勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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ここ最近、忙しいのもあって更新が遅くなりがちで申し訳ありません。




第8話

 

 

 

 重力に引かれて落下する感覚は世辞にも良いとは言えない。ガッデシアムの肌にフレームで構成された肉体を持つニケでも落下の最中に瓦礫に身体を打ち付ければ尚更だ。

 

 それでも強く抱擁した指揮官の身体は決して離さなかったラピは自身がクッションとなって無事に()()へ到着出来たことに安堵しつつ、存在を確かめるかの如く彼の身体をもう一度強く抱き締めた。

 

「──…指揮官、大丈夫ですか?」

 

「…悪い…大丈夫だ。…そっちは?」

 

「…私も問題ありません」

 

 背嚢と背中の隙間へ回していた右腕、そして後頭部を保護する形で回していた腕を離したラピに彼は答えながら身体を起こす。物の見事に落下してしまった。

 

 周囲には地表から共に崩落した土砂や瓦礫が散乱している。鋭い先端を覗かせた鉄筋もあったが、良く無傷に近い恰好で降りて来れたモノだ。

 

 立ち上がった彼は突撃銃の握把を握り込みつつ空いている左手をラピへ伸ばす。それに気付いた彼女が片手を伸ばし、差し出された彼の機械仕掛けの手を掴む。

 

 そのまま引き上げたのは良いが──

 

「…っと…悪い。力加減が…」

 

「…いえ。ありがとうございます」

 

 思っていたよりも力が入っていた上に瓦礫や土砂で少しばかり足元は宜しくない。ヒールの高い靴を履いていたのもあるだろうが立ち上がった拍子にラピがバランスを崩し掛けたのを認め、彼が自身の身体を支えに抱き止めて事なきを得た。

 

「──本当に()()()()()()()()()なの〜?」

 

 直ぐ近くから──傍目には抱擁し合う姿とも取れるだろうが──マクスウェルのからかう声が聞こえるとムーアが溜め息を吐き出す。

 

 抱き止めたラピを離すと彼は瓦礫の隙間から細く立ち昇る紫煙を発見した。落下の最中に零れてしまった愛煙の煙草だ。それを摘み上げると乾燥気味の唇へ銜えて消えかかっていた火種を大きくするかのように強く紫煙を吸い込む。

 

「無事のようでなによりだ」

 

「そっちもね」

 

 身体を汚す土埃を手で払うマクスウェルへ彼は向き直り、彼女の直ぐ背後へ残りの2名の存在も認めた。メティス分隊3名は健在である。

 

 それを改めて確認するとムーアは握っている突撃銃の外観の細部点検を始めた。部品の脱落等は幸いにも見受けられない。

 

「地下にこんな規模の施設があったのか。あいつら…いつの間に秘密基地を…!」

 

 やけにラプラスの声音が嬉々としている。やはり()()()()という存在が彼女の何かを刺激しているのだろうか、とムーアは考えながら改めて周囲を見渡した。

 

「…施設…というよりも……」

 

「…街…ですね」

 

 傍らに立ったラピが呟くとムーアも頷きを返す。地下に廃墟の街並みが広がっていたのだ。

 

 良く見ると建造物のいずれも半壊か倒壊の状態。電柱も認められたが、送電線は全て断裂していた。建造物や電柱、そして路上へ転がる車輌等には焼け焦げた痕跡も見受けられる。おそらくは、になるが──

 

「クレーター…ヘレティックが爆発した際の爆心地を隠すように200m近くも埋め立てたのか?」

 

「…それは分かりませんが…」

 

 そこまで手が込むような真似をする程なのだろうか、と彼女は疑問を抱く。同時にムーアも同様の考えへ至ったようで紫煙を燻らせながら喉の奥で微かな唸りを上げる。

 

 その矢先、両耳を覆っているハウジングにノイズが走り、彼は左手を宛がった。

 

〈──皆さん、ご無事ですか!?〉

 

「全員健在だ。シフティー、こちらの位置は捉えているか?」

 

 優秀なオペレーターが耳の保養になる声で安否を問うて来ると彼が代表して応じる。それにシフティーは安堵の溜め息を吐き出したが、ムーアからの問い掛けには状況はあまり良くないと返す。

 

〈ジャミングが酷すぎて何もスキャンできません。通信もいつ切れるか…〉

 

「…さっき妨害装置(ジャマー)がある可能性が高いと言っていたが…原因はそれか」

 

「じゃあ、まずはジャミングをなんとかしないとだね」

 

〈はい…ですが…そこが問題です〉

 

 ジャミングがある為にスキャン出来ず、スキャンが出来ないからジャミングの発生源の特定が不可能であるとシフティーが語る。八方塞がりと口にした彼女へ彼は頷く。続けてムーアは小さく溜め息を吐き出すと吸い口まで灰になった煙草を携帯灰皿へ投げ込んだ。

 

「…虱潰しに捜索するしかないか?」

 

「大丈夫。心配しないで()()()。こういう時はドレイクが凄く役に立つから」

 

「……()()()?」

 

 誰のことだ、と彼が首を傾げるのにも構わずマクスウェルが散弾銃を肩へ担いでいるドレイクへ視線を向けた。

 

「ドレイク、なんか蠢くような感じしない?ちょっと重〜い感じの」

 

「するぞ!」

 

「じゃあ何処から来ているのか捜して?」

 

「土下座してお願いするなら聞いてやる!」

 

 ドレイクが不遜な様子で言い放つや否や、マクスウェルは握っている自作の狙撃銃を振るう。銃身で彼女が叩いたのは傍らのラプラスの膝裏だ。ガクンと膝から崩れ落ちそうになる彼女だが──気合いを込めてそれへ耐えて見せる。

 

 しかし中途半端なところで耐えているからだろう。産まれて間もない子鹿のように両脚をプルプルと震わせながらなんとか元の位置へ戻り、やがて両手を腰へ宛てがって胸を張った。

 

「ちょっとやってよ?ね?」

 

「──ヒーローは土下座なぞしないのだ…!」

 

「ふん!膝を半分だけ曲げたから、半分だけやってやる!」

 

「そう言わずにやってよ。減るもんじゃないでしょ?」

 

「私の価値が減る!」

 

「…培養肉、奢るから…」

 

「──それならやろう」

 

 苦労しているようだな、と彼とラピは思わずマクスウェルへ視線を向けながら気遣わしげに見詰めてしまう。

 

 ドレイクへ何か頼み事をする際は培養肉を交渉材料にすれば良い。そのような情報がムーアの脳内へ刻まれた。仮に()()()()だとしたら、どのような反応が得られるのだろうとも考えてしまう最中、周囲を窺っていたドレイクが先頭に立って進み始めた。

 

「…半信半疑で悪いんだが…本当に見付けられるのか?」

 

「心配しないでってば。顔に似合わず()()()は心配性だね」

 

「…そのベビーってのは……まさか……」

 

「そうだよ」

 

 進み始めたドレイクに続く途中で彼は先程から気になっていた点をマクスウェルへ尋ねると──彼女は八重歯を覗かせつつ頷きを返して来る。

 

 ()()()()()()()()()での呼称なのか、敢えてムーアは聞かなかった。もし赤ん坊を指すそれの意が込められていると溜め息を隠し切れない可能性が高かったからだろう。もしくは自身へ対する呼称は大概の場合、気にしない性格なのが大きいからかもしれない。

 

「…まぁそれはどうでも良いとして…ドレイクはどうしてジャマーの位置が分かるんだ?」

 

「…うーん…特異体質だから?」

 

「…説明になってないぞ」

 

「じゃあ、さっきラプチャーと白兵戦をやったベビーは?本当に人間?筋肉とか身体の構造はどうなってるの?」

 

「…特異体質だからじゃないか?」

 

「それこそ説明になってないよ〜。まぁ良いや。ドレイクは電波を感じることが出来るんだよ」

 

 大仰に肩を竦めてみせるマクスウェルだが、種明かしはしてくれるらしい。彼女の説明によればドレイクは大半の電波を感じ取る能力を有しているそうだ。

 

 曰く、電波毎の感じが微妙に違うから経験したことがある電波は追跡が出来る、のだという。

 

「…便利だな」

 

〈えっと…それだとオペレーターとしての立場が…〉

 

 なんとも言えない声音でシフティーが率直な感想を口にするとマクスウェルが苦笑を漏らす。

 

「勿論、オペレーターほど正確じゃないよ。でも結構使える。えっと…オペレーター0.7人分ぐらい?」

 

 数値に直されると微妙にも感じるが、現場判断で動くには充分かもしれない。ある程度はメティス分隊単独の行動が可能となる数値でもある。

 

「メティスが作戦を遂行する地域が広範囲に渡るのはこのせいなのね」

 

 得心が行ったのかラピが呟けば、ドレイクと共に先を歩んでいたラプラスが胸を張りながら鼻高々と答える。

 

「その通りだ!電気を補助動力として使うことによって圧倒的に長い間、作戦を遂行でき!マクスウェルの機械製作および修理能力によって圧倒的な維持補修の能力を持ち!ドレイクの電波感知能力によって作戦を遂行できる地域が圧倒的に広くなる!そして、私のヒーロー能力による圧倒的な戦闘力!!」

 

 ──この短い間に()()()を何回使ったのだろうか。

 

 まぁそれだけ自負心があることだろう、と好意的に捉えつつムーアは彼女の演説へ耳を傾けた。

 

「この全てが合わさってメティスは名実ともに最強の分隊となるのだー!!」

 

 拍手でもすべきだろうか。思わず彼が考えた傍らで不意に小さな溜め息が漏れ聞こえる。

 

「──()()か…」

 

 ラプラスが口にした単語を繰り返したラピの声音には異を唱えたいかのような響きを孕んでいた。その響きを聞き取ったのだろうラプラスが立ち止まるや否やラピへ振り返る。

 

「異論でもあるのか?」

 

「…いや、なんでもない」

 

「──意見があるなら謙虚に受け入れよう!」

 

 ──()()の意味はいつから変わったのだろうか。自信満々に答えるラプラスの姿を見たムーアが漠然と意味もない考えを脳内に巡らしている最中、隣へ立っているラピが再び小さな溜め息を吐き出した。

 

「──…戦う敵が明確なこの時点で、()()という称号に何の意味があるのか…と、考えただけよ」

 

「………」

 

「…ごめんなさい。忘れて」

 

 返すべき答えを探しているのだろうラプラスが窮しているのを見たからかラピはそれ以上の言及はしなかった。

 

 やがてドレイクが通信やスキャンを妨害しているジャマーの存在をはっきりと感じ取ったらしい。彼女の案内で再び歩き始めて間もなくのことだ。

 

 妨害装置、なのだろう。大量の棒状のアンテナらしき物が生えている機器の周囲を6機のラプチャーが警備している区画へ辿り着いた。

 

「──じゃあ、壊そうか」

 

 随分と気軽に言ってくれるマクスウェルがムーアの背中をポンと叩くと、彼は溜め息混じりに肩を竦めつつ──擲弾発射器へ装填した擲弾を妨害装置へ向けて発砲した。

 

 その擲弾が見事に命中し、妨害装置から火花が飛び散った瞬間、待機していた彼女達が各々の火器で一斉射撃。

 

「──Cease fire(撃ち方止め)

 

 この状況で無駄弾は撃てない。全ての敵機の撃破を認めた彼が号令を出すと全員が射撃を止めた。

 

〈──ジャマーの無力化を確認。通信感度は良好です。そちらはどうですか?〉

 

「こちらも感明良好だ。シフティー、周囲のスキャンと敵影──」

 

 シャコンと音を立てて擲弾発射器から擲弾の薬莢を排出して直ぐのことだ。

 

 ()()()()()を背後に感じた瞬間、彼は突撃銃の安全装置を外しつつ振り向きざまに銃口を向ける──のだが、その正体を認めた途端、銃口を指向させようとする動きを押し止める。

 

 しかし()()()は握った火器を──ムーアへは向けず、主にメティスへ指向しながら口を開く。

 

「──Freeze(動くな)

 

「──火力を愛さないと撃ちます。合言葉を。──火力」

 

 ──そんな合言葉は知らない。

 

 とはいえ、思い当たらないとは言えず──ムーアは脳内へ浮かんだワードを返した。

 

「……あ〜……バンザイ…?」

 

「──確認を完了しました。この方は良い方です」

 

「…サイコーでも合ってたか?」

 

「はい♪」

 

 ムーアは自身の弟子を称するネオンと軽い応酬を交わしつつ、片手を上げるアニスへ同じ仕草を返して見せる。

 

 彼女達の背後へアブソルート分隊の姿を認め、やっと合流できた安堵もあってかムーアは無性に煙草が吸いたくなった。

 




あ、目次にもある通り、ツイッターのアカウント開きました(だからどうした
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