配を彼は捉えた。

 

 横目を向けると、敵機が砲口に怪しい赤い光を収束させながら接近しているではないか。

 

 既に距離は3mを切っている。しかも薬室には弾がない。

 

 反射的に、だったのだろう。

 

 古今東西、ここまで接近されての攻撃手段は──肉薄しての白兵戦と相場が決まっていた。

 

 突撃銃を両手で握り込み、接近するラプチャーへ身体を向けた彼が右脚で踏み切り、続いて左脚で踏み込むと同時に突撃銃を水平としながら両腕を真っ直ぐに突き出す。──正面打撃だ。

 

 腕だけでなく全身の力を込めての打撃である。彼の質量も相俟ってニケと同等かそれ以上の重量を持つラプチャーが直撃を受けて後退する。

 

 その怯んだ瞬間を彼は見逃さず、突撃銃を用いての連続打撃を加える。ニケの為に頑丈な作りとなった対ラプチャー用の突撃銃なだけはある。これが対人用であれば耐えられなかっただろう。

 

 とはいえ最後に銃床で横打撃を喰らわせた瞬間、突撃銃が軋みを上げた感触を彼は捉えてしまう。これ以上、打撃を加えると銃本体が壊れる可能性を考えた。

 

 ならば──と生身の左脚を軸足にガッデシアムで作られた右脚を振りかぶった。

 

 ガッデシアムの肌の下にみっしりと詰め込まれた人工筋肉が生身の肉体とを繋ぐ接続部を介して届けられる脳からの信号を受け取り、戦闘時の興奮状態を考慮しつつ攻撃を行う際の筋肉の収縮を適切なそれに変換した。

 

 ──蹴りがラプチャーの側面を捉える。直撃の瞬間、周囲に会心の一撃が入ったことを否応なしに報せる金属同士の衝突音にも似た轟音が響く。

 

 思わずラピが、そしてメティス分隊の面々が視線を向けた先で人間に()()()()()()()ラプチャーが吸い込まれるかの如く、建物の壁を突き破って撃破された光景が広がっていた。

 

 突撃銃での打撃の最中、ラプチャーの機械の身体から飛び散った廃液を思わせる黒い体液(触媒)がムーアの顔を彩っている。

 

 それはさながら──返り血のようにも見えた。

 

 

 

 

「……状況終了──指揮官!」

 

 周囲を見渡し、ラプチャーの群れを尽く撃破したと確認したラピが宣言する中、ムーアがおもむろに右脚で地面へ倒れている敵機を踏み付けたかと思えば、引き金を引いて銃声を一発奏でた。

 

「…まだ生きていたように見えてな。とどめを…」

 

「…そんな筈は…間違いなく──いえ、なんでもありません。ありがとうございました」

 

 敵機へ()()()を刺した彼が右脚を退ける。そのラプチャーはラピが確実に仕留めて撃破したと自信を以て言えた。実際、核を撃ち抜いている。最早、ピクリとも動かない筈だったが──ムーアが()()()()()()()()()()()()()

 

 あまり深くは考えないようにしながらラピは頭を左右へ振ると、煙草を銜えながら歩み寄ってきた彼の姿を捉えてターボライターを取り出した。オイルライターを探していた手を止めたムーアが、差し出されたターボライターで火を点ける。

 

「──ありがとう…」

 

「──いえ。…汚れていますよ?」

 

「──ん?…あぁ…悪い」

 

 無精髭が濃くなりつつある彼の顔を彩ったラプチャーの黒い返り血(触媒)。それへ手を伸ばしたラピが手袋で拭い取るも粘性もあってそれほど綺麗にはならなかった。

 

「…御身体に異常は?」

 

「…いや、無いが…どうしてだ?」

 

「いえ…問題ないのならば…」

 

 ブラックスミスとの交戦であの質量を抑え切った人間だ。であれば、あの程度は造作もないのだろうか。

 

 ラプチャーを相手に白兵戦──なんとも無謀じみた戦い方を行った彼を心配して彼女は見上げるが、明らかな異常は捉えられなかった。

 

「…先程、触手に刺された箇所が…少し麻痺している気がする。卑怯な奴等め…毒を使ったのか!」

 

「そう?私はなんともないけど?」

 

 ラプラスとマクスウェルの会話が耳朶を打った彼が思わず傍らのラピへ横目を向けるが、緩々と左右へ頭を振った。彼女は問題ないらしい。

 

 普段と同じ様子で紫煙を燻らせるムーアが安堵の溜め息を吐き出した時──現在地の地面が大きく陥没しつつ揺れ始めた。

 

〈じ、地面が不安定!!もうすぐ崩れます!!全員、落下に備えて!!〉

 

 地面に大きな亀裂が蜘蛛の巣を思わせるように走って行く。

 

 逃げようとしても──間に合わないのは一目瞭然であった。

 

「──指揮官!!」

 

 いくらムーアであってもこればかりは無事ではいられない筈だ。

 

 咄嗟にラピが傍らの長身を誇る彼へ腕を伸ばし、強く抱き締めた瞬間──亀裂が走った地面へぽっかりと空いた大穴へと彼等は重力に従って吸い込まれていった。

 

 

 




一応、私が設定した(?)内容は……まぁ今のところはBCC…これぐらい…でしょうか?(たぶん

Basic Commander's Course(指揮官基礎課程)

ゲーム本編中に指揮官養成の課程の略語等が見受けられませんでしたので本作ではBCCというそれを設定しています。尚、この他にも将官へ昇任する為に必要な課程としてCommand and General Staff Course(指揮幕僚課程)等もある模様。



そして設定ではありませんが、作中で度々登場する「ボルトフォアードアシストを叩く」という表現について。

現実世界に於けるAR-15系列の銃本体、そのチャージングハンドル(槓桿)の下にあるボタンみたいな部品です。これの機能は薬室の強制閉鎖にあります。基本的にAR-15系列の銃は遊底(ボルト)()()()()は可能ですが、押せませんので何らかの理由で閉鎖不良が起きた場合、或いは起こらないよう押し込んで遊底(ボルト)を押し出して薬室を強制閉鎖の後に射撃を可能にするのです。

0章の早い段階からこの動作をムーア大尉(当時は少尉)が実施しておりますが……これ一種のネタバレになりかねない表現なのです。


まぁそんなことは兎も角として──ラプチャー逃げて、超逃げて。
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