勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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次の話でこの章を終わらせて……早く総力戦に…!!


第9話

 

 

 

「──何?お腹痛いの?誰か来ないか見張ってあげようか?音楽要る?」

 

 合流したは良いが、随分と賑やかになったモノだ。先を進むアニスがウンファを相変わらず、からかっている様子を眺めながらムーアは()()()を覚えていた。

 

 合流を果たした後に前進を始めたのは構わないのだが──進んでいる気がしないのだ。

 

 街路なのだろう。アスファルトが所々、捲れ上がった道を進むと廃車同然の乗用車の残骸と擦れ違うのだが、暫く歩いていると再び()()()()()車両が視界へ入るのである。

 

 おもむろにムーアは左袖へ差していた赤色の蛍光マーカーを抜き取ると、キャップを開けて擦れ違い様に錆びた車体へ一本の線を引いた。

 

 勘違いであればそれで構わない。キャップを閉じて袖のペン差しへ蛍光マーカーを戻すと突撃銃を改めて握り込む。

 

「…ここは敵陣だと言っただろうが。お前はその口を何とかしろ」

 

()()()()()()()?じゃあキスして?」

 

 相変わらずの様子でウンファに向かって唇を突き出すアニスへアブソルート分隊のリーダーの身体が怒りもあってか小刻みに震え始めた。

 

 普段は自分を言い負かしている相手があのような様子になるのは新鮮なのだろう。ベスティーが笑みを浮かべるのだが──

 

「……おい、ムーア」

 

「──なんだ?」

 

「…お前の部下がキスで口を塞いでくれ、だそうだ。塞いでやれ」

 

「…まぁ減るモンじゃないし、俺は別に構わんが。──アニス、俺は目を閉じておいた方が良いか?希望があるなら聞いておくぞ」

 

「──へ!?」

 

「こ、ここで…!?」

 

 彼が言葉の通り、全く気にしない様子でアニスへ歩み寄る。彼女はそれを見て瞬間湯沸かし器の如く顔を紅潮させ、ベスティーは刺激が強すぎると言わんばかりに両手で目を塞ぐが──その指の隙間から覗き見ていた。

 

「だ、大丈夫だから!ちゃんと黙るから!」

 

「…それなら良いんだが…」

 

 彼に次いで長身のエマの影へ隠れたアニスが慌てて無用を告げる。ムーアはそれに残念がることもせず、マクスウェルの背後へと視線を向けた。

 

「ん?どうしたのベビー?私にキスでもしてくれるの?」

 

「…違う。…マーキングが…」

 

 マクスウェルの背後にある錆びた乗用車の残骸。その車体へ赤い蛍光マーカーで描かれた一本の線が浮かび上がっている。それを顎で指し示したムーアはポーチから引き抜いた煙草を銜え、オイルライターの火を点ける。

 

「…ってことは…つまり…?」

 

「同じ場所を歩いているってことだ」

 

 エマの影から出てきたアニスへ返しつつオイルライターを仕舞った彼は周囲を見渡す。間違いなく()()()()()はずなのだ。だというのに──

 

「──私達…無限の迷宮にでも入って来ちゃったのでしょうか…」

 

「そんなファンタジー小説のようなモノがある訳ないでしょう?」

 

〈座標上では…ちゃんと進んでいます〉

 

 アニスとネオンが顔を見合わせる中、ハウジングの奥からシフティーの困惑気味の声が響いて来た。オペレーターとしては俄に信じられないのだろう。

 

「ということは…私達の移動に合わせて周りも動いているってことか…」

 

「そんなことが出来るの?」

 

 マクスウェルの推測にラピが率直な疑問を尋ねると彼女は肩を竦めた。

 

「まぁ出来ないことはないね。この場所がラプチャーの制御下にあるなら。…思ったより大物かもしれない。あの触手といい、此処といい」

 

「随分と凝った仕掛けだな」

 

 彼はマクスウェルの推測を聞き取りつつ銜えた煙草から紫煙を燻らせ、率直すぎる感想を述べた。ニコチンが良い具合に脳髄を少しだけ痺れさせる酩酊感を覚えながら肺へ送り込んだ紫煙を緩く吐き出す。

 

「…でもおかしいわよ。ここまでする必要なんかないのに。オペレーターがいるんだから、こんな真似は意味がないって考えないのかな?」

 

「…オペレーターがいない状態のニケを狙ってる…?パニックに陥れ易い方法ではあるから…」

 

「こんな閉鎖的な場所に()()()()()()()ニケ達の為にこんな大規模な仕掛けを?効率悪すぎない?」

 

 ラピとアニスが現在の異常な状況について話し合う様子を伺いながらムーアは短くなりつつある煙草を携帯灰皿に投げ込んだ。肺へ残っていた紫煙を吐き出して一服を終わらせると改めて視線を周囲に向けた。

 

「そもそも…ここはなに?ヘレティックの破片を回収する為とはいえ、普通ここまでするかな?」

 

「うーん…どうだろう。それは考え難いかな。()()()()と見た方が妥当だね」

 

「心当たりは?」

 

 なにせヘレティックと交戦し、生き残った分隊が二個もこの場には存在している。その片方──メティス分隊のマクスウェルへアニスが問い掛けるも彼女は左右へ首を振ってみせた。

 

「…うーん…なんだろう…嫌な予感がするんだけど…」

 

 アニスが眉根を寄せながら呟くとそれまで話を聞いていたラプラスが反応を見せる。彼女は胸を張り、一同を見渡しつつ口を開く。

 

「心配するな!ここにいるのはただの分隊ではない!ミシリスとエリシオンの最強分隊!相手が誰であれ、絶対に勝利する!」

 

 ──また眼中にないようだな。

 

 ──そのようですね。

 

 一応、カウンターズも健在のままだがラプラスの勘定には相変わらず入っていないらしい。それを察したムーアとラピは互い肩を竦め合った。

 

「…まぁ…それは認めるけど…此処っていわばラプチャーの腹の中のようなものなのよ?」

 

「──腹を切り裂いて出ていけばいいだけの話だ!」

 

「…うん…あ、相手がラプチャーなら…殺せばいいから…べ、別に心配することは…ないと思う」

 

「……言われてみればそうか」

 

 まさかラプラスの言にベスティーが、そしてムーアまで同調するとは思わず、流石のアニスも目が点になったのは言うまでもないだろう。

 

 シフティーに念の為、モニターを注視するよう彼が告げて再び歩き出して間もなく彼女が困惑の様子で報告してくる。

 

〈──皆さん、私の目がおかしいのでしょうか…?それともモニターにエラーがあるのでしょうか…?──皆さんの周りがずっと動いています〉

 

 シフティーが続けるところによればやはり周囲の景色、或いは背景のみが動いており、彼等は現在地から全く動いていないのだという。

 

「…動き続ける背景か。こんな状況は初めてだから、どうすれば良いのか全く分からないよね。もっと精密にスキャンしてみたら?」

 

〈意味がありません。さっきから試しているんですが、する度に結果が変わります。パターンがあるとは思いますが…把握にどれだけの時間が掛かるか…〉

 

「…ランニングマシンに乗ってる気分だ。──そういえばジムか体育館とかの運動施設を造って欲しいと陳情が来てたな…」

 

 ムーアなりの例えを聞いたアニスとネオンが僅かに噴き出す。随分と仕掛けの凝ったランニングマシンもあったものだ。それはそうと──彼は中身が少なくなって来たソフトパックから一本の煙草を振り出し、オイルライターで火を点けるとシフティーへ問い掛ける。

 

「…ヘレティックの破片の位置は変わってないのか?」

 

〈はい、指揮官〉

 

「…ふむ。つまり選択肢は…なんとか突破して、ヘレティックの破片を回収する。これしかなくなるな」

 

「…退却する、という選択もあります。パターンを把握してから再侵入する方が安全かと具申します」

 

 ラピの意見具申は尤もだ。ムーアもそれへ頷きたいが、彼は左右へ首を振る。

 

「俺も()()()()()()退却を考慮する。だが…そもそも此処に入り込んだ時点で無事に出られる保証がない。実際、迷っている訳だからな。入るのは自由、出るのは許さない。そんな意図が感じられる」

 

「えっと…じゃあ──」

 

 アニスが指を折って数えながら話を纏める。

 

 1.スキャン出来ない。

 

 2.パターンの把握も出来ていない。

 

 3.リアルタイムで変化する背景。

 

 4.上記の状況下にあるが()()()()()()()()ヘレティックの破片を回収する。

 

 この悪条件の中で任務を進める、という事実を改めて突き付けられたアニスが盛大な溜め息を吐き出した。

 

「──つまり…そういうこと?」

 

「ちょっとは頭が良くなったようだな」

 

()()()()()()()()()、という言葉が抜けたがそうだ!」

 

「うわぁ…完璧な作戦ね」

 

「──数百機のロード級を含めたラプチャーの群れに突撃するよりはマシだろう」

 

 比較対象がズレているムーアの例えにアニスは瞳を半開きとしながら再び溜め息を吐き出してしまう。その眼差しを感じ取った彼は肩を竦め、返答の代わりに銜えた煙草の紫煙を燻らせた。

 

「…その時は指揮官様が先頭だからね?」

 

「それは当然だな。──まぁそれはそれとして…どうする?いっそのこと背景を全部破壊して進んでみるか?」

 

「壊して良いんですか?」

 

「あぁ、火力の真骨頂を披露する絶好の場面だぞ」

 

「──火力の…真骨頂…!」

 

 ネオンの全身に電流が駆け巡る。練りに練った火力。それがこのような場面で逆境を覆す最強の切り札となる可能性へ思い至ったのだろう。彼女が嬉々と携えた散弾銃を構えようとした時、ラプラスが声を上げる。

 

「大丈夫!心配するな!私には()()()()()!!」

 

「…黄泉への道?」

 

「私のヒーローセンサーが反応している!道が分かる気がする!」

 

 何を言っているのだろう。ムーアは苦笑混じりに肩を竦めるのだが──マクスウェルが笑い飛ばしもせず、ラプラスへ苦言を呈する訳でもなく、ジッと正面に見えるいくつかの小路のひとつへ視線を向けている姿が彼の視界の隅に入った。

 

「え?まさか…あっちの左右に揺れる…あの道?」

 

「──ッ!そうだ!やっぱりな!ナチュラルボーン・ヒーロー同士は何か通じるものがあるのだ!」

 

「まさか…ドレイク。あなたも?」

 

「あぁ、そうだ!感じられる!」

 

「良し、行こう。案内するから」

 

 何かが妙だ。メティス分隊の中でも比較的、慎重かつ思慮深い筈のマクスウェルまでもが()()に気付いていない。

 

「そんなふざけた直感なんかを信じろというのか?」

 

「…信じない訳ではないが…()()()()()()…?」

 

 ウンファは吐き捨てるかのように告げるが、彼は彼女達が向かわんとする小路のひとつへ視線を向け、怪訝な様子で眉間に皺を寄せた。──左右に揺れる道、そんなものは何処にも見当たらないのである。

 

「間違いない。私達は道を知っている。──ここだよ」

 

 

 

 

 

 

 ──ここです

 

 

 

 

 

 

 記憶に纏って離れてくれない()()()の出来事。その一幕がムーアの脳裏をよぎる。

 

 マクスウェルの声と()()の声は全く異なるが──しかし喜怒哀楽のいずれの抑揚も感じられず、放たれた言葉には聞き覚えがあった。

 

 ムーアは思わず突撃銃の握把を握る右手の指先を動かし、静かに安全装置を外す。

 

 エマが背中を少し丸め、ウンファの耳元へ何かを囁く姿を彼は視界の隅に捉える。その視線を察したのか、或いは突撃銃の安全装置が外れていると察したのか、彼女も彼へ瞳を向けるや否や──ハンドサインを送って来る。

 

 ──気付イタカ?

 

 その無言の問い掛けに苦々しく思いながらも彼は頷きを返した。

 

 それを認めたウンファは改めてメティス分隊へ顔を向けると、先導しろ、と前進を促して彼女達を進ませる。

 

「──お、なに?前に立たせて、後ろから撃とうって?」

 

「…勝手に言ってろ三流。…アイツを見ろ」

 

 アイツ、とムーアを顎で指し示されたアニスが彼へ亜麻色の瞳を向ける。──表情が強張り、引き金へ指を乗せる寸前となっている。

 

「…え?」

 

 それに気付いたアニスが困惑する中、ラピもムーアやウンファの不自然な様子を否応なく察し、かつての仲間へ問い掛ける。

 

「…歩きながら説明する」

 

 一先ずは移動するようウンファは促し、先導する形となったメティス分隊に彼女達と彼は続いた。

 

 

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