勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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※注意

ムーア少佐は至って真面目にやっているつもりなんです。()()()()と再会できて少し舞い上がっているのは否めませんが、それでも真面目にやっているんです。信じてあげて下さい。


第7話

 

 

 途中下車となったが──しかも緊急脱出という手段での下車ではあったが、無事に着地した特殊別働隊は損傷の皆無を確認が終わると駆け出した。

 

 ヘレティック(彼女)とは直線距離にして残り2km。近くはないが遠くもない。とはいえ、あと間もなくだ。

 

 ムーアは突撃銃を握りながら分隊の先頭を駆けるラピが目的地まで向かう途上にある最後の集落跡地へ進入すると、寂れた風情のまま佇む多数の家屋へ銃口を向ける。

 

 敵影は認められない。

 

 このまま一気に突き進もうとした──その時だ。

 

〈──待って下さい!この反応は…!──トーカティブが来ます!〉

 

 ハウジングの奥で響き渡った特定の固有名詞。同時にラピを始めとした彼女達の耳の中でも響いたのだろう。全員の足が止まり、周囲を警戒する中、アニスの舌打ちが一際大きくかまされた。

 

「お出ましか!アイツ、指揮官様のこと好きすぎるでしょう!?」

 

「──ははは…そいつは光栄だ。俺も──大好きだ!!

 

 嬉々としたムーアの声が響く。アニスが視線を向けると──牙があったのなら剥き出しとなっているだろう程に口角を吊り上げている。

 

 ──なんかスイッチ入っちゃったよ…。

 

 普段は落ち着き払っているというのに何故こうなるのかアニスも不思議だ。とはいえ、原因は初めて遭遇した際の出来事が原因であろうとは想像に難くない。

 

 右脚と右目、そのふたつを彼はトーカティブ(お喋り野郎)()()()()()()()()のだ。

 

 そうだというのに──途中で勝手に退場されたばかりか、北部の任務では交戦の末、仕留め切れずに逃亡を許してしまっている。

 

 一勝一敗、の戦績と言えるのかは微妙なところだ。これは三度目の正直という奴かもしれない。

 

 ──不意に上空から()()が降って来る。

 

 それは轟音を立てながら着地し、(けぶ)るほどに舞い上がった砂埃の向こうで身体を起こした。

 

──久しぶりだな

 

 やがて舞い上がった砂埃から顔を覗かせたそれは──剥き出しとなった鋭い歯をいくつも覗かせつつ巨躯を堂々と晒してみせる。

 

さぁ…お前達の言葉を真似してみようか

 

 唸るような低い声音が響き渡る。地面を踏み締めながら一歩、前へ進み出た異形のラプチャーへラピの突撃銃が、アニスの擲弾発射器が、そしてネオンの散弾銃が向けられ、交戦に備える。

 

エンカ──

 

 ──堂々とした交戦の宣言となる筈だったのだが、それは銃声で遮られた。

 

 今まさに発声しようと開けられた口腔に目掛けて連射の銃撃が加えられたのである。

 

 銃声は止むことがない。

 

 ラピは引き金を当然だが引いていない。となれば──

 

──グッ!?ま、待て!!

 

──誰が待つか!やっと殺し合いが出来るんだぞ!焦らしやがって!待ってられるか!!

 

 たちまち弾倉一本を撃ち切ったムーアが吐き捨てつつ新しい弾倉へ交換する。

 

 普通は待つ筈なのだ。女神戦隊アークレンジャーという番組でも敵役の口上は必ず最後まで聞いてやるというのにムーアは待つことすらせずに早速の銃撃である。

 

 顔面、それどころか口腔へ何発も直撃を受けるとシステムエラーを起こすのかトーカティブは太い片腕を地面へ突いて荒い息を漏らした。さながら脳震盪でも起こしたかのような仕草だ。

 

 動きが止まった──それを認めた瞬間、ムーアは突撃銃の銃身下部へ取り付けている擲弾発射器の引き金を引いた。

 

 シュポンと気が抜ける音と共に安全距離へ達した弾頭の着発信管が解除され、頭部へ直撃した途端、擲弾が炸裂する。

 

 その炸裂で頭部が仰け反るトーカティブだが──この程度で死ぬ訳がない。

 

──さっさと再生しろトーカティブ(お喋り野郎)!この為にいつもより弾薬を多く携行して来たんだ!さっさと立ち上がれ!俺と殺し合うぞ!今日で決着を付けようじゃないか!

 

 余程、殺し合い(交戦)が楽しみだったのだろうか。大音声の中に嬉しさを滲ませる響きが混ざっている。撃ち切った擲弾の薬莢を排出し、新たなそれを装填する彼の普段との変貌ぶりに彼女達は思わず呆然としてしまった。

 

──お前に会いたくてどれほど恋い焦がれたか…!まるで恋する乙女になった気分だったんだぞ!だからさっさと立て!お前は俺の獲物(モノ)だ!横取りされてたまるかよ!!

 

 目一杯に口角が吊り上がり、今にも哄笑を奏でそうなムーアが思いの丈を告白する。

 

 ──恋する乙女、ってなんだっけ?

 

 アニスが疑問符を浮かべる程に彼が語る表現と、彼自身の姿は釣り合っていない。とんだ恋する乙女とやらがいたものだ。

 

──調子に…乗るな!!

 

「散開しろ!!」

 

 再び身を起こしたトーカティブが跳び上がると同時にムーアが叫ぶ。その命令に従った彼女達が散らばり、彼も飛び退いた途端──ムーアが先程まで立っていた場所へ太い拳が打ち込まれた。

 

「──エンカウンター!!」

 

 もう遅いだろうが、これも様式美である。ラピが交戦の宣言を放ち、3名のニケ達がそれぞれの得物の銃口を向けて引き金を引く。

 

 彼女達の銃弾、擲弾、散弾がトーカティブへ次々と命中し、その頑強な肉体を切り裂くが──やはり直ぐに再生を始めてしまう。

 

 相変わらず厄介な能力だ。

 

「──やはりそうは上手くはいかないようね」

 

 易々と片付けられる相手ではないとは分かっているが、こうも厄介だとラピの口から溜め息が漏れ出る。

 

 それが弱気の言葉だと感じ取ったのか──ネオンが放つ散弾の雨霰に身体を削り取られながらもトーカティブは哄笑を奏で上げた。

 

──愚かな奴等だ!全ての作戦がお前達の思い通りに進んでいると思っているだろう!

 

 トーカティブの尾が振るわれ、散弾を撒き散らす邪魔なネオンを吹き飛ばそうとするが彼女も察しが悪い訳ではない。飛び退いてその攻撃を避けると遮蔽物へ駆け込んで散弾銃へ弾薬の再装填を始める。

 

──しかし違う!引っ掛かってやったんだ!お前達、精鋭共を一気に片付ける為に!

 

「さてね!片付けられるのはどっちかしら!」

 

当然、お前達の方──ッ!?

 

 アニスが声を張り上げ、軽口で応じた矢先、再びトーカティブの顔面に擲弾が撃ち込まれた。中途半端なところで言葉が遮られ、爆煙が巨躯の頭部を包み込む。

 

 続けて銃撃が頭部を目掛けて撃ち込まれ、爆煙を銃弾が切り裂きつつトーカティブの額を覆い隠す装甲へ直撃しているのか硬い弾着の音が響き渡った。

 

──相変わらずのお喋り好きだな!浮気してんじゃねぇよ!テメェの相手は俺だろうが!!

 

 ──変なクスリでもこっそりキメているのだろうか。ムーアの豹変ぶりにはアニスも面食らうしかない。

 

ほら、さっさと掛かって来いよ!今日は絶好調なんだ!ここでテメェを間違いなくぶっ殺してやるから安心しろ!絶対に俺の手で──

 

「──それは困る」

 

 サングラス越しでも分かるほどに爛々と瞳を輝かせ、口角を吊り上げたムーアが脚を止めたトーカティブ(お喋り野郎)を挑発しているのか、それとも本気で殺しに行こうとしているのか──判断が難しい咆哮を轟かせた刹那のこと。

 

 静かな声が不思議と良く響き渡った瞬間──トーカティブの胴体を目掛けて飛び込んで来た一筋の光線が深々と穴を穿った。

 

 明らかな大損害を負い、異形の巨体が地面へ太い片腕を突き立てながら人間臭い仕草で空いている逆の手を使って穿たれた腹部の風穴を庇う。

 

 ──続けてムーアの傍らに砂埃を巻き上げながら着地したのは白銀の髪を靡かせる巡礼者(ピルグリム)だ。

 

「──ムーア、約束が違うぞ。()()()()と言ったじゃないか」

 

「…あぁ…確かに言ったが、全然現れないからな。俺が殺っても良いのかと」

 

「奇襲を仕掛けようと機会を窺っていたんだ」

 

 傍らに立ったピルグリム──スノーホワイトが長身の彼を見上げながら苦言を呈する。しかしムーアはそれを大した問題としていない様子のまま軽口を返す始末だ。

 

「ピルグリム…?」

 

「ええっ!?いつから付いて来てたの!?」

 

「──最初からだ。お前達が街へ突入するところからだな」

 

「わぁ…全然気付かなかったです!」

 

 そんな余裕も無かった、が正しいのだが彼女達──ラピでさえもスノーホワイトの存在には気付いていなかったらしい。

 

「大変だったんだから、ちょっとは助けてくれても良かったのにぃ…」

 

「──今、助けている」

 

 アニスが恨み節を漏らすが、スノーホワイトは当然の如く言い返すと携えた長大な狙撃銃を構えて光学照準眼鏡を覗き込む。

 

「行け、ムーア。こいつは私に()()()

 

()()()()()()の間違いだろう?」

 

「いや、状況を考えろ。お前達の目的はこいつではないだろう」

 

「確かにそうだ。だがこれは個人的な問題でな。良く考えたんだが…やはり俺が仕留めないと気が済まない」

 

 異形の巨躯を前にしてムーアとスノーホワイトは全く譲ろうとする気配がない。

 

 昨夜の取り決めを無視するのか、と彼女は眉間へ皺を寄せる中──彼とスノーホワイトの眼前で穿たれた風穴を修復したトーカティブが再び起き上がるや否や咆哮を奏で、その身体を中心にして周囲へ広がった衝撃波が砂埃を吹き上げる。

 

ふざけるなァァァ!!お前達はここで死ね!!全員!!一人も残さ──ッ!!?

 

「「──話の邪魔だ」」

 

 ムーアの突撃銃の下部へ備えられた擲弾発射器が、スノーホワイトが握る長大な狙撃銃から擲弾や光線が放たれた。まず彼女が放った光線が再びトーカティブの腹部を貫き、続けてムーアが発射した擲弾が顔面を直撃する。

 

 巨躯に反して細い両脚がたたらを踏み、俯せに身体が倒れ込むと──ムーアは彼女へ改めて視線を向けながら擲弾発射器の薬室を開いて薬莢を排出する。

 

「──以前よりしぶとい気がするな」

 

「オーバーホールかアップデートでもしたんだろう」

 

「その割にはさっきから倒れてるぞ。いっそのこと協力して殺すのは?」

 

──()()()がァァァァ!!!

 

「…悪くないな。あの分だと撒いてから行くのは難しそうだ」

 

 俯せに倒れていたトーカティブが太い両腕を地面へ突き立てながら立ち上がる。その様子を眺めるムーアとスノーホワイトが取り決めを交わす中──

 

「……排気音?」

 

「…あ、これ…聞いたことがある気がします」

 

 急速に接近しているのだろう。

 

 次第に大きく響いて来る爆音は間違いなくエキゾーストノート(排気音)だ。

 

 果たして何千ccを誇るマシンなのか。

 

 砂煙を巻き上げながら寂れた集落の狭い路地を駆け抜ける黒い光沢を放つそれが爆音と共に現れた瞬間、正体が判明した。

 

 道理で聞き覚えがある訳だ。

 

 ここ最近、前哨基地の無駄に長い道路を爆走する黒い大型バイクの存在はムーアを始めとした彼女達も良く知っている。

 

 その黒い光沢を放つ大型バイク──ブラックタイフーンを操るのはシュガーだ。

 

 しかし今日の彼女の愛車は普段と少し異なる様子である。サイドカーが付いていたのだ。

 

 ふとサイドカーが地面から浮き上がる程にシュガーが愛車を横倒しにし、スリップしながらトーカティブの細い両脚へ衝突する。

 

 脚を払われた形となったトーカティブが受け身すら取れず地面へ背中から倒れる中──ムーアの目と鼻の先へシュガーが愛車を華麗に停車させてみせる。

 

「──わぁ!バイクです!」

 

「──うわぁ!バイク!」

 

 似たような台詞を数十分前にムーアは聞いた覚えがあった。眼前へ停車したバイクへ跨がるシュガーは砂塵から眼を守る為だろうか、普段とは異なる装いとなるゴーグルを銀髪の上へ巻いている。

 

「──間に合ったみたいだね、()()()()()

 

「…わざわざ来てくれて感謝するが…ミルク達は?」

 

「プリムが寝ちゃったのよ」

 

「…彼女にまだまともに挨拶した覚えがないんだが…」

 

 いつから呼ばれ始めたのか、シュガーが彼へ対しての呼称は()()()()()である。どのような由来でそのような呼び方なのかは彼も気になるところではあったが、詳しく聞く機会にも恵まれなかった為、現在進行形で放置状態だ。

 

 カフェ・スウィーティー分隊のリーダーはプリムだが、前哨基地店で店番をする際もアイマスクを付けて惰眠を貪っているのもあってムーアはいまだに挨拶らしいそれを交わしていなかった。もうそろそろ挨拶ぐらい済ませたいところなのだが──果たしていつになるのだろうか。

 

 彼の眼前へブラックタイフーンが停車すると、自然にスノーホワイトの目の前でもある。彼女は押し黙ったまま大型バイクへ視線を向け──やがて一言を漏らした。

 

「……バイク、格好いいな」

 

「ありがとう」

 

 似た髪色を持った小柄な巡礼者へシュガーが短く応じ、続けてムーアに眼差しを向ける。

 

「──乗って。──乗れ」

 

 シュガーは彼には自身の背後へ乗るよう、そしてムーアの部下達はサイドカーへ乗車するよう促す。

 

「…四人も行けるのか?」

 

「ブラックタイフーンは丈夫だから」

 

「…分かった。乗車──」

 

ふざけるなァァァ!!逃さな──ッ!!?

 

「──命令取り消し。やはりここでお喋り野郎を永遠に黙らせてから…!」

 

「はいはい。ほら行くよ、指揮官様」

 

「せめてあと擲弾を2、3発…!」

 

「ワイルドね、パートナー。そういうの嫌いじゃないわ」

 

 起き上がったばかりのトーカティブへ何発目かの擲弾を撃ち込んだムーアが直ぐに新しい弾を装填しようとするのをアニスが羽交い締めにして押し留める。

 

 そんなに殺したいのだろうか、とスノーホワイトは半ば無理矢理、シュガーの背後へ腰掛け(タンデム)させられる彼を眺めながら溜め息を吐くが──そこへラピが声を掛けた。

 

「ピルグリム──いえ、スノーホワイト。ここを任せてもいい?」

 

「あぁ、信じて任せろ」

 

 静かに頷き返すと、ラピは踵を返してブラックタイフーンへ駆け寄った。

 

 既にサイドカーはアニスとネオンで満員であった為、やや余裕があるムーアの背後のスペースへ跨がる。

 

「──安全運転でお願いしますね、シュガー」

 

「──えぇ。行くわよ」

 

 エンジンへ鞭が入ったかのような排気音を轟かせ──決して()()()()とは言い難い発進を見せた大型バイクが砂煙を残して走り去る。

 

 それを横目に見送ったスノーホワイトは──金眼を改めてトーカティブに向けるや否や、携えた長大な狙撃銃を構えた。

 

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