妹筆頭にオレの周囲は癖は強いし背も高すぎる   作:bozubozu

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お試し投稿。


最近妹がヤバい

 最近、妹は蛇になった。

 いや。比喩だ。それは間違いない。

 ただオレは直感しただけだ。オレのことを束縛するように様々なものを取り上げる妹は正しく大蛇。年齢とは似合わぬ大樹のような巨体に、ご立派が二つ。すらりと伸びた両手両足は女性ならではのしなやかさを帯びていて、全てを絡めとるのに最適な形をしていた。風格だけなら八岐大蛇と言えよう。

 

 大してオレは小人。同じ母親の股から生まれた兄妹でありながら身長は30㎝以上オレが低い。中学三年生の平均身長よりも圧倒的に小柄な143cmは小学生に交じっても気づかれないくらいだ。さして知らぬ相手からチビと揶揄されたことも両の指じゃ収まらぬ回数。妹が姉と間違われた回数なら無量大数回。何故男児たる、日本男児たるオレが妹よりも身長で劣らなくてはならないのか。妹はオレの身長を蛭みたくチューチューと吸いとってデカくなったのではないか。或いはオレと妹は本当は兄妹じゃなく、例えばオレは赤ん坊の頃河川敷に捨てられた哀れな捨て子でそれを見兼ねた今の両親が拾ったとかで、実際には血縁関係とかないんじゃなかろうか。ちょっと本気で考える今日この頃。

 

 と、少し話が逸れたので線路に戻そう。

 オレの妹は世間的に言う、ヤンデレだ。妹に使う表現ではないのだが、妹の様子を日本語で最適な表現をしようとするならヤンデレ以外思いつかない。それが現状だ。

 いやちょっと羨ましいと思ったそれそれそこの君。

 羨ましい? 冗談じゃない、あんなデカブツ女なんてオレは守備範囲外だ。そもそもオレの恋愛守備範囲はオレの身長以下の女子────あ、いや。そうじゃなかった。

 何故オレが妹のことをヤンデレと表現したのか、まずはそこから語らなければならないだろう。オレの性癖話はその後時間があればで。

 

 まあ端的に言うなれば、オレの妹はオレが勉強することを酷く嫌うし、異性の友達を作ることも許さない。何なら将来はオレを学歴無し職歴無し資格無しのトリプル人生詰み状態の出不精で人付き合いの悪いニートにしたいらしい。はい? 意味分からないし理解不能? オレも同じ感情でーす。

 どういう感情でそんな頭が狂った不幸せ家族計画を練っているかは分からないが、本当にそんな感じでオレの生活は表向き順調に妹に狂わされている。

 

 特に直近で取り上げたいのは勉強関連。

 

 オレは今月から中学三年生で受験生だ。なのに家で勉強していると妹はオレの邪魔をしてくる。まずやってきた妨害行為は騒音。オレの横でスマホで音を垂れ流しながら動画を見つつ、時折俺に話を振ってきた。五月蠅かった。あとダルい。無視すれば肩を揺すってきたのでオレは極めて冷静にキレた。しかし前述の通りオレは妹より身体が小さく、ついでに単純な腕力も弱い。抵抗しようとしたら神の槌とばかりの細い剛腕で床に押さえつけられて、そのまま暗い目でスマホで見ているエロ動画のURLをオレのスマホから親宛てに送信するよと脅された。オレの妹は限りなく残忍で狡猾だ。オレは敗北した。

 

 そうして更に今日になると妹は直接的な暴行に及んだ。前日と同じように力で脅すと、参考書などを没収し破いたのだ。正に侵略者。何という仕打ち。許せないのに、感情と裏腹にオレは無力だった。

 

 ちょっと時計の針が進み、現在。

 

 教科書だけは学校で使うからとなんとか許されたが、正直こんな教科書だけで受かるような高校に行くことは考えていない。一応妹がここまで変じゃなかった中二の間は偏差値もそこそこあったし、地域二番手校か三番手校で考えていた。そこから下げたいとは今のところ思っていない。つまりオレはどうにかして妹の隙を出し抜かなくてはならないのだ。他のライバル受験生たちが真っ当に勉強をしている中、サバイバルチックな勉強をしているオレのこの状況は圧倒的不利と言える。早く何とかしなくてはならない。

 

 今俺を蝕む問題を因数分解すれば二つの問題となる。

 没収された教材の代替。それから勉強時間。

 客観的には絶望的だ。だがこの時のオレの心はあまり曇ってはいなかった。俺にはこの二つの問題を一挙に解決できる妙案があったのだ。

 

「ちょっとお袋、話があるんだけど時間いいか?」

 

 そう、両親の権力の庇護を得ることだ。

 一般的に親が子に屈することは無い。

 その前提条件を加味して、まず教材の問題は再度親に買ってもらうことで片が付く。次に勉強時間だが、我が家のヒエラルキーの天辺、家庭内独裁者であるお袋に頼んで妹に強烈な言葉のガゼルパンチをたたき込んでもらえばいい。幾ら身長が高くて力が強い妹とはいえお袋には勝てる要素がない。こういうのは力の問題じゃないのだ。この民主主義社会を基調とした世間で、社会問題が暴力で解決した試しがあっただろうか? ないだろう? ま、そいうこと。頭を使えばこのくらいの問題は朝飯前にイチコロ、ゴキブリにゴキジェット放って殺すより簡単に解決してしまう。妹にオレの勉強の邪魔をするなと言えば天下泰平が訪れるのだ。

 

「なによー。それって私の韓流ドラマの時間削るより大事?」

 

 言い忘れていたがこの時のお袋はドラマを見ていた。確か時間は土曜日の午後二時、テレビのチャンネル支配権が100%お袋タイムだった。

 お袋は世の中の専業主婦への偏見通りと言うべきか、ドラマを見ることを人生で一番の楽しみとしている。必然的にドラマ視聴の邪魔をしてくる存在に対しては好戦的な性格となり、最悪平気で相手を晩飯抜きやおこずかい抜きにすると言った数々の極悪非道な私刑に処す暴君となる。そう、この時のオレは閃いた妙案に気を取られてそんな簡単な事実にすら到達できなかったのだ。だから少しピリピリしているお袋に気付いていない。

 

「勉強道具を茶凛(さりん)に取られて目の前で破られてな、新しいのが欲しい」

「そんなの修復すればいいでしょ。セロハンなら机にあるわよ」

「めちゃめちゃビリビリに破かれたから欠片の四割は窓の外から風に乗って散っていった」

 

 今頃は地面に落ちて桜の花びらに擬態しているだろう。散歩しながら春に酔っている人が桜に交じってそのゴミを見つけた日には冷めそうだ。

 

「はー。それだけなら後にして頂戴、私こう見えて忙しいから」

「ド……あとちょっと茶凛に言って欲しいことがあるんだが」

 

 ドラマ見てるだけだろと言いかけた事実は無かったという事にしていただきたい。それを認知されるだけで失われる立場というものがオレにはある。

 オレは言いかけた言葉を誤魔化す意味でも間を置かず続けた。

 

「勉強してたら滅茶苦茶邪魔されて迷惑だからガツンと言って欲しい。あの茶凛のちょっかいは行き過ぎだ」

「二度、言わないわよ」

 

 ぴゅー。お袋から醸し出されるとんでもない圧と沸騰寸前の怒気にオレは風と共に逃げた。

 絶対君主には誰にも逆らえない。時代が時代なら日本統一して天下人だったかもしれないな、お袋。

 

 

 

 

──── ──── ────

 

 

 

 

 最善策は潰えた。

 お袋の人生絶頂時間に話しかけたのも敗因だが、お袋があんなに塩対応だったのはそれだけじゃないはずだ。

 恐らく妹の普段の態度がかなり関係している。

 

 オレの妹は基本的には優等生然とした、有り体に言って超人だ。

 運動神経抜群、成績もオレより上、ルックスだってクール系で切れ目ながらキツイ感じではなく、寧ろ淡い雰囲気を出しているため学校でも人気者。身長が高いためにモデルとしてスカウトをされることもしばしば。

 そんなどこに出しても問題無い優等生である妹が大した特技も無く成績も中の上程度でチビな兄貴に対して幼稚なちょっかいを出すわけないだろと、そう思われている可能性がある。実際にはオレには年相応どころか小学低学年のクソガキみたいな悪戯をしているのに、どこに訴えてもこれじゃ取り合ってもらえない。緊急事態だ。つまりオレは真っ当な手段で妹に勝つことが出来ない。両親の信頼は妹とオレとじゃ天と地層何百層以上の差があるということである。そのまま地下深くで埋もれて余生を終えたい。

 

 まてまてまて。弱気になるなオレ。凛太。どうにかなると信じろ。じゃないと受験に負けて底辺高校に堕落するぞ馬鹿。

 何事もどうにかなる。人生なんて案外頑張ればどうにでもなっちゃうと考えろオレ。

 

 とにかくだ。

 少なくとも両親に頼むのは無しという事が判明した。あと、親父には頼まないのかという質問が来ている気がしたので一言で返答しよう。娘より息子を優先する親父はこの世には存在しない。以上。こと妹問題に置いて家庭内に味方がいなすぎる。学生生活終わったら家出ようかなオレ。

 

 オレだって馬鹿じゃない。最善策こそ霧散したが弥縫策はすぐに思いついた。

 キーワードは市営図書館。まあご察しの通り、参考書こそ置いてないとは言えここなら家と違い、日曜日でも妹の目がなく心行くまで勉強が出来るという訳だ。そのはずだ。

 

「あ、兄さん。そこにいたの」

「茶凛……何でここが?」

 

 とか何とか考えながら図書館の勉強スペースにある机の一つでノートを広げていれば非常に耳に馴染んだ声が背後から聞こえた。振り向けば妹でした。はい、二コマ落ちでしたね。もうやだこの妹。タッパもオレよりデカいし。

 

 オレに冷徹な視線を投げかけ、それからオレの手元の勉強道具に目を移した。

 

「兄さんはここかな、と。あれ、まだ成績上げようとしてるの。別にそんなことしなくてもいいのに」

「怖いよお前。もしかしてオレにGPS発信機とか付けてたりするの?」

「ああその話。この前兄さん自分でズボンを洗濯したよね。それと一緒に水没したから今は無い」

「いや怖いよ。怖すぎだからなお前!」

 

 オレ、先週ズボン洗うまで妹にGPS付けられてたの? 何目的? 何目的で? 考えるのも怖いんだが。

 

「別に……」

「お前良く「私関心ありませーん」みたいな態度でいられるな! 何でそんなもん俺に付けてたんだよ、ったく」

「いや。普通に心配で。GPSあればいつでもどこにいるか分かって便利だなーと」

「心配してくれてありがとうだがしかし限度があるだろ限度が」

「かもね」

「かもね、じゃないからな」

「でも今日はGPSなんて無かったから。頭使ったよ。どうせ母さんに新しく教材買うよう頼んで断られたんでしょ、それで一先ず今日中の解決は諦めて図書館で落ち着いて勉強でもしようとか。そんな無駄なこと考えそうだったし」

「変なところで自頭の良さをひけらかされるの止めろムカつく」

 

 フッと妹は微笑んだ。これが中学で23人から告白された笑みである。透明な顔に浮かんだ一時の弛緩は、水気の無い荒野に咲いた一輪の紫陽花だ。確かに我が妹ながらこれは中々レベルが高い。ただ何でだろうか。こいつのドヤ顔も同じ種類の笑みだからか、少し腹が立つ。

 

「全く、兄さんは勉強しなくていいって。私が代わりにやるからいいのに」

「だから意味が分からないんだよそれ。どういう摂理で導かれた結論なんだそれ」

「そりゃ十年後には私が外で働いて、兄さんには家でゲームなりなんなり堕落してほしいだからだけど」

 

 迷いなく、寧ろそれ以外の理屈がこの世に存在でもするのとばかりに綺麗に小首を傾げながら、妹はオレを見下して言った。どうやってもオレには共感できない。普通、思春期の女子は兄がいればもっと煙たがるか、或いはそうでないにせよ普通に付かず離れず程度の距離感じゃないのか。それともオレが間違っているのか。オレが世間一般を知らないだけなのか。

 

「嫌だよ。いま普通に成績も順調なんだ。そのままそこそこの高校に行って大学受験も頑張って、就職したら一人暮らし始めるオレのマイライフプランを壊す気か」

「めちゃ堅実……。でも大丈夫、私がいるし」

「ごめん。でも、以降の言葉が全く理解できないから。何が大丈夫だと言うんだお前は」

「え? だから、そういう大変なことしなくても私が社会から匿ってあげるって意味」

「望んでねえよ。社会から断絶されることを望んでねえよ」

「だってずっと兄さんを手元に置いておけば兄さんの生リアクションとか見れるしさ」

「そういう目線で今まで見てたのお前」

 

 妹の中でオレはリアクション芸人の立ち位置にいたとは驚きだ。もうやめさせていただきます。どうも、ありがとうございました。

 脳裏のボケ担当が叩かれていると、現実の妹はオレの勉強道具を勝手にテキパキと片して、雑にバックへと突っ込んだ。そのまま置いてあったバックを掴むとオレの手を強く掴み、立ち上がらせる。

 

「ちょ、おい。なにを」

「いいじゃん。それより家帰るよ、もう遅いんだし」

「いやまだ午後五時半……」

「六時門限でしょ。まだ小学生なんだから、母さん心配させちゃダメでしょ」

「門限とかないだろ、それにオレは小学生じゃない!」

「そういう言葉はご飯食べてもっと大きくなってから言って」

 

 最初こそ少し騒がしくして視線を集めてしまったが、帰宅前の姉弟の何気ないやりとりだと認識した周囲の人は特に注意することなく各々の動作に戻っていった。

 そうだ。この妹、タチが悪いことに自身の容姿を自覚している。こうして自身のエッフェル塔ばりに高い身長を駆使して周りを姉と誤認させ、自分の都合の良い状況に持ち込もうとするのは十八番だった。これは最近からではなく前からよくやる常套手段だ。オレ自身の低身長も相まって、兄妹と思われた試しが一度も無い。身長をくれ。エベレスト並みの身長を。

 

 振り解こうにも力じゃ敵わない。何だかんだ言ってこんなヤンデレに一歩食み出した巨大女でもオレの妹な訳で、強引な手段とか汚い手段で抵抗する気も起きない。

 オレは意図も容易く夕暮れの街にドナドナされていくのであった。

 

 

 

 

──── ──── ────

 

 

 

 

 勉強の問題は一度、置いておこう。置いておいてはいけないが、すぐになんとかできる問題でもないので置いておこう。

 何せ問題はこれだけじゃないのだ。一つの問題に掛かり切りって訳にもいかない。

 

「兄さん、ちょっといい?」

 

 夜、日付が変わる直前。妹が控えめのノックと共にオレの部屋に入ってきた。

 

「ああ。そろそろ寝ようと思うから手短にな」

「大丈夫。週次報告だけしたら私も寝るから」

「週次報告? なんだそれ」

「あ、言ってないか。今日からすることにしたから。私だけ知るのはずるいし」

「いやなんのは無しだよ」

 

 週次報告とかそんな業務的な話を妹の口から聞いたことは一度も無い。てか家庭内で週次報告とか普通しないから。

 妹は中指をくるりくるりと回しつつ、視線をオレから斜め上に外して口を動かす。

 

「ほら、あれあれ。兄さんのスマホに問題のある履歴が残ってないか確認してた。クラスメイトの女の子相手に意味深なやり取りがあったら妹として困るし。それを一週間毎に兄さんにフィードバックして日常生活をブラッシュアップしてもらおうかなと」

「え、お前オレのスマホ随時確認してたの? プライバシー侵害だろ」

「それって妹も適用されるの?」

「適用されるに決まってるだろアンポンタン」

 

 立ち上がってオレは妹の足を軽く蹴った。妹は何も反応を寄越さず、クエッションマークを頭に浮かべている。クソ……オレにもっと身長があれば頭が叩けたのに。頭じゃないとやはり悪いことをしたという感覚にならないんだろうと思う。でも妹だしな。仮に頭を叩いたとしてもやはり同じ表情をするだろう。

 

「なに、じゃあもしかして毎日見てたの? ラインとかネットの検索履歴とかも?」

「ラインはまあ。流石に検索履歴は見てない、個人情報の一部かなと思ったし」

「そこは憂慮出来るのかよ。我が妹ながら判断基準のボーダーラインだけが分からない」

「ふふふっ」

「おっと。何故そこで喜べるのかも分からないと言うのも追加で」

 

 妹が生まれてから14年間ずっとこの家で暮らしてきたわけだが本当に分からない。それについこの前まではこんな過干渉な妹ではなかった。仲自体は良かったと思うが、それは一般的な家族の範疇であってここまで行き過ぎた管理をする妹じゃなかった。というか管理ってなんだ。兄を管理する妹って字面にすると体裁が悪いってレベルじゃないぞ。18禁のASMRのタイトルを思い出しそうなフレーズだし一刻も早く妹にはこんなことは辞めて欲しい。

 

「話戻すけど、今週の兄さんのスマホからは物議を醸す内容は検知されなかったから。この調子で来週も宜しく」

「は、はあ」

「それじゃ、それだけ。おやすみ」

「ああ……おやすみ」

 

 本当にそれを伝えるためだけに来たらしく、妹はその言葉を最後に扉を閉めて自分の部屋へと戻っていった。ガチで何だったんだ。何のためにオレのスマホを監視してプライバシーに口出ししようとしているんだ。

 オレはその後ろ姿を一瞥しつつ、良く分からないが取りあえずスマホのパスワードだけは変えとこうと思った。

 

 





・登場人物紹介
■薄野凛太(すすきのりんた)
15歳、中学3年生。身長が現在も143㎝という圧巻の小ささを誇る。運動神経は可も不可も無く、勉強は割と出来る方。プライベートに付き合いのある友人はいないがクラス内の友人はいた。3年のクラス替えにより現在はぼっち。妹が妹なので顔は整っているが身長が足りてないため被告白経験はゼロ。基本的には前向きな思考で、何事にもめげない。でも妹には勝てない。

■薄野茶凛(すすきのさりん)
14歳、中学2年生。色々大きい。兄と同じ高校に通う。所属するバスケ部で全国大会出場しており、その主力メンバー。文武両道、眉目秀麗を地で行く完璧超人だが少し天然。頼りになる兄の無様な姿やろくでなしな瞬間が好き。
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