勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
〈──5号車、エンジンをやられました!行動不能!〉
「──脱出しろ!援護する!分隊、下車戦闘!ネオンはそのまま撃ちまくれ!!」
同時にラピとアニスも下車する中、ルーフ上から半身を覗かせる火力の申し子は重低音の銃声を轟かせる50口径の重機関銃へ取り付いて、更地寸前の有様となった街並みの至る所から現れては光線を放って来るラプチャーに向けて銃撃を浴びせ掛けた。
「──大丈夫か!?」
「…損傷…62%…!まだ戦えます…!」
「私は左腕が…千切れただけです…!」
「無理はしなくて良い!
「ですが…ムーア少佐…!まだ私達は──お、下ろしてください…!」
「直ぐに後ろへ下がれ!衛生兵、早くしろ!野戦救急車を回せ!」
歩兵戦闘車から脱出した量産型ニケ達は攻撃を受けた影響か、それぞれが
いつぞやの臨海都市、その発電所を調査する任務で損傷を負ったラピを搬送した際と同じ格好であった。
「──ラピ、アニス!援護しろ!」
弾着で崩壊した建物の大小の破片が散乱する街路を履帯で踏み締めながら歩兵戦闘車が続々と前に出ては砲塔が旋回し、30mm機関砲の砲口を敵へ指向したかと思えば砲身の根元から太い薬莢を撒き散らしつつ連続の砲声を奏で上げる。
車列の最後方に待機していた8輪の
そこから降り立った数名の量産型ニケ──衛生兵の彼女達へムーアは担いで来た左腕を失ったニケを預けると、首と右脇下へスリングベルトを通して吊るしていた突撃銃を改めて握る。
「──少佐…ムーア少佐…!さ、最後までお付き合い出来ず…申し訳ありません…!」
「謝るな!良く戦ってくれた!後方で休んでくれ!また会おう!──重傷者は後送だ!急いで搬送しろ!肩を貸してやれ!」
後送されることが悔やまれるのか──それとも大した働きもしなかったとムーアに叱責されると思ったのか、担いで搬送した量産型ニケが謝罪を口にする。しかし彼は彼女の頭を掻き混ぜながら礼を述べる。礼を告げられた量産型ニケは堪らずにしゃくりを上げながら泣き出した。
「──本当、指揮官様ってニケ誑しだよね!」
「…た、誑し…?」
「こっちの話!ほら、あなたも後送だって!早く乗って!」
歩兵戦闘車の車体を遮蔽物代わりにしながらラプチャーへ銃撃を加えるラピの援護を受けつつアニスも重傷を負った量産型ニケの搬送へ参加する。
やがて粗方の重傷者達が詰め込まれると野戦救急車の乗降ランプが上がり、後進してその場から走り去って行った。
「──師匠!追加で弾を頂けませんか!?」
「──ネオン、もっと節約して撃て!銃身が焼き付くだろう!」
人選を間違えたかもしれない。ネオンがルーフ上で予備の弾薬箱を開け、そこから引き摺り出した50口径の
嬉々と押し金を親指で押し込み、再びの重低音の銃声を轟かせるが──あの弟子の様子では、弾を節約するように言っても無駄だろう。師と仰がれる彼は直感で考えると溜め息を吐き出してしまう。
同様に近くで射撃している武装車輌へ駆け寄った彼は車体を叩き、扉を開けるよう促す。
「どうかなさいましたか!?」
「済まんが予備の弾薬箱をくれ!!」
「了解です!──どうぞ!!」
後部座席にいた量産型ニケが予備の弾薬箱──100発分の弾薬が装弾された金属製の弾薬箱を融通してくれた。受け取った彼は感謝を告げると急ぎ足でネオンが射撃を続ける車輌へ戻るや否や、運転席の扉を開けて彼女の足元へ弾薬箱を置く。
「ありがとうございます師匠!」
「礼は良い!とにかく弾は温存しろ!」
重低音の銃声を響かせながらの感謝の言葉だったが、彼は苦言を呈した。
「火力は温存しちゃ駄目なんです!」
今度はラピかアニスに頼もう、と返ってきた答えを聞いてムーアは考えてしまう。武装車輌から離れると突撃銃を掴んで歩兵戦闘車の陰から交戦を続けるラピの元へ向かった。
「ラピ、大丈夫か!?」
「こちらは問題ありま──2時の方向!!」
瓦礫となった建物を這い登りながら姿を見せた四足歩行のラプチャー。それの砲口が赤く輝き始めた。警告を発するラピに触発され、ムーアは携えた突撃銃を向けると短連射の3発を叩き込む。3発の銃撃で脚を砕かれた敵機が瓦礫の上から転がり落ちるのを捉えながら、彼は再び引き金を短く引いた。
「仕留めた!」
「
「カバーする!」
ラピが弾倉を交換するのに合わせ、彼が射撃を敵に加える。その光景を見ていた量産型ニケの一部は思わず感嘆の溜め息を内心で漏らした。
噂では聞いていたが、半信半疑であったらしい。ニケ用の対ラプチャー火器を自在に扱えるどころか、ラプチャーと一戦交えられる人間──それも指揮官がいるなど俄には信じられなかったのだが、こうして見せ付けられると信じる他ない。
「──ムーア少佐!別のラプチャーが向かって来ます!ロード級も確認!」
「了解した!車長、他の歩兵戦闘車にもTOWを撃ち込むよう伝えろ!ロード級を潰せ!」
ムーアとラピが盾にしている歩兵戦闘車の車長が新たな敵出現の報告を発すると彼は頷きながら指示を飛ばす。
本来であれば彼女達へ対する命令権や指揮権は有していないムーアだが、この状況では自然と彼へ指揮を委ねる構図が出来上がっていた。
彼の指示に了解を返した車長がヘッドセットを介して他の歩兵戦闘車に攻撃指示があった旨を通達する。
30mm機関砲が据えられた砲塔が旋回し、砲塔の左側に存在する2連装のTOW発射機が起動した。
指向されたのは他のラプチャーよりも一回りも二周りも大きなロード級だ。
敵機の姿を捉えた3輌の歩兵戦闘車からTOWが撃ち出され──やがて弾着すると、直撃を受けたロード級は成形炸薬弾頭の炸裂で機体そのものを爆散させた。
「敵が後退します!」
「前進する!歩兵戦闘車を先頭に前へ!!」
ロード級が撃破されたことで形勢不利と悟ったのか押し寄せていたラプチャーの群れが引き波の如く退き始める。後退する敵へ目掛けて30mmの機関砲弾や50口径の銃弾が盛んに撃ち込まれる中、ムーアが指示を飛ばした。
「シフティー、作戦の状況は?」
〈現在、地下施設の壁面に爆薬の設置を完了しました!アブソルート分隊とカフェ・スウィーティー分隊がモダニアを捜索中です!〉
エンジンが唸りを上げ、排気音と共に履帯が地面と擦れ合いながら歩兵戦闘車が前進するのに合わせ、ラピがシフティーと通信を行い、作戦が順調に消化されているかを確認する。
地下施設へ投入された二個分隊──その片方は彼女自身の古巣だが、精鋭中の精鋭なだけあって現在は問題ないらしい。
安堵の溜め息を吐くラピの肩がムーアの手で叩かれる。乗車を促す仕草に頷き、駆け出した彼を追い掛けて武装車輌へ乗り込む。
搬送へ回っていたアニスも助手席に転がり込んだところで彼はアクセルを踏み込んだ。するとアニスがシフティーを呼び出して尋ねた。
「地下施設だけど、もう爆薬は仕掛けたんでしょ?適当に爆発させちゃダメなの?」
〈目標地点をある程度は特定しないと、地上へ上がって来た時の位置を推測できません〉
「何処にいるか分からない状況で爆破なんぞしてみろ。何処から
「あ…それもそっか──あっつ!!?」
「──ネオン、弾は節約しろと言ってるだろう!あと何発残ってるんだ!?」
会話の最中もルーフ上ではネオンが重機関銃を後退するラプチャーへ向けて射撃を続けている。外の車体へ薬莢や弾薬同士を連結させていたリンクが落下するのは構わないが、何かの拍子に何発か熱い薬莢が車内へ転がり落ちて来るのだ。
銃座は運転席と後部座席の中間──どちらかと言えば運転席寄りに設けられている為、車内で跳ねた薬莢がムーアかアニスへ直撃である。
しかも先程はアニスの豊かな胸の谷間へ太い薬莢が落っこち、堪らず彼女はそれを掴み出して肌を冷やそうと息を吹き掛けている。
ムーアが声を張り上げてネオンへ改めて注意する中、後部座席に腰掛けるラピは未開封の弾薬箱を数えた。
「指揮官、あと600発ほどです」
「6箱しかないのか!?アニス、ネオンに射撃中止と伝え──いや、もう引き摺り下ろせ!」
前哨基地の弾薬庫から12箱──1200発分を搬出して来たが、既に半分は撃ち切っていると報告を受けた彼はアニスへネオンを引き摺り下ろすよう命じた。
熱された薬莢を不本意にも挟み込んでしまった胸元を片手で擦るアニスが彼の許可を得たこともあってネオンの腰へ巻いた弾帯を逆の手で掴むと車内へ引き摺り込んだ。
「──もう!なんですか!?」
「撃ち過ぎなのよ!」
「ラプチャーの数が多いから仕方ないじゃないで──」
「あ、ヤバ──」
武装車輌の進行方向──攻撃準備射撃の影響で崩れ落ちた建物の物陰から突如として現れた四足歩行のラプチャー。回避が間に合わずフロントのバンパーへ衝突した途端、車内の全員に凄まじい衝撃が走る。
車体は横転こそしなかったが、ラプチャーを跳ね飛ばしたお陰でフロント部分が大破。点火プラグでも折れたのか、エンジンも不調を起こして行動不能となった。そのラプチャーは7mほど跳ね飛ばされた影響か、システムエラーを起こしたようで赤い単眼を点滅させつつギクシャクとした動きを見せている。
「──悪い…やっちまった…」
「…気にしないで…飛び出して来たラプチャーが悪いから…」
「…ありがとうアニス。…保険…効かないよな。…装備を持って下車!」
前哨基地、そして分隊の貴重な財産であった──発電所の調査任務からの付き合いとなる武装車輌とはここでお別れだ。愛着もそれなりにあったが致し方ない。溜め息を吐き出したムーアだが、次の瞬間には声を張り上げて彼女達に命令する。
大破し、車内が滅茶苦茶となった武装車輌から続々と下車。残った重機関銃の弾薬は後続の車輌へ提供すれば──あとは徒歩での戦闘行動だ。
まずは不用意に飛び出して来た敵機が攻撃対象である。
背嚢を背負ったムーアは苛立ちも込めて突撃銃を構えると、ギグシャクと動いているラプチャーへ狙いを定め、引き金を引いて3発毎の短連射を4回も叩き込んだ。
「あの野郎…!」
「はいはい、無駄撃ちしない」
放っておいたら弾倉一本分の銃弾を全て叩き込みかねないムーアをアニスは諫める。車輌も突き詰めれば消耗品だ。また申請すれば、それこそ新車が支給されるだろう。
真横を歩兵戦闘車が間隔を空けて通過するのを視界の端へ捉えた彼は八つ当たりが一応済んだのもあり、少しは満足したのかもしれない。分隊へ前進を命じると街路を駆け出した。
「次は歩兵戦闘車でも受領しよう。ラプチャーと正面衝突しても負けない奴が良い」
「いいですね!」
「…ダメです。整備の費用と手間が倍になりますから」
「だって。また普通の車輌だね」
「…便利だと思うぞ?」
「ダメです」
ラプチャーを轢殺する前提で物を言わないで欲しい、とラピが呆れ混じりの溜め息を吐き出す。その様子にアニスが笑い声を上げる中、ムーアの両耳へ宛てがわれたハウジング、そして彼女達の聴覚へ一瞬のノイズが走った。
〈──皆さん!衝撃に備えて下さい!〉
前置きもなくシフティーの警告が耳元で響き渡った瞬間、地面が踊り始める。踊り始めた、と錯覚する程の揺れだ。
体幹を鍛えているのもあってムーアは転倒するようなことはなかったが、周囲に散らばる建物の残骸が揺れ動き、土煙をあげる。さながら大きな地震に見舞われたかのようだ。
〈──爆破成功!モダニア、地上へ上昇します!〉
作戦の第一段階は成功。その報告を聞き取った彼は揺れが収まり始めたのを察し、3名へハンドサインを送りながら前進を命じる。
直下から突き上げるような揺れを受けて立ち止まっていた全員の足が動き、車列を成して前進を続ける歩兵戦闘車や武装車輌と歩みを併せての進行だ。
歩兵戦闘車の砲塔が旋回し、30mm機関砲の仰角が僅かに取られる。ラプチャーを発見、捕捉したのだろう。
50口径のそれよりも更に重々しい砲声を連射で轟かせ、残骸と化した建物諸共、ラプチャーを粉砕する砲弾が放たれる中──蜂の巣を突いたかの如く、何処からか敵機の群れが至る所から湧き出て来る。
「──うじゃうじゃ出て来た!」
数十どころの話ではない。赤い単眼が至る所に垣間見えている。
これは少々、宜しくない──それを察した彼は口元のマイクを摘んでシフティーへ火力支援の要請を叫んだ。
「──シフティー!火力支援を要請!臨機目標が多数だ!」
〈確認しました指揮官!
〈──
優秀なオペレーターである。直ちに後方で砲列を並べる火砲の統制を行う射撃指揮所へ通信回線が繋がれた。量産型ニケがムーアから矢継ぎ早に伝えられる目標座標や標高、敵の規模を聞き取り、射撃に必要な諸元を入力して各砲へと伝達する。
〈──これより試射します!弾着は20秒後!観測をお願い致します!〉
「了解した!誤射はしないでくれよ!──砲弾来るぞ!」
頭を下げるよう下車しての戦闘を行っている量産型ニケ達にも注意喚起を彼は叫んだ。
建物の残骸へ転がるように身を隠しながら接近して来るラプチャーの群れへ銃撃を加えていた最中、大気を切り裂く風切音が周囲に走る。
彼女達がそれを感じ取った瞬間──100m先に一発の155mm砲弾が弾着し、土砂や建物の残骸を宙高くへ巻き上げる。ちょうど弾着した周囲にはラプチャーの群れが密集しており、砲弾の落下と炸裂で粉砕されたのか大量の敵機であったモノが地面へ降り注いだ。
「──修正射必要なし!やってくれ!」
〈了解!効力射に入ります!〉
本格的な砲撃が始まる。それを周囲に叫んで伝えて間もなく──凄まじい勢いで先程の弾着した地点を基準にして大量の砲弾が降り注いだ。
土砂、残骸の破片、またはラプチャーの部品が衝撃波と共に頭上へ降り注ぎ、ムーアが被るヘルメットの上にも細かい小石が何度も落下しては乾いた音を奏で上げた。
やがて立て続けの弾着が途切れる。立ち込める土煙の向こうに敵は残っているのか否か──それは分からないが、路上にラプチャーの核らしき部品が転がっている。
「迅速な火力支援に感謝する!」
〈とんでもありません!お気を付けて!〉
「ありがとう!──突撃するぞ!弾倉を確認しろ!」
街路の至る所から了解の応答が飛び交う。近くの遮蔽物へ身を潜ませていた3名の部下達へムーアは視線を向け──彼女達から頷きが返って来ると彼は立ち上がった。
「──突撃にィィィ!!前へ!!!」
一際大きな発声と共に命じられた突撃の号令。
ここからはラプチャーを掃討しつつ、遭遇した際は肉薄しての戦闘だ。
土煙の中へと真っ先にムーアが突撃銃を構えつつ蛮声を張り上げて突っ込むのに合わせ、その背後へカウンターズの3名が、そして量産型のニケ達、歩兵戦闘車も唸りを上げて続く。
大半のラプチャーは先程の射撃で撃破されていたが、それでも半死半生の敵機はいくらか残っていた。
土煙が晴れる中、突如として眼前に現れた四足歩行のラプチャーを目掛けてムーアは腰だめに構えた突撃銃の引き金を引く。連射で銃弾を叩き込みながら肉薄するや否や突撃銃の床尾で打撃する。
銃撃を受けたからか、或いは打撃を受けてシステムエラーが生じたのか、動きが緩慢となったところにとどめとなる銃弾が3発撃ち込まれて機能を停止。撃破された。
──もう…本当にウチの指揮官様は…!
突撃の命令を出す時は自分が先頭、とは以前から言われていたが──まさか本当にやるとは思わなかった。
ラプチャーとの肉弾戦を制して撃破する後ろ姿を眺めるアニスは堪らず苦笑しながら、擲弾発射機を構えて遥か先で蠢く敵機に擲弾を撃ち込んだ。
〈──北東にモダニアの出現を確認!アブソルート分隊、モダニアと交戦に突入!カフェ・スウィーティー分隊は脱出後、後方で合流予定!付近の全ラプチャー、モダニアの方向へ移動を開始しました!ただいまより第二段階へ移行します!──緊急伝達、緊急伝達!中央政府より作戦参加の全部隊へ!火力を全開!特殊別働隊が動けるよう道を開けて下さい!〉
ハウジングの奥で、或いは作戦へ参加している全ニケの聴覚へシフティーの伝達が響き渡る。
「──了解!ムーア少佐、特殊別働隊の皆さん!行って下さい!」
「──私達が道を切り拓きます!」
「──この程度のラプチャー、敵じゃありません!」
「──帰ったらツーショットで写真お願いします!」
「──あ、ズルい!!私もお願いします!」
再び現れたラプチャーを銃床打撃で打ちのめし、至近距離から銃弾を叩き込んだ所で弾倉が空になった。新たな弾倉へ交換するムーアに周囲の量産型ニケ達が先へ進むよう促した。中にはどさくさに紛れて妙な要求もあったが。
「お互いに無事であればだ!いくらでも写真撮影に応じてやる!」
「やった!約束で──」
一筋の光線──それが量産型ニケの一人の
仲が良かったであろうニケが眼前で友人が戦死した瞬間を目撃し、頭部を失ってそのまま地面へ倒れる彼女へ駆け寄るも手遅れだ。
半狂乱となって突撃銃を構えた量産型ニケが友人を撃ち殺しただろうラプチャーに目掛けて銃撃を何発も撃ち込む。
「──早く行って下さい!ここは我々が抑えます!」
「済まない!頼んだ!!」
「頼まれました!!」
半狂乱のまま引き金を引き続ける量産型ニケを援護しようと別のニケが駆け寄りながらムーアへ重ねて告げる。
頷きを返したムーアが駆け出す。それと同時に分隊の面々も駆け出した。